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隠し事は暴かれる

リエンが私の赤く腫れた目を水で濡らした布で冷やしてくれる。リエンの鼻先もまだ少し赤かった。


「ステラ様、どうなさいますか…?今夜は、お断りした方が…」


リエンが心配そうに私を見つめながらそう言った。窓の外は、暗くなり始めている。私は気持ちを切り替え、リエンに言った。


「大丈夫よ。殿下が来られたらお通しして。メイクで誤魔化すから」


「わ、分かりました…。でも、無理はしないでくださいね」


リエンは私を気遣う様に眉を下げた。リエンはすっかり私に対して過保護になってしまった。

私は化粧台の前に座り、鏡を見つめてため息をついた。泣き腫らしたせいで目はすっかり赤く腫れてしまっている。これはメイクでも誤魔化せるだろうか。いや、大丈夫だろう。あの人、相手の変化に気づかなそうだし。多分、前髪とか切っても気づかずスルーしてそうだ。

私は深呼吸して気持ちを奮い立たせる。正直、今の状態で会っても楽しませられるか分からない。下手したら側室達の言う通り、次の犠牲者は私になる。ーー腹を括るしか無い。リエンは私の顔にメイクを丁寧に施してくれた。おかげで誤魔化すことが出来そうだ。私は来るかは分からないが、来た時の為にリエンに身支度を手伝ってもらった。夜になり、扉越しに足音が聞こえた。ーー来てしまったのだ。

昨日よりも、少し足音の速度が早い。あっという間に足音が部屋の前で止まった。


「ステラ様…開けて来ますね」


リエンの言葉に私は頷く。ここで逃げるわけにはいかないのだ。リエンが扉を開けるとエリオスが部屋に入って来た。彼はベッドのそばに立つ私の前に歩み寄る。目の前に立った彼が私を見下ろし、平坦な声で尋ねた。


「今日も寝物語を語るのか?」


どう言う意図の質問なんだろう。他に芸をして楽しませろと言うことだろうか。目の前の暴君は静かに私の返答を待っている。私は口を開いた。


「…はい。今日も王の知らない物語をお聞かせします」


彼は目を細めた。紫の瞳は冷たく、剣先を喉に突きつけられた様に緊張が走る。リエンがハラハラと私を見ている気配がした。エリオスが頷いた。


「…いいだろう。語ってみろ」


エリオスがリエンに目を向ける。


「いつまで居るつもりだ?下がれ」


リエンの肩が跳ねる。彼の威圧感をまともに浴びた彼女は怖がりつつも、私に心配そうな目を向けてその場から動かない。私は短気な暴君がキレる前にリエンに頷いてみせた。私の合図に気づいた彼女は頭を下げ、静かに部屋を出て行った。扉が静かに閉まる。

エリオスは武具やマントを投げ捨て、軽装になると天蓋付きベッドの枕を肘掛けにして寛ぎ始めた。


「そこに座れ」


彼はベッドを指差した。私の部屋のベッドなんだが。私は恐る恐る、彼の足の近くに座った。距離が近い。寝物語を語るにしても、同じベッドに座る必要はあるんだろうか。私は床で良いので床に座らせてください。

彼は使用人に飲み物を運ばせて来ると、銀の杯で酒を飲み始めた。今日も相変わらず退屈そうだ。杯を揺らし、水面が揺れるのを眺めながらエリオスは私に短く命じた。


「さっさと話せ」


「はい…。それでは今日は、貧しい生まれの青年が、願いを叶える魔法のランプを拾うところから始まる物語です」


私は物語を思い出しながら、語って聞かせる。エリオスは時折、杯を傾けながら黙って聴いていた。


「ーー…そうして盗人だった青年は、法律を変えた王様のおかげで賢く聡明な姫様と結婚しました」


私が語り終えると、エリオスが尋ねる。


「今日も恋物語だったな。何故だ?」


私は唾を飲み込む。


「…お気に召しませんでしたか」


エリオスの目が不愉快そうに細められる。


「俺は何故、と聞いている。質問に答えろ」


この人、なんでこんなに短気なんだろう。どこに地雷があるのか分からない。ただ、暴君の機嫌を損ねてしまったことだけは分かった。


「申し訳、ありません。ただ…憧れ、というか…惹かれてしまうので」


私の返答にエリオスは変なものでも見るかのような視線を寄越した。私も女だし、恋バナが好きなのだ。いいじゃないか、別に。


「物語の指定をしなかったのは、俺なのだからそれは良い。ただ、法律を変えた王の話をしたのは何故だ?」


身分違いの二人を認め、法律を変えた賢王ーー彼からすると不満があるかの様に捉えられたのだろうか。


「ち、違います!殿下に不満があるのでは無く、身分違いの恋、と言うが好きなのでお話ししたんです!」


私は慌てて言った。女の子なら誰でも身分違いの恋にロマンを感じると思う。だからロミオとジュリエット…身分違いによって引き裂かれた悲劇だって人気になるのだ。


「身分違いの恋…」


彼は考えるように顎に指をやり、呟いた。結局、彼的にはどうだったんだろう。


「罪人も関係ないのか。それは随分と平和ボケした王だな」


エリオスは恋や愛より、そこが気になった様だった。


「殿下らしい感想ですね」


私がそう言えば、エリオスは銀色の杯をベッドのそばにあったサイドテーブルに置き、冷たく問いかけた。


「俺らしい、だと?何か分かった気にでもなったのか?」


彼は手を伸ばし、私の顎を掴んだ。顔を引き寄せられ、間近に紫の目が迫った。


「…ッ、気に触ったのなら謝ります。ただ、殿下の感想は、自分には無かったので…貴方の答えが、貴方らしいと思ったんです」


エリオスは私の言葉をなぞる様に、繰り返す。


「俺の答えが、俺らしい…?」


眉を寄せて考え始めている。私を見下す目は、未確認生命体を見る目をしていた。相変わらず、顎は掴まれたままだ。


「…お前がするのは、寝物語を語ることだけか?俺に媚び、迫っては来ないのか?」


質問の意味を理解し、私の頬が熱くなる。


「し、しません!」


エリオスが更に顔を寄せて来る。もう互いの吐息が触れ合う距離感だった。だけどその瞳に、熱や欲は見当たらない。


「他の側室達は、欲を俺にぶつけて来たが?お前もそうやって俺を引き留めないのか?」


彼の細長い指が、私の頬を撫で、瞼に触れた。


「…今夜はずっと声が沈んでいるし、昨夜より話すのが下手になったな」


ーー話すのが下手。語り口が上手でも無い、と側室の女性達に言われたのを思い出した。目の下を指がなぞる。


「赤く腫れているか?何やら塗って誤魔化しているようだが」


バレないと高を括っていたら思いっきりバレた。


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