第一回全国顔寄せ大喜利大会、打ち上げ
第一回全国顔寄せ大喜利大会が開催された横浜国際総合競技場近くのホテルにあるパーティー会場にて、大喜利大会参加者による打ち上げが行われている。
百人の参加者と、大会運営スタッフの一部を合わせた合計三百名ほどの集まりで、大会本戦、そして最終決戦にまで出場した比奈良伊智花もこの打ち上げに参加している。
すでに午後八時半を過ぎ、朝から大観衆の前に出ていて緊張しっぱなしだった事と、頭を使いっぱなしだった事もあって、伊智花は疲労困憊の状態だ。
「イチカ殿、飲まれておりますか!?」
「あ、いえ、私はまだ高校生ですので……」
「ななな何と!? お若いとは思っておりましたが、まだ高校生だったのですか!?
高校生が四位入賞とは、末恐ろしいですなぁ」
大喜利大会で優勝をした女性が隣の席に座り、伊智花に絡んで来た。
「高校生なのに一年を通して大喜利格付け合戦に参加出来るのかしら?
学業優先って事で棄権しちゃいなさいよ」
惜しくも最終決戦に進む事が出来なかった女性が加わり、伊智花に圧を掛けて来る。
緊張感と重圧からの解放、そしてやり切った事での充実感、さらにはアルコールが入った事により、参加者達は色々とハメを外してしまっている。
何よりも、自分達が敬愛する副社長の目がなくなったというのも大きな要因となっているだろう。
「いえ、私は……」
「はいはい、大人気ない言動は慎んで下さいね。副社長に言い付けちゃいますよ」
伊智花に絡んでいた女性二人、そして周りでニヤニヤと眺めていた女性達が、伊智花を助けに入った女性が首からぶら下げている社員証を見て、ざわめきを起こす。
「宮坂……」
「藍子様と燈子様のご実家ね」
「何でこの打ち上げに……」
「もしかして、副社長がお越しになるのかしら!?」
「お酒の場に副社長が来られる訳ないでしょう」
状況を見てマズイと思ったのか、絡んでいた女性二人は伊智花に頭を下げて、その場を離れた。
「すみません、助かりました」
「とんでもない、気にしないで。
それより、もう疲れたでしょう? 部屋まで送りますよ」
伊智花は声を掛けてくれた女性、桃子の申し出に甘えて、打ち上げ会場を後にした。
打ち上げが行われているホテルに、大喜利大会本戦出場者の宿泊場所としてVividColorsが部屋を用意している。
伊智花は前乗りしていた部屋へと桃子と共に向かった。
その道すがら、桃子が伊智花へとこれからの事について話す。
「今夜は疲れているでしょうから、今後の事は明日の朝に説明します。
そうねぇ、九時くらいなら平気かしら?」
「今後の事、ですか?」
「ええ、最終決戦に勝ち上がった二十名には、なな動で大喜利格付け合戦に出演してもらう事になるでしょう?
地方から藍吹伊通り一丁目に通うのはちょっと難しいと思うの。
イチカさんは学生だから、親御さんにもお話した上で了解を得ないといけないから」
大喜利大会の最終決戦に勝ち上がった二十名により、なぎなみ動画で一年間という長期間で大喜利格付け合戦が行われる。
いわゆる大喜利のプロリーグであり、生配信や動画の収録などの都合上、伊智花が藍吹伊通り一丁目に通うのは難しいだろう。
「……大喜利の収録現場は、藍吹伊通り一丁目の中になるんですか?」
「ええ、その予定です。
もうお部屋に着いちゃったし、詳しい事は明日……」
伊智花が泊っている部屋に到着し、桃子が帰ろうとしたところ、伊智花が桃子の両肩を手で押さえて顔を近付けた。
「今すぐ話して下さい!!」
「ちょ、どうしたの!?」
「絶対絶対副社長のお近くで働きたいんです!! 高校は辞めますし引っ越しもします!! 絶対に辞退なんてしません!! お願いします今すぐ説明を聞かせて下さい!!」
「でも疲れてるだろうし……」
「疲れてるかどうかなんて関係ない!! そんな話聞いて子猫が寝れる訳ないじゃないですか!!」
伊智花は手早くカードキーで部屋の扉を開けて、中に桃子を押し込んだ。
傍から見ると無理やりお持ち帰りしようとしているかのようだ。
「さぁ、早く聞かせて下さい!!」
「分かった、分かったからちょっと落ち着いて!」
興奮して目をバキバキにさせている伊智花を何とか宥めて、桃子が椅子に座って説明を始める。
「まず、イチカさんが本戦に勝ち上がった段階で、VividColorsとしてイチカさんに提示する出演条件を用意していたの。
百名の中に大学生は何人かいたけど、高校生はイチカさんだけだったからね」
大会主催である町村浪漫ことマチルダと伊吹は、伊智花が最終決戦の二十名に入るだろうと予想していたので、それを見越して出演条件を作成していた。
「まず、藍吹伊通り一丁目内のマンションに単身で入居してもらいます」
「よっしゃーーー!!」
伊智花が椅子から立ち上がって両手を掲げ、雄叫びを上げる。
何となくそうなるだろうと思っていた桃子は、伊智花に座るよう声を掛ける。
「気持ちは理解出来るけど、落ち着いてくれないと続きは伝えません」
「はいっ!!」
伊智花は座り直し、両手を膝の上に乗せて桃子を見つめる。
「高校を辞める必要はありません。
ただし、今の高校に通い続けるのは難しいので、私立宮坂学園芸能部に転校してもらいます」
「分かりました、問題ありませんっ!!」
「貴女に問題なくても、親御さんにはしっかりと相談して了承を得て下さい。
藍吹伊通り一丁目に受け入れるのは貴女のみで、親御さんまでは住んでもらう事が出来ないの。
まだ十五歳十六歳の女の子を親元から引き離すのは非常に心苦しいと副社長も仰っていたわ」
「大丈夫です、問題ありませんっ!!」
「いやだから、決めるのは貴女ではなくってね、まぁいっか。
マンションの賃料はVividColors持ちとしても、別途生活費が必要になるでしょう?
そこで、貴女にはVividColorsに所属してもらって、配信者として活動してもらいます」
「よっっっっしゃーーー!!」
伊智花がまた興奮を抑え切れず立ち上がり、足をバタバタとして身体全体で喜びを表現する。
スカートがめくれ上がり、安藤家の家紋入りパンツが丸見えになってしまっている。
「はしたないわよ」
桃子の注意は耳に入らず、伊智花は目を見開いて恍惚とした表情を浮かべる。
「VividColors所属配信者って事は副社長の後輩って事ですよね!? 部下って事ですよね!? 雇用主と被雇用者の関係って事ですよね!?
あぁ、関係性が生まれるって事なんだ……」
伊智花が天井を見上げたまま、妄想の世界へと浸ってしまった。
「はぁ、私まだ何にも食べられてないんだけどなぁ……。
あ、ルームサービス頼もっと」
桃子は伊智花が戻って来るまで待つ事にした。
結局、全て伝え終わる頃には日付が変わっていたのだった。




