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未来からの伝言  作者: 涼
36/41

未来からのメールそして未来改変日記

■ 2019年1月4日(金)


年末年始には特に何も起こらず正月明けの出勤となった。今日は特に保守的な業務しかないのだが、せっかくなので年始の勤務は来週の月曜日からにしてほしかった。


10:00前に会社に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。社員達に「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」と挨拶して、業務を黙々と続けていた。さすがに正月明けということもあって業務がだるい。スマホで確認した世界線の数値はずっと年末から5.77のままになっていた。未来改変を何もしていないので状態が変わらないのは当然のことだ。しばらくすると西浦真美から『休憩室に来て』とテレパシーが送られてきた。俺は西浦真美に『すぐに行く』とテレパシーを送った。


休憩室に入って椅子に座って待っていると、西浦真美が休憩室に入ってきて椅子に座った。そして西浦真美が話しはじめた。


「明けましておめでとうね。でも今の水嶋君にとってそれどころじゃないわね。世界線の数値はどうなってるの?」

「年末の体調不良を回避させて5.77になってるよ。なかなかナンバー5は変わらないね」

「問題はこれからじゃないの?まだ未来改変をはじめて一ヶ月でしょ?これからどんどん変わっていくんじゃないかしら」

「それだったらいいんだけど、この先は何をすればいいのかわからないんだよね。どんな行動が正しいのかわからない」

「そのうちわかってくるんじゃないかしら。まだ今年ははじまったばかりだから、そのうちわかるようになると思うよ」

「本当に世界線が分岐するのか心配になってきたよ」

「心配なのはわかるけど、ここで諦めたら全てが無駄になるわよ」

「まあそうなんだけどね。しばらく様子を見るよ」

「たしか莉奈ちゃんが死ぬのは2月の下旬だったわよね。まだ2ヶ月近くあるから諦めずに頑張るのよ。わたしも協力するからね」

「うん。ありがとう。とにかくここからは本格的に未来を改変させていくようにするよ」

「でも無理はしないでね。水嶋君に何かあると、この未来改変もできなくなるからね」

「わかってる。無理はしないようにするよ。とりあえず、いろいろ待ってみるよ」

「そうね。じゃあわたしはそろそろ戻るわね」

「俺も戻るね。じゃあまたね」


俺は休憩室を出て自分の席に戻った。まだ世界線のナンバーは5のままなので2033年からのメールが送られてくるはずだ。そこのメールに書かれていることを頼るしかない。大事件や事故などがあれば、タイムリープを使ってそれを回避させるつもりだが、そんなことは滅多に起こらないだろう。


この日の業務はまったりしていて何も起こらず勤務時間終了の19:00になった。俺はさっさと退社して帰宅した。


帰宅して夕食を終えてシャワーを浴びた後、自分の部屋に入った。パソコンの電源を入れて山記事を見ることにした。明日と明後日は休みだが、山に行く予定はない。来週の連休にどこかの山に行く予定にしている。一泊二日にしたいが積雪期の山なのでやはり日帰りのほうがいいだろう。ちょっと難易度はあがるが寒波が続いていたのでアイス氷瀑群でも行くことにしようか。そう思ってアイス氷瀑群のルートを調べていた。そして念のためにメールを確認することにした。メールをチェックしているとDMやニュースメールなんかが届いていたが、その中に「2019年1月の俺へ」という件名のメールがあった。俺はすぐにそのメールを確認した。


2019年1月の俺へ

2033年の水嶋祐樹だ。


このメールが届いたということはまだ世界線は分岐されていないのだろう。

世界線を分岐させるのは簡単ではないが、不可能なことはない。

だからそっちの俺には頑張ってほしい。


これから起こることを伝えておくが、

そっちの俺がかなりの未来や過去の改変をしていると思うので、

この出来事にはズレが生じるかもしれない。


1.ホームページ作成を依頼される

→デザイン担当を小松結衣にしないでほしい


2.笹原莉奈と口喧嘩をして一週間連絡を取らなくなる

→すぐに謝って仲直りしてほしい


3.西浦真美と藤堂晃がデートをする

→このデートはスノーボードに行く予定。西浦真美がケガをするので阻止してほしい


この他にも大きく過去を改変する方法を考えてほしい。

またメールを送るつもりだが、こっちの俺からのメールが届くということは、

まだ世界線が分岐していないことを意味する。

何度も言うがこのメールのことに関しては他言無用。

そっちの俺にとって大変だと思うが諦めずに頑張ってほしい。


このメールを読んで俺は次なる行動が見えてきた。ただ気になるのはこれらの出来事にズレが生じる可能性があるということだ。もしかするとこれらの出来事はもう起こらない可能性がある。もう未来改変の行動をはじめて一ヶ月ほど経って世界線の状態が変わっている。しかし同じナンバー5の世界線ということは時期的にズレるが起こる可能性がある。とにかく頑張るしかないのかと思いながらこの日は眠ることにした。


■ 2019年1月7日(月)


この日は寒波がきているのか出勤時はかなり寒かった。10:00前に出勤して朝礼の準備のためフロアの前のほうに行って立って社長が出てくるのを待っていた。社長と西浦真美がフロアの真ん中に出てきて社長の長い話がはじまった。社長の話なんか聞くより俺は世界線の分岐のことばかり考えていた。2033年から送られてきたメールには他にも大きく過去を改変する方法を考えてほしいと書かれていた。つまり、これから起こること以外にも何かを改変させないといけないということになる。何を改変させればいいのかわからない。おそらく2033年の俺ですら、世界線を分岐させる完全な方法はわからないのだろう。そんなことを考えていると社長の話が終わった。そして西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。


俺は自分の席に戻った瞬間に日根野部長に呼び出された。そして日根野部長の席の前に立って話を聞いた。


「水嶋君、アプリケーション事業部の案件が多いらしくて、こちらに案件を手伝ってほしいと依頼されたんだけど、ウェブアプリケーションの開発を担当してくれないかな?」

「ウェブアプリケーションですか?」

「簡単に言うとホームページ製作になる。申し込みフォームや見積もり部分の計算、コンタクトフォームのプログラムは水嶋君と児島君に担当してほしい。問題はホームページのデザインなんだが、先方から頂いたこの依頼書を読んで池上さんか小松さんのどちらかに担当してほしい」

「では、また四人で開発すればいいのですね?」

「ただ、先方は早く公開したいらしいので来週中に完成させてほしいんだよ」

「今週中ですか?まだデザイン案も先方に提出していませんよね?」

「デザイン案は明後日までに先方に提出してくれればいい。先方も急いでいるので無理は言ってこないと思う」

「わかりました。依頼書には仕様も書かれていますか?」

「先方が現在運営しているホームページを見てもらえればいい。要するにホームページをリニューアルなので、デザインを変更して仕様は同じにしてもらって構わない」

「わかりました。では午後には開発メンバーで会議をしてすぐに着手します」

「無理を言って申し訳ない。よろしく頼むよ」


日根野部長からホームページ作成を依頼されて先方からの要望書と現在のホームページを見てみた。この要望書に書かれたデザインの要望や現在運営されているホームページを見ると、誰がどう考えても小松結衣がデザインを担当したほうがいい。ところが2033年からのメールではデザイン担当を小松結衣にしないでほしいと書かれていた。どうするべきなのか考えてみた。まず現在運営されているホームページのデザインは素人が考えたデザインだろう。その点からして小松結衣よりあえて池上有希にデザインを担当してもらって、先方にデザイン案を提出すればどうなるだろうか。大きな賭けになるが、先方は素人なので納得いくようにすればいい。そして、俺は今日の13:00から会議室の予約を入れて開発メンバーに会議室に来るように伝えた。


昼休みになり今日は豚骨ラーメンセットだと思ったのでラーメン屋に行った。今年初の豚骨ラーメンだが、やはりこれを食べている時は幸せに感じる。この豚骨スープとご飯がどうして相性がいいのかわからない。この豚骨ラーメンには麻薬でも入ってるのかと思わされるくらいだ。ラーメン屋を出て、しばらく外をブラブラしていたが、あまりにも寒いのでさっさと会社に戻った。会議で配る書類を印刷していおいてまったりしていると昼休みは終わった。


昼休みが終わるとすぐに開発メンバーが会議室に入った。それぞれに先方からの依頼書のコピーを配って持ち運んだノートパソコンで現在運営している先方のホームページを開いて見せた。そしてホームページ作成の概要を開発メンバーに説明した。


水嶋祐樹「このホームページをリニューアルの納期は来週中で、先方にデザイン案を提出するのは明後日にしたいんだよ」

池上有希「先方の要望や現在のホームページを見ると、このデザイン担当は小松さんが的確ですね」

水嶋祐樹「いや、そこをあえて池上さんにデザインを担当してほしいと思ってる」

池上祐樹「どういうことですか?どう考えても小松さん向けのデザインだと思います」

水嶋祐樹「先方が現在運営しているホームページはどう考えても素人デザインでユーザビリティーも考えられてない。ここは池上さんにユーザビリティーを考慮したデザインをしてもらって提出しようと思ってる」

池上有希「そういうことですか・・・でも小松さん、このデザインしたいよね?」

小松結衣「わたしはどちらでもいいですよ」

水嶋祐樹「小松さんは今回、池上さんのサポート役になってもらってユーザビリティーを学んでほしい」

小松結衣「わかりました」

水嶋祐樹「そこで池上さんはトップページだけでいいので基本のデザインをしてもらって、どうしてそのデザインにしたのか説明文を書いてほしい。先方にはデザイン案とその説明文を一緒に提出しようと思ってる」

池上有希「そういうことでしたらわかりました。他のページのデザインは提出しなくてもいいのですよね?」

水嶋祐樹「他のページのデザインは提出しなくていい。トップページだけで納得してもらう。小松さんは基本のデザインがあれば、他のページのデザインはできるよね?」

小松結衣「デザインの基本があれば他のページのデザインはすぐに出来ると思います」

水嶋祐樹「じゃあデザインはそれでお願いします。それと児島君は申し込みフォームや見積もり部分の計算のプログラムをお願いしたい。おそらく先方のプログラムは無茶苦茶になってると思うから、こちらで作り直す。この程度のプログラムなので設計書はいらないよ」

児島信二「わかりました」

水嶋祐樹「俺はコンタクトフォームだけ担当するけど、ホームページ全体を見てバグやレイアウト崩れなんかのチェック、先方とのやり取りを担当するよ」

児島信二「どのくらいセキュリティーを考慮すればいいですか?」

水嶋祐樹「今回はそこまでセキュリティー考慮は必要ないと思う。基本的な入力文字などのチェックをしてもらえればいい」

児島信二「そうですね。そこまでセキュリティーは気にしなくても良さそうですね」

水嶋祐樹「そういうことでこれからそれぞれ着手してほしい。よろしくお願いします」


これで会議は終了した。本当は小松結衣にデザインを担当してほしかったが、これが未来の改変になるのであれば仕方がない。そしてこの日は何事も起こらず勤務時間終了の19:00になった。俺はさっさと退社して帰宅した。次の日も何も起こらずに一日が終わった。


■ 2019年1月9日(水)


朝10:00前に出勤してパソコンの電源を入れた。朝から池上有希がトップページのデザインが完成したとのことで確認した。それは先方が現在運営しているホームページのデザインとは全く違うものになっていた。同じなのは基本色だけだろうか。しかし、池上有希がなぜこのデザインにしたのかの説明文を読んでいると納得できる内容であった。俺は池上有希に「よし、このデザイン案を先方に出すよ」と言った。池上有希は「本当にここまでデザインを変えてしまって良かったのでしょうか?」と心配そうに言った。しかし、俺はこのデザイン案で提出することにした。午前中に先方の担当者にメールを出して、池上有希がデザインしたトップページの画像を添付して、説明文をメールに記載して送信した。さて、先方がどういう回答をしてくるのかが問題だ。


午後になって先方の担当者から電話がかかってきた。俺は電話に出て先方の担当者の話を聞いた。先方の担当者の意見は現在運営中のホームページとはデザインがかけ離れているということ、デザインが逆に良すぎてレベルの高いページになっていないかということだった。俺はデザインがかけ離れていないとリニューアルにならないのではないかということと、レベルの高いページになって何か問題があるかという意見を出した。どうやら先方の担当者はここまでデザインになるとは思っていなかったようだ。金額的な部分は変わらないので、レベルの高いページになったほうが今後のためにならないかと先方の担当者を説得した。それにこのデザインレベルを下げると、デザインそのもののクオリティーが下がるのだ。先方の担当者は「本当にこのデザインでホームページを作成していただけるのでしょうか?」と聞いてきたので俺は「このデザイン案でオッケーであれば、作成します」と言った。そして先方の担当者は「では、このデザインでホームページを作成してください」と言った。なんとか納得させることができたようだ。デザイン案が通ったということで、さっさとデザインを組み込んでホームページを作成することにした。


各自がホームページ作成に着手しはじめて、この日は勤務時間終了の19:00になった。俺はさっさと退社して帰宅した。池上有希のデザイン案が通ったことで世界線の状態はどのくらい変化したのかスマホを見てチェックした。世界線の数値は5.64になっていた。確実に未来は改変されていっている。どこかの段階で世界線が分岐するのだろう。とにかくどんどん未来を改変させていくのだ。


この週は特に何も起こらず世界線の数値も変わることはなかった。


■ 2019年1月12日(土)


朝4:00に目が覚めた。今日は莉奈といっしー(石岡秀之)の3人でアイス氷瀑群に行く予定だ。静かに部屋を出てキッチンへ行ってトーストを焼いて、インスタントコーヒーをカップに注いだ。朝食はもう少ししっかりとしたものを食べておきたいが、あまりバタバタすると両親を起こしてしまう。朝食を食べ終えると部屋に戻って装備品を確認した。今回は冬の沢登りといっていいようなルートなのでヘルメットやアイゼン、ピッケルは必須なのだ。そして朝5:40を過ぎたので荷物を車に積み込んで駅前ロータリーへ向かった。


駅前ロータリに到着したのが5:50過ぎだった。まだ誰も来ていなかったが、しばらく待っているといっしーが先に駅の階段を下りてきて喫煙所に行った。そして6:00前に莉奈が茶色いザックにピッケルとアイゼン、ヘルメットを装着して駅の階段を下りてきた。俺は車から降りて二人を呼びにいった。二人とも「おはようございます」と挨拶をした後、車に荷物を積み込んで助手席に莉奈が乗り、後部座席にいっしーが乗って車を走らせた。


車内で莉奈はやはり朝早かったのか眠っていた。いっしーは後部座席で眠そうにしていたが気をつかって俺に話しかけていた。途中でコンビニエンスストアで買い物をした時に莉奈が目を覚まして一緒に買い物をした。俺と莉奈は昼食にカップラーメンとおにぎりを購入した。いっしーはまた缶ビールを買ったようだ。そして再び車を走らせるといっしーが缶ビールを飲みはじめた。俺はいっしーに「今日行くのは結構デンジャーなところなんだから、酒飲んで大丈夫なの?」と聞くといっしーは「大丈夫っす」と言った。眠そうにしていたいっしーが缶ビールを飲むとまるで覚醒したかのように元気になった。そして車を一時間ほど走らせてアイス氷瀑群の入山口の近くの路肩に車を駐車した。


三人で雪山登山の装備の準備をして、最初からハーネス、アイゼンを装着してヘルメットをかぶると準備完了。車の鍵をかけて雪山登山の開始となった。俺は「莉奈、今日のルートはデンジャーなところがいくつかあるから、本当に注意してね」と言った。莉奈は「うん、わかった!」と言ったが、俺は心配していた。まずは沢筋の林道を歩いていき登山道に入った。そして50センチほど積雪した沢筋の登山道を登っていく。最初のうちはなだらかな道なのだが、まずは積雪した岩場の登りになった。ここはロープが設置されているが、アイゼンを装着しながらの岩場の登りなので難易度が高い。俺が最初に岩場を登ると続いて莉奈が岩場をなんとか登ってきた。最後にいっしーが余裕の顔をしながら登ってきた。そして積雪した沢を渡ったりさらなる岩場を登っていく。莉奈もさすがに苦労しているようだった。続いてかなりの急登を無理矢理登る。この段階でピッケルを出すべきだったが、なんとか登ることができた。なだらかな道になってからピッケルを出した。ここからはひたすら積雪した急登になる。しかも急登の途中には岩場があり、ロープが設置されているがかなり細い道なのだ。ここで滑落すると命はない。俺ですら息を切らしながらピッケルを使って急登を登っていく。莉奈も俺に真似てピッケルを使いながら急登を登ってきた。さすがのいっしーもここは黙って必死に登っている。そして左に大きくカーブしたトラバース地点にさしかかると俺は「もうすぐだ」と言った。さらに最後の急登をピッケルを使って登っていくと巨大な氷瀑が姿を現した。


巨大な氷瀑が現れて氷瀑の下に辿り着いた。ここがアイス氷瀑群で氷瀑の大きさは30メートルほどある迫力がある。そこにはアイスクライミングをしている登山者もいる。まずは氷瀑の中に入って巨大なツララがある中で俺と莉奈で記念撮影をしてもらった。氷瀑の中はまるで洞窟のようになっている。これが夏になると滝になっていると思われるが、どんな滝なのか想像もつかない。そして氷瀑の外に出て全体を見渡した。人がまるで小さくみえるほど巨大な氷瀑。莉奈は「すっごい迫力ある氷瀑。こんなのが日本で見れるなんて思わなかった!」とかなり感動しているようだった。今日は天気も良くて氷瀑も綺麗に見える。氷瀑から少し離れた平坦な場所でバーナーを出してお湯を沸かした。そして購入したカップラーメンとおにぎりを出して昼食の用意をした。いっしーはあらかじめ買っていたおでんを温めているようだ。そして昼食を食べ終えて、食後のインスタントコーヒーを飲んだ。あの荒知山で道に迷っていた山ガールとこんな場所に一緒に来るなんて想像もつかなかった。ここは知ってる人が登山技術を駆使して来ることのできる場所なのだ。しかし、それと同時に莉奈の運命のことが頭によぎる。もう悲しい気持ちになってはいけない。そんなことはわかっているが、世界線の分岐に失敗すると莉奈との未来はなくなってしまうのだ。俺はそんなことを考えながら莉奈の横顔を眺めていた。


氷瀑を十分満喫して下山することになった。もちろん来た道を戻るわけで連続する急登や岩場を下っていかないといけないので難易度は登りより上がる。下山時は本当に注意しながら、ピッケルを使ってゆっくり下っていった。問題の細い岩場のトラバース地点にさしかかるとさすがの莉奈も怖がった。莉奈は「これ本当に下るの?」といったので俺は「難しいようだったら懸垂下降してもいいよ」と言った。ロープは持ってきているので懸垂下降ならできるのだが、ロープが設置されているので下ることはできる。俺が先にその危険地帯を下ると、莉奈は「がんばってみる」といって、ロープを掴みながらゆっくり下ってきた。一番危険な岩場の部分を下をみないでなんとか下ることができた。そしていっしーは余裕でロープを掴みながら下ってきた。そこからもピッケルを使いながら急斜面をどんどん下っていく。もちろん滑落なんてしたら大ケガになること間違いない。慎重に下っていき今度は岩場の下りになった。積雪した岩場は完全に凍っているので滑るとケガをしてしまう。俺が先に岩場を下ると続いて莉奈が怯えながら慎重に岩場を下っていく。なんとか莉奈が岩場を下るといっしーもここは慎重になって下ってきた。ここまでくるともうあとは危険な場所はないのでひたすら登山道を下っていった。そして、昼過ぎには駐車した場所に戻ってきた。三人で「お疲れ様でした」と言って荷物を車の後ろに積み込んで出発した。


帰りの車内で莉奈が「今日はすごい場所に行ったんだね。氷瀑は本当に感動した」と言った。そう思ってくれて本当に連れて行って良かったと思う。そして二時間半ほど車を走らせて駅前ロータリーに到着した。二人は車の後ろから荷物を降ろして帰っていった。俺もさっさと帰宅してその日にブログ記事を掲載した。


■ 2019年1月13日(日)


朝9:00に目が覚めた。洗面所で顔を洗ってキッチンへ行くと朝食が目玉焼きとベーコン、サラダ、ご飯と味噌汁がテーブルに置かれていた。俺は朝食を食べながら新聞記事に目が入った。そこには昨日の12日9時55分頃、東京発のスキーバスが高速道路で事故をしたという記事だった。死傷者は12名で負傷者18名ということだ。そのバスの運転手が運転中に意識不明になって防音壁に衝突したようだ。俺はすぐにテレビをつけてニュースを見た。かなり大きな事故だったようでバスのフロント部分がかなりグチャグチャになっている。朝食を食べ終えて、俺はすぐに自分の部屋に入ってインターネットでスキーバスの詳細を調べた。もし、俺がこのバスの事故を未然に防いだとして12名の命を助けた場合、世界線はどうなるのだろうか。このスキーバスの出発時刻や行先を調べた上で考えてみた。まずは1月12日にタイムリープするわけだが、昨日はアイス氷瀑群に行ったという過去がある。そもそも東京発のバスということは、自宅でタイムリープするわけにいかない。東京のどこかでタイムリープして1月12日にこのバスに乗らないといけない。そうすると、自宅にいる俺と東京にいる俺、つまり俺が二人存在してしまう。もし東京にいる俺がバスの事故を未然に防いだとしてマスコミなどに写真を撮られたり、警察に本名や住所を言ってしまうと深刻なタイムパラドックスが起こる可能性がある。あくまでこのバスの事故を防いだら高速道路の非常電話で通報して、俺は姿を隠すしかない。そのためにはこのスキーバスに乗る前にも変装しておく必要がある。いろいろ考えて、俺はあることを思いついた。これは西浦真美の協力が必要になりそうだ。とにかく火曜日の出勤日に話をしてみるか。その後、俺は家でアニメを見たりゲームをして連休を過ごしていた。


■ 2019年1月15日(火)


今日は曇り空の中、朝10:00前に会社に出勤した。自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。ホームページの製作は順調に進んでいるようだ。俺は日根野部長のところへ行って話をした。


「日根野部長、このホームページ製作を依頼した会社は東京にありますよね?」

「東京の会社だね。それがどうかした?」

「電話やメールのやり取りでは限界があるので、明日先方の会社に伺って最終打ち合わせに行きたいのです」

「東京に出張したいということかな?」

「そうです。あと東京支社のネットワーク環境も見ておきたいと思っています。向こうのサーバーのシステム開発する可能性もありますよね?」

「それはそうだが、突然明日というのはどういうことだね?」

「間もなくホームページのリニューアルになります。もう明日にでも先方と最終打ち合わせしておきたいのです」

「まあ水嶋君に任せた案件だから、それは任せるが先方にも打ち合わせのアポイントをとらないといけないし、東京支社にも連絡しておかないといけない。どちらも予定が空いてるかどうかも問題だね」

「それはこちらで確認しておきます。もしアポイントが取れましたら東京出張の許可をお願いします」

「わかった。じゃあ水嶋君に任せるよ」


日根野部長との話が終わって、俺は早速、ホームページ製作依頼をした会社の担当者に電話をして明日の打ち合わせの明日の16日の午前にアポイントを取った。そして東京支社のサーバー管理者にも連絡をして明日の16日の午後にネットワーク環境を見学させてほしいとお願いした。東京支社のほうは比較的暇なようで見学に来てもらってもいいとのことだった。これで準備は整った。続いて西浦真美に『すぐに休憩室に来てほしい』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『すぐに行くわ』とテレパシーが送られてきた。


休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が休憩室に入ってきて椅子に座った。そして西浦真美が「どうかしたの?」と聞いてきたので俺は12日に起こったバスの事故を未然に防ぐ計画について話した。


「水嶋君、本気でやるつもりなの?もし警察に見つかったりマスコミに写真を撮られちゃったりするとタイムパラドックスが起こってしまうのよ」

「スマホだけどこのスキーバスが事故を起こした現場を見てほしい。すぐ近くに高速バスの停留所がある。俺は変装しながらこのバスに乗って、意識を失ったバスの運転手に変わってバスを停める。こう見えても大型免許持ってるからね。そして外に出て非常電話で連絡する。そのまま高速バスの停留所から逃げるよ」

「まあ犯罪をするわけじゃないからいいと思うけど、本当に逃げれるの?高速バスの停留所から水嶋君はどうやって戻るつもり?」

「まず高速バスの停留所から外に逃げたら変装する。そこからスマホのGPSで近くの駅を見つけて東京に戻るよ」

「スマホを持って行くのはまずいんじゃないかしら。同じスマホがその日に2台存在するわけよね?電波障害が起きたりするんじゃないの?」

「あっそうか・・・スマホのSIMカードを外せば大丈夫じゃないかな。GPSだけなら使えるでしょ」

「それと東京のどこに寝るつもりなの?タイムリープしたらどこかで目が覚めるけどホテルとかだとまずいでしょ?」

「そこで西浦さんにお願いがあって、東京支社って倉庫代わりにしてる1DKのマンションを借りてたよね?たしか東京出張した人用のベッドがあるとか言ってなかった?」

「なるほど、あのマンションを使えばいいわね。ほとんど人がこないし休日だと絶対に人がこないから大丈夫だと思うわ。そのマンションの鍵を手に入れればいいの?」

「うん。それともう一つは西浦さんは1月9日より前にタイムリープして、このスキーバスの予約をとっておいてほしいんだよ。名前は鈴木一郎という偽名で、住所も東京の賃貸情報を見て適当な住所にしてほしい。年齢も生年月日も適当でいい」

「そういうことね。それでいつタイムリープすればいいの?」

「今晩だよ。俺も今晩、東京に行って1月12日にタイムリープする。だからマンションの鍵もすぐに手に入れてほしいんだよ」

「わかったわ。それにしても大それたことを考え出すのね」

「このくらいのことをすれば世界線も変わりそうな気がするんだよ」

「そうね。すごい事故だったから未然に防ぐことができれば大きく変わるかもしれないわね」

「じゃあよろしくお願いするよ」

「すぐに鍵は手に入れるわね。じゃあ早速わたしは戻るわ」

「じゃあまた後でね」


その後、俺は東京支社が借りているマンションの鍵を手に入れた。あとは今夜から東京に行って1月12日にタイムリープすればいい。西浦真美が上手くタイムリープしてスキーバスの予約をとってくれればいいのだが、これは賭けになる。その日の勤務時間終了の19:00になって、俺はすぐに退社して新幹線に乗った。そして東京に到着すると西浦真美から聞いていた東京支社が借りているマンションの住所のところへ向かった。


マンションに到着して中に入ると誰もいなかった。夕食は新幹線の中で食べたのでシャワーを浴びたいところだが、浴室があまり綺麗でなかったのでそのまま眠ることにした。12日のことを強くイメージしながら知らないうちに眠っていた。


■ 2019年1月12日(東京編)


朝5:00に起きた。スマホのSIMカードは昨日のうちに抜いておいたので電波障害が起きることはないだろう。俺は近くのコンビニエンスストアでサングラスとニット帽とマスクを購入した。問題は服装をどうするかだった。できれば服装も変装しておきたい。東京支社が借りているマンションの中に作業着がないか探してみると、誰のかわからないシャツとスーツ、小さなキャリーバッグが置いてあった。俺はキャリーバッグにそのシャツとスーツを入れてマンションを出た。スキーバスの乗り場はここから三駅ほどのところにある。たしか7:20発のバスだった。俺はバス乗り場へ行き、事故を起こすバスを探した。スキーバスはたくさんあるが、バスの模様など全て同じでわからなかった。7:20発の氷川スキー場行きのバスだったはず。バスの案内所に行って鈴木一郎で予約しているというと、15番の乗り場だと教えてもらった。西浦真美はバスの予約をしてくれているようだ。15番乗り場のバスを見ると、たしかに事故を起こしたバスと全く同じなのでこのバスで間違いない。俺はバスに乗って指定された席へ座った。事故が発生するのは9時55分頃とのことなので9時50分頃に運転席へ行けばいい。そして7:20になりバスは出発した。バスはそのまま国道を走って高速道路に入った。


バスはどんどんと北上していった。俺はずっと時間だけが気になっていた。一つ間違えると俺も事故に巻き込まれてしまう。そして9:50になったので俺は席を立って運転席のほうへ行った。バスはなにやらゆらゆらしながら走っている。もしかと思って運転手を見てみると、既に意識を失っているようだった。俺はすぐに運転席に座ったが運転手が邪魔だった。まずはハンドルを調整しながら左車線に入った。そして運転手の股に座ってブレーキを踏んだ。バスは速度を落とした。ハンドルを持ちながらギアを変更した。そしてバスを高速道路の路肩のほうに寄せて停めた。雑な停め方になったのでガクンとした。バスのエンジンを切るとバスの乗客が騒ぎ出した。また、運転手は完全に意識を失っているようだった。俺はバスの扉を開くボタンを探した。あれこれボタンを押したりレバーを動かしたりするとバスのドアが開いた。俺は荷物を持って急いで外に出た。そして高速道路の非常電話をしてバスの運転手が意識を失って、バスを停めたことを伝えた。バスを停めた場所を伝えると名前を聞かれたが、非常電話を切った。そして高速バスの停留所へ走っていった。高速バスの停留所から外に出ると広い田園地帯だった。どこかに隠れて服を着替えたいがその場所がない。適当に走っていくと高速道路の高架があった。そこには誰もいないので、さっさと服を着替えてサングラスとニット帽、マスクをキャリーバッグに入れた。これで変装は完璧だが、ここがどこなのかわからない。スマホのGPSで位置を確認すると約5キロメートル先くらいに駅があった。高速道路からサイレンの音が聞こえてきた。これはまずいと思って走って駅へ向かった。40分ほどで田舎の駅に到着した。そして駅員さんに東京に行くにはどうすればいいか聞いてみた。そして東京までの切符を購入して電車に乗った。


おそらく今頃は俺が停めたバスは大変なことになっているだろう。しかし、今日さえ無事に過ごせば、俺は存在しないことになる。そもそも、今頃、本来の俺はアイス氷瀑群に行ってるはずなのだ。電車に乗って3時間ほどで東京に戻ってくることができた。俺は昼食と夕食の弁当と飲み物を購入して会社のマンションの中に隠れていた。そしてその夜、さっさと眠ることにした。


■ 2019年1月16日(水)


朝7:00に目が覚めてすぐに起き上がった。洗面所で顔を洗った後、スマホにSIMカードを入れた。そしてバスの事故はどうなっているか古いニュースを見ていた。すると危機一髪でスキーバスの事故を防いだ記事が掲載されていた。バスを停めた人物は不明で謎とされているようだ。名乗りをあげてほしいみたいなことを書いているがそれだけは絶対にできない。そして、スマホで世界線の数値を確認してみると5.54になっていた。12名もの命を救っても世界線は分岐しなかった。一体、何をすれば世界線は分岐するのだろうか。さらに未来や過去を改変させていかないといけないということなのだろうか。朝8:00になって近くのコンビニエンスストアに朝食を買いにいった。そして一応、西浦真美に電話をかけた。


「もしもし、西浦さん、朝早くごめんね」

「水嶋君、今は東京からよね?それでどうかしたの?」

「スキーバスの事故は未然に防ぐことができたよ」

「スキーバスの事故って何のこと?もしかしてバスの運転手が意識不明になってスキーバスを停めたのは水嶋君だったの?」

「そうか!西浦さんの記憶の中にはスキーバスの事故のことは消えてるんだ。そうだよ。俺がタイムリープをして事故を防いだんだよ」

「そういうことだったのね。どうやらタイムリープをして過去を変えると記憶は消えるようね」

「タイムリープをした人だけがその記憶を持ってることになるんだけど、西浦さんがこのスキーバスの予約をしてくれたんだよ?」

「たしかにスキーバスの予約をしたのは覚えてるわ。でもどうして予約したのか記憶にないのよ」

「あのスキーバスは本来なら12名の死傷者を出していた大事故になっていたんだよ。それを俺は防いだ」

「なるほどね。それで世界線の数値はどうなったの?」

「それがね5.54になっただけで、世界線は分岐しなかった・・・もうどうすれば分岐するのかわからないよ」

「それでも世界線の状態が変わったってことよね?やはり続けていくしかないんじゃないかしら」

「そうだね。続けていくしかないのかもね」

「わたしも協力するから諦めずに頑張ってね。あっそろそろわたしは仕事に行く準備するからまたね」

「うん、またね」


西浦真美と電話を切った後に考えてみた。俺が過去を改変したことで西浦真美の記憶は書き換えられてしまった。それどころか世界中の人の記憶が書き換えられたことになる。記憶を持っているのはタイムリープをした俺一人だけということなのか。そう考えるとタイムリープというものは過去をなかったことにすることもできる。これも気をつけて使わないととんでもないことになる。俺が異世界に迷いこんだ時もそうだった。俺以外の人間の記憶が書き換えられていた。過去を改変するということはそういうことになるんだ。俺はそんなことを考えながら東京での業務を終わらせた。そして新幹線に乗って自宅に戻った。

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