社員の恋愛日記
■ 2018年12月5日(水)
朝7:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外を見てみると曇り空に少し日が差してた。朝からパソコンの電源を入れて変わった事件や事故がないかニュースをチェックしていた。特に変わった出来事や事件、事故はなかった。メールをチェックしてもDMやニュースメールだけが数通届いていた。着替えをすると部屋を出て洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。キッチンにいた母親が「祐樹おはよう、今日はもう着替えてるのね」と言った。俺は「母さん、おはよう。もうさっさと着替えて準備してから朝食を食べようと思っだんだよ」と言っておいた。日常生活を少しずつ変化させていく。これを積み重ねていくことで世界線が分岐するかもしれない。俺は寝る時間や起きる時間を変化させるようにしている。朝食を食べながらテレビをつけてニュースをチェックする。やはり何も起こっていないようだ。芸能ニュースなんて興味がないのですぐにテレビを消した。朝食を終えるとさっさと家を出た。
出勤にはまだ早い時間だが、早めに出勤するのもいいだろう。駅に到着するといつもより早めの電車に乗った。週末の予定をどうするか考えていたが、ここのところは毎週のように登山に行ってるのでたまには違うことをするのもいいと思った。しかし、何をすればいいのかがわからない。莉奈と街中でデートもいいが、それは一度した時にやっぱり山がいいという結論になった。どこか遠くへドライブするのもいいかもしれない。あれこれ考えていると会社の最寄り駅に到着した。
朝9:40に会社に出勤した。いつもより早い出勤になったが、俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。辺りを見回すと誰もまだ出勤していない。みんないつも10:55頃に出勤してくるのだ。しばらくすると「おはよう」といって日根野部長が出勤してきた。日根野部長は「水嶋君、今日は早い出勤だね」と言ったので俺は「たまには朝早く出勤するのもいいかと思いまして」と言っておいた。俺はスマホで世界線の数値を見た。数値は5.27と変わっていない。しかし、日常生活を変えることによってこの数値が徐々に変化していくはずなのだ。その後、池上有希や小松結衣、児島信二が出勤してきた。業務はいつも通りで変化はしない。こればかりは変化させようがない。業務を黙々としていると突然、児島信二が「もうすぐクリスマスなんですよね」と言った。児島信二の表情を見ていると何やら思い詰めたような感じだった。俺は気になったので児島信二に乗り移ってみた。すると一人で切ない恋をしている感情になっている。すぐに俺は自分の体に戻った。そういえば2033年から送られてきたメールには児島信二が山内美沙にフラれると書いてあった。しかし、児島信二はいつ山内美沙に告白するんだろうか。今度はそれを阻止しなければならないのだが、もう児島信二の感情にも限界があるのかもしれない。俺はカスタマーサポートに言って山内美沙の目を見て近未来透視能力を使ってみた。今日のところは告白されるようなことはなさそうだ。児島信二の感情からすると告白する日は近い。俺はすぐ西浦真美に『休憩室に来てほしい』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『すぐに行くわ』とテレパシーが送られてきた。
休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。西浦真美は「水嶋君、何かあったの?」と言ったので俺は児島信二の感情について説明した。
「そう・・・児島君もそろそろ限界のようね。それで水嶋君はどうしたいって思ってるの?」
「児島君が山内さんに告白されてフラれるのを阻止したい。それはやらなければならないことなんだよ」
「でも児島君がいつ告白するのかわからないのよね?」
「そこが問題なんだよ。おそらくクリスマスまでには告白すると思うんだけど、いつどこでするのかわからないから手のうちようがないんだよね」
「前にも一度、児島君の行動を阻止したわよね。もう阻止するのは無理なんじゃない?」
「そうだね。もうさすがに行動を阻止するのは不可能だと思う。児島君の感情も限界がきてるしね」
「要するにフラれるのを阻止すればいいのよね?だったら児島君を応援するしかないんじゃないかしら」
「それはつまり児島君と山内さんを付き合わせるってこと?」
「そういうことになるわね。今からその方向で手をまわしていくのよ」
「うーん・・・山内さんにとって児島君ってどんな存在になってるのかが問題なんだよね。頼りになる人みたいに思ってるのは間違いなさそうなんだけど、恋愛感情ではないだよね」
「わたしには恋愛感情にさせる方法なんてわからないけど、なんとか山内さんを振り向かせるように協力していけばいいんじゃないかしら」
「まずは早まって告白させないように、今から相談者になって協力していくというわけか」
「今日の昼食にでも児島君を誘ってみるのはどうかしら?話を聞いて早まって告白しないように釘を刺しておくの」
「その手がいいかもね。ただ、児島君の感情には限界があるから、短時間でなんとかしないといけない。前に遊園地にデートしたみたいだけど、それでも山内さんの感情は変わらなかった。遊園地は効果がないのかもね」
「山内さんって前に海が見るのが好きって言ってたわよね?どこか遠くの海に連れて行くのはどうかしら?」
「児島君って車持ってなかったと思うから、なかなか遠くの海にデートに誘うのは無理があるんじゃないかな」
「そうだ!水嶋君とダブルデートするのはどう?今週末は天気もいいみたいだし、それまでに児島君にはどういう行動をすればいいのか指導しておくのよ」
「一応、今週末は空けてるけど、いきなりダブルデートといっても山内さんが来てくれるかわからないよ」
「だから水嶋君が山内さんを誘えばいいじゃない。日帰りで行ける綺麗な海とか知らないの?」
「ちょっと遠いところであれば知ってるけど、ただ海をみるためだけにそこに連れていくのはもったいない感じがするね」
「観光も兼ねていけばいいじゃない!あとはロマンチックな景色を眺められるところはある?」
「ロマンチックな景色か。夜景は無理だけど綺麗な夕日が海に沈むところであれば知ってるけどね」
「じゃあそこで決まりね。水嶋君は児島君にアドバイスして、山内さんを海に誘う。週末四人で海に行くの」
「やるだけやってみるよ。山内さんの予定がどうなってるかわからないけどね」
「とにかく上手くやるのよ。それじゃあわたしはそろそろ戻るわ」
「うん。じゃあ俺も戻るね」
俺と西浦真美はそう話をして休憩室を出た。俺は自分の席に座って児島信二に”今日、一緒に昼食に行かない?”とメッセージを送った。児島信二からは”別にいいですよ”とメッセージが返ってきた。さて、児島信二にどう話をするかが問題だ。
昼休みになって、俺と児島信二は会社近くのファミリーレストランに入った。俺も児島信二もハンバーグランチとドリンクバーを注文した。そしてハンバーグランチが運ばれてくると俺と児島信二は黙って食べていた。俺はランチを食べながら考えていた。告白しても要するにフラれなければいいのだ。山内美沙に児島信二の感情を知ってもらって恋愛を意識させるだけにすればいい。俺は異世界に迷い込んだ時、もう一人の俺が片桐杏奈に告白したことを思い出した。あの時は「片桐さんを待っている」と言った。それと同じことを山内美沙に言うのはどうだろうか。それを伝えた後、二人の関係がどうなるかはわからないが、フラれることにはならない。ランチを食べ終えてドリンクバーでホットコーヒーをカップに注いだ。児島信二もホットコーヒーのようだ。俺と児島信二は席に戻ってコーヒーを飲んでいた。そして俺は話しはじめた。
「児島君、山内さんとはあれからどんな感じ?」
「山内さんとは一緒に帰っていますけど進展はありませんね」
「児島君の感情はもう限界なんじゃない?そろそろ告白とか考えてたりするの?」
「そうなんですよ。もう限界ですね。クリスマスも近いですから、それまでには告白しようと思っています」
「それなんだけど、山内さんとの関係が進展していないのに告白するのは待ったほうがいいと思うんだよ」
「でも、僕はもう限界なんです。山内さんが他の誰かに取られてしまうんじゃないかとか、他に好きな人ができたりしないかとか、そんなことを考えると怖くなってきます」
「そこで提案なんだけど、山内さんは海を見るのが好きって言ってたから、今週末に俺の知ってる綺麗な海に行ってみない?」
「そこに山内さんを誘うってことですか?」
「俺のほうから山内さんを誘うから、児島君は予定を空けておいてもらえばいい。綺麗な海を眺めて適当に観光地をまわった後、綺麗な夕日が見れるスポットに行くんだよ。そこで児島君は山内さんに告白すればいい」
「なるほど。夕日を眺めながら山内さんに付き合ってくださいと言えばいいんですね?」
「いや、付き合ってくださいとは言わないほうがいい。山内さんはまだ児島君に恋愛感情は抱いてないと思う。ただ、児島君は山内さんのことが好きだと言うだけでいい。その感情を伝えたあとの言葉が重要なんだよ」
「ただ、山内さんに気持ちを伝えた後の言葉って何ですか?」
「今は山内さんに付き合ってくださいとは言わないけど、いつの日か山内さんが振り向てくれる日まで待っていると言えばいい」
「それって意味あるんでしょうか?ただ気持ちを伝えるだけで、付き合わなければ、僕と山内さんの関係がこじれるんじゃないですか?」
「その後は少しぎくしゃくした関係になると思うけど、山内さんは児島君を男として意識するようになると思うんだよ。そして児島君は山内さんを待っていれば、いつかは山内さんと結ばれる可能性はあるってこと」
「そういうことですか・・・うーん・・・わかりました。それで山内さんとの関係が少しでも進展するんだったら、水嶋さんの言った通りに伝えてみます」
「あとその綺麗な海は遊歩道になってるんだけど、転びやすいからちゃんと山内さんをエスコートすること。俺も彼女を連れていくけど、児島君は山内さんと少し離れて二人で歩いてくることだね」
「わかりました。でもどうして水嶋さんが山内さんを誘うんですか?」
「俺が誘ったほうが来てくれる可能性が高いってことかな。その海の写真とか持ってるから説明もできるしね」
「そういうことですか。じゃあ水嶋さんにお任せします」
「何度も言うけど、夕日を眺めながら間違っても付き合ってくださいとは言わないこと。これだけは絶対に守ってね。そこでフラれたらもう全てが終わってしまうからね」
「わかりました。ちゃんと自分の気持ちだけ伝えて、待っていると言うようにします」
俺と児島信二の話は終わってファミリーレストランを出た。あとは山内美沙を誘う方法を考えなければならない。週末まで時間がないので、今日にでも誘うしかない。昼休みの時間が終わって会社に戻った。問題は山内美沙をどこで誘うかだ。やはり休憩室しかないか。山内美沙の週末の予定が空いてくれていることを祈ろう。カスタマーサポートは電話対応が多いためすぐに休憩室に来ることはできないかもしれない。俺は山内美沙に”突然だけど、空いた時間に休憩室に来てくれないかな?”とメッセージを送った。しばらくすると山内美沙から”今からなら少し行けますよ”とメッセージが返ってきた。俺は急いで休憩室に向かった。
休憩室に入って待っているとドアが開いて山内美沙が入ってきた。不思議そうな表情をしながら「水嶋さん、何かご用でしょうか?」と言った。俺は立ち上がってスマホに入ってる海の画像を見せた。
「山内さん、ここの海は穴場なんだけど、エメラルドグリーンですごく綺麗なんだよ。こんな海に興味はないかな?」
「すごい綺麗な海ですね。ここはどこなんですか?」
「ちょっと遠いんだけど、日本海なんだよ。そこでなんだけど、山内さんをこの海に連れていきたいって思ってるんだよ」
「どうしてわたしを連れていきたいって思っているのですか?」
「山内さん、海が好きだって言ってたし、いろんなことがあったからこういう海を見て癒してもらえればいいなって思ったんだよ」
「それはありがとうございます。でもいつ連れていってもらえるのですか?」
「今週末の土曜日は空いてるかな?できれば朝早くにうちの家の最寄り駅に朝早くきてほしい」
「わたし、週末はずっと空いてますので、それはいいですけど、水嶋さんと二人で行くのですか?」
「俺の彼女を連れていこうと思ってるんだけど、それだと山内さんは気をつかうと思うから児島君も一緒に連れていくのはどうかな?」
「水嶋さんと彼女さんのおじゃまにならなければいいですが・・・」
「俺と彼女のことは気にしなくていいよ。それより山内さんにこのエメラルドグリーンの海を見せたいんだよ」
「わかりました。では今週末の土曜日空けておきますね。楽しみにしています」
「えっと土曜日の朝6:00にうちの最寄り駅の駅前ロータリーに来て。北口の改札を出て階段を下りたところね。児島君と一緒にくるといいよ」
「朝6:00ですね。わかりました。児島君と一緒に行くようにします」
「じゃあそういうことだからよろしくね」
「はい。よろしくお願いします」
山内美沙を誘うことができた。あとは児島信二が余計なことを言わないことを祈るしかない。この日は何事も起こらず一日が終わった。
その夜、俺は莉奈に電話をかけて、事情を説明した。莉奈は「その二人のこと応援したい!」と言って協力的だった。それから週末までは何も起こらず世界線の数値の変化もなかった。
■ 2018年12月8日(土)
朝5:55に駅前ロータリーに到着した。既に莉奈は到着していて車のほうに歩いてきた。駅前ロータリーを見渡すと駅の階段下にジーンズに茶色のセーターに茶色のジャケットを着た児島信二と薄いピンクのハイネックセーターに白いコートを着て黒いパンツをはいた山内美沙が何か話をしながら待っていた。俺は二人を呼びに階段下まで歩いていった。そして二人を車のほうに案内した。莉奈は俺の耳元で「この男の人見たことある」と囁いた。莉奈はあの夢中会議室で児島信二の姿を見ているのだ。そして莉奈は二人のほうを見て「祐樹君とお付き合いしてる笹原莉奈です。今日はよろしくお願いします」と言った。すると児島信二と山内美沙は「こちらこそ、今日はよろしくお願いします」と言った。児島信二は俺の耳元で「水嶋さんってロリコンだったんですね」と囁いた。俺は「違うよ」と否定した。助手席に莉奈が乗って、後部座席に児島信二と山内美沙が乗って海に向かって車を走らせた。車内で沈黙が続いていたが、俺は「児島君、山内さん、二人で普通に何か話してほしい。眠くなってくるから」と言った。すると児島信二と山内美沙は「わかりました」と言って何気ない日常会話をはじめた。莉奈は助手席で眠っていた。俺はだまって児島信二と山内美沙の話を聞いていたが、二人はかなりいい感じのように思えた。ただ、山内美沙の気持ちとしては児島信二に恋愛感情は持っておらず友達関係のような感じに思っているのだろう。友達関係から恋愛関係に発展させるのはあらゆる壁があるように思う。ただ、今日は児島信二が告白をして山内美沙には児島信二を一人の男性として意識させる。そうすることによってその壁を乗り越えていくことができるかもしれない。今日、俺が行こうと思っている海は夏に莉奈といっしー(石岡秀之)の三人で泳ぎにいった鴨ヶ城海岸だ。途中、パーキングエリアに立ち寄って少し休憩した。莉奈は朝早かったのか助手席でずっと眠っている。三人でトイレ休憩をして、再び車を走らせた。そして二時間半ほど車を走らせて鴨ヶ城海岸に到着した。
冬に鴨ヶ城海岸に訪れるのははじめてだったが、今日は天気も良く山の上から見る鴨ヶ城海岸はエメラルドグリーンの海でとても綺麗だ。今回も山の上からは5メートルほど海の底が透けてみえている。山内美沙は「すっごく綺麗な海ですね」と言って感動しているようだった。莉奈は「今年の夏に泳ぎに来たけど、海の中もすごく別世界で綺麗なんだよ」と言った。俺は「ここから海岸に降りていって、今日は海岸沿いの遊歩道をブラブラ歩こう」と言った。そして海岸までは登山道を600メートルほど下っていくことにした。鴨ヶ城海岸まで下りると岩の真ん中に穴が開いた洞窟も見れて、海もすごく綺麗に透けている。もちろんこんな時期なので人なんていない。山内美沙は「こんな綺麗な海が沖縄以外にもあったんですね」と言って海を眺めていた。俺と莉奈は横に並びながら遊歩道を先頭に歩いていった。その後ろから児島信二と山内美沙が歩いてきている。俺は後ろを振り向いて「児島君、足場が少し悪いから山内さんのことをしっかりエスコートしてあげてね」と言った。児島信二は「わかりました」と言って山内美沙の隣に並んで歩いていた。遊歩道の途中で大きな岩場があって綺麗な海が望める場所があった。山内美沙が大きな声で「ちょっと待ってください」と言った。俺と莉奈は振り向くと、山内美沙は岩の上に登っていった。児島信二は心配するかのように山内美沙を見ていて、山内美沙が岩の上に登ると児島信二も岩に登った。俺と莉奈も戻って岩の上に登った。岩の上で座っている山内美沙は「ちょっとここで海を眺めさせてください」と言った。俺は「いいよ」と言って山内美沙と児島信二から少し離れた場所に座った。児島信二は山内美沙の隣に座って黙っている。山内美沙は海を見て何を考えているんだろうか。海を見て感動しているようにも思えるが、少し切ない表情をしている気もする。莉奈が小さな声で「あの二人、上手くいくといいね」と言った。俺は「まあ、そうなればいいんだけど、まだちょっと難しいんだよ」と言った。莉奈は「そうなんだ。でも本当に綺麗な海だね」と言って海を眺めていた。三十分ほど海を眺めていると山内美沙は「もういいですよ。お待たせしてすみません」と言って岩を下りていった。俺と莉奈も岩を下りて遊歩道を歩きはじめた。海岸沿いの遊歩道といっても岩場などのアップダウンのある登山道のようになっていて、向こう側の海岸までは歩いて四十分ほどかかるコースなのだ。児島信二は岩場でときどき山内美沙の手を握ってしっかりエスコートしているようだ。そのまま城島海岸まで歩いていった。城島海岸は夏になれば人が結構多いのだが、この時期は誰もいなかった。城島海岸から階段をあがって道路に出た。道路を歩いて鴨ヶ城海岸の駐車場まで戻っていった。駐車場に到着すると山内美沙が「水嶋さん、今日は連れてきてくれてありがとうございました。こんなに綺麗な海を見れるなんて思いませんでした」と言った。俺は「山内さん、まだこれから観光して最後にまた海に行くよ」と言った。そして俺達四人は車に乗った。
車内で莉奈が「そういえばお昼はどうするの?」と言ったので、俺は「漁港近くにある回転寿司の店に行こう」と言った。児島信二は「こんなところまできて回転寿司ですか?」と言ったので、俺は「その回転寿司の店はちょっと違うんだよ」と言った。俺は細い山道を下りていって漁港にでた。漁港にはイカ釣り漁船などが並んでいた。その漁港から十分ほど車を走らせると国道に出てすぐのところに回転ずしの店があった。莉奈は「変なところに回転ずしがあるんだね。これチェーン店じゃないよね」と言った。回転寿司店の駐車場に車をとめて店の前に行くと、大きな白い紙にマジックで本日のネタはと書いてあって、聞いたことのないような魚の名前が書かれていた。回転寿司店に入ると四人掛けのテーブルに案内された。奥の席に俺と莉奈が座り、手前の席に児島信二と山内美沙が座った。そして俺は「ここの寿司はそこの漁港でとれた新鮮なネタでにぎられてるんだよ」と言った。莉奈は「そういえばさっきの漁港にイカ釣り漁船があったよね」といった。俺は「ためしにイカを食べてみるといいよ」と言った。すると三人はイカの皿をとって食べた。すると山内美沙が「すっごく柔らかいイカですね。こりこりしてないです」と言った。俺は「新鮮なイカは柔らかいんだよ」と言った。莉奈も「本当だ。すごく柔らかいイカで美味しい」と言った。児島信二は「新鮮なネタなんですね。水嶋さんがこの回転寿司に連れてきた理由がわかりました」と言った。その後、新鮮なネタのお寿司をお腹いっぱいに食べた。これで一皿百円から百五十円なのだから安いのだ。
回転寿司店を出てからは近くにある観光地を巡ってみた。あまり観光地といえるところはないのだが、城跡や山の上にあるパラグライダー場などから展望を望んだりしていた。そして児島信二が「せっかくこんな遠いところまできたのでお土産屋さんに行きたいです」と言った。俺は「お土産なら近くのスーパーに行こう」と言った。児島信二と山内美沙が「スーパー?」と不思議そうに言ったが、俺は知っている大きなスーパーに行った。スーパーの駐車場に車をとめて俺達四人はスーパーに入った。俺は「この豆腐がめちゃくちゃ美味しいんだよ。お土産に買っていくといいよ」と言った。続いて「この竹輪もいいよ」や「この魚も日本海だけのものだからお土産にいいよ」と言っていろいろお土産になりそうなものを紹介した。俺達四人は俺の言ったものをそれぞれ買い物かごに入れた。莉奈は「祐樹君、前から思ってたんだけど、どうしてこの辺のこと詳しいの?」と聞いてきた。俺は莉奈のほうを見て「だって、ここは俺の元田舎だからだよ。俺は子供の頃によく来ていたんだよ。こっちにしばらく住んでバイトをしてた時期もあったよ」と言った。それを聞いた莉奈は驚いて「そうだったんだ。だから詳しいんだ」と言った。そう、ここは俺が子供の頃に夏休みになると絶対に来ていた場所なのだ。今は祖母が亡くなってもう家もなくなったが、この辺りの地理には詳しいのだ。
スーパーで買い物を終わらせると日没まで少し時間があった。俺は夕日が眺められる場所の近くにある空港へ行った。小さな空港だが、飛行機の離着陸がよく見える。そして空港から近くの有名な海岸へ行ってお土産屋さんに入った。この海岸は有名で冬でも訪れる観光客は多い。俺はお土産屋さんの前で太陽の位置をずっと見ていた。そろそろ日没が近いと思ったので児島信二と山内美沙を呼びにいって夕日の見える展望台へ向かった。
サンセットカフェという店の近くにその展望台はあるのだが、夕日を撮影しようとカメラと三脚を準備している人が多くいた。俺は児島信二に「あの海岸へ山内さんと二人で下りていって夕日を見るといいよ」と言った。児島信二が告白するのはあの海岸になるのだ。俺と莉奈も海岸に下りていって少し離れた場所に座っていた。そしていよいよ海に太陽が沈む。真っ赤に染まった空とオレンジ色になった海。大きな太陽が海に沈んでいく。海に沈む太陽を望めるのは日本海か太平洋の一部だけなのだ。莉奈は「ねえ、いよいよ告白するの?」と言った。俺は小さな声で「そうだよ。静かにしてね」と言った。山内美沙は「綺麗な夕日。こんなオレンジに染まった海もいいなあ」と言っている。児島信二は日が沈むのを待っているようで何か落ち着かない感じだった。そして完全に太陽は海に沈んでいった。ここからが勝負なのだ。児島信二に頑張れと心の中で強く思った。俺と莉奈は黙って児島信二と山内美沙の様子を見ていた。山内美沙が戻ろうとした瞬間、児島信二が「山内さん、ちょっと待って!」と言った。そして児島信二がついに告白しはじめた。
「山内さん、僕、あのね、僕は・・・山内さんのことが好きなんだ」
「え?わたしのことが好きって児島君どういうこと?」
「山内さんのことが僕は大好きなんだ。恋してるんだ」
「そ、そうだったんだ・・・あの・・・わたしは・・・」
「あのね、山内さん、続きを聞いてほしいんだ」
「う、うん」
「僕は山内さんのことは好きだけど、今ここで山内さんに付き合ってくださいとは言わない」
「うん」
「でも、僕は山内さんが僕に振り向いてくれるまで待っていようって思ってる。だから山内さんのことをずっと好きでいたいんだ。ダメかな?」
「えっと・・・ダメ、じゃないよ。わたしいろいろあって今は誰かと付き合いたいとか思わないけど、児島君が待ってくれるって言ってくれるならダメとは言わない」
「山内さん、だからといってこれからも一緒に帰ったり、僕と話はしてほしい。僕は今日、自分の気持ちを伝えたかっただけだから」
「わかった。児島君、わたしのことをそんなに好きになってくれてありがとう。児島君の気持ちは伝わってきたよ」
「僕は山内さんのことを待ってるからね。ずっと好きでいるからね。それだけは信じていてほしい」
「うん。児島君のこと信じているね。わたし、気持ちの整理がついたら児島君のことちゃんと見るようにするね。ありがとう」
「じゃあこれからもよろしくね」
「こちらこそ、児島君・・・よろしくね」
俺は莉奈に小さな声で「これはフラれたわけじゃないよね?」と聞いてみた。すると莉奈は「フラれたわけじゃないと思うよ」と言った。そして児島信二と山内美沙がこっちに向かって歩いてきた。二人は「お待たせしました」と言った。そして俺達四人は車に乗って帰宅することにした。帰りの車内ではさすがに朝早かったのか、莉奈も山内美沙も眠っていた。児島信二は何かスッキリしたような表情で外を眺めていた。
夜遅くなったが、駅前ロータリーに到着して解散した。児島信二と山内美沙は一緒に電車に乗って帰るようだ。莉奈もさっさと電車に乗って帰っていった。俺もさっさと自宅に戻って夕食にはスーパーで買った魚を焼いて食べていた。そしてシャワーを浴びた後、自分の部屋に入った。俺は早速スマホで世界線の数値を確認すると5.38となっていた。5.27の状態から0.11の変化があったわけだが、この数値の大きさは関係ない。ただ児島信二が山内美沙にフラれることはなかったことから世界線の状態が少し変化したのだ。これも2033年から届いたメールに書かれていたことなので、世界線の分岐に必要なことだったんだろう。しかし児島信二と山内美沙の恋愛事情はこれで終わりではなかった。
■ 2018年12月12日(水)
この日は10:00前に会社に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。夕日の海岸で山内美沙に告白した児島信二はすっかり元気がでているような表情をしている。告白してからも今までと変わらず児島信二とと山内美沙は一緒に帰っているようだ。黙々と業務をしていると山内美沙から”突然すみません。ちょっと相談したいことがあります”とメッセージが送られてきた。俺は”相談したいことって何のことについて?”と山内美沙にメッセージを返した。すると山内美沙から”メッセージではちょっと話せないので、どこか話せる場所はありませんか?”とメッセージが届いた。俺は休憩室がいいと思ったのだが、山内美沙の相談内容によっては長くなりそうに思ったので”じゃあ今日、昼食でも一緒にどうですか?”と山内美沙にメッセージを送った。そして山内美沙から”わかりました。昼食の時にお話しします”とメッセージが返ってきた。俺は西浦真美も一緒に連れていったほうがいいような気がした。念のため西浦真美に『今日、山内さんが相談したいことがあるらしいんだけど、西浦さんも一緒に昼食に来てくれないかな?』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『わかったわ。じゃあお昼休みになったら合流しましょう』とテレパシーが送られてきた。俺は山内美沙に”昼食に西浦さんも呼んだんだけど、一緒に来ても大丈夫?”とメッセージを送った。すると山内美沙から”西浦さんも一緒で構いません”とメッセージが返ってきた。
昼休みになってエレベーターの前で西浦真美と合流して山内美沙が来るのを待っていた。そして少し遅れて山内美沙がやってきて「お待たせしました」と言った。俺達三人は会社の近くにあるファミリーレストランに入った。四人掛けのテーブルに案内されて俺の向かいの席に西浦真美と山内美沙が座った。俺はエビフライランチ、西浦真美はパスタ、山内美沙は半熟卵のドリア、そして三人ともドリンクバーを注文した。注文した料理が運ばれてきてとりあえず先に食べ終えることにした。ランチを食べ終えると店員さんがお皿を下げてくれたので、俺達三人はドリンクバーで各自が飲み物を持って席に戻った。俺はホットコーヒーを一口飲んで話しはじめた。
「それで、山内さんの相談って何かな?」
「わたし、あの、夕日の海岸で児島君に告白されたじゃないですか?その後、いろいろ考えていて、どうあの告白に答えようかなって悩んでいます」
「児島君はたしか、付き合ってほしいとは言ってないよね?告白に答える必要ってないんじゃないと思うんだけど違うの?」
「そうなのですが、でもあんなにわたしのことを好きって言ってくれたので、何か答えないといけないのかなって思っています」
「昨日もだけど、山内さんと児島君は一緒に帰ったりしてるよね?児島君の態度が変わったりしてるの?」
「いいえ。児島君はいつも通りに接してくれています。でもこのままじゃいけない感じがするのです。わたしがちゃんと気持ちを整理しないといけないのかなって思って悩んでいます」
「えっと、聞きたいことが二つあるんだけど、まず山内さんは気持ちを整理したいって言ってるけど、具体的には何の気持ちを整理したいの?」
「わたし、前に失恋したじゃないですか?もうその人に未練はないのですが、わたしが誰かと付き合う準備というか、恋愛する自信がないというか・・・そういう自分の気持ちを整理したいのです」
「なるほど。つまり山内さんは恋愛して誰かと付き合う自信がないっていうことだね?」
「そういうことですね。失恋してからわたしは恋愛に関して自信がなくなってしまいました。わたしなんかが恋愛できるのかなって思っています」
「うーん・・・それはなんか違うと思うんだよね。恋愛するのに自信って必要なのかな?気持ちの整理をして、よし恋愛しようって決心してはじめる問題じゃないと思うんだよ。今の状態だと前に進めないと思うんだけどどう思う?」
「たしかに恋愛するのに自信があるとかないとか、それは関係ないかもしれませんね」
「恋愛って縁があってするものだと思うんだけど、山内さんは何か構えてる感じに思うんだよ。気持ちの整理をしたいのはわからなくもないけど、そういう考えだといつまでも気持ちの整理なんてつかないと思う」
「そうかもしれませんね。わたしは少し恋愛に臆病になっていたかもしれません。たしかに恋愛は縁があってするものかもしれませんね。でも児島君の気持ちにどう答えればいいのかわかりません」
「そこでもう一つの聞きたいことなんだけど、ハッキリ言って山内さんは児島君のことをどう思ってるの?恋愛対象にならないの?」
「恋愛対象になるかならないかはわかりません。告白された時は胸がキュンとしましたが、わたしは今まで児島君をそういう目で見てなかったのでわからないのです。でも児島君のことは本当にいい人だと思っていますよ。頼りになりますし、一緒にいて楽しいって思っています」
「つまり児島君を恋愛対象として見てなかったけど、今後は恋愛対象になる可能性はあるってことかな?」
「そうですね。告白されてから児島君のことは男性として意識するようになっていますから、可能性がないというわけではないです」
「それだったら、まず友達以上恋人未満の関係からはじめてみるのはどうかな?まずは児島君とそういう関係で付き合ってみて山内さんの気持ちがどうなるか確かめてみるのはどうかな?」
「児島君と付き合ってみて自分の気持ちを確かめるってことですか?」
「うん。そういうことからはじめてみて、今の山内さんの気持ちが整理できて児島君を恋愛対象として見れるようになれば、山内さんの悩みも解決すると思うし、やっぱり無理だと思えばそこまでの関係だったってことだと思うよ」
「なるほどです。まずは付き合ってみてから児島君の気持ちにどう答えられるか考えるということですね?」
「それが一番、今の山内さんの悩みを解決する近道のように思うんだよ。それに児島君のことを男性として意識してるとか、告白されて胸がキュンとしたってことは、心のどこかで恋愛感情が芽生えはじめてるんじゃないかな。西浦さんはどう思う?」
俺は西浦真美に話をふった。すると西浦真美が話しはじめた。
「山内さん、わたしも水嶋君の意見に賛成よ。山内さんは心のどこかで児島君に対して恋愛感情が芽生えはじめていると思うのよ。だから付き合ってみてから答えを出してみるといいと思うわ。恋愛するために気持ちを整理するとか、わたしもなんか違う気がするの」
「西浦さんも同じ意見ですか。わかりました。児島君とは前向きに考えてみます」
「わたしも山内さんの気持ちはわかるの。同じようなことを感じてるから」
「西浦さんも気になっている人がいるのですか?」
「あ、まあ、それはそうなんだけど、とにかく前向きに考えてみるのがいいと思うわよ」
俺は西浦真美が藤堂晃のことを言ってるとすぐにわかった。それにしても山内美沙はどういう答えを出すのか、それだけが気になっていた。山内美沙は「お二人とも相談を聞いてくださってありがとうございました。前向きに考えてみます」と言った。山内美沙の話が終わって俺達三人はファミリーレストランを出て会社に戻った。
それからこの日は何事も起こらず一日が終わった。山内美沙は近いうちに児島信二に何かのアクションを起こすはずだ。まさかここにきて児島信二はフラれたりしないか心配だったが、話の流れからしてその可能性は低いだろうと思った。
■ 2018年12月13日(木)
この日は朝6:00に目が覚めた。日常を変えるために早寝早起きの生活にしている。部屋を出て洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。まだ朝食は用意されていないが、俺は自分でトーストを焼いてインスタントコーヒーをカップに注いだ。朝食をとりながら朝のニュースを確認したが、これといった大事件や事故は起こっていない。何かが起こってほしいと願うのはよくないことだが、何か起こればその過去を改変したいと思っている。自分の部屋に戻って出勤時間まで時間があったのでパソコンの電源を入れて、山記事を見ていた。週末はあまり天気が良くないので再来週の連休にどこか行こうと考えていた。そういえば2033年から届いたメールにはクリスマスイブに笹原莉奈とホテルで過ごすと書いてあった。クリスマスイブは12月24日の祝日だが、次の日は平日なのでホテルで過ごすということは考えにくいが、何かの関係でそういうことになるのだろう。次はそれを回避しなければならない。
9:00前に家をでて駅まで歩いていった。もうすっかり冬の厳しい寒さで体が冷える。駅に到着するといつもより早い電車に乗った。昨日の相談によって山内美沙はどういうアクションを起こすのか気になっていた。あの様子だとやはり児島信二ととりあえず付き合ってみるのだろうと思う。しかし、2033年からのメールでは児島信二はフラれることになっている。それだけは避けなければいけないのだが、もし二人がうまく付き合うことができればそれは回避したことになる。それに世界線の数値を確認すると変化していたので、未来は確実に改変されていっている。あらゆることを考えていると会社の最寄り駅に到着した。
10:00前に会社に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。そして「おはようございます」と暗い表情をした児島信二が出勤してきた。昨日、山内美沙に何か言われたんだろうか。俺は気になったので児島信二に”何かあったの?”とメッセージを送った。すると児島信二から”昨日の帰りのことなんですが山内さんから大事な話があると言われました”とメッセージが返ってきた。俺は児島信二に”その大事な話って何か言われたの?”とメッセージを送った。すると児島信二から”今日のお昼に話をしたいと言われました”とメッセージ帰ってきた。まだ何を言われるのかわからない状態なのかと思ったので俺は児島信二に”どうしてそんな暗い表情してるの?まだ何を言われるかわからないんだよね?”とメッセージを送った。しばらくして児島信二から”この前の告白のことだと思います。おそらく僕は諦めてほしいと言われるんだと思います”とメッセージが返ってきた。俺は児島信二に”まだそうと決まったわけじゃないから、そんな悲観的にならないほうがいいよ”とメッセージを送った。児島信二の表情はもうかなり暗い感じだった。そして児島信二から”わざわざ大事な話って言うくらいですからいいことではないと思います”とメッセージが返ってきた。昨日、俺と西浦真美が山内美沙に話を聞いた時はかなり前向きな考えをしていたと思うので悪いことではないと思ったが、それを児島信二に言うわけにいかない。とりあえず俺は児島信二に”とにかく悪いこととは決まったわけじゃないから、昼休みに話を聞いてみたほうがいいよ”とメッセージを送った。児島信二はメッセージではなく「わかりました」と呟いた。午前中、児島信二はまるで失恋したかのように暗い表情をしながら業務をしていた。
昼休みになり、俺は気になったので児島信二の後をつけた。一人で歩いているところからすると山内美沙とは外で話をするようだ。児島信二は会社のビルの外に出て大通りの角を左に曲がって真っすぐ歩いていき、左に曲がって会社のビルの裏通りを歩いていった。この方向は会社のビルの裏にある公園のほうだ。そこで待ち合わせしてるんだろうか。予想通り、児島信二は公園に入っていった。俺は山内美沙に見つかるとまずいと思ったので公園の左側のほうへ行ってブロック塀にしゃがみこんで様子を見ていた。しばらくすると山内美沙がやってきた。そして山内美沙が公園に入ってきて児島信二の前に立った。そして児島信二と山内美沙が話しはじめた。
「山内さん、大事な話って何?」
「児島君、あのね、ちょっと言いにくいんだけど・・・なんて言えばいいんだろう・・・」
「この前の告白のこと?僕のことやっぱり迷惑かな?」
「そうじゃないの!児島君はわたしのことをずっと好きでいてくれる、待っていてくれるって言ってくれたよね?」
「うん。今もその気持ちは変わらないよ。でも山内さんが迷惑なら僕はもう諦めるように頑張ろうって思う」
「迷惑なんかじゃないよ。あのね、最初から恋人同士ってわけにはいかないけど、友達以上の関係からならいいかなって思ったの」
「友達以上の関係からいいってどういうこと?」
「だから、その・・・児島君とお付き合いしてもいいかなって・・・」
「それは本当!?本当に僕と付き合ってくれるの?」
「うん・・・でもまずは試用期間というか、児島君と付き合ってみて自分の気持ちを確かめたいの。わたしのわがままになるけど、児島君がそれでもよかったらだよ」
「それでもいいよ!僕、絶対に山内さんを振り向かせるし、山内さんのこと大事にするよ!」
「わかった。じゃあ児島君、お付き合いしてもいいよ」
「やったあ!」
俺は話を聞いてホッとした。そのまま公園の裏手のほうの道を進んで大通りに出た。あとは二人に任せればいいだろう。こっちの方向だと豚骨ラーメンセットの店だと思って俺はラーメン屋に向かった。それにしても本当に良かった。児島信二はフラれるどころか彼女ができたのだ。まあ、最初は恋人同士ではないと言ってたが、山内美沙も付き合えば気持ちも変わってくるだろう。それにしても本来の世界線だと児島信二はフラれるはずだったのが、逆のことが起こってしまった。やはり未来は改変されていってると実感できた。2033年の俺が体験したこととは異なってきている。この日の豚骨ラーメンセットはいつもより美味しく感じた。ラーメン屋を出て俺は外を少しブラブラして会社に戻った。
午後の業務がはじまると児島信二はまるで人が変わったかのように明るく元気な表情になっていた。わざわざ聞くまでもないが、一応俺は児島信二に”何かいいことでもあった?”とメッセージを送った。すると児島信二から”僕も彼女持ちになりましたよ!水嶋さん、ありがとうございました”とメッセージが返ってきた。俺は児島信二に”それはよかったね。ありがとうって俺は何もしてないよ”とメッセージを送った。しばらくして児島信二から”山内さんから聞きましたよ。水嶋さんと西浦さんが山内さんに僕と付き合ってみるといいってアドバイスしてくれたみたいじゃないですか。本当にありがとうございました”とメッセージが返ってきた。あの後、山内美沙は俺と西浦真美のことを話したのかと思った。俺はそのことを伝えるために西浦真美に『ちょっと休憩室にきてほしい』とテレパシーを送った。西浦真美から『今すぐ行くわ』とテレパシーが送られてきた。
俺は休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。そして、俺は児島信二と山内美沙が付き合ったことを西浦真美に伝えた。西浦真美は「それはよかったわね」と言った。
「俺にとって重要な人は児島君はフラれると言ってたんだけど、その逆のことが起こったんだよね。ということは未来は確実に改変されてるってことだよね」
「児島君と山内さんが付き合うことになって、世界線の数値はどうなってるの?」
「そういえば見てなかった。あっ5.38から5.42になってる。やっぱり徐々に未来は改変されてるみたいだね」
「その数値は変化があればあがっていくだけなのかしら。逆に下がったりすることもありそうだけど、同じ数値にはならないようね」
「世界線の状態を示した数値であれば、下がることもあると思うけどね」
「とにかく、児島君と山内さんが付き合うようになってよかったじゃない」
「次は西浦さんの番だよ。そろそろ藤堂さんと付き合ってみてもいいんじゃない?」
「わたしならとっくに答えは出してるわよ」
「答えを出してるってどういうこと?」
「藤堂君と付き合ってもいいって思ってるわ。クリスマスイブの日に誘われてるの。その時に付き合ってもいいって言ってあげようって思ってるわ」
「そうなんだ。もう答えを出してたとはね」
「それより、思ったんだけど、その世界線を示した数値だけどちょっとずつ変化してるってことは小さな分岐ははじまってるってことじゃないかしら?」
「小さな分岐ってどういうこと?」
「たとえば、5.01の数値の世界線と5.11の数値の世界線は少しだけど違うってことじゃないの?大きな世界線が5であれば、小さな世界線は小数点ってことじゃない?」
「まあ、そういうことになるね。ちょっと世界線の理屈はわからないけど、5という世界線の中にも複数の世界線があるってことだよね」
「そうやって小さな分岐を続けていくうちに5という大きな世界線が変化するってことじゃないかしら」
「そうだと思うんだけど、それがどの段階で5という大きな世界線が変化するかが問題だね。とにかく未来を改変させ続けることかな」
「そのためにもわたしは協力するから、水嶋君は頑張ってね」
「うん。ありがとう」
「じゃあ、わたしはそろそろ戻るわね」
「俺も戻るね」
俺と西浦真美は休憩室を出た。俺は自分の席に戻っていろいろ考えながら業務を続けていた。5という大きな世界線の中に複数の世界線が存在しているということは、もしかすると今の5.42も本当は5.423などとさらに細かい部分まであるかもしれない。この世界線を示した数値は小数第二位までしかないが、本当は小数第三位や第四位もあるかもしれない。ただ、未来の改変で明らかにわかるのは小数第二位ってことなんだろう。2033年の俺は小数第二位までしか必要ないと考えたのか、それともそれ以上細かい数値を示す技術がなかったのかわからない。別の世界線からやってきた藤堂晃が言っていたが、たとえばあの世界線での俺と莉奈をタイムリープをして助けると別の世界線ができてしまうと言っていた。例えばあの別の世界線がナンバー8だとする。あの8の世界線で俺と莉奈が死んだ8の中の世界線が8.20だったとしよう。それをタイムリープで俺と莉奈を助けて生きている8の世界線は8.50になるのかもしれない。つまりそれだと8という大きな世界線は変わっていないということになる。しかし、2033年から届いたメールによれば、その大きな世界線のナンバーを5から別の数字に変えないといけないと書いていた。その理論が正しければ、未来をかなり改変させないといけないということになる。世界線の構造はまだよくわからないが、自分がこれからどれだけ大変なことをしようとしているのかだけはわかる気がした。しかし、俺は絶対にナンバー5の世界線を変えてやろうと思っている。これは俺の重要任務なのだと思うから。




