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未来からの伝言  作者: 涼
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未来改変の開始

■ 2018年11月26日(月)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。俺は莉奈の死のことで頭がいっぱいであまり眠れなかった。部屋を出て洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。もう食欲はないが、朝は何か食べたほうがいいと思ったので椅子に腰かけて朝食を食べた。そして部屋で着替えて家を出た。


外はすっかり快晴になっているが、厳しい寒さになっていた。俺はさっさと駅に歩いていった。すぐに西浦真美に相談したかったからだ。駅に到着していつもの時間の電車に乗った。莉奈を死なせないようにできるかわからないが、もし死ぬことになったとしても思い出だけは作っておこうと思う。電車の中でスマホを見ながら莉奈とどこの山に行こうか探していた。そして会社の最寄り駅に到着した。


10:00前に出勤して朝礼なので、フロアの前のほうに行って立った。社長と西浦真美が真ん中に立った。そして社長の長い話がはじまった。今は社長の話なんて聞いていられなかった。未来を大きく改変させるためにはあらゆることをしないといけない。例えば俺が自殺でもすれば、莉奈は死ななくて済むのだろうか。しかしそんなことをしても意味がない。社長の話が終わると西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。


俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。すると日根野部長から呼び出された。日根野部長の席の前に立って話をきくと新しいシステムを開発してほしいとのことだった。


「水嶋君、各サーバーを自動で監視するシステム開発はできないか?」

「できないことはないと思いますが、そんなシステムを開発する意味はないと思います」

「それは何か理由があるのか?」


おそらく2033年から送られてきたメールに書かれていた新しいシステム開発がはじまるというのはこのことだろう。


「各サーバーを監視するということは監視するサーバーが必要になります。では、その監視サーバーを監視するサーバーをどうするつもりですか?」

「二つの監視サーバーを用意して、それぞれを監視させればいいんじゃないか?」

「それはコストがかかりますし、二つの監視サーバー互いに監視させるというのは効率があまりよくないと思います」

「しかし、そのシステムを導入することによって、わざわざ毎日のサーバーチェックをしなくてもよくなるんじゃないかな?」

「今でもサーバーを監視するシステムは入っていますよね?サーバーダウンすればアラートが鳴るようになっています。あのシステムより高度な監視システムを開発してもリスクを伴うだけです。ここは面倒ですが目視で確認していくしかありません」

「水嶋君の言うリスクとは何だね?」

「目視で確認するべき項目はたくさんあります。それを全て監視システムに導入するということは、バグが出る可能性が高くなります。それにそんなシステムを信用して目視で確認することを怠ったら大障害になる可能性もあるということです」

「それをなんとかバグが出ないように細かくチェックするのが水嶋君の仕事だと思うんだがね」

「しかし、こればかりは賛成できません。コストがかかり、バグも出やすく、しかも信用できないシステム開発なんてするべきではないと思います。日根野部長は作業工数の削減を考えていると思いますが、そこまで自動化するとリスクを伴うだけです」

「うーん・・・では水嶋君はこんなシステムは開発するべきではないということだね?」

「はい。そこまでしてしまうのは賛成できません」

「水嶋君がそう言うなら仕方ないな。わかった」

「では、失礼します」


俺は自分の席へ戻った。本当はこの監視システムを自動化すればかなりの作業工数は削減できるだろう。そんなことはわかっているが、やはり2033年からのメールで書かれていたようにこのシステム開発はしてはいけないのだ。なんとかシステム開発をしないように説得できたが、これでどれだけ世界線は変わったのだろうか。俺はスマホの世界線ナンバーを確認した。すると青色で5.14と表示されていた。システム開発をしないという未来改変をしたが、たった0.02しか変わってない。この程度ではそのくらいしか変化していないということなのか。やはりもっと大きな改変をするべきなんだろう。しばらく業務を続けていて、11:00過ぎになったので西浦真美に『すぐに休憩室に来てほしい』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『わかったわ』とテレパシーが送られてきた。


休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。まずは聞いておきたいことがあったので、俺は西浦真美に話しかけた。


「ところで金曜日のデートはどうだったの?」

「どうだったって?」

「藤堂君とデートしたんだよね?やっぱり一度きりのデートにするの?」

「そうね。まあ楽しかったから、またデートしてもいいかなって思ってるわ」

「それはよかったね。西浦さんも結構、ときめいたりしたんじゃないの?」

「そこまではまだよ。でも藤堂君って意外とわたしのこと見て考えてくれてるのよ」

「なるほどね。それだったらちょっとは藤堂君のことを真剣に考えてあげればいいと思うよ」

「そうね。まあ、少しは藤堂君との関係を想像できるようになったわ」

「俺は西浦さんと藤堂君は相性いいと思ってるから、応援したいと思ってるよ」

「でもこの先どうなるかわからないわよ。それよりそんなことを聞くために休憩室に呼んだの?」

「あっいや、そうじゃないんだけど、ちょっと言いにくいことがあってね・・・」


俺はどう莉奈の死について西浦真美に説明しようか考えた。2033年から送られてきたメールには他言無用と書いてあるが、どこまで話していいのかわからない。ただ、莉奈の死についてと世界線を変えないといけないことだけは言っても問題なさそうだ。そして俺は西浦真美にこの世界線での莉奈の運命について話した。そしてそれを回避するには未来を大きく改変して世界線を分岐させないといけないということも説明した。


「そう。それは前に言っていた重要な人がそう言ったのね?」

「そうなんだよ。だから俺はこれから世界線を分岐させるための行動をしないといけないんだよ。このスマホ見て」

「この青く表示されてる数字は何なの?」

「これは未来線のナンバーらしい。問題は整数の5という部分ね。つまり俺達の世界線は5というナンバーなんだけど、世界線が分岐されるとこの5という整数値が変わるらしいんだよ。でも少し変化させたくらいではなかなか数値は変わらない」

「小数点が変化するくらいではダメということなのね。それにしても莉奈ちゃんはいつ死ぬ運命なの?」

「2月の下旬とだけ言っておくよ。それまでになんとか未来を改変させて世界線を分岐させないといけないんだよ」

「それは大変なことになったわね。未来を大きく改変させるということは、これから起こる大きな出来事を改変させないといけないってことよね?」

「そうなんだよね。念のためだけど、このことは莉奈には内緒にしておいてね」

「それは内緒にしておくけど、水嶋君はこれからどうしていくつもりなの?」

「とにかく大きな出来事をどんどん改変させていくしかないと思うんだよ。そのためには西浦さんにも協力してほしい」

「わたしで出来ることなら協力はするわ。それにしても過去の改変じゃなくて未来の改変というのが厄介よね。何が起こるかわからないのよね」

「自分がどう行動すれば世界線が分岐するのか、何を改変させればいいのかわからないんだよね」

「たとえばだけど、大きな事件や事故が起こった時、タイムリープをしてその出来事を回避させればどうかしら?」

「あーそれはいいかもしれないね!でもそんなに大きな事件や事故なんてそう起こるもんでもないと思うけどね」

「そうよね。とにかくわたしも何かいい方法を考えてみるわ」

「うん。よろしく頼むよ」

「じゃあ、わたしはそろそろ戻るわね」

「俺も戻るよ。またね」


西浦真美に莉奈の運命を説明して俺は自分の席に戻った。誰かに打ち明けると少しは心がスッキリしたが、これから何をすればいいのかわからない。そういえば、別の世界線からやってきた藤堂晃が大きく過去を変えると世界線は分岐するといっていた。しかし、これまでの過去を改変するわけにもいかないし、大きな出来事なんてなかった。やはりこれからの未来を大きく改変するしかないのか。


この日は何事も起こらず一日が終わった。それから数日間は何も起こらなかったのだが、最初に大きな出来事が起こったことがわかったのが木曜日の朝だった。


■ 2018年11月29日(木)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。俺はずっと未来をどう改変していくか考えていたが、何もいい方法が思いつかなかった。スマホで世界線のナンバーを見ても5.14のままだった。自分の部屋を出て洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。朝食をとりながらリビングのテレビをつけてみた。すると俺の家から三十分ほど車で行ったところで踏切事故があったとニュースで流れた。昨日の11月28日の水曜日、18:30頃に踏切で白い乗用車と電車が衝突したようだ。死傷者は4名、負傷者は8名ということだった。俺はすぐに衝突した時間と乗用車の車種をメモした。もし、俺がタイムリープをして、この事故を防いだとしたら世界線は変わるかもしれない。


俺はさっさと会社に出勤して、すぐに西浦真美を休憩室に呼びだした。そして今朝、ニュースでみた事故について説明した。


「つまり水嶋君は昨日にタイムリープをして、その事故を未然に防ぐというわけね?」

「うん。そうすれば4名の命は助かるし8名の負傷者もでなくなる。これは大きな出来事じゃないかな?」

「そうだと思うけど、でもどうするつもりなの?」

「2018年11月28日にタイムリープして、会社を早退した後、車でその現場に行くよ。そこで西浦さんにもついて来てほしい」

「わたしもタイムリープしないといけないってこと?」

「いや、俺だけがタイムリープして、11月28日の西浦さんに説明するよ。そして一緒について来てもらう」

「その現場はこの会社からどのくらいかかるの?」

「おそらく1時間くらいだと思うけど、余裕をみて事故発生の1時間前には現場に到着しておこうと思う」

「昨日は別に急ぎの業務はなかったから大丈夫だと思うわ」

「じゃあ、西浦さんには申し訳ないけど、早退してもらう」

「わかったわ。でもどうやって事故を防ぐつもり?まさかその乗用車を途中で止まらせたりするの?」

「まずその乗用車は遮断機が下りても踏切内にいたということになるから、踏切に入る前に止めるようにするよ。俺が踏切の前でその乗用車の運転手に話しかけるとかね」

「なるほどね。でも水嶋君が電車にはねられたりしないように注意してね」

「なんとかやってみるよ」

「じゃあ、昨日のわたしによろしくね」

「うん」


西浦真美とそう話して俺は自分の席に戻った。なんとかやってみるとは言っても事故現場の交通状況がわからない。踏切の真ん中で止まってしまったということは渋滞していたんだと予想できる。もし乗用車と衝突することになっても車の中にいる人を外に避難するように誘導すれば命は助けることができる。どちらにしても事故現場に行って様子を見るしかない。今晩、寝る前に2018年11月28日のことをイメージしながら寝よう。


この日は何事も起こらず一日が終わった。そして自宅に帰って夕食をさっさと終えてシャワーを浴びた後、俺は自分の部屋に入った。最近はいろんなことを考えすぎて疲れている。俺はベッドに横たわって2018年11月28日の朝のことを強くイメージしながら目を閉じた。もう少し黒岩優からイメージ力を特訓してもらう必要がありそうだ。そして俺は知らないうちに眠っていた。


■ 2018年11月28日(水)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。俺はすぐにスマホを見て日付を確認した。すると2018年11月28日となっているので、どうやらタイムリープに成功したのだ。俺は早速どういう予定で事故が発生する現場に行くか考えた。まず会社には車で出勤することにしたほうがよさそうだ。事故が起きた踏切は駅から遠く、路線が違うので会社から電車で行くのは大変なのだ。


俺は朝食もさっさと終えて部屋で着替えをしたら早めに家を出た。車に乗って会社に向かう。朝のラッシュ時間なので遅刻する可能性がある。高速道路を使ってもいいが、一般道で行くのと高速道路を使うのはあまり時間的に変わらない。そして9:50頃に会社近くのコインパーキングに車を駐車した。駐車料金は一日千円と少し勿体ない気もするがこの際仕方がない。


10:00前に出勤して自分の席に座ってパソコンに座った。そして日根野部長に今日は通院したいので16:30に早退したいと言った。早退届を提出した。続いて西浦真美に説明しないといけない。俺は西浦真美に『すぐに休憩室に来てほしい』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『わかったわ』とテレパシーが送られてきた。


休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。西浦真美が椅子に座ると俺は事情を説明した。


「俺は明後日の金曜日からタイムリープしてきたんだよ」

「そう。でも何のためにタイムリープしてきたの?」

「実は今日の18:30頃にある場所で踏切事故が起こるんだけど、それを未然に防ぐためにやってきたんだよ」

「そうなんだ。それで踏切事故が起こる場所はわかってるの?」

「それはわかってるんだけど、そこで西浦さんにお願いがあるんだよ。今日は16:30に早退して俺と一緒に事故が起こる現場に来てほしい」

「わたしもその現場にいくの?どうしようかしら・・・」

「西浦さん、今日は急ぎの業務はないよね?明日の西浦さんがそう言ってたよ」

「たしかに急ぎの業務はないわね。社長も特別な予定はないから別に構わないわよ」

「じゃあ、早退届を出して16:30に俺と一緒にきてほしい。今日は俺車で通勤してきたから、そのまま踏切事故が起こる現場に行こう」

「これって、未来の出来事を改変させるためよね?」

「そうだよ。この事故を防ぐことによって世界線が分岐してくれればいいんだけどね」

「まあ莉奈ちゃんを死なせたくないのはわたしも同じだから協力するわ」

「じゃあ、16:30に会社のビルの前で合流しよう。一緒に帰ると怪しまれるからね」

「わかったわ」


俺はなんとか西浦真美に理解してもらうことができた。とにかく今日は何か落ち着かない。俺が踏切事故を未然に防ぐことによってどれだけ世界線が変わるのか気になっていた。それは今夜寝て、金曜日の朝にスマホで数値を確認するしかない。この日はずっと落ち着かなかった。昼食もほとんど喉に通らなかった。午後の業務も手付かずといった感じだった。もし、踏切事故で死傷した4名はこの世界線で死ぬ運命であるとすれば、俺がこれからやることは無意味になるのかもしれない。そんなことを考えてると16:30になった。俺は「今日はこれで失礼します。お疲れ様でした」と言って早退した。


会社のビルの前で西浦真美と合流して駐車したコインパーキングへ行った。西浦真美は「水嶋君の車って結構泥とかついてるのね」と言ったので、俺は「登山に行くから仕方ないんだよ」と言った。助手席に西浦真美が乗って、俺は踏切事故が起こる現場へと車を走らせた。西浦真美は半信半疑で「本当に踏切事故なんて起こるの?」と聞いてきたが、俺は「俺は明日の木曜日、朝のニュースで見たんだよ」と言った。そして会社から一時間ほどして踏切事故が発生する現場に到着した。


まだ事故発生まで一時間くらいある。俺は踏切を渡ったところの少し広くなった路肩に停車して様子を見た。そして俺は「事故を起こす乗用車がきたら、西浦さんはすぐに車から降りてあそこにある非常停止ボタンを押す準備をしておいて」と言った。西浦真美は「わかったわ」と言った。事故を起こす車は白のセダンで車種もわかっている。その車が踏切に入る前に俺が運転手に声をかけて踏切に入らせないようにする。しかし、俺はここで重要なことを忘れていた。事故を起こす車はどっちからやってくるかわからない。ニュースで流れていた映像では踏切の真ん中で電車と接触していてどちらの方向から踏切に入ったのかわからない。よく新聞を読んでおくべきだったと後悔した。しかし、ここまできたらもうどちらでもいいので、事故を未然に防ぐしかない。18:00を過ぎるともうすっかり日が暮れて暗くなっていた。問題はここからだ。ニュースでは18:30頃としか言ってなかったので正確な時間はわからない。18:25になっても事故を起こす車はまだ現れない。俺と西浦真美は車の外に出て待つことにした。しばらくすると白いセダンの車が踏切の向こう側から右折して踏切を渡ろうとしていた。俺はすぐに「西浦さん、あの車だ!」と言った。西浦真美はすぐに非常停止ボタンのところへ走って行き、すぐに押す準備をした。白いセダンの車は右折して踏切を渡ろうとした。このままだと間に合わない。俺は走って踏切を渡ろうとしたが、白いセダンの車は踏切の中に入ってしまった。ところが、踏切の先で車が詰まっていて白いセダンの車は踏切の真ん中で止まっている。俺はすぐに「西浦さん、非常停止ボタンを押して!」と大きな声で言った。まだ踏切の警報機は鳴ってないが、踏切の先は渋滞で詰まっているので動きそうにない。西浦真美が非常停止ボタンを押した瞬間、踏切の警報器が鳴った。俺は白いセダンの車のドアを叩いた。そして車の運転手が窓を開けたので、俺は「すぐに車から出て逃げてください!」と言った。すると白いセダンの車から30代後半くらいの運転手の男性と助手席からは30代中頃の女性、後部座席から10歳くらいの男女の子供が出てきた。すぐに踏切の外に逃げるように誘導した。すると電車がやってきて急ブレーキをかけた。そして電車は車から10メートルほど手前で停止した。白いセダンに乗っていたのはどうやら親子のようで「本当にありがとうございました」と言っていた。その後、警察がやってきていろいろと事情聴取されたが、俺と西浦真美はただ助けただけなのですぐに帰ることができた。


踏切事故を未然に防ぐことができたが、これによって一体どのくらい世界線が変わったのかわからなかった。俺は近くの駅まで西浦真美を送って自宅へ戻った。問題は今日眠って金曜日の朝に世界線の数値がどうなっているかなのだ。俺はそのまま自宅に戻って夕食をさっさと終えてシャワーを浴びた後、自分の部屋に入った。今日は気を使いすぎたせいかかなり疲れていた。ベッドに横たわって何も考えずにそのまま眠った。


■ 2018年11月30日(金)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。俺は2018年11月28日からタイムリープして戻ってきたのだ。すぐに起き上がってスマホを見て世界線の数値を確認した。すると5.27となっていた。俺は四人の家族の命を救ったが、世界線の数値は0.13しか変わっていない。もしかすると俺や莉奈に関わることを変化させないと世界線は分岐しないのかもしれない。しかし、こういうことを積み重ねていくことによっていつか世界線は分岐するのだろうか。それでも0.13の変化があったということは徐々に世界線が分岐していってるのかもしれない。


自分の部屋を出て洗面所で顔を洗ってキッチンへ行き朝食を食べながら昨日の新聞を読んでみた。いろいろ新聞を見てみたが踏切事故のことはどこにも書いてなかった。やはり踏切事故は未然に防ぐことができたのだ。この世界線であの白いセダンの車に乗っていた家族の運命は死ぬことにはなっていなかったのだと信じたい。それにしても4名の命を救ったのに世界線の数値は1.3しか変化していなかったのは少し残念な気分になった。一体、何をすれば完全に世界線は分岐するんだろうか。


この日もいつものように会社に出勤して何も起こらない一日で終わった。ただ、西浦真美には2018年の11月28日に踏切事故を未然に防いだという記憶は残っていた。この先、俺は本当に世界線を完全に分岐することができるのだろうか。まだ時間はあるのだが、だんだん心配になってきた。


■ 2018年12月1日(土)


朝10:00まで眠っていた。起き上がって俺はぼーっとしていた。今日は昼から莉奈と黒岩優の三人で相山へナイトハイキングに行く予定だ。相山は車で行くと交通費がかかるので電車で行こうと思っている。黒岩優は夜に新幹線で帰ると言っているのだが、俺と莉奈はどこかの駅前のビジネスホテルで一泊して次の日は観光して帰る予定だ。この状況で莉奈に会うのは正直辛いのだが、もし本当に莉奈が死ぬことになれば、思い出にしておきたいというのもある。しかし、俺は絶対に世界線を分岐させてやろうと思っている。


莉奈とは俺の自宅の最寄り駅のホームに13:30に待ち合わせになっている。そして黒岩優とは相山駅前で待ち合わせとなっている。13:00になったので俺は駅まで歩いて行った。今日は空気が澄んでいて天気もいい。今日は田舎夜景を望むわけだが、完全バリエーションルートで岩場のある上級者向けのナイトハイキングコースだ。13:25に駅のホームに到着したが、莉奈はまだ来ていなかった。おそらく次に到着する電車に乗っているのだろう。ここから快速電車に乗って途中で乗り換えて相山の駅に到着する。13:28着の電車が到着すると莉奈が電車から降りてきた。莉奈と合流して次の快速電車に乗る。俺は莉奈の顔を見ると涙が出そうになったが絶対にこらえないといけない。そして快速電車が到着したので莉奈と二人で乗った。電車の中で二人で隣り合わせに座りながら世間話をしていた。こんなに明るくて元気な莉奈が何かしらで死んでしまうことになるなんて信じられない。しかし、俺はもう2033年からのメールを完全に信じている。このまま何もしなければその通りになってしまうだろう。一時間半ほど電車に乗って終点の駅に到着した。そして電車を乗り換えてさらに一時間ほどかかる。車窓からはすっかり田舎という雰囲気でこの先に夜景が見れるところなんてあるのかと思わされるくらいだ。今日の莉奈はよく話していて、保育園での出来事や友達の話などしている。俺は莉奈の話をずっと聞きながら相槌をうっている。そして相山駅に到着した。


相山駅の改札を出るとサングラスにベージュのキャップをかぶって青いソフトシェルジャケットを着て黒いトレッキングパンツをはいた黒岩優が待っていた。俺は「黒岩さん、お久しぶり」と声をかけた。黒岩優は振り向いて「水嶋さん、こんにちわ。今日はよろしくお願いします」と言った。黒岩優は初のナイトハイキングとなるようだが、今日行くルートは完全上級者向けなので少し心配であった。


黒岩優と合流すると駅前の大通りから西の山側の細い道を歩いて行った。そして小さな神社があり、そこを右に曲がって鳥居の向こう側を左に曲がって入山する。もちろん道標などないので知っている人のみが登れる山なのだ。そこから少し急登の登山道を登っていくと今度は岩場の登りになった。黒岩優が「これ下れるんですか?」と聞いてきたので俺は「意外と下れるんだよ」と言った。普通にみるとすごい斜面の岩場を登っているのだが、実際に下ってみると意外と足場があって滑ったりしない。ただ暗くなってからの岩場の下りなので足元をしっかり見ておかないと転んでしまうと大ケガしてしまう。岩場の登りが終わると今度は樹林帯の中を登っていく。あちこちに分岐があるのでルートがわかってないと迷ってしまう可能性がある。登りはただ上のほうへ向かうといいのだが、下りで分岐を間違えると変なところに下ってしまう可能性があるのだ。そして最後の急登を登って相山山頂に到着した。コースタイムは駅前から一時間ほどの山だったが、ナイトハイキングになると難易度はあがるのだ。


展望地は山頂から南東に下った岩の上なので、俺達三人は展望地へ向かった。まだ日没ではないが付近の山々や漁港などが望めて景色はいい。俺はバーナーを出してお湯を沸かした。ちょうど三人分の紙コップとインスタントコーヒーがあったので三つの紙コップにお湯を注いだ。そして莉奈と黒岩優にコーヒーの入った紙コップを手渡して三人でコーヒーを飲みながら景色を眺めていた。景色を望みながら莉奈と黒岩優が二人でいろんな話をしていた。俺は三脚を立てて一眼レフカメラをセットして撮影の準備をしていた。


すっかり日が暮れて夜景となった。俺は撮影をしながら「二人とも、これが田舎夜景だよ。漁港のほうは特徴的でいい感じだよ」と言った。すると莉奈は「なんか珍しいね夜景だね」と言い、黒岩優は「独特の地形がいい感じだね」と言った。ここの夜景は光量が少ないが、独特の特徴があっていい感じなのだ。ただ、撮影しても写真ではそれが伝わらないのが残念なところだ。俺は撮影を終えるとカメラと三脚を片付けた。しばらく三人で静かに夜景を眺めていた。駅前のほうが光量があるのだが、特徴的な漁港のほうをずっと見ていたが、こうやって誰もみたことのない夜景で珍しい。その良さが莉奈や黒岩優に伝わればいいと思った。そして黒岩優の電車の時間があるのでそろそろ下ることにした。


黒岩優にとって真っ暗な登山道をヘッドライトの明かりだけで下るのははじめてのことだ。俺は黒岩優のほうをチラチラみながら怖がっていないかとか歩き方は間違っていないか注意して見ていた。ところが黒岩優はなんだか楽しそうだった。そして岩場の下りになったときに俺は「黒岩さん、大丈夫?」と聞いてみた。すると黒岩優は「大丈夫ですよ!ナイトハイキングって楽しいですね」と言った。冒険心を掻き立てられているのだろうか、黒岩優は楽しそうに岩場を下っていた。そして無事に道路まで下ってきた。ここでヘッドライトを片付けて夜道を駅のほうへ向かって歩いていった。相山駅に到着すると黒岩優が「今日は貴重な体験をさせていただいてありがとうございました。楽しかったです」と言った。俺と莉奈は「黒岩さん、またね」と言うと黒岩優は「ではわたしは帰りますね。またよろしくお願いします」といって駅の改札に入って行った。


それから俺と莉奈は駅前のビジネスホテルへ行った。こんなところにあるビジネスホテルだから予約なしで泊まれるかと思っていたが、ロビーの受付スタッフから「現在はダブルのお部屋しか空いていません」と言われた。ダブルということは莉奈と一緒に寝ることになる。俺はどうしようか考えていたが、莉奈は「わたしはダブルでもいいよ」と言った。俺は「ダブルって一緒に寝るってことだよ?」と言うと莉奈は「別にいいよ」と言った。仕方がないのでダブルの部屋で宿泊することにした。


ホテルの部屋に入ると大きなダブルベッドが一つだけあった。まさか莉奈と一緒に寝ることになるとは思いもよらなかった。莉奈は俺と一緒に寝ることに何の抵抗もないのかと思ったが、部屋に入るとまるで子供のようにはしゃいでいた。そして莉奈は「先にシャワー浴びてくるね」といってバスルームへ入った。三十分ほどするとナイトウェアを着た莉奈がバスルームから出てきた。続いて俺がシャワーを浴びるためにバスルームに入った。シャワーを浴びながら俺はいろんなことを考えた。もし莉奈が死ぬことになるんだったら、せめてそれまでに一度は莉奈を抱いておきたい。登山の思い出だけでなく、婚約者としての思い出もほしいと思った。そんなことを考えているとまた悲しくなってきた。まだ時間はたっぷりある。それまでに未来を改変して世界線を分岐させることはできるかもしれない。そんなことはわかっているが、失敗してしまった時のことばかり考えてしまう。こんな時、人間は悲観的なことばかり考えてしまうのだろうか。シャワーを浴びてドライヤーで髪の毛を乾かしてバスルームを出ると莉奈はテレビを見ていた。俺は莉奈の顔をみているとまた悲しくなってきた。しかし涙を流してはいけない。ここはこらえるんだと自分に言い聞かせた。俺はベッドに座って下を向いていてなんとかポジティブな考えになろうとしていた。そんな俺の姿を見た莉奈は「祐樹君、なんか悲しそうな顔してる」と言った。俺はまずいと思って「そんなことはないよ」と言った。しかし俺の表情は隠しきれなかったようで莉奈は「嘘、悲しそうな顔してるよ」と言った。俺は誤魔化すように「莉奈と離れたくないなって思ってるだけだよ」と言った。すると莉奈は「わたしはずっと祐樹君と一緒にいるよ」と言った。その言葉を聞いた俺はさらに悲しくなってきた。莉奈は「祐樹君、大丈夫だよ。もう寝ようか」と言った。俺は「そうだね」と言ってベッドに横たわった。すると莉奈もベッドに横たわってしばらく沈黙が続いた。そして莉奈は俺に抱きついてきた。莉奈は「一緒に寝るのはじめてだね」と言った。俺は「そうだね」と言うと莉奈は「まだ悲しそうな感じだよ。本当に大丈夫だよ」と言った。俺は悲しさから莉奈を強く抱きしめた。莉奈は「祐樹君どうしたの?」と言った。俺は黙って莉奈を抱きしめ続けていた。莉奈は「好きにしていいよ」と言った。俺はその莉奈の言葉に少し動揺した。好きにしていいとはどういう意味なんだろうと考えた。それは抱いてもいいということなんだろうか。三ヶ月後に莉奈が本当に死ぬのであれば、俺は一度は莉奈を抱いておきたいと思っている。今日がその日になるのか。そう考えながら、俺はこの夜に莉奈を抱いた。


■ 2018年12月2日(日)


朝8:00に起きて俺と莉奈は着替えた。俺はついに昨日の夜、莉奈を抱いてしまった。別に悪いことをしたのではないが、本当に思い出になるのかわからなかった。着替えて忘れ物がないかチェックをした後、ホテルのチェックアウトをして近くにあるカフェで朝食をとることにした。このカフェのモーニングセットはトーストとゆで卵とコーヒーだった。二人でモーニングセットを食べた後、近くの観光地に行くことにした。観光地といっても小さな展望台や漁港の近くにある公園なのだ。莉奈と手を繋いでブラブラと歩いていると漁港についた。その漁港には海鮮市場があったのでお土産に何か買っていこうという話になった。海鮮市場でいろいろ海鮮類を見ながら何を買おうか迷っていた。どれも美味しそうだが、海鮮類を電車の中に持って入ると匂いがするんじゃないかと思った。俺は「莉奈、これは電車の中に持って入れないね」と言うと莉奈は「それもそうだね」と言った。結局、海鮮市場ではお土産を買わずに出た。その後、漁港で海を眺めながら俺は心に決めた。絶対に莉奈を死なせない。世界線を分岐させて莉奈と一緒に未来へ進むのだ。そのためには今俺が悲しんでいるわけにはいかない。俺にはやることがまだまだあるはずなのだ。そう思いながら莉奈の手をギュッと握った。俺は「莉奈、一緒に未来を歩こう」と言った。莉奈は「うん」と言った。その後、道の駅でお土産を買って駅に戻った。そして電車に乗って家に帰った。


■ 2018年12月3日(月)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外を見ると曇り空だった。部屋を出て洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。朝食を食べながらテレビでニュースをチェックする。未来の改変をするためには大きな出来事があればタイムリープして過去を改変することだと考えているからだ。しかし今日のニュースは特にこれといった事件もなかった。朝食を終えると部屋に戻って着替えて家を出た。


外を歩いてるとすっかり冬の到来を感じさせられる。駅に到着していつもの時間の電車に乗った。電車の中では週末に行く山を探すためにスマホで山記事を見ていた。毎週のように行く山のことも考えたほうがいいのかもしれない。俺が行こう決めた山についても世界線の分岐に影響があるかもしれない。こうなってくると何が正しいのかわからなくなってくる。未来を改変をするということは自分が正しいと思ったことに逆らい続けることに繋がるのかもしれない。そんなことを考えていると会社の最寄り駅に到着した。


10:00前に出勤して朝礼のためフロアの前のほうに立って社長が出てくるのを待っていた。そしてフロアの真ん中に社長と西浦真美がやってきた。また社長の長い話がはじまった。こんな調子でいつものような日常を過ごしていても世界線は分岐しない。何かを変化させないといけないのだ。長い社長の話が終わると西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。


俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。周囲を見渡すといつものように社員達には何の変化もなくいつも通りだ。このままだと何も変化しないが、だからといって何かアクションを起こすわけにもいかない。しばらく黙々と業務を続けていると西浦真美から『ちょっと休憩室にきて』とテレパシーが送られてきた。俺は『今すぐいくよ』と西浦真美にテレパシーを送った。


休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。そして西浦真美が話しかけてきた。


「水嶋君は世界線を分岐させるために未来を大きく改変させていくって言ってたわよね?」

「うん。未来を改変させるには、この前のように過去に起こった事件や事故を改変させることでもあると思ってる」

「この前の踏切事故を未然に防いだことで数値はどのくらい変わったの?」

「それが0.13くらいしか変わってなかったんだよ。これが今の数値で5.27になってる」

「その数値って世界線の状態を表してるわけよね?たとえば、それが0.5変わったとしても、それは大きく変化したといえるのかしら?」

「どういうこと?つまり、数値の変化の大きさと世界線の改変の大きさとは別ってこと?」

「そう思うのよ。それが5.99になったとしましょう。でも5.99の世界線ということで、そこから5.11に変化するかもしれない。6.00に近づけばいいという問題じゃないと思うのよね」

「あっそういうことか!この数値は世界線の状態を示された数値だから、何かの出来事を改変して数値が変化したとしても、その数値は世界線の変化の大きさではないということになるんだ」

「少しわかりにくいけどそんな感じがするのよ。それに6.00の世界線って存在するんじゃないかしら。だから目指すところはそこではないってことね。水嶋君は数値が増えていくといいって思ってたようだけど、そういう問題じゃないってことね」

「西浦さん、よくそのことに気づいたね。さすがだよ。俺は6.00にすることばかり考えてたけど、目指すところは5の整数から他の整数に変化させることだね」

「この世の中にどれだけの世界線があるかわからないけど、5つしかないとは思えないのよ。だから6や7の世界線も存在してるはずって思ったのよ」

「そうすると、やはり未来の改変をし続けていくことによって完全に世界線が分岐するってことになるのか」

「そうね。コツコツとあらゆることを改変し続けるしかないわね。それでね、考えたのが水嶋君の生活スタイルを変えてみればどうかしら?」

「俺の生活スタイル?たとえば朝起きる時間を変えるとか?」

「そう。寝る時間や起きる時間を変えてみたりするの。そうすることによって日常にも変化がでてくるんじゃないかしら。あとは莉奈ちゃんとの付き合い方も変えてみるのも一つね」

「莉奈との付き合い方をどう変えるの?」

「たとえば、毎晩電話してるなら、それを週に三回に変更するとか、会った時には必ずキスするとかそういう感じね」

「会った時に必ずキスするなんて、ちょっとそれは無理だけど、俺は莉奈と毎晩のように電話してないから、それを毎晩電話するようにしてみようか」

「大きな変化をさせるのも大事だけど、小さなことを変化させていくことによってだんだん変わってくるんじゃないかしら」

「なるほどね。日常を変化させるのも一つの手だね。ちょっといろいろ変化させてみるよ」

「それともう一つ気がかりなのは、わたしは本当に無関係なのかってことよ。もしかするとわたしも何か変化しないといけないのかもしれない」

「西浦さんが変化するってどういうこと?」

「それはわたしだけじゃないの。莉奈ちゃんに関わっている人が変化しないといけない気がするの」

「あっそうか!俺はそこを見落としていたよ。莉奈に関わる人間の変化も必要になるね。今回のことは莉奈に関係することを変化させないといけないんだ」

「でも、この前の踏切事故を未然に防いだことで数値が変化したってことは、大きな事件や事故を未然に防げば、確実に世界線は変化するってことだから、それと同時に日常の変化も必要ってことね」

「西浦さん、ありがとう。これでいろいろと課題が見えてきたよ」

「わたしだって莉奈ちゃんを死なせたくないから、出来る限り協力するつもりよ」

「そう言ってくれると心強いよ」

「だって、わたしは水嶋君の良きパートナーなんでしょ?」

「そうだね。ありがとう」

「じゃあわたしはそろそろ戻るわね」

「うん。俺も戻るよ」


そう話して俺と西浦真美は休憩室を出た。


俺は大きな勘違いをしていた。2033年から届いたメールの意味がやっとわかってきた。問題は世界線の状態を示す数値の変化の大きさではないんだ。重要なポイントで未来を改変させることなのだ。新しいシステム開発をしなかったことで0.02しか変わってないのではなく、世界線の分岐に必要な事だったんだ。これでやっていくことは決まった。重要なポイントでの未来改変、そして日常生活の変化、事件や事故を未然に防ぐ、これらを根気よく続けていくことで確実に世界線は分岐する。俺は未来の改変について焦りすぎていたのかもしれない。とにかく課題は決まった。これからそれを続けていこう。そして来年の四月には莉奈との新しい生活をはじめるんだ。


俺は自分の進むべき道を見つけ出した。この日は何事も起こらず一日は終わったが、今この時から俺の日常を変化させていこうと思う。

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