新しい恋と重要任務
■ 2018年11月17日(土)
今日は朝10:00まで眠っていた。久しぶりに部屋でまったりできるのだが夕方から俺の両親と莉奈の両親が顔合わせする日なのだ。両親顔合わせといっても別にお見合いするわけでもなく結納でもないのでそれほど深く考えていなかった。しかし俺の両親はかなり張り切っているようだ。下の階ではなにやら騒がしいようだが、妹の佳織が子供でも連れてきているのだろう。
リビングへ行ってみるとやはり妹の子供が騒いでいた。父親が妹の子供と鬼ごっこをして遊んでいるようだ。妹の佳織はキッチンのテーブルで母親と何か話をしている。母親が「祐樹、一体何時まで寝てたのよ。今日は莉奈ちゃんのご両親にご挨拶する日でしょ。もっとシャキッとしなさい!」と言った。俺は「別にもう莉奈の両親には挨拶してるし、母さん達が張り切る問題じゃないよ」と言った。すると母親は「こういうことはちゃんとしないといけないの!しっかり莉奈ちゃんのご両親に失礼のないようにしないようにあんたも注意しなさい」と言った。何をちゃんとするのかよくわからないが、どうやら母親は結婚話でもしようとしているんだろうか。今度は妹の佳織が「ついに兄ちゃんも結婚するのかあ。ちゃんとした結婚式してあげないとね」と言ったので俺は「結婚式とかまだ早いし、それにそういうの俺はやりたくない」と言った。すると妹の佳織が「兄ちゃんはそれでいいかもしれないけど、女の子にとってウエディングドレスを着るのは夢なんだよ。女の子の気持ちわかってあげたほういいよ」と言った。莉奈がウエディングドレスを着たいのかどうかはわからないが、結婚式をするのであれば二人で山の上でしたいもんだ。
妹の佳織とその子供である紗季は昼食をとって帰っていった。一体何をしにきたんだろうか。俺も昼食をとってさっさと自分の部屋に戻った。夕方まではまだ時間があるが、部屋でまったりするといっても暇なだけだった。そろそろ2033年からメールが送られてきてるんじゃないかとメールをチェックしてみたが、DMやニュースメールばかりだった。あまりにも暇だったので来週の連休に行く山を探していた。せっかくの連休なので一泊二日でどこか行きたいところなんだが、これといっていい山が見つからない。アルプスはすっかり雪山になっているが、まだ莉奈の登山技術では連れていけない。そこで目にしたのが大賢者岳から行者岳だった。ここを縦走すれば綺麗な避難小屋もあるし、距離もあって一泊二日でいいと思う。大賢者岳と行者岳にしようと決めてルートを確認した。行者岳には避難小屋があって、そこに宿泊して次の日には少し戻って洞窟のほうへ下って大賢者岳の登山口へ戻るのがいいだろう。避難小屋は標高1500メートルくらいあるので、夜になると氷点下だろう。冬用のシュラフを持っていったほうが良さそうだ。そして登山計画を立てているともう16:30を過ぎていた。
今日も前に莉奈の家に行った時と同じ黒いズボンに白のシャツで黒のジャケットを着て少しビシッとした格好で行くことにした。俺の両親はまるでお見合いに行くかのように父親は黒いブレザーにネクタイをつけて、母親は薄いピンクのテーラードジャケットを着こんでいた。俺は別にそんな恰好しなくてもいいように思ったが、莉奈の両親がどんな格好をしてくるのかもわからないので念には念を入れておくのもいいかと思った。リビングで父親がテレビのチャンネルをいろいろ変えている。どうにも落ち着かない様子だ。母親はなんども鏡をみて服装やメイクなどをチェックしているようだ。俺だけが落ち着いている状況なのも不思議だが、俺は一度莉奈の両親に会っているからそこまで緊張はしていなかった。
17:30前に母親が「そろそろ行くわよ」と言った。今日、莉奈の両親と待ち合わせしているのは駅前のビルの前だ。駅前ビルの最上階にある中華レストランの予約は済ませている。俺が気になるのは俺の両親が莉奈の両親に何か変なことを言わないかが心配だった。家を出て両親と俺の三人で駅まで歩いていった。駅前にあるビルの前に到着すると莉奈と莉奈の両親はまだ来ていなかった。待ち合わせ時間は18:00だが、それまで15分ほど時間はある。しばらく俺と両親がビルの前で待っていると莉奈と莉奈の両親が駅の階段を下りてきた。莉奈は黒のカーディガンに黒くて赤い柄の入ったワンピースを着てきた。莉奈の父親は濃い茶色のブレザーにグレーのベスト、中には白いシャツを着てベージュのズボンをはいていた。莉奈の母親は茶色のコートの中に白いネックのセーターを着て黒いパンツをはいてきた。莉奈と合流するとビルの前でお互いの両親が挨拶をした。俺の母親は「水嶋祐樹の母です。今日はこんなところまでご足労いただきありがとうございます。よろしくお願いします」と言って頭を下げると、莉奈の母親が「笹原莉奈の母です。こちらこそ本日はよろしくお願いします」と言って頭を下げた。そして俺の父親が「祐樹の父です。笹原さんですね。本日はよろしくお願いします」と言うと莉奈の父親が「莉奈の父です。こちらこそよろしくお願いします」と言った。
そして俺と莉奈とお互いの両親は駅前のビルに入ってエレベーターに乗った。エレベーターの中では沈黙が続いて俺も何を話していいのかわからない微妙な雰囲気だった。最上階に着いてエレベーターを降りると前の前に中華レストランの入口がある。俺が先頭で中華レストランに入って女性の店員さんに「予約していた水嶋です」と言った。するとその女性の店員さんは予約標を見て「水嶋さんですね。6名様ということでお間違いないでしょうか?」と言ったので俺は「はい」と答えた。そして窓側の8人掛けのテーブルに案内された。手前側の席の窓側から俺と父親、そしてその隣に母親が座ると向かい側の席に窓側から莉奈、莉奈の父親、その隣に莉奈の母親が座った。そしてコースメニューの料理が運ばれてくると全員で「いただきます」といって食べはじめた。今日の俺と莉奈は無口というより何を話していいのかわからない。俺は莉奈に『なんだこの雰囲気は?』とテレパシーを送ると莉奈から『みんな緊張してるんだよ』とテレパシーが送られてきた。
食事をしていると最初に話しはじめたのは俺の母親だった。莉奈の母親のほうをみて「うちの息子は登山バカで、山ばっかり言ってるんですよ。莉奈ちゃんみたいな可愛らしい子には勿体ないですわ」と言った。すると莉奈の母親は「いえいえ、祐樹君はしっかりして優しい人だと思いますよ。それに比べてうちの莉奈はまだまだ幼くて、本当にこんな子でいいのでしょうかねえ」と言った。するとうちの母親が「でも莉奈ちゃんは元気で明るい可愛らしいですよ。こちらこそうちの息子なんかで本当にいいのか心配ですわ」と言った。それを聞いた莉奈の母親は「祐樹君は大人だって思いますよ。うちの莉奈はまだまだ子供なので、こちらこそ心配ですわ」と言った。お互いの子供のことをそんな言い方しなくてもいいと思う。謙遜大会でもはじまったのかと思った。それからしばらく俺の母親と莉奈の母親がぺちゃくちゃと世間話をしていた。俺の父親はときどき「本当にうちの息子なんかでいいんですかねえ?」と口を挟んでいたが、会話は俺と莉奈の母親同士が中心になっていた。俺は気になって莉奈の父親のほうを見たが、前と同じように無口だった。そして話の流れが同棲生活の話になってきた。莉奈の母親が「祐樹君と結婚前提でお付き合いさせてもらっているということなので、まずは同棲生活をしてみればいいと思っていますが、祐樹君のお母様はどう思います?」と言った。俺は両親に莉奈との同棲生活についての話はしていなかった。それを聞いた俺の母親は「祐樹と莉奈ちゃんが同棲生活ですか?わたしは別に構いませんが、この二人でやっていけると思われますか?」と言った。すると莉奈の母親は俺と莉奈のほうを見て「莉奈と祐樹君、二人でやっていけるわよね?」と聞いてきた。俺は「その方向でいろいろ考えています。やっていけると思います」と答えた。莉奈は「わたしはやっていけると思ってる」と答えた。すると俺の父親が俺のほうを見て「まあ、二人で生活してみるのもいいかもな」と言った。莉奈の母親は「わたし達夫婦も最初は同棲生活からはじめて結婚したんですよ。ねっお父さん」と言って莉奈の父親のほうを見た。莉奈の父親は「そうなんですよ」と小さな声で言った。俺の母親が俺のほうを見て「祐樹、莉奈ちゃんと同棲するならもっとしっかりしなさいね。ちゃんと考えるのよ」と言ったので俺は母親を見て「わかってるよ」と言った。その後、同棲の話が続いて話し合った結果、俺と莉奈は婚約者となり来年の4月から同棲生活する予定になった。
今回は俺の母親と莉奈の母親が意気投合したかのように会話をし続けていたがコースメニューを全て食べ終えるとお互いの両親が「今後ともよろしくお願いしますね」と挨拶を交わして両親顔合わせは終わった。もともと俺はこういうことをするのは苦手というかあまり好まないのだが、莉奈との将来のこともあるので、避けて通れないことでもある。俺の両親と莉奈の両親は駅前ビルの前で最後に頭を下げた。そして莉奈と莉奈の両親は駅の階段をあがっていって帰っていった。
やはり2033年から届いたメールに書いてあった通り、両親顔合わせをすると婚約成立して同棲生活がはじまる予定というのは当たっている。しかし、俺はずっと気になっているのは、何のために2033年の俺はこの2018年の俺にメールを送っているのか。それに警告すべき理由とは何なのかわからない。警告ということは何か重要なことを伝えようとしているんだろう。まだその時期ではないということなのか。まだまだわからないことだらけだった。
■ 2018年11月19日(月)
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外を見てみると曇り空だが今日は雨が降りそうにない。いつものように洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。朝食をさっさと終えて自分の部屋に戻って着替えて家を出た。
最近は不思議な現象も起こらず平和な日々が続いている。特殊能力は必要以外に使わないようにしているので、危険なことに巻き込まれる心配もないだろう。そんな平和な日常がこのまま続いてくれればいいと考えていた。駅に到着していつもの時間の電車に乗った。相変わらず電車の中ではスマホで山記事を見る。雪山登山に向けて莉奈をどこの山に連れて行こうか考えているが、たくさんありすぎる。そんなことをしているとあっという間に会社の最寄り駅に到着した。
10:00前に会社に出勤すると、フロアの前のほうに立って社長が出てくるのを待っていた。社長と西浦真美がフロアの真ん中にやってきた。そして社長の話がはじまった。毎週のように社長は俺には関係ないような話をひたすら続けている。俺は上の空でそんな社長の話を聞いていた。社長の長い話が終わり、西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。
俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。業務を黙々としていて周りを見渡すと池上有希と小松結衣がデザインの本を見ながら何か喋っている。この二人もすっかり仲良くなったようで良かったように思う。隣の席にいる児島信二を見ているとなにやら深く考え込んでいるようだが、どうせカスタマーサポートの山内美沙のことでも考えているんだろう。しばらく開発もなさそうなのでこの部署もまったりしているようだ。少し疲れたので俺は休憩室に行くことにした。
休憩室の前に行くと声が聞こえてきた。
「藤堂君、あなたね、そんなことばかり考えてるの?ちょっとは仕事に打ち込みなさい」
「僕は本当に真剣なんですよ。西浦さんは僕のこと嫌いですか?」
「嫌いとか好きとか、そんな問題じゃないのよ。わたしのことより真面目に仕事しなさいって言ってるの」
「僕は真面目に仕事はしていますよ。その上で西浦さんのことを考えてます」
「藤堂君、あたしにあんな恥ずかしいメッセージばかり送ってきて真面目に仕事をしてるって言えるの?」
「僕は恥ずかしいなんて思っていませんよ。だから西浦さんも今週の金曜日のこと真剣に考えてください」
「ああーもう・・・金曜日に藤堂君と二人でどこか行くなんて想像つかないわ」
「西浦さん、金曜日の予定は空いているんですよね?だったらいいじゃないですか!一度くらい僕とデートしてくださいよ」
「あのね・・・藤堂君、今は仕事中なのよ?仕事中にデートに誘うって何考えてるのよ!」
「僕は西浦さんのことしか考えていません。本当に真剣なんです。だから祝日の金曜日のことお願いします」
そこで俺は休憩室に入って「お疲れ様です」といって何事もなかったような顔をした。すると藤堂晃が「水嶋さん、お疲れ様です。じゃあ西浦さん、考えておいてください」と言って休憩室を出て行った。西浦真美は少し困った表情をしながら「ふー」とため息をついた。
「藤堂さんっていつもあんな感じなの?」
「そうね。学生時代からずっとあんな感じなのよ。いつもいつもわたしに対して真剣だなんて言ってくるの」
「学生時代からずっと西浦さんのことが好きだったってことだよね。そこまで想い続けてくれる人ってなかなかいないと思うんだけどね」
「それはそう思うんだけど、でも疲れるわ。それに藤堂君は年下よ?年下の男性となんて想像つかないわ」
「年齢はこの際関係ないんじゃないかな。西浦さんもそろそろいい人見つけたほうがいいと思うし、真剣に藤堂さんのこと考えてあげたらどう?」
「何を真剣に考えればいいの?水嶋君はわたしが藤堂君と付き合えばいいって思っているの?」
「俺は藤堂さんと西浦さんはいい感じだと思うんだけどね。別の世界線にいた藤堂さんはあんな感じで頼りになりそうな感じだったし、この世界線でも同じような感じじゃないかな?」
「たしかに別の世界線の藤堂君は頼りになってたわね。でもこの世界線の藤堂君はわたしに恥ずかしいことばかり言ってくるのよ?」
「恥ずかしいことって例えば何言われてるの?」
「メッセンジャーでなんだけど、今日はいつもより美人とかわたしに見とれているとか、今日は綺麗で輝いてるとか、そんな恥ずかしいことばかりメッセージを送ってくるのよ」
「そんなメッセージを見て西浦さんはどう思ってるの?」
「恥ずかしくなるだけよ。毎日のようにそんなメッセージばかり送ってくるのよ。正直疲れるわ」
「でも褒められて嫌な気分にはならないでしょ?それだけ藤堂さんは西浦さんに必死だってことじゃない?」
「嫌な気分にはならないけど・・・どういえばいいのかしら・・・なんか想像がつかないのよ」
「藤堂さんと付き合うって想像がつかないってこと?」
「そうよ。わたしと藤堂君よ?水嶋君はいい感じだと思うって言ったけど、どうしてそう思うの?」
「うーん、お互いの性格といえばいいのか、西浦さんってしっかりしてるけど、意外と繊細でネガティブなところもあるよね。藤堂さんは楽観的な部分があるけど、頼りになるところもあるから、西浦さんのそういう部分を埋めてくれるような感じに見えるんだよね」
「たしかに藤堂君は楽観的なところはあるわね。だからといってやっぱり想像つかないわ」
「とにかく週末のデートを真剣に考えてあげればどう?あんなに必死になってくれる男性ってなかなかいないと思うし、一度くらいデートしてみればどう?」
「一度くらいデートねえ・・・変なことされないかしら?」
「本気で西浦さんのことが好きなら変なことなんてしないと思うよ」
「まあ、ちょっと考えてみるわ。じゃあそろそろわたしは戻るわね」
「うん。俺も戻るね」
そんな話をして俺と西浦真美は休憩室を出た。別の世界線では藤堂晃と西浦真美は結ばれていた。全く別の世界というわけでもなかったので、この世界線でも二人は結ばれる可能性は高いだろう。別の世界線での二人の関係については内密にすることになっていたが、この世界線でも二人を応援したいと俺は思っている。それにしてもこの世界線の藤堂晃は西浦真美にかなり積極的にアプローチしている。そのうち西浦真美が藤堂晃の押しに負けてしまうんじゃないかと思う。
昼休みになって会社の外に出ると偶然に藤堂晃とバッタリ会った。藤堂晃は「水嶋さん、たまには一緒に昼食行きませんか?」と言ってきたので、俺は「別にいいけど、どこに行く?」と聞いてみた。すると藤堂晃は「近くのファミリーレストランでどうですか?」と言った。今日の昼食はどこにするか決めてなかったので俺は「じゃあファミレスでいいよ」と言った。そして俺と藤堂晃は会社の近くにあるファミリーレストランに入った。そして俺はハンバーグランチとドリンクバーを注文すると、藤堂晃も「僕も同じでお願いします」と言った。注文したランチが運ばれてくると二人でハンバーグランチを食べた。いざ藤堂晃と二人になると何の話をすればいいのかわからない。ハンバーグランチを食べ終えると店員さんが皿を持っていってくれた。そしてドリンクバーに行って俺はホットコーヒーをカップに注いで席に戻った。藤堂晃はローズヒップティーをカップに注いで席に戻ってきた。そして藤堂晃がローズヒップティーを一口飲むと話しはじめた。
「水嶋さんは西浦さんのことをどう思っていますか?」
「どう思ってると言われても会社の中で仲良くしてる人っていうくらいかな」
「会社で西浦さんと仲がいいのって水嶋さんだと思うんですよ」
「まあ、そうかもね。仲がいいというよりよく一緒に話してるって感じだけど・・・」
「西浦さんって他に好きな人がいるんでしょうか?水嶋さんは何か聞いてませんか?」
「他に好きな人はいないと思うよ。ああ見えて西浦さんって恋愛に無関心というか、あまり興味なさそうだしね」
「そうなんですね。でも西浦さんだって女性だし、どんな男性がタイプなんでしょうね。水嶋さん何かそういうこと聞いてませんか?」
「うーん・・・西浦さんとそういう話はあんまりしないからね。西浦さんのタイプねえ・・・どんな人だろうね」
「やっぱり僕じゃダメなんでしょうか?どうも西浦さんに相手されてない感じがします」
「ダメってことはないと思うけどね。藤堂さん、かなり西浦さんのことが好きなんだね」
「はい。僕にとって女性は西浦さんしか考えられないです。僕は西浦さんのためなら何でもしますよ」
「俺も藤堂君のことを応援してあげたいけど、こればっかりは西浦さんの気持ちがあるからねえ」
「水嶋さんから見て僕ってどうですか?西浦さんと不釣り合いに見えますか?」
「いや、そんなことはないけど・・・ただ、藤堂君がもっと頑張ればいいんじゃないかな」
「僕がもっと頑張るってどういう意味ですか?」
「このまま諦めずにどんどん押していくというかプロローチしていくとかかな」
「なるほど。僕は諦める気はないのでこれからもどんどんアプローチしていきます」
「まあ、俺に出来る範囲であれば協力はするよ」
「本当ですか?それは心強いです!でもどうすれば西浦さんが振り向いてくれるかなんですよね」
「そればっかりは西浦さん次第だからね。まあ頑張ってよ」
「はい!ありがとうございます」
その後、俺と藤堂晃は西浦真美のことについて話をしてファミリーレストランを出た。そして昼休みが終わったので会社に戻った。午後の業務も何も起こらず平和な感じだった。それにしても藤堂晃と西浦真美をどうやって結びつけるかを考えたほうがいいのか悩む。俺が介入していい問題でもないのだ。ここは藤堂晃に頑張ってもらうしかない。あの西浦真美の性格からしてかなり難しそうだが、不可能ではないだろう。別の世界線での藤堂晃は既に西浦真美と結ばれていたのだ。この日は恋する藤堂晃のことを考えながら業務をして勤務時間が終了した。
■ 2018年11月20日(火)
目が覚めると真っ白な広い空間にいた。ここは夢中空間。何かまた不思議な現象でも起こっているのだろうか。向かい側に水色のパジャマを着た西浦真美、そして左隣にはピンク色のパジャマを着た莉奈がそれぞれ座りながら眠っていた。俺はすぐに二人を起こした。目が覚めた莉奈は「あれ、また夢中空間?どうして?」と言った。そして西浦真美は「今回は何かしら?」と不思議そうな表情をしながら言った。しばらくすると西浦真美の隣の席に薄っすらと人の姿が現れた。それは紺色のジャージ姿の藤堂晃だった。莉奈は「あっ!この人は藤堂さんだ。また別の世界線からやってきたのかな?」と言った。しかし、この藤堂晃の姿はプロジェクターの映像のようでここに映し出されてるような感じだ。西浦真美が「藤堂君どうしたの?」と声をかけたが、無反応だった。藤堂晃の目線は俺達のほうを見ていない。これは夢中空間に相談にきていた小松結衣や児島信二と同じだと思った。そして藤堂晃が話しはじめた。
「相談があります。僕はどうすれば西浦さんを誘うことができるのでしょうか?僕はどうすれば西浦さんを振り向かせることができるのでしょうか?僕にとって西浦さんは女神なんです。僕には西浦さんしかいません。西浦さんのことが好きで好きでたまらないのです。僕のこの気持ちはどうすればいいのでしょうか?」
そう話し終わると藤堂晃の姿がどんどん消えていった。そして完全に姿が消えて空席となった。この話を聞いた西浦真美が真っ赤な顔をしている。まさか夢の中で告白されるとは思ってもいなかったのだろう。
笹原莉奈「今の藤堂さんは別の世界線の藤堂さんじゃないの?」
水嶋祐樹「さっきのはこの世界線の藤堂さんだね」
笹原莉奈「そうなんだ。すっごくこの世界線の藤堂さんは西浦さんのことが好きなんだね」
西浦真美「全くもう・・・夢の中でまでそんな恥ずかしいこと言うことないじゃない」
水嶋祐樹「西浦さん、やっぱり藤堂さんのこと真剣に考えてあげれば?ここまで好きって言ってくれる人はなかなかいないと思うよ」
笹原莉奈「そうだよね。こんなに好きだって想ってくれる人ってそんなにいないよね」
西浦真美「水嶋君、昨日も言ったけど藤堂君との関係って想像できないのよ」
水嶋祐樹「でも西浦さんもまんざらじゃないね。そんなに顔を真っ赤にして・・・実はときめいてたりして。あはは」
西浦真美「そ、そんなことないわよ・・・」
水嶋祐樹「でも夢にまで出てくるってことは相当強い想いがあるからだと思うよ」
笹原莉奈「そうだよね。ここに相談に来る人ってみんなすごく悩んでる人だもんね」
西浦真美「それはそうだけど・・・もう、どうすればいいのかしら・・・」
水嶋祐樹「とりあえず今度の金曜日のデートのことを前向きに考えてあげればどうかな?別に減るもんでもないし一度くらいデートしてあげてもいいと思うよ」
笹原莉奈「うんうん!嫌じゃなかったら一度くらいデートしてあげるのがいいかも」
西浦真美「もうわかったわよ!金曜日のデートについてはちゃんと考えるわ。でも一度きりのデートになると思うわ」
水嶋祐樹「まあ、それは一度デートしてみてから考えればいいんじゃないかな。今は想像できないかもしれないけど、一度デートしてみれば想像できるようになるかもしれないよ」
西浦真美「それはないと思うけど、ここまで好きだって言われたら仕方ないわね」
笹原莉奈「西浦さん、藤堂さんのこと真剣に考えてあげてね。じゃあそろそろわたしは寝るね」
水嶋祐樹「俺もそろそろ寝るよ」
西浦真美「そうね。そろそろ寝ましょうか。じゃあまたね」
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。藤堂晃はついに夢中空間に相談者として現れたのは、よほど必死なんだろうと思う。今日、西浦真美が藤堂晃にどういう対応するのか楽しみだ。俺はさっさと朝食を終えて部屋で着替えて家を出た。
今日も文句のない快晴だが外を歩いていると寒さを感じる。冬の訪れは近いようだ。駅に到着していつもの時間の電車に乗った。うちの会社は10:00出勤なのだが、電車の中はスーツを着た人が多くいる。最近では10:00出勤の会社も増えてきたのだろうか。それでも通勤ラッシュの時間帯に比べれば人は少ないほうなのかもしれない。金曜日の祝日の天気は晴れの予想だが次の日は雨になっていた。一泊二日の登山の予定をしていたが、土曜日の天気が悪いので変更するしかない。予定を変更して土曜日に行く山を探そうとスマホで山記事を見ていた。いろいろ調べていたが、これといった山が見つからなかった。そんなことをしていると会社の最寄り駅に到着した。
10:00前に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。業務を黙々と続けていながら、西浦真美のことが気になっていた。もしかするともう休憩室で藤堂晃と何か話してるのかもしれない。藤堂晃は夢中空間に現れるほど強い想いがあるので、自分のことのように気になって仕方なかった。11:00を過ぎた頃に一度休憩室に行ってみた。
休憩室のドアの前まで来ると中から声が聞こえてきた。
「西浦さん、それは本当ですか?」
「もういいわよ。一度くらいは藤堂君に付き合ってあげるわ」
「じゃあ祝日の金曜日、西浦さんの家の近くまで車で迎えにいきます」
「それで金曜日はどこに行くつもりなの?」
「それは僕がこれからプランを考えます。西浦さんはどんなところに行きたいですか?」
「そうねえ、人が多いところは避けたいわね。どこか遠くにドライブとかいいかしらね」
「じゃあ、どこか遠くで人が多くないところを探します。ドライブしながら観光しましょう」
「それは藤堂君に任せるわ」
「それにしても嬉しいです。やっと西浦さんとデートできるんですね」
「まあ夢に出てくるくらいだし・・・その代わり一度きりのデートだと思ってよ」
「夢ってなんのことですか?絶対に西浦さんを楽しませますよ。だから一度きりなんて言わないでください」
「夢のことはいいのよ。一度きりになるかどうかは藤堂君次第よ。わたしを楽しませてくれるっていったわね。一応、期待しておくわ」
「はい!僕、頑張っていいプラン考えます」
そこで俺が休憩室に入って「お疲れ様です」と言った。藤堂晃はすごく嬉しそうな表情をしながら「水嶋さん、お疲れ様です」と言った。どうやら西浦真美は今度の金曜日に藤堂晃とデートすることにしたようだ。藤堂晃は「じゃあ僕は仕事もあるのでこれで失礼します」と言って休憩室を出て行った。俺は椅子に座って西浦真美に話しかけた。
「西浦さん、祝日の金曜日に藤堂さんとデートすることにしたんだ?」
「だって、またあの夢中空間に現れたりされると困るでしょ?それに連休は暇だし、一度くらいは付き合ってあげようと思ったのよ」
「たしかにあの藤堂さんの執念だと毎晩のように夢中空間に現れそうだね」
「そうでしょ。でもやっぱり藤堂君とデートだなんて想像つかないわ」
「でも祝日にデートしてみると意外と楽しかったりするかもよ?会社ではない藤堂さんは違うかもしれないしね」
「どうかしらね。学生時代からずっとあんな感じだし、そんなに変わってないと思うけどね」
「まあ一度きりなんて今から決めないで、今度の金曜日に一度デートしてみてから考えてみればいいと思うよ」
「それはそうだけど・・・どうなるのかしらね」
「西浦さんもそろそろ恋愛したほうがいいと俺は思ってるからね。一応、タイムリープして過去の恋愛は清算できたみたいだしね」
「わたしが恋愛ね・・・正直、それも想像できないのよね」
「西浦さんは恋愛に無関心だったところがあるから、今回はいい経験になると思うよ」
「そうね。わたしは恋愛に無関心だったから想像できなくなったのかもしれないわね」
「とにかくいい結果になることを祈ってるよ」
「まあどうなるかわからないわよ。あっそろそろわたしは戻るわね」
「うん。じゃあまたね」
そう言って西浦真美は休憩室を出て行った。この世界線での藤堂晃と西浦真美がどうなるかわからないが、別の世界線では二人は結ばれていたのだ。それを知ってるのは俺だけなのだ。根拠はないが、この世界線でもきっと二人は上手く結ばれると俺は思っている。この世界線での藤堂晃がどうやって西浦真美を振り向かせていくのかが楽しみでもある。俺はそんなことを休憩室で考えながら缶コーヒーを飲んでいた。
それからこの日も何事もなく勤務時間終了の19:00になったのでさっさと俺は退社した。帰りの電車の中で土曜日に行く山は大賢者岳を登って日帰りすることに決めた。本当は縦走したいところだったが、行者岳はまた別の日に日帰りで行けばいいと思った。そんなことをしてると自宅の最寄り駅に到着した。そして俺はさっさと自宅へ帰って夕食をとってシャワーを浴びた後、自分の部屋に入った。莉奈に電話をして金曜日は大賢者岳に行くことを伝えた。他に誰かを誘おうと思ったがみんな連休中は予定があるとのことで結局、金曜日の登山に行くのは俺と莉奈の二人だけになった。
次の日から祝日の金曜日までは何も起こらず平和な日々が続いた。そしていよいよ祝日の金曜日になる。俺と莉奈は大賢者岳にいくのだが、藤堂晃と西浦真美は初のデートに行くのだ。俺はその二人がどうなるのか気になっていた。
■ 2018年11月23日(金)藤堂晃と西浦真美編
今日は藤堂君とデートするんだけどわたしにとってまだ想像つかない。藤堂君は動きやすい恰好できてほしいって言ってたけど、この裏起毛のパンツだと動きやすいからしらね。上はこの紫のハイネックセーターでいいかしら。車だっていってたけどコートを着ていこう。祝日なのに朝7:00に目が覚めて準備が大変だわ。それにしても男性と二人でどこかに行くなんて何年ぶりかしら。待ち合わせは8:30に駅に行けばいいのよね。準備に時間がかかったわ。そろそろ家をでましょうか。
わたしの住んでるマンションから駅までは歩いて10分ほどだけど、ちょっと早すぎたかしら。まだ8:25だけど駅に着いてしまった。するとダークブルーの車から藤堂晃が降りてきて「西浦さん、こっちです」と声が聞こえた。わたしは藤堂君のほうにいった。藤堂君はジーンズに黒のハイネックにジャケットを着ていた。藤堂君は「西浦さん、おはようございます」と言ってきた。わたしも「藤堂君、おはよう。今日はよろしくね」と言った。藤堂君が助手席のドアを開けて「西浦さん、どうぞ乗ってください」と言った。わたしは「おじゃまします」と言って助手席に乗った。藤堂君が運転席に座って「じゃあ行きますね」と言って車を走らせた。どこに行くのかわからないけど、今日は藤堂君に任せるって言ったから、わたしは着いていくしかない。藤堂君は学生時代の話をしながら高速道路に入った。学生時代の話をされるとなんだか懐かしい気分になってきた。あの時はあんな飲み会があったとか、学生時代のわたしはもっと楽しんでたとか、そんな話をして盛り上がった。そういえば最近は社長秘書として仕事のことしか考えてなかったけど、今日はそんなこと忘れるべきよね。高速道路を走ってどんどん市街地から離れていって田舎のほうへ向かってるみたい。どこに連れていくつもりかしら。気になったわたしは「藤堂君、田舎のほうへ行くの?」と聞いてみた。すると藤堂君は「そうです。今日は西浦さんが忘れてることを思い出してもらいたいです」と言った。わたしが忘れてることって何だろう。そして2時間ほど高速道路を走らせていると知らないインターチェンジを出た。インターチェンジを出て国道をどんどん山のほうへ走らせていった。こんなところに何があるんだろう。それにしてこの辺は市街地と違ってのどかなところだわ。藤堂君は休日に何をして過ごしているかとか好きな映画や音楽の話をしていけど、わたしの好きな映画や音楽とよく似ている。意外と藤堂君とは趣味合うかもしれない。三十分ほど国道を走らせるとロープウェイがあって、その前の駐車場に車をとめた。藤堂君が「西浦さん、着きましたよ」と言って車を降りた。わたしも車を降りた。外は少し肌寒い。
藤堂君が「さあ、ロープウェイに乗るよ」と言ってロープウェイのチケットを二枚買ってきた。そしてわたしと藤堂君はロープウェイに乗った。5分ほどロープウェイを乗っていると山頂駅に到着した。外に出ると展望台があって湖が見える。ちょっと寒いけどとても景色のいい場所。わたしが「とても景色がいいわね」と言うと藤堂君は「うん。西浦さん、こんな景色見るのも久しぶりですよね」と言った。たしかにこんな景色を見るのは久しぶりかしら。それから藤堂君は「さあ、次はこっちに行きましょう」といってわたしの手を握って遊歩道を歩いて行った。何気なく手を繋いでるけど不自然じゃないし嫌な感じもしない。わたしは藤堂君と手を繋ぎながら歩いていくと高原に出てジップラインと書かれた大きな看板があった。ワイヤーロープが高原の下のほうまでつながっていて子供がロープに器具を繋いで滑っていってる。藤堂君が「西浦さん、これに乗りましょう」と言った。結構な高さがあるけど怖いことはない。そして藤堂君がジップラインの申し込みをして「西浦さん、ここに並びましょう」といった。そしてジップラインの乗り場になっている展望台のようなところの階段をあがって次はわたしの番になった。藤堂君はその次に滑るみたい。わたしはインスタクターと思われる人に器具を装着されてヘルメットをかぶった。そしてインストラクターの人が「行ってらっしゃい」と言った。わたしはそのままロープを滑っていった。下を見るとすごく高い。まるで鳥になってるかのような気分だけど楽しい。わたしは思わず「きゃー」と叫んだ。すごい疾走感だったけどあっという間にロープの下まで滑ってきた。下にいたインストラクターの人が装着していた器具をはずして、わたしはヘルメットを返却した。次に藤堂君が滑ってきた。まるで子供のように楽しんでる。子供のように?そういえばわたしがこんな楽しい気分になるのは久しぶりかも。藤堂君が滑り下りてくると、高原地帯の遊歩道を登っていった。ちょっと登りはしんどかったけどジップラインは楽しかった。そしてお土産屋さんなどに立ち寄ってロープウェイを下りていった。もう時間はロープウェイの駐車場で車に乗って時計を見ると12:30になっていた。
藤堂君はそのまま国道を山のほうに車を走らせていた。わたしは「藤堂君、お昼はどうするの?」と聞いてみた。藤堂君は「いいお店があるんですよ」と言った。国道を走っていると陶芸品のお店がたくさん並んでるところを走っていた。そこに大きなウサギの形をしたお店があった。藤堂君はそのお店の駐車場に車をとめた。そして車を降りると藤堂君が「西浦さん、ここで昼食にしよう」といった。ウサギの形をしたお店の中に入るとオシャレなカフェがあってランチメニューがあった。わたしはカルボナーラを注文して藤堂君はナポリタンを注文した。それぞれの料理が運ばれてきてわたしと藤堂君は食べていた。ランチメニューなので食後にホットコーヒーが運ばれてきた。わたしはホットコーヒーを飲みながら「午後からはどこに行くの?」と聞いてみた。すると藤堂君は「それはお楽しみです」と言った。お店をでて車に乗ると藤堂君はさらに山のほうへ車を走らせた。
10分ほど車を走らせると国道から県道に曲がった。そのまま坂道をあがっていくと大きな看板で忍者パークと書かれていた。忍者パークの駐車場に車をとめてわたしと藤堂君は車を降りた。藤堂君は「西浦さん、次はここに入りましょう」と言った。藤堂君が忍者パークの入場チケットを購入してきた。そしてわたしと藤堂君は忍者パークに入った。忍者ってよくわからないけどここで何をするつもりかしら。忍者パークの中に入ると最初に行ったのは忍者屋敷という看板が立てられたところ。忍者の姿をした二名の男性が、忍者のことについていろいろ説明しながらアクションをしていた。回転する壁に隠れたり隠し階段が天井のほうから出てきたり、見ていると忍者ってすごいって思った。忍者の説明が一通り終わると次に藤堂君がわたしの手を掴んで「次はこっちです」と言った。また手を繋ぎながら歩いている。
忍者パークの真ん中くらいのところに大きな建物があった。そこにはからくり屋敷という看板が立っていた。藤堂君は「西浦さん、ここに入りましょう」と言った。からくり屋敷の入口に看板があって、説明が書かれていた。一つ一つ部屋にからくりがあってそのからくりを見つけて次の部屋に行けるみたい。迷路のようになっているのね。わたしと藤堂君は最初の部屋に入って、次の部屋に行くためのからくりを探していた。わたしは「あの掛け軸の裏が怪しくない?」と言ってみた。藤堂君が掛け軸をあげると細い通路があった。からくり屋敷といっても意外と簡単かもと思っていた。でも次の部屋に入ると怪しいところは何もない。藤堂君とわたしはいろんなところを触って調べてみたけど、どこにからくりがあるのかわからなかった。すると藤堂君が「この壁が怪しいです」と言った。回転する壁だと思ったけど押してみたけど壁は動かない。藤堂君が壁の上のほうを押すと壁が縦に回転して次の部屋につながっていた。次の部屋でもいろいろ調べていると藤堂君が「西浦さん、この柱が怪しいです」といって柱を回してみると天井から階段が出てきた。藤堂君って意外と頭が良かったりするのかな。次の部屋でも藤堂君が怪しいところを調べてからくりを見つけていった。わたしはちんぷんかんぷんだったけど、本当に迷路の中にいるようで楽しい。最後の部屋は真っすぐに見えて床が傾いてた。わたしは知らずにその部屋に入ると滑りそうになった。それを藤堂君が「西浦さん、危ないです!」と言って手を掴んでくれた。傾いているように見えない床だけどバランスが崩される不思議な部屋。その床で傾いてないところがあって、藤堂君はその床を調べると床が開いて下に降りる階段が見つかった。そして階段の下に降りるとからくり屋敷の出口に出た。からくり屋敷に一時間くらいいたかもしれないけど楽しかった。
続いて藤堂君は「最後にこっちに行ってみましょう」といって、またわたしの手を握った。藤堂君と手を繋ぎながら歩いているけど、これって本当にデートじゃない。でも嫌な気はしない。次の場所に着くと忍者アスレチックという看板が立っていた。小さなアスレチックみたいだけど、池の上を歩いたり、つり橋を渡ったりするところ。わたしは恐る恐る水ぐもに足を置いてロープを掴みながら池の上をスイスイと浮かびながら進んでいった。それを見ていた藤堂君が「西浦さん、さすが上手です」と言った。藤堂君も水ぐもに足を置いてスイスイと池を浮かびながら進んできた。そして次は木のハシゴをのぼってつり橋を渡る。このつり橋はロープでできていてバランスを崩せば池に落ちるかもしれない。わたしは両手でロープを持ちながらつり橋を歩いていった。なんだかこのアスレチックをしていると懐かしい気分になるのはどうしてかしら。藤堂君もつり橋を渡ってきた。藤堂君って運動神経がいいみたい。次にさっきにジップラインじゃないけど、ロープが池の向こう側につながっていてローラーに太い紐がついていて大きな丸い木がある。どうやらこの丸い木にまたがって滑っていくみたい。最初にわたしが丸い木にまたがって滑っていった。こういうのなんか楽しい感じがする。そして藤堂君も滑ってきた。そのままアスレチックが続いて、わたしが縄梯子を登っていると藤堂君が手を掴んで引っ張ってくれたりした。アスレチックの最後はローラー滑り台になっていた。子供の遊び場みたいなところだけど、わたしはわくわくしながらローラー滑り台を滑っていった。これも結構なスピードで滑っていくけどすごく楽しい。藤堂君もローラー滑り台を滑ってきた。そして藤堂君は「もう15:00を過ぎたからそろそろ行きましょうか」と言って、またわたしの手を掴んだ。わたしと藤堂君は忍者パークを出て車に乗った。なんだかわからないけど、ものすごく楽しかったように思う。今日はこれで終わりなのかしら。さっきのインターチェンジへ車を走らせているようだった。
インターチェンジから高速道路に入って戻っていく。わたしは藤堂君に「今日は楽しかったわ。もう帰るんでしょ?」と聞いてみた。すると藤堂君は「いや、最後にもう一か所連れていきたいところがあります」と言った。そして帰り途中のインターチェンジを出た。どこにいくつもりかしら。そのまま市街地を走らせて山のほうに向かっているようだった。細い山道をどんどんあがっていって外はすっかり薄暗くなっていた。そしてもうすっかり日が暮れた頃に山道の途中の路肩に車を駐車した。藤堂君は懐中電灯を二本取り出して、一本をわたしに渡した。そして藤堂君は車を降りて「西浦さん、着いてきてください」と言った。こんな山の中に何があるのかしら?それに懐中電灯をつけないと真っ暗で何もみえない。舗装道だけど樹林帯の山の中の道を歩いていく。藤堂君はスマホをみながら「こっちか」と言いながら歩いていた。五分ほど樹林帯の中の急な坂道を登っていくと広い場所に出た。そしてそこを右にまがってちょっとした山道を歩いていくと丘が見えた。丘の上に登ったその先に行くと、一つだけベンチがあってものすごい光量の夜景が見えた。藤堂君は「西浦さん、ここに座ってください」と言った。わたしはベンチに腰掛けるとその隣に藤堂君が座った。こんな夜景は今までみたことがない。すごく奥行があって光り輝いてる。これは絶景だと思う。わたしは藤堂君に「よくこんな場所知ってたわね?」と聞いてみた。すると藤堂君は「実はここ、水嶋さんに聞いたんですよ」と言った。水嶋君は登山バカだからこんな素敵な場所も知っていたんだと納得できた。しばらく黙って夜景を眺めていると藤堂君が「西浦さん、今日のデートはどうでしたか?」と聞いてきた。わたしは素直に「すごく楽しかったわよ」と答えた。すると藤堂君が「西浦さんは子供の頃の気持ちを忘れていたんです。僕は今日、それを思い出してほしかったのです」と言った。その言葉を聞いて、わたしは自分が忘れていた感情に気づいた。たしかにずっと仕事のことばかり考えていて子供の頃の感情なんて忘れていた。でも今日は童心に返ることができた。藤堂君はそんなわたしのことに気づいていた。ただ、わたしのことを好きだと言ってるだけじゃなかった。わたしのことをちゃんと見ていてくれたのね。わたしは「藤堂君、ありがとうね」と言った。藤堂君は「いえいえ」とだけ言った。二十分ほど夜景を眺めているとちょっと寒くなってきた。そんなわたしに気づいたのか藤堂君は「そろそろ寒くなってきましたね。帰りましょうか」と言った。そしてわたしと藤堂君は駐車した場所まで戻っていって車に乗った。
藤堂君はわたしの家の近くまで送ってくれて、最後に「西浦さん、また一緒にデートしてもらえますか?」と言った。わたしは少し戸惑ったけど「また楽しませてくれるならいいわよ」と答えた。今回一度きりのデートだと思ってたけど、今日は藤堂君のことがたくさん知れた。男性らしさも感じることができた。それに真剣にわたしのことを見ていてくれて考えてくれている。わたしは藤堂君のことを何も見てなかったけど、少しは藤堂君との恋愛を想像できるようになった気がする。久しぶりに恋できるのかもしれない。わたしはしばらく藤堂君のことばかり考えていた。
■ 2018年11月23日(金)水嶋祐樹と笹原莉奈編
朝5:55にいつもの駅前ロータリーに着いた。ピンクのジャケットに茶色のトレッキングパンツをはいて赤いザックを背負った莉奈がいた。莉奈は俺の車に気がついて走ってきた。お互いに「おはよう」と言って、莉奈はザックを車の後ろに積んだ。そして莉奈が助手席に乗ると俺は大賢者岳の登山口に向かって車を走らせた。今日行く大賢者岳はアクセスが悪いもののバス停もあるので何人かの登山者がいるだろう。別にバリエーションルートでもない、普通の登山道だが秘境感はある。車内で莉奈と何気ない日常会話をしながら2時間半ほど車を走らせた。そして大賢者岳の登山口の駐車場に到着した。ここはキャンプ場にもなっているので駐車場は有料なのだ。俺は登山届の提出、そして駐車料金を払いにキャンプ場の管理棟へ行った。予定としては3時間半で大賢者岳に登って、2時間で下ってくる予定にしている。山頂で一時間ほど休憩するとして駐車場への下山は16:00頃になるだろう。そして登山の準備が終わって大賢者岳の登山口まで歩いていった。登山口はキャンプ場の奥にある。
しばらくはなだらかな登りの登山道が続く。莉奈は「楽勝だね」と言っているが、最後が急登なのだ。そして途中から岩場のトラバース地点になり、いくつかの迫力ある巨岩群があった。莉奈は「すごい岩!大きいね」と言った。洞窟のようになった岩があり、その中には何かが祀られている。莉奈は迫力ある巨岩に圧倒されているようだった。岩場のトラバースが終わるとハシゴや鎖場の道になってきた。ちょっとしたアスレチック感覚で登っていく登山道。莉奈はルンルン気分であるかのようにすいすいと登っていった。そしてコル部の下で高い岩場に鎖が垂らされていて、その鎖を持ちながら岩場を登っていく。莉奈はすっかり岩登りにも慣れた感じでスイスイと登っていった。莉奈は「なんだかここ楽しいね」とニッコリしながら言ったが、ここからの尾根道が急登になっていく。俺は「莉奈、問題はここからなんだよ」と言った。尾根を一旦登ると今度は下る。せっかく登ったのに下るのは何か損した気分になるが、地形がこうなっているので仕方がない。下ったところに広くなった場所があったので、そこで一旦休憩することにした。莉奈は「ここからの登りがキツイの?」と言った。俺は「地図を見るとわかるよ」と言った。すると莉奈はスマホで登山地図を見て「ええーこんなに急登なんだ」と言った。距離は短いのだが、ここからはかなりの急登になっている。直登になっていなくてつづら折れの道になっているのが唯一の救いかもしれない。十分ほど休憩をして登りはじめた。三十分ほど登っていくと莉奈はすっかり息が切れているようだった。ハシゴがあって石ノ覗という場所があった。この名の通り、岩の上から展望が望める。莉奈は「はぁー気持ちいい」といいながら景色を眺めていた。俺は「莉奈、俺達はあそこからこうやってここまで登ってきたんだよ」と説明した。莉奈は「もうこんな高いところまで登ってきたんだ」と言った。しばらく展望を眺めて休憩することができたので、さらに登りはじめた。ハシゴの連続があって、その先からは全く面白くない登山道をひたすら登り続ける。石ノ覗から四十分ほど登ると尾根に合流した。尾根では少し霧氷になっていた。まだ時期は早いと思うが山では雪が降ったのだろう。2センチほど積雪していた。俺は「山頂はすぐそこだよ」といって、大賢者岳のピークへ向かって登っていった。霧氷に囲まれた樹林帯を抜けると大賢者岳の山頂に到着した。
大賢者岳は標高1780メートルでこの付近の山でも結構高い方だ。ちょっとした霧氷だが美しい。莉奈は「霧氷が綺麗だね」と言ってあちこち見渡していた。大賢者岳からは付近の山々が望める。俺は「莉奈、ちょっとこっちにきて」と言って景色を見せた。俺は「あれが前に登った鉄岳でその一番高いところが八剣岳だよ」と言った。すると莉奈が「あのギザギザの山は何?」と言ったので、俺は「あれは強力頭という山で普通の登山道では登れないんだよ」と言った。莉奈は「祐樹君は登ったことあるの?」の聞いてきたので「うん。あそこも登ったよ」と答えた。強力頭はかなり苦労して藪漕ぎをしたり急登を登ったりして苦労したのでよく覚えている。何もない山だったがこうやって山容をみると登りたくなるのが登山者の好奇心なのかもしれない。俺はザックからバーナーを取り出してお湯を沸かした。今日の昼食はカップラーメンとおにぎりだ。莉奈もおなじくカップラーメンにおにぎりなのだ。そろそろ莉奈にもバーナーを購入してもらおうか。いや、バーナーは俺がいくつか持ってるので一つあげてもいい。俺と莉奈は昼食をとりながら大賢者だけからの景色を眺めていた。それにしても祝日だというのに登山者がいないのは有難い。この山は有名だが、やはりアクセスが悪いのであまり人はこないのか。昼食を終えると俺はバーナーをザックに片付けて出発することにした。
大賢者岳のピークから反対側へ下りていこうとすると莉奈は「あれ?こっちに戻るんじゃないの?」と言ったので、俺は「いや、このちょっと先に賢者の展望地というところがあって、すごい景色が見えるんだよ」と言った。大賢者岳のピークを反対側に下った先に賢者の展望地と書かれた看板が立っていた。そこからはかなり深い谷が見えて高度感があって迫力もある。霧氷の大賢者岳のピークも見える。莉奈は「これはすごい谷だね!それにすっごく高度感ある」と言った。ここの谷と高度感、迫力ある景色は写真ではとても伝えきれない。この景色が見れるのは登って来た人の特権だろう。莉奈は「うわーこんなの見れると思わなかった!ここすごいね!」と感動しているようだ。しばらく賢者の展望地で景色を眺めて、俺は「そろそろ戻ろうか」と言った。莉奈は「また山頂まで登るの?」と言ったので、俺は「いや、この左から巻ける道があるんだよ」と言った。わざわざピークに登らなくても左に巻き道があるのだ。その巻き道を進んでいくと尾根に合流した地点に戻ってきた。そして早く下ることができて、鎖場の下りだけが少し時間がかかった。岩場のトラバース地点を通過して15:30には大賢者岳の登山口まで戻ってくることができた。そしてキャンプ場の管理棟まで歩いていって下山届を提出して車に乗った。
帰りの車の中で俺は「莉奈、今日の山もそれなりに秘境感というか珍しいものが見れたでしょ」と言った。すると莉奈は「うんうん。すごい岩に景色もよかった。一番は賢者の展望地だったけどね」と言った。俺は「莉奈には今度バーナーを一つあげるから、今度からは自分でお湯を沸かして昼食の準備をしてね」と言った。莉奈は「バーナーくれるの?やった!」と言った。莉奈も一人でバーナーを扱えるようにならないといけない。もしも俺とはぐれて遭難した場合、自分の身は自分で守れるようにならないといけない。これから雪山登山になるので、あらゆることを知っておかないといけない。そして19:00前に駅前ロータリーに着いて、莉奈は荷物を降ろして帰っていった。
■ 2018年11月24日(土)
朝10:00過ぎに目が覚めた。さっさと起き上がってパソコンの電源を入れた。昨日の大賢者岳の写真を整理してブログ記事に掲載するのだ。外は天気予報通りザーザーと雨の音がする。昨日のコースはピストンなので写真掲載も少なくて一時間ほどでブログ記事を投稿することができた。そしてメールを確認しようと思った。メールを確認するとDMなどのメールの中に「2018年11月の俺へ」という件名のメールが届いていた。久しぶりに2033年からメールが送られてきた。俺はすぐにそのメールを確認した。
”
2018年11月の俺へ
2033年の水嶋祐樹だ。
今回はいよいよ警告するべきことを伝える。
このメールは心して読んでほしい。
2019年2月23日の土曜日、笹原莉奈は死ぬことになる。
つまりこのメールを読んだ3ヶ月後のことだ。
俺は何度もタイムリープをして笹原莉奈を助けようとしたが、
最初は滑落事故、その次は交通事故や転落事故、そして心臓発作など。
何をしてもこの世界線の笹原莉奈は死ぬ運命にあるようだ。
そしてこっちの俺はずっと独身のままなのだ。
そこで2018年11月の俺にお願いしたいことがある。
これからそっちの俺には世界線を分岐させてほしい。
笹原莉奈が死ぬことのない世界線に分岐させてほしい。
世界線を分岐させるには、これから過去を大きく改変させていく必要がある。
こっちの俺から見て過去だが、そっちの俺から見ると未来になる。
未来を改変させることで世界線は分岐するだろう。
そのため、これから起こることを伝えておくが、それに逆らってほしい。
つまりそっちの俺がこれらのことを起こさないようにするのだ。
そうしていくことで、どのくらい世界線が変わるかわからないが、
あとは大きく過去を改変する方法を考えてほしい。
今回、アプリケーションを添付している。
それをスマートフォンに入れて実行してほしい。
おそらく5.〇〇という数字が表示されるはずだ。
それは世界線のナンバーだと思ってほしい。問題は整数値のほうだ。
小数点の数値が変わったくらいでは完全に世界線は分岐していない。
完全に世界線を分岐すれば、整数値の5から違うナンバーに変わるはずだ。
その数値を確認しながら、完全に別の世界線へ分岐するようにしてほしい。
2019年2月23日に笹原莉奈が死ななかったとしても安心してはいけない。
世界線のナンバーが5であれば、死ぬ時期がズレるだけなのだ。
では、これから起こることを伝えておく。
1.新しいシステム開発がはじまる
→システム開発はしないようにしてほしい
2.児島信二が山内美沙にフラれる
→児島信二がフラれないようにしてほしい
3.クリスマスイブに笹原莉奈とホテルで過ごす
→ホテルで過ごさないようにしてほしい
4.年末に高熱を出す
→事前に体調管理をして早めに風邪を治してほしい
他にも大事件などを事前に回避させるのも一つの方法だ。
またメールを送るつもりだが、こっちの俺からのメールが届くということは
まだ世界線が分岐されていないということになる。
前回同様にこのメールのことに関しては他言無用。
では、これから3ヶ月間よろしく頼む
”
俺はまず添付されているアプリケーションをスマホに入れて実行してみた。すると青色で5.12と表示されている。つまりこの世界線は5ということになる。これが5.88になったとしても世界線は分岐されていないということなのだろう。それにしても莉奈が死ぬことになるとは、俺はどうすればいいのだろうか。本当に世界線を分岐させることはできるのだろうか。しかし、俺は絶対に莉奈を死なせたくない。莉奈との未来のある世界線に分岐させてやろうと思う。そのためには未来を大きく変えていかなければならないとうことだろう。このことは莉奈に言わないでおこうと思うが、西浦真美には相談したほうがいいだろう。これは俺にとって重要任務になるのだ。これから2019年2月23日までにあらゆる未来を変えていくしかない。俺は2033年から送られてきたメールの意味がやっと理解できたように思う。




