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未来からの伝言  作者: 涼
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社員失踪事件

■ 2018年11月11日(日)


今日は笹原莉奈と二人でロックテラスという岩場に来ている。そろそろ莉奈にもロープワークを教えておこうと思う。冬になって連れて行きたいと思っている雪山でロープワークが必要になるからだ。まずはロープがなくても登れる10メートルほどの岩場で練習することにした。俺と莉奈はヘルメットをかぶりハーネスを装着して完全にロッククライミングの装備をしている。俺が支点構築して40メートルのロープを垂らす。そして俺が最初にビレイをして莉奈に岩登りをさせる。そしてビレイのやり方を莉奈に説明していた。莉奈が岩に登って支点をタッチすると「祐樹君、オッケー」といって、俺がロワーダウンして莉奈を岩から下ろした。今度は莉奈にビレイをしてもらう。この岩だと万が一落ちてもケガするくらいですみそうだが、どちらにしても莉奈に命を預けることになる。


「莉奈、教えたとおりATCをこうやってセットして俺が岩を登っていくにつれてロープをピンッと張っていく。もし滑落したらロープを引っ張るとそこで止まるから。そして俺がオッケーといったら、今度はゆっくりロープを緩めて岩から下ろしていく。できそう?」

「うん。やり方はわかった。やってみるね」

「俺の命を預かってるという意識を持ってやってね。登ってる間に止まってると滑落する可能性があるからロープを引っ張って止める構えをしておくこと」

「祐樹君の命を預かってるってなんか怖い・・・」

「この岩なら落ちてもケガする程度ですむから、まずはここで練習しよう」

「わかった」


俺は岩を登っていった。莉奈はロープを張っていった。そして俺が支点をタッチすると「莉奈オッケー」と言った。そして莉奈はゆっくりロープを緩めていった。ちょっと手慣れてないせいかロワーダウンが早い。俺は「莉奈、ロープを緩めるのが早いから、もっとゆっくり!」と言った。すると莉奈は「腰に体重がかかっちゃう」と言った。俺は「少し力を入れすぎてるんだよ。もう少しリズミカルに緩めていく感じで」と言った。そしてなんとか俺は岩を下りた。俺は莉奈に「もう三セットくらい同じことをして慣れてもらうね」と言って、莉奈にビレイしてもらいながら三回ほど俺が岩を登ってロワーダウンをしてもらった。莉奈は三回目でロワーダウンのコツを掴んだようでかなり上達してきた。


「よし、莉奈、じゃあ次はこっちの岩でしようか。ここは滑落したら本当に危ないからね」

「ビレイとロワーダウンのコツはわかったけど、この岩はちょっと怖いかも」

「大丈夫だよ。莉奈はもうすっかり慣れてきたみたいだからね」

「じゃあやってみる」


今度は15メートルほどの岩場で練習するのだが、ここはロープなしで登れる岩場ではない。完全なロッククライミングになる。ちなみに、俺はロッククライミングには興味がないのだが、登山や沢登り、雪山のために基本的なロープワークの技術をマスターしているだけなのだ。そしてまずは俺がビレイをして莉奈が岩を登っていく。そして莉奈が「祐樹君オッケー」と言うとロワーダウンをして莉奈を岩から下ろした。続いて莉奈がビレイをして俺が岩を登っていく。俺が「莉奈オッケー」というと莉奈はロワーダウンをして俺を岩から下ろした。ここでも三セットほどそれを繰り返した。


「うん。もうすっかり莉奈はマスターしたと思うよ。ただ安全確保のためにはもっといろいろしないといけないんだけど、基本的な扱い方はこれでいいと思う。ロープの結び方や支点構築も覚えたほうだから忘れないようにしてね」

「ちょっと怖かったけどコツはわかったと思う。でもこれからはロッククライミングもするの?」

「いや、一年に一回か二回ほど、ロープの感覚を取り戻すために行くくらいだよ。俺は基本的にロッククライミングはしないからね」

「そうなんだ。ロッククライミングも面白いんだけど、やっぱりわたしは登山のほうがいいな」

「俺もそうだよ。でももしもの場合に備えて扱えるようになっていないとね」

「うんうん。ちょっと薄暗くなってきちゃったね」

「そろそろ帰ろうか」

「うん。帰ろう」


そう言って俺と莉奈は車を駐車した場所に戻って自宅へ帰っていった。


■ 11月12日(月)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。今日からまた一週間、仕事に行くことを考えると気分は少し憂鬱だった。まあ、月曜日の朝なんてみんなこんな気分になっているんだろう。俺は洗面所で顔を洗ってキッチンへ行った。テーブルの上にハムエッグとサラダ、ご飯と味噌汁が置かれていた。そして俺は椅子に座って朝食を食べていた。キッチンにいた母親が「祐樹、おはよう」と言ったので俺も「母さん、おはよう」と言った。すると母親が「莉奈ちゃんのご両親と顔合わせは今週末だったわね。あんた、お店はちゃんと予約しているの?」と聞いてきたので「ちゃんと予約しているよ」と言った。そう、俺の両親と莉奈の両親が顔合わせするのは今週末の土曜日になったのだ。本当はホテルのレストランなどがよかったのだが、別にお見合いをするわけでもないので、駅前にあるビルの最上階にある中華レストランで夕食を一緒にとることにした。朝食を終えて部屋で着替えると俺は家を出た。


外は晴れているがすっかり寒くなったと思う。もうすぐ冬が訪れるのが楽しみだった。冬になれば雪山登山ができる。莉奈を連れて行きたいと思っている雪山はたくさんあるのだ。そんなことを考えながら駅まで歩いた。駅に到着していつもの時間の電車に乗った。電車の中でスマホを出して山記事を見ていた。今は紅葉時期だが、山ではもう紅葉は終わりになっている。雪山登山になるまでまだもう少し期間があるので、それまでどこの山に登ろうか考えていた。山記事を見ていると時間が経つのが早くてもう会社の最寄り駅に到着した。


10:00前に会社に出勤をして、フロアの前のほうへ行って立ちながら社長が出てくるのを待っていた。社長と西浦真美がフロアの真ん中までやってきて、社長の長い話がはじまった。社長は毎週のようによく話すことがあるもんだと思いながら、俺は上の空で聞いていた。そして社長の話が終わると、西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。


自分の席に座ってパソコンの電源を入れると斜め左前に池上有希がいないことに気づいた。池上有希が遅刻か欠勤とは珍しい。風邪でもひいたのかなって思いながら黙々と業務を続けていた。しばらくすると日根野部長が「誰か池上さんから何か聞いた人いない?」と言った。システム開発部の誰もが「何も聞いてません」と言うと日根野部長は「池上さんから何の連絡もないんだけど、どうしたんだろう」と言った。俺は日根野部長に「池上さんに電話をしてみましたか?」と聞くと日根野部長は「さっき池上さんに電話をしたんだけど出ないんだよ」と言った。池上有希は無遅刻無欠勤を続けていたので、何かあったのかもしれないと少し心配になった。でも何か連絡できない事情があるのかもしれないと思うようにしていた。


昼休みになって会社近くの定食屋に行った。たまには魚でも食べようと思い、塩サバ定食を注文した。塩サバがメインと思ったが大きな唐揚げが三個もあって、ご飯も大盛でボリュームがあった。満腹になって定食屋を出ると外をブラブラ歩いていた。今週も何も起こらず平和であればいいと思いながら、大通りを歩いていた。会社のビルの隣にあるコンビニエンスストアにハイキング特集の雑誌が見えた。こういう雑誌に掲載される登山道には興味がなかったが、一応読んでみようと思ってコンビニエンスストアに入って立ち読みしていた。その雑誌に掲載されている山はもうほとんど登ったことのあるところばかりだった。時計を見るとそろそろ昼休みが終わる時間になっていたので、俺は急いで会社に戻った。


午後になっても池上有希は出勤してこなかった。日根野部長はどうやら心配しているようだったが、俺は明日になれば出勤してくるだろうと思っていた。それにしても無断欠勤とは池上有希らしくない。何かよほどの事情があるんだろうか。そんなことを考えながら業務を黙々と続けていた。結局、この日は池上有希は出勤してこなかった。勤務時間終了の19:00になったので俺はさっさと退社して帰宅した。


■ 11月13日(火)


この日もいつものように8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外をみると今日も天気が良かった。俺は自分の部屋を出て洗面所で顔を洗うとキッチンへ行って朝食をとった。そして部屋に戻って着替えをして家を出た。


駅に向かって歩いていると今日はやけに冷えると思った。そろそろコートを着る時期になってきたかと思っていた。駅に着いていつもの時間の電車に乗った。週末は両親顔合わせの予定があるので登山には行けないが、来週の週末は連休なのでどこの山に行こうかスマホで山記事を見て探していた。せっかくの連休なので一泊二日でどこかの山に行けるといいのだが、アルプスはもうすっかり積雪しているので近くの山に行くしかないのだ。そんなことを考えていると会社の最寄り駅に到着した。


10:00前に出勤してパソコンの電源を入れた。左斜め前の席を見てみると今日も池上有希は出勤していない。もしかして家出でもしたのだろうか。池上有希は実家に住んでいるのか一人暮らしなのかはわからないが、二日間も出勤してこないのはどうもおかしい。俺はそんなことを考えながら業務を続けていた。すると日根野部長が「池上さんは今日もきていないのか。誰か池上さんから連絡を受けてないか?」と聞いてきた。システム開発部の誰もが「池上さんからの連絡は受けていません」と言うと日根野部長が「池上さん、何があったんだろう。なんだか心配になってきた」と言った。もし池上有希が一人暮らしをしていたとして、意識を失って部屋で倒れている可能性もある。そう考えると俺も心配になってきた。結局、午前中に池上有希は出勤してこなかった。


昼休みになり会社の外に出て今日はどこの店に行くか考えていた。かなり冷える日だったのでちょっと体を温めようと思ってお気に入りのカレー屋に行くことにした。このカレー屋はいつもながら客が入ってない。俺はピリ辛のチキンカレーを美味しいと思いながら食べていた。スパイスがきいていて食べていると少し汗がでてきて体が温まってきた。寒い日には辛いものを食べるのはいいのかもしれない。昼食を終えてカレー屋を出ると外にいると体が冷えるので会社近くの書店に入ってコミックスを立ち読みしていた。そして昼休み終わりの時間になったので会社に戻った。


午後になっても池上有希は出勤してくることはなかった。俺は黙々と業務を続けていると西浦真美から『すぐに休憩室に来て!』とテレパシーが送られてきた。俺は西浦真美に『すぐに行く』とテレパシーを送った。西浦真美とはテレパシー能力で話をすればいいのだが、あまり能力を使いすぎるとエネルギーを消費してしまうため、必要以上に能力は使わないようにしている。


休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。そして西浦真美が話しはじめた。


「昨日から無断欠勤している社員が二名いるのよ。どうにも嫌な予感がするわ」

「うちの部の池上さんも昨日から無断欠勤してるんだけど、合わせて三名が無断欠勤してるということになるね」

「池上さんも無断欠勤してるのね。わたしが聞いたのは総務部の阿坂さんと営業部の清水さんが昨日から無断欠勤をしてるらしいわ。阿坂さんは無断欠勤するような人じゃなのよ。今、総務部の田原部長が阿坂さんの家に行って様子を見に行ってるようなの」

「池上さんも無断欠勤するような人じゃないから家に行って様子を見に行ったほうがいいのかもしれないね」

「そうね。いきなり三人の社員が二日間も無断欠勤するなんて偶然とは思えないのよ」


西浦真美とそう話していると突然莉奈から電話がかかってきた。


「もしもし、莉奈、どうかした?」

「もしもし祐樹君、あのね、同僚の保育士さんなんだけど、昨日から無断欠勤してるんだよ。無断欠勤なんてするような人じゃないから心配になったの。そっちは変なこと起こってない?」

「こっちも実は社員が三名、昨日から無断欠勤してるんだよ。莉奈の保育園でも無断欠勤する保育士さんがいるということは、なにか変なことが起こってるのかもしれないね」

「葉月美奈って人なんだけど、あたし、どうすればいいのかな?」

「とにかく莉奈は何もしないで様子を見ていて!何かあったらこっちから連絡するよ」

「わかった。何かわかったら連絡してね」


莉奈と電話を切った後、西浦真美と話を続けた。


「莉奈の働いてる保育園でも無断欠勤している保育士さんがいるみたい」

「これは本当に何か起こっているのかもしれないわ。でも何が起こってるのかわからないわね」

「うーん、とりあえず無断欠勤している人の共通点が何かないか調べてみる必要がありそうだね。何か共通点があるはずだよ」

「共通点ねえ・・・ちょっと調べてみるわ」

「俺は社員の個人情報が見えないから、西浦さんに調べてもらうしかないのでよろしく頼むよ」

「わかったわ。じゃあ早速戻って調べてみるわね」

「うん、じゃあ俺も戻って日根野部長に池上さんの様子を見に行くように言ってみるよ」


そう話して俺と西浦真美は休憩室を出た。


俺は早速、日根野部長の席まで行って「日根野部長、池上さんの家に行って様子を見に行ったほういいですよ」と言った。日根野部長は「うーん・・・わかった。じゃあ今から池上さんの家に行ってみる。午後の業務は任せたよ」と言った。俺は自分の席に戻って業務をしながらいろいろ考えてみた。これは偶然とは思えない。何か不思議な現象が起こっていて無断欠勤している社員達が巻き込まれている可能性がある。もしそうだとすると無断欠勤している三人の社員には何かしらの共通点があるはずだ。その共通点を西浦真美が調べてくれているが、莉奈の保育園にも葉月美奈という保育士が無断欠勤しているので、その保育士の情報も欲しいところだ。しばらくすると西浦真美から『一つだけ共通点があったわよ。三人の自宅の最寄り駅が同じってことよ』とテレパシーが送られてきた。俺は西浦真美に『その最寄り駅ってどこ?』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『金町駅よ』とテレパシーが送られてきた。俺はスマホを取り出して莉奈に”葉月美奈という保育士さんの家を調べてほしい”とメールを送った。金町駅といえば、会社から俺の自宅の最寄り駅のさらに二駅向こうだ。ちょうど莉奈の働いている保育園からも近い。金町駅は駅前に小さな商店街があるくらいで住宅街になっている。その金町駅に何かあるのだろうか。


業務を続けていて17:00過ぎになった頃に日根野部長が帰ってきた。池上有希の家に行ったようだが、いくらチャイムを鳴らしても出なかったらしい。心配になった日根野部長はアパートの管理人さんにドアの鍵を開けてもらい、池上有希の家に入ったようだが誰もいなかったという。一体、池上有希はどこに行ったんだろうか。そう考えていると西浦真美から『田原部長が阿坂さんの家に行ったみたいだけど誰もいなかったみたいよ』とテレパシーが送られてきた。俺は西浦真美に『池上さんも家にいなかったみたいなんだよ』とテレパシーを送った。そしてスマホのバイブレーションが鳴ったので確認すると莉奈から”葉月美奈さんの家は金町駅の近くみたいだよ。詳しい住所を後で送るね”とメールが届いた。やはり金町駅に何かあるんだろう。だからといって金町駅に行ってやみくもに探しても仕方がない。何か探すポイントを見つけ出すしかない。


勤務時間終了の19:00になって俺はさっさと退社して帰宅した。夕食をさっさと終えてシャワーを浴びた後に自分の部屋でいろいろ考えていた。莉奈から葉月美奈の住所が送られてきていた。俺は莉奈に電話をして詳しい話を聞いてみた。


「莉奈、うちの社員もその葉月美奈という保育士さんも、みんな最寄り駅が金町駅なんだよ」

「そうなんだ。金町駅になにかあるのかな?」

「なにかあるかもしれないんだけど、金町駅に行ってやみくもに探しても無駄足になるからね」

「今日ね、心配だからって園長先生が葉月美奈さんの家に行ってみたんだって。でも家には誰もいなかったって言ってた」

「うちの部長も無断欠勤している社員の家に行ったみたいなんだけど誰もいなかったみたい」

「みんなどこいったんだろう?」

「わからないけど、何かの現象に巻き込まれてる可能性はあるね」


その後、莉奈といろいろ話していたが何もわからなかった。そして莉奈との電話を切った後、俺は考え疲れたのでさっさと眠ることにした。


■ 11月14日(水)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて外を見てみると今日も見事な快晴だった。ここのところずっと天気がいいのだが、寒さが増してきているように思える。俺は自分の部屋を出て洗面所で顔を洗うとキッチンへ行ってさっさと朝食をとった。部屋に戻ってジャケットを着こんで家を出た。


駅に向かって歩いていきながら金町駅のことについて考えていた。失踪した社員や保育士は一体どこに行ったのかわからない。単なる家出とは思えないのだ。駅に到着していつもの時間の電車に乗った。電車の中でも失踪した人の共通点が他にもないか考えていた。それさえわかれば金町駅に行って調べてみるのだが今の段階では他の共通点が見つからない。そんなことを考えていると会社の最寄り駅に到着した。


10:00前に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。左斜め前を見ると今日も池上有希は出勤していない。日根野部長も心配になったのか警察に捜索願を出そうかと言ったが、俺は「それはもう少し様子をみてからにしましょう」と言っておいた。これは警察が捜査して解決できる問題ではないと思う。金町駅で何かが起こっていて、四人の人間がそれに巻き込まれている可能性が高い。そんなことを考えていると西浦真美から『すぐに休憩室にきて!』とテレパシーが送られてきた。俺は『すぐに行く』とテレパシーを送って休憩室に行った。


休憩室に入って椅子に座って待っていると西浦真美がカラー印刷した地図を持って入ってきた。地図には失踪した社員の家を赤いペンで丸をしていた。そして西浦真美が話しはじめた。


「莉奈ちゃんの同僚の保育士さんの住所を教えてもらえるかしら?」


俺は葉月美奈の住所を西浦真美に見せると地図でその場所を赤いペンで丸をつけた。赤い丸を見ると四人の家は東西南北それぞれバラバラの位置にあった。西浦真美はその赤い丸をそれぞれクロスに線を引いた。すると地図上で線が交差している中心部分を見た。


「四人の家の中心部にあたるところは大きな公園になってるようね」

「西浦さんはその公園に何かがあると思うの?」

「そうとしか考えられなくない?きっとこの公園に何かがあるのよ」

「たしかにこう見ると中心部が怪しいと思うんだけど、この公園に何があるかが問題だよね」

「とにかく、今日、退社したらこの公園に行ってみるのはどうかしら?」

「まあ共通点にもなってそうだし、行ってみようか」

「念のために莉奈ちゃんも連れていったほうがいいんじゃない?」

「そうだね。もしかすると莉奈の能力が必要になるかもしれないね。昼休みに莉奈にメールしておくよ」

「じゃあわたしも今日はさっさと業務を終わらせるわ」

「わかった。俺もさっさと業務を終わらせるよ。じゃあまた帰りに合流しよう」

「うん。また勤務終了後にね」


そう話して俺と西浦真美は休憩室を出て自分の席にもどった。


昼休みになって俺は莉奈に”今日の20:00に金町駅まで来てほしい。北口駅前で待ち合わせしよう”とメールを送っておいた。今日はチーズチキンランチだと思ったので近くの定食屋に入った。チーズたっぷりのチキンはいつ食べても美味しい。ただの昼食だが俺にとっては幸せのひと時になっている。定食屋を出て外をブラブラ歩きながら金町駅の公園をどう調査しようか考えていた。行ったこともない公園なので何も想像できないが、公園のどこを調べればいいのかわからない。ただ、テレパシー能力を使って各自がバラバラに調査するのは避けた方が良さそうだ。誰かが何かに巻き込まれて失踪してしまうとまずい。あくまで三人で固まって調査するほうがよさそうだ。あれこれ考えていると昼休みの時間が終わったので会社に戻った。


午後の業務をしていると西浦真美から『田原部長が阿坂さんの捜索願を警察に出そうって話をしてるわよ。どうしよう?』とテレパシーが送られてきた。俺は『すぐに止めてほしい。もう少し様子を見てからのほうがいいと説得してほしい』と西浦真美にテレパシーを送った。西浦真美から『わかったわ』とテレパシーが送られてきた。今ここで騒ぎを起こすと問題がこじれる可能性が高い。これは何かしらの現象が起こっている可能性が高い。下手に誰かが動いたら今度はその人が巻き込まれる可能性があるのだ。しばらくして西浦真美はなんとか田原部長を止めることができたとテレパシーが送られてきた。これは莉奈のほうにも同じことを言っておかないといけない。そう思った俺はスマホを取り出して莉奈に”園長先生が警察に捜索願を出したりしないように、なんとか止めてね”とメールを送っておいた。その後、俺は営業部のフロアに行った。


営業部のフロアに入って俺は営業部長である遠藤篤の席へ行った。そして遠藤篤に「清水という社員と連絡がとれないようですが、警察に捜索願を出したりしないでください」と言った。遠藤篤は「まだそんなことを考えてませんが、どうして水嶋さんがそんなことを言うのでしょうか?」と不思議そうな表情をしながら言った。俺は「いや、会社で大騒ぎになるとまずいと思いますから」と言って適当に誤魔化しておいた。遠藤篤は「それもそうですね」と言って納得したようだった。


俺は自分の席に戻って業務をしていた。しばらくすると莉奈からメールが届いた。莉奈は20:00に金町駅に行くということ、そして園長先生には警察に捜索願をまだ出さないほうがいいと言っておいたようだ。今夜は嫌な予感しかしないのだが、この失踪事件の解決は俺達がしなければならない気がしてきた。そんなことを考えながら業務を続けていた。


勤務時間終了の19:00になったので俺はさっさと退社した。会社のビルの外で西浦真美と合流して一緒に駅へ向かった。西浦真美の家は会社の近くだったので電車で移動して再び戻ってこないといけない。電車に乗って俺と西浦真美は沈黙していた。これから何が起こるかわからないのでお互いに不安になっていたのだと思う。そして金町駅に到着した。


金町駅北口の改札を出ると莉奈が待っていた。莉奈は「どこに行くの?」と言ったので俺は「何かが起こってるかもしれない公園に行くんだよ」と言った。金町駅北口の階段を降りると駅前にはコンビニエンスストアがあって暗くなった小さな商店街がある。その小さな商店街を通って住宅街の中に入っていった。住宅街を10分ほど歩いていくと目的の公園の前に到着した。俺は「何が起こるかわからないから三人でかたまって調査しよう」と言った。公園内はかなり広くて真ん中に小さな噴水があった。住宅街の中にこんな広い公園があるなんて不思議な感じがした。公園内は電灯がついていて結構明るい。三人で公園内を歩いて変なものがないか調べてみたが、特におかしなものは見つからなかった。やはりこの公園は関係ないのかと思いながら噴水前の階段に三人で座った。莉奈は「何も見つからないね」と言って西浦真美は「この公園は無関係だったのかしらね」と言っている。無駄足だったかと思いながら噴水を眺めていた。そして21:00になった瞬間、噴水から水が噴き出た。どうやら一時間に一回、噴水から水が噴き出るようだ。三人で噴水を眺めていると噴水の水が水色に光った。一瞬の出来事だったがまるで水色のフラッシュがついたように強い光だった。莉奈が「今の光は何?」と言った。俺は何かのイルミネーションでライトアップされたものかと思って辺りを見回したがライトなどはなかった。今の水色の光は一体何だったんだろうと思っていると西浦真美が「噴水のライトアップでもしたのかしら」と言った。俺は「それにしては一瞬で強い光だったよね。ライトアップにしては不自然じゃない?」と言った。莉奈は「ライトが壊れてるのかな?」と言って西浦真美は「とにかくここには何もないようね」と言った。結局、時間も遅くなったので俺達は金町駅に戻ることにした。金町駅に着くと莉奈の最寄り駅は逆方向なので解散となった。そして俺も二駅先の自宅の最寄り駅で降りて西浦真美と別れた。


俺は自宅に戻って夕食をさっさと終えてシャワーを浴びた後、自分の部屋で考えていた。さっきの水色の光が気になっていた。あの噴水であきらかに不自然な光り方をした。水色の光というのが何を意味しているのかわからないが、今回の社員失踪事件と何か関係があるのかもしれない。そんなことを考えながら知らない間に眠っていた。


■ 11月15日(木)


目が覚めると辺り一面が水色の空間にいた。これは夢中空間ではない。何もないただ広い水色の空間だ。これは夢の世界なのかわからないが夢中空間のように意識がハッキリしている。辺りを見渡すと少し離れた場所に莉奈が横たわっていた。俺は莉奈を起こした。莉奈は目覚めて「あれ?なにここ?」と驚いてるようだった。するともう少し離れた場所に西浦真美が横たわっていたので走っていって起こした。西浦真美は目覚めると「えっ?これは夢じゃないわよね?ここはどこ?」と不思議そうな表情をしながら言った。たしか俺は自分の部屋のベッドで寝ていたはず。目が覚めるとこの水色空間にいたということは夢の世界のようだが、意識がハッキリしてるところを考えると、どうやら異次元の世界に来たようだ。それにこの水色はあの噴水で光っていた水色だ。


水嶋祐樹「どうやら俺達は夢でありながら異次元の世界にきたみたいだよ」

笹原莉奈「異次元の世界?これは夢だけど別の世界ってこと?」

水嶋祐樹「あの噴水の水色の光と全く同じ水色の空間だし、意識もしっかりしてるから夢でありながら異次元の世界のようだよ」

西浦真美「たしかに意識はしっかりしてるわね。でもあの噴水の光と何か関係あるのかしら?」

水嶋祐樹「おそらく関係あるように思う」

笹原莉奈「それにしてもすごく広い空間だけど、ただ水色なだけで何もないね」

西浦真美「ここで眠ったら元の世界に戻れるのかしら?」

水嶋祐樹「いや、それはわからないけど、どうも特殊能力とは無関係な空間のような気がするんだよ」

西浦真美「そうね。特殊能力に関係するのはあの夢中空間よね」

笹原莉奈「何か音が聞こえてこない?」


莉奈がそう言うとかなり向こうのほうから大きな獣が走ってきた。だんだんこちらに近づいてきた。体長は10メートルほどあるだろうか。莉奈は「あれはイノシシ?ゾウさん?」と言ったがイノシシでもゾウでもない。どこかでみたことあるような獣だった。イノシシのような感じだが鼻が少し長い。俺は「あれは夢を食べるというバクだ!」と言った。バクといえば人の夢を食べて生きているという架空の生物だ。その体長の大きなバクは口をあけてこちらへ向かってきている。かなり敵意があるように思えた。俺は「莉奈、透過能力を使って姿を消して!西浦さんは後ろに逃げておいて!」と言った。そして俺はトランセンドレッド状態になった。バクが俺のほうへ口を開いて襲ってきた。俺は大きくジャンプしてバクの頭を蹴った。するとバクは横に倒れた。西浦真美は「水嶋君、倒したの?」と言ったが、バクは起き上がってまた俺を襲ってきた。俺は再び大きくジャンプをしてバクの頭に蹴りを入れたあとバクの背中に肘打ちをした。バクはそのまま倒れた。さらに俺は倒れたバクの頭をかかと落としをした。まだピクピクとバクは動いてるようだったので俺はトドメにバクの頭を思いっきり蹴った。そしてバクは倒れたまま動かなくなった。西浦真美が「この獣の姿が消えていくわよ」と言った。バクのほうを見るとバクの姿が薄くなって消えていった。俺はトランセンドレッド状態から元の状態に戻った。バクの姿が完全に消えると、今度は黒いパジャマ姿の池上有希とピンクのパジャマ姿の女性、緑のジャージを着た男性、ほかにもパジャマ姿の男女五名が横たわって眠っていた。莉奈も透過能力を解除して姿を現した。


西浦真美「これはどういうことかしら?どうしてこんなところに池上さんや阿坂さんがいるのかしら?」

水嶋祐樹「おそらくだけど、あの噴水の光を見た人がこの夢である異次元の世界に来てしまって、バクに襲われたんだと思う」

笹原莉奈「あっ、葉月美奈さんもいる!あのバクとかいう生き物がこの人達を食べちゃったのかな?」

水嶋祐樹「おそらくそうだよ。この人達はこの異次元の世界に取り残されたんだと思う。だから俺達の存在も元の世界では消えてるんじゃないかな?」

西浦真美「どうやって元の世界に戻るつもり?」

水嶋祐樹「おそらくこの異次元世界の創造主はさっきのバクだと思うから、この空間は消えて、みんな元に戻るんじゃないかな?」

笹原莉奈「あっ!水色の空間が消えていってる」


水色の空間が薄れてきて消えていっている。俺達はどうなるんだろうと思ったが、水色空間が完全に消えると真っ白な空間になった。そして眠っている数人の姿が消えていった。


西浦真美「池上さん達の姿が消えていってるわ。あら、わたし達の姿も消えていくようね」

笹原莉奈「わたし達もこのまま消えちゃうの?」

水嶋祐樹「おそらく消えていって意識を失って目覚めると自分の部屋にいると思う」


そして俺の姿が消えると同時に意識がなくなった。


朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。予想通り、あの異次元世界から自分の部屋に戻ってくることができた。今回は特殊能力は関係なかったが、こんなことがこれからも起こるんだろうか。俺は朝からそんなことを考えながら出勤する準備をした。


家を出ると今日はどんよりした曇り空だが雨は降ってきそうにない。そして駅に到着していつもの時間の電車に乗った。あの異次元世界の人達もこの世界に戻ってくることができたのか心配だったが、おそらく大丈夫だろうと思っていた。そして会社の最寄り駅に到着した。


10:00前に出勤して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。すると「おはようございます」と池上有希が出勤してきた。池上有希はすぐに日根野部長のところへ行って三日間の無断欠席について謝罪していた。池上有希は三日間の間、記憶喪失になっていて知らない場所でずっと眠っていたと日根野部長に説明した。日根野部長は心配そうに「池上さん、もう体調は大丈夫なの?」と聞いていた。池上有希は「もう記憶も戻ったので大丈夫です。申し訳ありませんでした」と言った。総務部では阿坂絵美里も出勤して、営業部では清水啓太郎も出勤しているようだ。みんな無事で本当に良かったと思う。それぞれ三日間の無断欠勤についてどんな理由を説明したのかわからないが、誰もが心配していたのでそこまで怒られないだろう。昼休みには莉奈から”葉月美奈さんが無事に出勤してきた”とメールが届いたので今回の問題は解決しただろう。それにしてもあの異次元世界で眠っていた人達はこの三日間の記憶はないんだろうか。俺は池上有希に「池上さん、なんか怖い夢でも見てたの?」と聞いてみると池上有希は「怖い夢を見たような気がするけど覚えてないです」と言った。本当のことは言わないほうがいいだろうと思って俺は黙っておくことにした。

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