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未来からの伝言  作者: 涼
29/41

異世界生活日記Part1

■ 2018年11月4日(日)


すっかり日が暮れた18:00過ぎに俺は黒岩優と電話をしていた。


「黒岩さん、いろいろありがとう。おかげで特殊能力を自由自在にコントロールできるようになったよ」

「いいえ。わたしでお役に立てたのであればよかったです」

「ただ、もっと役を演じるコツを教えてほしいのでこれからもよろしくお願いするね」

「こちらこそ、また山に連れて行ってくださいね」

「うん。もうすぐ雪山の季節になるから一緒に行こう」

「はい!雪山楽しみにしてます。ではわたしはこれから仕事ですので失礼しますね」

「またね」

「はーい。またです」


俺はもうかなりの役を演じれるようになっていたが、黒岩優に人格乗り移りをした時のイメージ力にはまだほど遠い。あそこまでイメージ力を強くして役を演じれるようになるにはもっと黒岩優から学ばないといけない。そう思いながら俺はキッチンへ行き夕食をとっていた。そしてシャワーを浴びて自分の部屋に戻ると藤堂晃が待っていた。別の世界線からやってきた藤堂晃だ。


「水嶋さん、こんばんわ。お待ちしていました」

「藤堂さん、こんばんわ。いよいよ俺達がそっちの世界線に行く日だね」

「はい。水嶋さん、あれからトランセンド状態を自由にコントロールできるようになりましたか?」

「うん。ずいぶん苦労したんだけど、黒岩さんのおかげで今は自由にコントロールできるようになったよ」

「それはよかったです。では演技力もかなり教わったのですね?」

「ちゃんと役を演じれるイメージ力も訓練しておいたよ」

「安心しました。みなさん、心の準備はできていますか?」

「うん。俺も莉奈も西浦さんも、もう心の準備はできてるよ」

「わかりました。今日はその確認をするためにやってきました。ではまた屋根裏部屋をお借りします。夢中空間でお待ちしていますね」

「わかった。じゃあまた夢中空間で会おう」


藤堂晃は屋根裏部屋にあがって眠りについたようだ。いよいよ別の世界線へ行くことになる。不安だらけだが、この藤堂晃を助けるためにも別の世界線での西浦真美を助けるためにも俺達は覚悟を決めていた。全てを解決させて必ず無事にこの世界線に戻ってくる。そう決心しながら22:00過ぎに俺は眠った。


■ 2018年11月5日(月)


目が覚めると真っ白な広い空間にいた。ここはまさに夢中空間だ。俺が目を覚ますと西浦真美の隣に座っていた藤堂晃が座っていた。そして俺の隣には莉奈、向かいの席には西浦真美が座りながら眠っていた。俺は二人を起こすと西浦真美が「ついに行く日がきたのね」と言った。莉奈は「いよいよかあ」と呟いた。そして藤堂晃が「みなさん、お待ちしていました」と言った。


西浦真美「それでどうやって藤堂君の世界線に行くの?」

藤堂晃「まず、西浦さんと笹原さんは水嶋さんと手を掴んでください」

笹原莉奈「これでいいの?」

西浦真美「これでいいのね?」

藤堂晃「はい。それで大丈夫です。みなさん、本当にありがとうございます。では水嶋さん、この写真を見てください」


俺は藤堂晃の差し出した写真を眺めた。広い畳の部屋で20畳くらいあるだろうか。しかしその部屋には何も置かれていない。ただ薄緑の壁に障子があるだけだ。


藤堂晃「これは僕の世界線の部屋の中です。みなさんはここで目を覚ますことになります。水嶋さん、まずこの部屋の中にいると強くイメージしてください」

水嶋祐樹「わかった」

藤堂晃「笹原さんと西浦さんは目を閉じてそのまま眠ってください。水嶋さんは写真のイメージを頭に焼き付けたら、目を閉じながら強くイメージし続けて眠ってください」


俺は目を閉じてその部屋にいるという役を演じるかのように強くイメージした。


藤堂晃「みなさん、よろしくお願いします」


俺は強くイメージしながら知らない間に眠っていた。


藤堂晃「みなさん、朝になりました。起きてください!」


藤堂晃の大きな声が聞こえて目を覚ますと、まさに写真の中に入ったかのように20畳くらいの畳の部屋で目が覚めた。莉奈と西浦真美もその部屋をみて驚いている。


西浦真美「ここが、藤堂君のいる世界線なの?」

藤堂晃「そうです。ここは僕の家で一番広い部屋になります」

笹原莉奈「すごく広い部屋!それにこの家すごく大きいんじゃない?」

水嶋祐樹「藤堂さん、家の人とかいないの?」

藤堂晃「僕の両親は海外出張していますので、今この家にいるのは僕一人です。みなさんには各自、部屋とベッドを用意していますので、この世界線にいる間は使ってください」

西浦真美「わたし達の世界線にいる藤堂君の家もこんなに大きいのかしら?」

藤堂晃「いいえ、おそらくみなさんの世界線にいる僕は一人暮らしをしていると思います」

笹原莉奈「今は何時だろう?この部屋って時計はないの?」

藤堂晃「今は朝の6:00過ぎです。みなさんにはまず、これをお配りします。こちらの世界線での連絡はこれを使ってください」


藤堂晃は3つの黒いスマートフォンをそれぞれに配った。


西浦真美「あら、ちゃんと連絡先が登録されてるのね」

藤堂晃「はい。僕があらかじめ用意しておきました。それぞれの連絡先が入っています。それと一つの能力を教えますのでこれも使ってください」

笹原莉奈「一つの能力って?」

藤堂晃「心の中でどなたかに話しかけてみてください」


俺は莉奈に『大好き』と心の中で話しかけてみた。すると莉奈の声で『わたしも大好き』と聞こえてきた。続いて西浦真美に『西浦さん、美人だね』と心の中で話しかけてみた。すると西浦真美の声で『彼女の前で何言ってるのよ』と聞こえてきた。


水嶋祐樹「これは便利だね。テレパシー能力?」

藤堂晃「そうです。テレパシー能力です。ただし、500メートルくらいにその相手がいないと声は届きませんので注意してください」

笹原莉奈「すごい便利。これ、わたし達の世界線に戻っても使えるのかな?」

藤堂晃「それはわかりません。では、みなさん、朝食を準備していますので食べ終わったら変装してください。特に髪型を変えてつけ黒子などをつけてください。西浦さんと笹原さんはメイクなどしていつもと違うようにしてください」


俺達三人は藤堂晃について行き朝食に高級そうなパンとコーヒーをいただいた。そして変装がはじまった。俺は髪型をオールバックにして目の下につけ黒子をつけてメガネをかけた。莉奈は髪型を変えて厚化粧にしていた。西浦真美はあらかじめ美容院に行ったようで髪型が少し短くなっているところでポニーテールにしておでこのあたりにつけ黒子をつけてメガネをかけた。服装は薄い緑色の清掃員用の作業着が三人分用意されていた。その作業着に着替えた。


藤堂晃「みなさん、完璧な変装です。それでこのマスクをつけてください。あと、各自三万円ずつお渡ししておきますね。それとこれは定期替わりに使ってください。では会社に出勤しましょう」

西浦真美「わかったわ」

笹原莉奈「会社なんてはじめていくから楽しみ!」

水嶋祐樹「じゃあ行こうか」


俺達三人は変装しながら藤堂晃について行き、駅に到着して電車に乗った。電車の色や外の景色は俺達のいた世界線と全く同じで何が違うのかわからなかった。そして会社の最寄り駅に到着した。会社の外の景色も俺達の世界線と全く同じように思える。会社のビルに入ってエレベーターに乗った。西浦真美が小さな声で「わたし達の世界線と全く同じじゃない?」と言った。俺もどこが違うのか全くわからなかった。エレベーターを降りて会社のフロアに入ると知った顔が並んでいた。フロアの一番後ろで藤堂晃が小さな声で「今日は朝礼ですので、みなさんはこのあたりで社長の話を聞いていてください」といった。そして藤堂晃は俺達の世界線だと西浦真美の席のところに鞄を置いて、社長室をノックして呼び出しているようだった。そして社長室から社長が出てきた。いつも元気で活き活きした社長ではなく、なにやら暗い表情をしている。そしてフロアの真ん中に社長と藤堂晃が立って社長が話しはじめた。


「みなさん、おはよう。今、我が社はあの事件以来、世間からの信用がなくなっている。しかし、ここにいる社員のみんなが心を一つにして世間の信用を取り戻すことができれば、この危機を乗り越えられるだろう。今は大変な時期になっているが、みんなが頑張れば努力は必ず報われるはず。みんな本当にお願いする。今を乗り越えてほしい。私からは以上だ」


なんだかこの世界線の社長の話は短くて弱弱しく感じた。そして藤堂晃が「ではみなさん、今週もがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。この世界線では藤堂晃が社長秘書をやっているようだ。それにしてもあの事件とは何があったんだろうか。フロアにいた従業員達は各自静かに自分の席に座った。そして藤堂晃がこちらへやってきて「みなさん、社長に挨拶にいきますのでついてきてください」と言った。藤堂晃についていくと社長室をノックした。すると社長の声で「どうぞ」と聞こえた。藤堂晃は社長室のドアを開いて「失礼します」と一礼をした。俺達三人も一礼をして「失礼します」と言って社長室に入った。


「社長、こちらは今日から前川さんの代わりにしばらく清掃員として働いていただく方々です」

「藤堂、臨時とはいえ三人も雇ったのか?」

「この三人はわたしの親戚でして、清掃員として慣れていません。しかし、日給は一人分を三人で分けるという話になっておりますのでご安心下さい」

「そうか、ではよろしく。それより藤堂、西浦の様子はどうだ?」

「西浦さんはまだまともに話せる状態ではありませんね。なかなか難しいようです」

「まだそんな状態なのか。こんな時に西浦がいてくれれば助かるのだが・・・それに藤堂をいつまでも社長秘書代理を務めさせるわけにもいかないからな」

「私のことでしたらご心配なく。西浦さんの病状が回復するまで代理を続けさせていただきます」

「藤堂、君には申し訳ないがよろしく頼む」

「はい。ではこれで失礼します」


社長に一礼して俺達三人と藤堂晃は社長室を出た。そして藤堂晃は「みなさん、こちらへ来てください」と言った。俺達三人は藤堂晃についていくと、俺達の世界線では倉庫になっている部屋に案内された。


藤堂晃「この部屋をみなさんでお使いください。僕が清掃員室として用意してもらいました。あとテーブルの上にあるノートパソコンは社内と繋がっていますので、座席表やフロアなどを確認しておいてください」

西浦真美「本当に別の世界線なのね。あんな弱弱しい社長を見たのは初めてだわ」

藤堂晃「社長ももう疲れ切っている感じなのです」

水嶋祐樹「さっき社長があの事件って言ってたけど、一体何があったの?」

藤堂晃「営業部の社員が暴力事件を起こしたのです。大した事件ではなかったのですが、メディアに報じられてしまいました。あの事件もきっと特殊能力悪用者が人格入れ替わり能力を使ったのだと僕は思っています」

水嶋祐樹「なるほど。それにしても社内がやけに静かだけど、この世界線の社員はみんな静かに仕事してるの?」

藤堂晃「みんな、もう人間不信になっているのです。それにときどき錯乱状態になる社員がいるのですが、それもおそらく特殊能力悪用者が人格入れ替わり能力を使っているのだと思っています」

笹原莉奈「会社ってこんな静かなところなんだって思ったけど違うんだ?」

水嶋祐樹「俺達の世界線での会社はもっと騒がしいよ」

西浦真美「今、ノートパソコンで座席表みてるんだけど、知らない名前があるのよね。例えばこの木場健吾、それと加賀美樹、あとは蒼井菜穂ね」

藤堂晃「木場健吾さんは水嶋さんの代わりに来てもらった派遣社員ですね。加賀美樹さんは僕が社長秘書代理となったので、僕の代わりに来てもらっている派遣社員です。あと蒼井菜穂さんはインターンシップで、僕のサポート役をしてもらっています」

西浦真美「蒼井って名前はどこかで見た気がするんだけど記憶違いかしらね」

藤堂晃「蒼井さんはただの学生さんですが、よく頑張ってくれていて助かっています」

西浦真美「まあいいわ。それよりこの世界線での会社の経営は相当まずいみたいね」

藤堂晃「そうなんです。もういつ倒産してもおかしくないくらいなのです」

笹原莉奈「でもすごい社員さんが多いね」

水嶋祐樹「とりあえず清掃しているフリをして社内を見回ってみるよ」

藤堂晃「そうですね。ではみなさん、僕は戻りますのでよろしくお願いします」


そう言って藤堂晃は部屋から出て行った。


水嶋祐樹「じゃあ、みんなで見回っておかしな挙動をしてる人がいたらテレパシー能力で伝え合おう」

笹原莉奈「わたしはどこを見回ればいいの?」

水嶋祐樹「莉奈はまず朝礼していたフロアを見回ってほしい。俺はアプリケーション事業部のフロア、西浦さんは営業部のフロアをお願いしたい」

西浦真美「わかったわ」

笹原莉奈「じゃあ見回ってくるね」


俺達三人はそれぞれ各フロアを見回った。しかし、おかしな挙動の人間がいるどころか人間不信なのか静かに業務をしている。この世界線でも宮ノ下和宏がいるようだ。俺は西浦真美に『西浦さんそっちはどう』とテレパシーを送った。すると西浦真美から『営業部の社員もみんな静かで不気味だわ。でもおかしな挙動の人はいないわね』と声が聞こえた。今度は『ねえ、祐樹君。すごく若い社員さんがいるんだけどちょっとわたしに似てるかも』と莉奈の声が聞こえた。俺は莉奈に『その社員はどのあたりに座ってるの?』とテレパシーを送った。すると『えっと、ドアの近くかな。祐樹君も見に来くるとわかるよ』という莉奈の声が聞こえた。俺は莉奈のいる一番大きいフロアに行った。そしてドア近くに座っているという若い社員を見た。その社員はかなり若くて身長は155センチメートルくらい、栗色をしたサラサラのショートヘアーに少し大きめの目をして丸顔でリクルートスーツを着ている。たしかに言われてみれば莉奈に似ているが学生ぽい。俺は莉奈に『おそらくこの若い女性は学生さんでインターンシップの蒼井菜穂さんだと思う』とテレパシーを送った。すると『そうなんだ。なんだか私にちょっと似てると思わない?』と莉奈の声が聞こえた。俺は『似てるといえばちょっと似てるかもね』と莉奈にテレパシーを送った。とにかくおかしな挙動をしている人が見つからなかったので清掃員室へ戻った。


西浦真美「おかしな挙動をした人はいなかったわね」

水嶋祐樹「一応、女性に焦点をあてて探したけど、誰も人間不信なのか、静かだった。なんか不気味な雰囲気だったよ」

笹原莉奈「でもこの会社内の誰かが悪い人なんでしょ?」

水嶋祐樹「それは間違いないと思うけど、この状況だと誰かわからないね」

西浦真美「藤堂君が錯乱状態になる社員がいるって言ってたじゃない?まずはそうなる人を待ってみましょうか。もし人格入れ替わりを使っているのなら、その近くに特殊能力者がいるはずよ」

笹原莉奈「そうだよね。あの能力使うと自分の体はぐだーってなるもんね」

水嶋祐樹「じゃあまずはそれを待とうか」


俺達三人は誰かが錯乱状態になるのを待つことにした。しかし、午前中には何も起こらなかった。そして昼休みになったので会社の外で昼食をとることにした。この世界線にもあのラーメン屋はあるだろうか。俺は「ラーメン屋に行こう」と言って三人で俺達の世界線にあったラーメン屋に行ってみた。するとこの世界線でもラーメン屋は存在していた。ラーメン屋に行って「豚骨ラーメンセット三つお願いします」と注文した。この世界線でも豚骨ベースの醤油味でゴマとマー油がいいアクセントになって美味しい。莉奈は「ここのラーメン美味しいね。ご飯とスープも美味しい!祐樹君、いつもこんなの食べてるの?」と聞いてきたので俺は「たまにね」と答えておいた。ラーメン屋を出て三人はとにかく会社に戻ることにした。昼休み中でも何が起こるかわからない。清掃員室に入ってずっと待っていたが昼休みには何も起こらなかった。


午後の業務になって、再び三人で各フロアを見回っていたが、特におかしな挙動をする人は見つからなかった。清掃員室に戻ってとりあえず何かが起こるのを待っていた。西浦真美はノートパソコンでこの世界線の会社の情報をあれこれ調べているようだった。そして15:00を過ぎた頃、フロアから大きな声が聞こえた。これはおそらく児島信二の声だ。


水嶋祐樹「この声は児島信二だ。みんなおかしな人がいないか見に行こう」

西浦真美「わかったわ」

笹原莉奈「ついて行くね」


俺達三人は急いでシステム開発部のデスクフロアに行くと、児島信二が日根野部長に何か言ってるようだった。話を聞いてみると児島信二は「あんたの下で働くのはもう懲り懲りだ!今すぐこんな仕事辞めてやる!」と日根野部長に怒鳴っている。すると池上有希が「児島君、落ち着いて!日根野部長、児島君が錯乱状態になっているようです」と言いながら児島信二の腕を掴んでいた。小松結衣も「児島さん、辞めてください!」と言いながら児島信二の腕を掴んでいる。児島信二は「どけよお前ら!」と言って日根野部長のほうに行こうとしている。俺は莉奈と西浦真美に『周りにおかしなやつはいないか探して』とテレパシーを送った。莉奈と西浦真美は周囲を見渡している。日根野部長が「児島君、落ち着きなさい」と言っている。そこに何もせずにずっと座って業務をしている男性がいた。黒髪のマッシュヘアーに身長は165センチメートルくらいで目が細く長細い顔をしている。これがおそらく俺の代わりにきている派遣社員の木場健吾だろうと思った。どうして何もしないんだろうか不思議に思った。しばらくすると児島信二が「あれ?僕・・・今何してたんでしょうか?池上さん、小松さん、僕おかしなことしてました?」と言った。池上有希は「児島君、錯乱状態になってたよ」と言った。そして児島信二の腕から手を離した。小松結衣も手を離してホッとした表情をした。日根野部長は「児島君、ちゃんと薬飲んでおきなさい」と言った。そこへ藤堂晃がかけつけてきた。藤堂晃は「何かありましたか?」とシステム開発部の社員に聞くと池上有希が「児島君が錯乱状態になりました」と言った。藤堂晃は「児島さん、もう落ち着きましたか?」と聞いたので児島信二は「はい。お騒がせしてすみませんでした」と言って一礼した。そして藤堂晃が「蒼井さん、いますか?」と言うと後ろのほうから若いインターンシップの蒼井菜穂がやってきて「また錯乱状態になった人がいるのですか?」と言った。藤堂晃が「児島さんが錯乱状態になったみたい。蒼井さん、この記録を取っておいてください」と言った。すると蒼井菜穂が「かしこまりました」と言った。そして、藤堂晃と蒼井菜穂は戻っていった。俺達三人もとりあえず清掃員室に戻ることにした。


笹原莉奈「周りを見たけどおかしな人はいなかったよ」

西浦真美「どこにもいなかったわね。どういうことかしら?」

水嶋祐樹「でも、あの口調や態度はとても児島君ではなかったよ。でも俺も周りを見渡したけどおかしな人はいなかった」

笹原莉奈「あの偉い人を殴ろうとしてたのかな?それにしても薬って何だろう?」

水嶋祐樹「おそらく精神安定剤みたいなものかも。それよりおかしいのはあの派遣社員の木場健吾かな。あんな状態になったのに何もせずずっと椅子に座ってた」

西浦真美「わたしもそう思ったわ。ちょっと不自然よね?」

笹原莉奈「悪い人は女の人じゃないのかもしれないね」

水嶋祐樹「西浦さん、あの木場健吾って人の情報を集めてもらえるかな?」

西浦真美「わかった。調べてみるわ」


西浦真美はノートパソコンで木場健吾の情報を集めていた。経歴書や履歴書などの情報も見れるので便利だ。しかし、もし特殊能力悪用者が男性である場合、トランセンド状態になれるかもしれない。そうなるとかなり厄介になる。二時間ほどして西浦真美が集めた情報から木場健吾にはこの会社に恨みがある可能性があることがわかった。


西浦真美「この木場健吾って人は33歳なんだけど、以前、この会社の面接を受けたみたいね。昔の履歴書がでてきたからおそらく不採用になったんだと思う」

水嶋祐樹「どうして不採用になったのかまではわからないよね?」

西浦真美「さすがにそこまでの情報はないわね。ただ、経歴に空白の時期が多いから、おそらく無職かフリーターの時期もあったんじゃないかしら」

水嶋祐樹「それで不採用になったけど、派遣社員としてこの会社で働くことができたってことか・・・うーん」

笹原莉奈「それってちょっと怪しいね。一度不採用だった人が派遣だからといって不採用になった会社で働くかな?」

西浦真美「そうね。ちょっと不自然よね」

水嶋祐樹「とにかく、次に錯乱状態になった人がいたら、西浦さんはその木場健吾の様子を見にいってほしい」

西浦真美「わかったわ」


ところがこの日はもう何も起こらなかった。そして勤務時間終了の19:00になって藤堂晃が清掃員室にやってきた。そして藤堂晃が「みなさん、今日のところは帰りましょう」と言った。藤堂晃の家についたのは20:00を過ぎていた。そして夕食をとって各自がシャワーを浴びた後、俺達三人と藤堂晃で木場健吾が怪しいと話をした。


藤堂晃「たしかにそれは怪しいですね。たしかに木場健吾さんの行動は不自然だったように思います」

水嶋祐樹「とにかく明日から錯乱状態になった人が現れたらその木場健吾の様子を見に行くことにするよ」

藤堂晃「わかりました。よろしくお願いします」

笹原莉奈「じゃあもう遅くなったから寝ようか」

藤堂晃「そうですね。では、みなさんそれぞれのお部屋で寝てください。また明日よろしくお願いします」


そうして俺達三人は各自の部屋に用意されているベッドで眠ることにした。


■ 2018年11月6日(火)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って起きた。いつもの部屋と違うのでちょっとびっくりしたが、俺達は今別の世界線に来ているんだった。各自が部屋を出てキッチンで高級なパンを食べながらコーヒーを飲んだ。うまくいけば今日、特殊能力悪用者を見つけ出して能力を奪い返せるかもしれない。昨日の状況から考えて木場健吾はとても怪しいのだ。今日も完璧な変装して藤堂晃の家を出た。そして駅に着くと電車に乗った。俺達三人は今日、錯乱状態になる人を待つしかないと思った。そして会社の最寄り駅に到着して10:00前に出勤した。俺達三人は清掃員室に入った。とりあえず午前中は清掃員のフリをしながら、挙動がおかしな人を探すことにした。念のため莉奈にはアプリケーション事業部のフロアを見回ってもらい、俺は木場健吾のいる一番大きなフロアを見回った。しかし、やはり結果は同じでこの会社の社員は静かに黙々と業務をしているだけだった。


西浦真美「営業部はお通夜のような雰囲気で不気味だわ。でもおかしな挙動をした人はいなかったわ」

笹原莉奈「アプリケーション事業部のフロアも見てみたけど変な人はいなかったよ」

水嶋祐樹「うーん。この雰囲気だと誰が怪しいのかわからないね。みんな同じような感じだから。でも諦めずに午後も見回ろう」

西浦真美「そうね。まだ二日目だし、そう簡単に見つかるとは思えないわ。あの藤堂君が見つけられないんだし、根気よく見回るのがいいわね」

笹原莉奈「うんうん!悪い人はいつかきっと尻尾を出すと思う」

水嶋祐樹「そうだね。それまで待つしかないね」


ところが午前中は結局何も起こらなかった。結局、昼休みになり近くの定食屋で昼食をとることにした。この世界線でも同じ定食屋でメニューも同じものだった。西浦真美は「わたし達の世界線とほとんど同じだけど、会社だけは全く別の世界のようね」と言った。たしかにその通りだ。この世界線でも外は全く変わらない。ただ違うのは会社の中だけなのだ。昼食を終えた俺達三人は急いで会社に戻って清掃員室へ入った。しかし昼休みには何も起こらなかった。午後になって再び俺達三人は各フロアを見回りすることにした。あくまで清掃員としての仕事もしておかないといけない。木場健吾のいる大きなフロアは俺が見回ることにして、アプリケーション事業部のフロアは莉奈、営業部のフロアは西浦真美が見回ることにした。念のため木場健吾の様子を見ていたが、ただ黙々と業務をしているだけだった。そして各自の見回りが終わって清掃員室へ戻った。


西浦真美「営業部のフロアは相変わらずだったわ」

笹原莉奈「アプリケーション事業部のフロアも変な人はいなかったよ」

水嶋祐樹「うーん。木場健吾の様子を見てたんだけど、ただ黙々と業務をしているだけだったんだよね」


この見回りをすることに意味はないのだろうか。俺達三人でそんな話をしていた時、総務部のほうから女性の大きな声が聞こえてきた。俺は「西浦さんは木場健吾の様子を見に行って!」というと西浦真美は「わかったわ!」と言ってシステム開発部のほうへ走っていった。俺と莉奈は総務部のほうへ走っていった。俺は『莉奈は周りにおかしな人がいないか調べて!』と莉奈にテレパシーを送った。そして総務部に行くと多田美枝子が「あーもう!こんな仕事やってられない!みんなバカバカしいと思わないの!」と怒鳴りつけている。総務部の社員達がびっくりして多田美枝子に「多田さん気をしっかり持って」と言っている。多田美枝子は「あんた誰に向かって言ってるかわかってるの!バカバカバカ」と一人の女性社員に言っている。その女性社員の名前は知らないが顔は知っている。そしてその女性社員が「多田さんが錯乱状態になっています」と総務部の田原部長に言っている。莉奈から『おかしな人発見した!』とテレパシーが送られてきた。俺は『どこの誰?』とテレパシーで莉奈に聞くと莉奈は『そこの二列目に座ってる人!まるで寝てるみたいじゃない?』とテレパシーで送ってきた。その二列目を見てみると見たことのない女性だった。たしかに眠っているように体が止まっていた。すると多田美枝子が「あれ、わたし今なにをしてたのでしょう?」と不思議そうな表情で言った。すると一人の女性社員が「多田さん、今、錯乱状態になっていましたよ」と言った。多田美枝子は「ええーわたしまでそんな状態になったのですか?申し訳ありません」と言って周囲に謝っていた。俺はずっと二列目にいる女性を見ていたが、眠っているようで起きてるようなおかしな状態だった。そこへ藤堂晃がやってきた。そして藤堂晃は「何かありましたか?」と総務部の社員達に聞くと女性社員の一人が「多田さんが錯乱状態になりました」と言った。藤堂晃は「多田さん、大丈夫ですか?多田さんまで錯乱状態になるなんて・・・」

と言うと多田美枝子は「お騒がせして大変申し訳ありませんでした」と言いながら頭を下げた。そして藤堂晃は「蒼井さんいますか?」と言うとかなり後ろのほうから「はいはい」と言って蒼井菜穂がやってきた。そして蒼井菜穂が「また錯乱状態になった人がいたのですか?」と言った。藤堂晃が「今度はとうとう多田さんまで錯乱状態になったみたいなんだ。蒼井さん、この記録もしっかり取っておいてください」と言った。すると蒼井菜穂が「はい。かしこまりました」と言った。そこで俺は藤堂晃に『あの二列目にいる女性は誰かな?』とテレパシーを送った。すると藤堂晃から『あれは派遣で来てもらっている加賀美樹さんです』とテレパシーが送られてきた。俺は藤堂晃に『あの人、多田さんが錯乱状態になってる時、まるで寝てるみたいな感じだったんだよ』とテレパシーを送った。すると藤堂晃から『本当ですか?それは怪しいですね』とテレパシーが送られてきた。そして俺は『とにかく、あの加賀美樹って人のことを調べてみるね』と藤堂晃にテレパシーを送った。藤堂晃は『わかりました。お願いします』とテレパシーが送られてきた。そして藤堂晃と蒼井菜穂が去っていった。俺達もとりあえず清掃員室に戻ることにした。


西浦真美「木場健吾は黙々と業務をしてたわ。そっちはおかしな人はいた?」

笹原莉奈「多田さんって人が錯乱状態になってる時に、まるで眠ってるような人をみつけたの」

西浦真美「そんな人がいたんだ!それは誰だったの?」

水嶋祐樹「派遣で来ている加賀美樹さんって人らしい。たしかに多田さんが錯乱状態になってるとき体は動いてなかったんだよ」

笹原莉奈「その加賀美樹さんって、まるで体が止まってるようだったよね」

西浦真美「それはかなり怪しいわね。加賀美樹さんのこと調べてみましょうか?」

水嶋祐樹「うん。西浦さん、お願いするよ」

西浦真美「それにしてもまた派遣社員なのね」


そう言って西浦真美は加賀美樹の情報を集めだした。それにしてもおかしいのは木場健吾も加賀美樹も錯乱状態になってる人がいるのに、何事も起こってないかのように椅子に座っている。この会社で働く派遣社員はそういう人なんだろうか。それにしてもさっきの加賀美樹はあまりにも不自然だった。もし人格入れ替わりをしているのであれば、あの体が止まった状態になるのもおかしくない。しかし、何かが引っかかる。どこかに不自然な点を感じるがそれが何かわからない。やはりあの加賀美樹がおかしいのだろうか。あの多田美枝子はあきらかにおかしかった。特殊能力悪用者が確実に人格入れ替わりをしているのは間違いなさそうだ。あれこれ考えているともう16:00になっていた。そして西浦真美は加賀美樹の情報を集めたらしくて話しはじめた。


西浦真美「加賀美樹は31歳で独身。経歴は二つあるみたいだけど、どちらも全く別の職種なのよね。一つはアパレル関係の仕事をしてたみたいだけど、二年ほどして営業関係の仕事をしてたみたい」

水嶋祐樹「うーん、この会社に恨みとかなさそう?」

西浦真美「そうね。特にこの会社との関係は見つからなかったわ。ただ、気になるのはどうして総務部に派遣されてきたのかよね。営業関係の仕事をしていたんだから、派遣されるなら営業部じゃない?」

水嶋祐樹「それもそうだね。営業関係の仕事をしてたってことは、他社から派遣できたスパイってことは考えられないかな?この会社の経営状態を悪化させるためとか・・・」

西浦真美「その可能性もなくはないわね」

笹原莉奈「でもあの多田さんがあんな状態だったのに、あんな状態でいるのは不自然だよ」

水嶋祐樹「たしかに加賀美樹さんは不自然な感じだったね。とにかく、次に錯乱状態になった人がいたら、加賀美樹と木場健吾の様子を見にいこうか。俺は錯乱状態になっている人の周りを調べてみるよ」

西浦真美「わたしは木場健吾の様子を見に行くわね」

笹原莉奈「わたしは加賀美樹さんの様子を見に行くね」

水嶋祐樹「なんとなく引っかかってることがあるんだけど、それが何かわからないんだよね。なんか不自然な出来事があるような感じがするんだけどね」

西浦真美「とにかく錯乱状態は特殊能力悪用者が人格入れ替わり能力を使ってるのは間違いなさそうね」

水嶋祐樹「それはもう間違いないと思う。とにかく派遣の二人をマークしよう」


その後は何も起こらなかった。それにしても錯乱状態が会社で当たり前になってることがおかしい状態なのだ。感染病じゃあるまいし、まるで会社内の流行病のようになっている。この世界線のこの会社の社員達はもう感覚がおかしくなっているのだろうか。


勤務時間終了の19:00になって藤堂晃が清掃員室にやってきた。そして藤堂晃が「みなさん、今日はどうでしたか?」と聞いてきた。俺はとにかく派遣の二人が怪しいと藤堂晃に説明した。そして俺達三人と藤堂晃は家に帰ることにした。藤堂晃の家に到着すると夕食をとって各自がシャワーを浴びた後、俺達三人と藤堂晃で話し合いをした。


藤堂晃「では、みなさんは派遣で来ている加賀美樹さんか木場健吾さんが怪しいというわけですね」

笹原莉奈「特に加賀美樹さんが怪しいよね。あんな不自然な状態でいられるなんて絶対おかしいよ」

西浦真美「多田さんが錯乱状態になっているのに、体が止まってるようだったのよね?」

水嶋祐樹「うん。たしかに加賀美樹さんは不自然だった。それに西浦さんと話してたんだけど、以前は営業関係の仕事をしていたらしいし、もしかすると他社から派遣されたスパイって可能性もあるんじゃないかな。会社の経営を悪化させようとしてるとか」

藤堂晃「なるほど。その可能性は考えてなかったですね」

笹原莉奈「そういえば今日、藤堂さんが呼んでいた蒼井さんって、なんだかわたしに似てるというか同じ雰囲気みたい。なんだかお話したら仲良くなれそうな気がする」

藤堂晃「蒼井さんは本当に明るくてよく頑張ってくれていますからね。正式採用したいくらいですよ」

笹原莉奈「そうなんだ。わたし、今度話しかけてみようかな」

水嶋祐樹「莉奈、余計なことをして俺達の正体がバレるとまずいから、それは辞めたほうがいいかも」

笹原莉奈「そっか・・・そうだね」

水嶋祐樹「とにかく、明日から加賀美樹さんと木場健吾さんをマークするよ。ただ何かが引っかかってるんだけどね」

藤堂晃「水嶋さんが引っかかってることって何でしょう?」

水嶋祐樹「うーん、それが何かがわからないんだよ。でも何か不自然な感じがしてるんだけどね」

藤堂晃「そうですか。では水嶋さん、何かわかれば教えて下さい。そしてみなさん、明日もよろしくお願いします」

笹原莉奈「そろそろ眠くなってきたから部屋に行って寝るね」

西浦真美「わたしも眠くなってきたわ」

水嶋祐樹「じゃあみんなまた明日にしよう。おやすみ」

藤堂晃「おやすみなさい」


そういって各自が部屋に入って眠った。俺は一体何を不自然に感じているのだろうか。それが全くわからなかった。今の段階で明らかなのは特殊能力悪用者が人格入れ替わり能力を使って錯乱状態を起こしてること。そしてその可能性があるのは派遣で来ている木場健吾か加賀美樹ということなのだ。どちらかが莉奈の特殊能力を奪ってあの会社の経営を悪化させている。そう思いながら知らない間に眠っていた。

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