夢中会議室
■ 2018年9月22日(土)
今日は朝9:00まで眠っていた。目覚まし時計は鳴らなかったが昨日の近未来透視現象の出来事で疲れていたはずなんだが、どういうわけか目覚めはよかった。起き上がってすぐパソコンの電源を入れた。俺は2033年から送られてきたメールをもう一度読んでおこうと思ったからだ。そこで「2018年9月の俺へ」という件名のメールを開いた。そして昨日使ったトランセンドレッドという能力について読んでみた。書いてある通り理性を失うととんでもない力を発揮することができた。俺の赤く輝い姿を見ることができたのは西浦真美だけだった。俺はあまり意識していなかったが、自分自身でも赤く輝いた姿を見ることはできるのだろうか。トランセンドレッドの能力を使ってる間は理性を失っているので歯止めがきかないと書いているがその通りだ。問題はこの能力を自由自在にコントロールして使えるようにならないといけない。そうしないと、また能力が発動してしまうと歯止めがきかなくなって、今度こそ誰かを殺してしまうかもしれない。メールには「理性を取り戻すように意識してほしい」と書いているが、理性や感情を失っているが意識はあるので、理性を取り戻すように意識させないといけない。トランセンドレッドの能力を発動させるのは身の危険を感じた時や誰かを助けたいと強く感じた時だろう。その能力を止めるには理性を取り戻すことに意識を集中することだろう。今、自分の部屋の中でトランセンドレッドの能力をつかってその状態にして、理性を取り戻す練習をしてみようと思った。
目を閉じながら昨日の公園でのシーンを思い出した。児島信二が地面に倒されていて、山内美沙が頬を思いっきり叩かれてるシーンを想像していた。すると頭の中が真っ白になり、全ての感情がなくなった。体の中に凄まじい力がみなぎっている。俺は目を開いて自分の手や足をみると確かに赤く輝いている。鏡で自分の顔を見ると目まで赤くなっている。今度は理性を取り戻すために意識を集中させてみる。感情や理性がない中で何をどう意識すればいいのかわからないが、頭の中で「理性を戻れ」と心の中で念じ続けた。しかし理性は戻らない。攻撃的な感情になっていて落ち着かない。この感情を落ち着かせることに集中する。穏やかで理性のある水嶋祐樹という人間のことをイメージしながら感情を落ち着かせていった。そうすると理性が戻って体の中の力が抜けていき、理性や感情を取り戻って元に戻った。これは相当な訓練をする必要がある。俺はトランセンドレッドの能力を自由自在にコントロールできるようになるために毎日この訓練することにした。
今日は雨だが午後は莉奈に大事な話があるといって待ち合わせをしている。先日、莉奈に登山地図の読み方を教えたカフェに行って、そろそろ特殊能力者や不思議な現象について莉奈に話しておく必要がある。莉奈という彼女がいながら俺は西浦真美という良きパートナーがいるのだ。そのことをあらかじめ話しておかないと、莉奈が特殊能力者になってから話しては遅いのだ。
昼食を終えて13:20過ぎに莉奈の家近くのコンビニに向かって車を走らせた。莉奈とは14:00に待ち合わせになっていたが、13:50頃にコンビニに到着した。しばらく車の中で待っていると水色の長袖シャツにベージュの長ズボンをはいて手さげバッグを持った莉奈がやってきた。莉奈は俺の車まで歩いてきた。そして助手席側のドアを開けて「おまたせ」といって助手席に座った。そしてそこから車で10分ほど走らせたところにある大きなカフェの駐車場に到着した。俺は莉奈と手を繋いでカフェに入った。
俺はLサイズのアイスティーを注文して、莉奈はLサイズのカフェオレを注文して店員さんがトレイの上にそれぞれのグラスを置いてくれた。俺はトレイを持って四人掛けのテーブルに向かい合って座った。俺はストローでアイスティーを一口飲んで話を切り出した。
「莉奈、今日は大事な話があるといったけど、これから話すこと信じて聞いてほしい」
「うん。祐樹君は嘘を言ったりしないと思うし、信じて聞くね」
俺は深呼吸をして話をはじめた。
「信じられないかもしれないけど、俺は普通の人間ではないんだよ。いや、人間だけど特殊な能力を持った人間なんだ」
「特殊な能力を持っているってどういうこと?」
「俺は今年の5月頃から、ある重要な人物と出会った。そして俺は特殊能力者だと言われて不思議な現象を体験してたんだよ」
「重要な人物って誰なの?」
「それだけは絶対に他言無用と言われてるから聞かないでほしいんだけど、不思議な現象を体験していろんなことを解決させてる」
「重要な人物のことはわたしにも絶対に言えないってこと?」
「うん。だからそれは莉奈にも絶対に言えない。本当にごめん!でも話したいのは不思議な現象についてのことなんだよ」
「じゃあ重要な人物のことは聞かないでおくね。それでどんな不思議な現象を体験してるの?」
「人格が入れ替わったり、同じ数日間を繰り返したり、人の未来をみたり、過去にいったり、そういう不思議な現象を体験した。そして不幸になりそうな人を助けたりして問題を解決させていた」
「ええーそんなことができるの!?」
莉奈が大声でそう言ったので俺は口に人差し指をおさえて「しーっ!」と言った。
「莉奈、あくまでこれは内密にしておいてほしい。誰かに聞かれるとまずいんだよ」
「ごめん、わかった。それって祐樹君だけなの?」
「特殊能力者はもう一人いて、俺はその人と良きパートナーとしていろんな問題を解決させてる」
「それって女の人?」
「うん。会社にいる女の人で、不思議な現象が起こったら、その人と協力しあっていろんな人を助けたりしてるんだよ」
「祐樹君はその女の人のことをどう思ってるの?」
「特殊能力者として良きパートナーだと思ってるけど、それ以上は何も思ってないよ。ただ美人だとは思ってるけど・・・」
「美人な女の人なんだ・・・ちょっと複雑な気分だなぁ」
「俺が愛しているのは莉奈だけだよ。その女の人は俺と莉奈のことを応援してくれてるし、それにいつか莉奈に会わせようと思ってる」
「わたし達のことも言ってるんだ!?でもどうして今までそのことを話してくれなかったの?」
「いつ話そうか考えていたんだよ。それにこんなこと信じてもらえるかわからなかったし。でも、そろそろかなって思った。それにここからが重要なんだけど、莉奈も近いうちに特殊能力者になる」
「わたしが特殊能力者になるってどういうこと?」
「どういうことか今の俺にもわからないんだけど、その重要な人が言ってたんだよ。莉奈も特殊能力者になるって・・・」
「それって、その不思議な現象をわたしも体験するってことだよね?なんだか怖いかも・・・」
「莉奈に起こる現象は厄介なものではないと言ってたから、そこまで心配しなくてもいいと思う。ただ、今は信じてほしい」
「祐樹君の表情みてたら本当のことなんだってわかるよ。だから信じるけど、その不思議な現象で危ないことしたりもしてるの?」
「ある人を助けるために危険なこともしたけど、できるだけ危険なことはしないようにしてるつもりだから心配しないで!」
「でもなんだか心配だから気をつけてね」
「うん。ありがとう。莉奈、信じてくれてありがとう。何度も言うけど、このことは誰にも言わないようにしてね」
「わかった。絶対に誰にも言わないよ!」
「あと、もし、莉奈が不思議な現象を体験することになったら、すぐ俺に連絡してほしい。厄介なことでなくても何が起こるかわからないから」
「うん。もしわたしが不思議な現象を体験したらすぐ祐樹君に連絡するようにする」
「じゃあこの話はこれで終わり。莉奈、今日は雨がふってるけど、ちょっとこの後、山にドライブでもいこうか。雨だけど美面滝でも見に行こうよ」
「雨の美面滝かぁ。いいね。じゃあ行こう!」
俺と莉奈はカフェを出て山に向かって車を走らせた。そして傘をさしながら落差30メートルの美面滝を見ていた。雨が降っているせいか水量が多くて迫力がある滝だった。最近は莉奈とよく手を繋ぎながら歩いているが、滝を見ている時も手を繋いでいた。とにかく莉奈には特殊能力者の話をして信じてもらえた。別の女の人を良きパートナーなどと言って莉奈は嫌がらないかと心配だったが、それより危険なことをしていないか心配してくれたのは嬉しかった。それにしても一体、いつ莉奈は特殊能力者になるのだろうか。それだけが気になっていた。
■ 2018年9月25日(火)
今朝も朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外をみると秋雨前線の影響で、今日もどんよりした曇り空だった。俺は部屋を出て洗面所で顔を洗った後、キッチンへ入った。テーブルの上に塩サバとサラダ、味噌汁とご飯が並べられていた。母親がキッチンにいたので「おはよう、母さん」と言うと母親も「祐樹、おはよう」と言った。俺はさっさと朝食を食べ終えて部屋で着替えた。折りたたみ傘を鞄に入れて家を出た。
駅まで歩いて間、ポツポツと雨が少し降っているようだったが傘をさすほどでもなかった。駅に着いていつもの時間の電車に乗った。電車の中で週末に行く山を探してスマホで山記事をみていた。週末は莉奈を鉄岳に連れていってみようか。鉄岳はバリルートだが、秘境感があって見所はたくさんある。それに登山者はほとんどいないのでちょうどいい。俺が鉄岳に行くのは四度目になるが、積雪期には行ったことはないので下見にもなる。そんなことを考えていると会社の最寄り駅に到着した。
会社には10:00前に出勤したが、週初めのなので社内全体朝礼があるのだ。席を立って社長が出てくるのを待っていた。そして社長が出てきてまた長い話がはじまった。社員の意気込みについて再認識するようにという話をしていたが、俺にはどうでもいい話だった。社長の話が終わり西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。
俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。するとすぐに日根野部長に呼び出された。そして日根野部長から仕様書が渡された。
「水嶋君、サーバー構築自動化のインストーラーについての仕様書をこんな感じで作ってみたけどどうかな?」
俺は仕様書をパラパラめくって中身を確認した。
「全体図はこれで大丈夫です。細かい詳細の仕様書は私のほうで完成させていますので、早速、今日の午後に会議室を予約していただけますか?」
「わかった。14:00と15:00の枠を予約しておく」
「それで、この開発の納期はいつでしょうか?」
「逆に水嶋君に聞きたいんだが、このシステム開発にどのくらい時間がかかりそう?」
「二週間くらいあればできると思います。プログラムは小規模なものですので、今回はデザインのほうが時間がかかると思います」
「新しいサーバーが導入されるのは10月8日だから、それまでに開発してもらえると有難い」
「了解しました。では、午後に開発メンバーで会議を行い、予定を組んで10月8日に間に合わせるようにします」
「よろしく頼んだよ」
日根野部長の仕様書を持って俺は自分の席に戻った。そして開発メンバーに仕様を説明する書類を作成していった。そして池上有希と小松結衣、児島信二に午後の14:00から会議室に集合すると伝えておいた。昼休みになって俺が作成した書類も完成した。あとは午後に印刷するだけなので、パソコンをスリープ状態にして会社の外へ出た。
今日の昼食は豚骨ラーメンセットだと思ってお気に入りのラーメン屋に行った。何度食べてもここの豚骨ラーメンは美味しい。それにご飯とスープの相性もいいのだ。今日は味玉をトッピングしたので味玉をご飯の上にのせて口の中に入れると豚骨スープを飲んだ。これまた美味しい。ここの豚骨ラーメンは毎日食べても飽きないと思う。豚骨ラーメンを食べ終えて外に出ると雨がポツポツと降っている。このまま外をブラブラ歩くか会社にさっさと戻るか考えたが、会社に戻っても暇なので近くの書店でコミックスを立ち読みすることにした。そして昼休みが終わる時間になったので会社に戻った。
午後の業務をして俺は午前中に作成しておいた書類を印刷して、ぼーっとしていた。今は何の現象も起こってないので実に平和な感じがした。そして14:00になったので開発メンバー四人で会議室へ行った。
俺は午前中に作成した書類を児島信二、池上有希、小松結衣の三人にそれぞれ配って今回のサーバー構築自動化のインストーラーの仕様について詳しく説明した。簡単に言えば新しいサーバー機器に生成したインストーラーを導入して、プログラムを実行すると勝手にサーバーが構築されるシステムなのだが、誰でも簡単に環境設定ができる入力画面があって、それぞれ入力してボタンを押すとインストーラーが生成される仕組みを開発するのだ。入力画面は池上有希がデザインをして、小松結衣はそのデザインプログラムを組むサポート役、児島信二はインストーラー生成のプログラムの作成、俺はインストーラーを稼働させた後、自動でサーバー構築をするプログラムを作成する。俺が全体の仕様の説明をし終えると池上有希が話した。
「入力画面のデザインですが、今回は小松さんに担当してもらうのがいいと思います。そこまで難しいデザインではなさそうですし、経験するという意味でも小松さんでいいんじゃないでしょうか?」
俺は小松結衣のほうを見て「小松さん、池上さんがそう言ってるけどデザインできそう?」と聞くと小松結衣は「頑張ります!」と言った。俺はそれぞれの担当をまとめるために話しはじめた。
「じゃあ、入力画面のデザインは小松さんにお願いします。小松さん、仕様書にワイヤーがあるのでそれとこっちの詳細仕様書から入力項目を照らし合わせてデザインしてもらう。あと、ウェブサーバー、メールサーバー、ネームサーバー、データベースサーバー、ファイルサーバーの五つの画面のデザインは全て同じでいいよ。ただ、全く同じだと混乱するのでそれぞれの画面の基本色だけ変更してほしい。池上さんは小松さんのデザイン補助とデザインプログラムをしてもらう。小松は画面のデザインが終わったら今度は池上さんのデザインプログラムの補助をしてもらう。それと児島君は、サーバーのネットワークアドレスとアカウントまわり、各サーバーの環境設定ファイルの生成部分のプログラムをしてもらって、それが終わったらウェブサーバーの自動構築化のプログラムをしてもらう。俺はウェブサーバー以外の自動構築化プログラムを担当する。みなさん、これでいいかな?」
開発メンバーの三人ともメモをとりながら、少し考えていた。そして児島信二が話はじめた。
「水嶋さん、設計書なんですが、基本は同じですよね?それぞれのサーバーの環境設定ファイルの設計書が必要でしょうか?」
「基本のロジックは全て同じなので、設計書は一つでいいよ。あと、ウェブサーバーの自動構築化の設計書は俺が作るから、児島君は設計通りにプログラミングしてくれればいい」
「わかりました。あと、それぞれサーバーアプリケーションをインストールしないといけないですが、あらかじめこちらでアプリケーションを用意しておいて、それをインストールするのでしょうか?」
「サーバーアプリケーションは先にネットワーク環境を構築して、その後にコマンドでサーバーアプリケーションをネットワーク経由でインストールすればいいよ。それだったら一行のプログラムで終わるから簡単だよ」
「そんなコマンドあるんですね!わかりました。後でそのコマンドを教えてください」
「うん。後で児島君にそのコマンドを教えるよ」
そして俺は予定表を作成するため、それぞれどのくらいで出来そうか確認した。そして予定表を作成すると今週末には画面が完成する予定で、児島信二のプログラミングはウェブサーバーの自動構築化プログラミング以外は今週中に完成する予定になっていた。今回は新しいサーバー機器にシステムをインストールするので、障害が発生しても問題はない。俺は予定表を完成させて、最後に「じゃあみなさん、今日からよろしくお願いします」と言って会議は終了した。
開発メンバーはそれぞれ自分の席に戻って開発作業をはじめた。小松結衣は必死に仕様書のワイヤーと入力項目を見ていた。小松結衣にとってはじめてのWEBデザインになるので必死なんだろう。その日は何事もなく勤務時間終了の19:00になった。俺はさっさと退社して帰宅した。
自宅に戻ってさっさと夕食を終えてシャワーを浴びた後、自分の部屋に入った。そして俺はトランセンドレッド状態になって理性を取り戻す訓練をしていた。意識して「理性を戻れ」と意識を集中させるが、なかなか理性は戻らない。この攻撃的な感情になっていて落ち着かない状態を穏やかにして理性を取り戻すのが難しいのだ。昨日も同じように訓練したが、理性を取り戻すのにかなりの時間がかかった。ただ一つわかったことは、このトランセンドレッド状態になっているときは攻撃的な感情かつ興奮状態にあるということだ。つまり興奮を抑えるようにしないといけない。理性や感情が無の状態になっているので意識をどこに集中させるのかがコントロールさせるポイントだろう。必死に穏やかな自分を強くイメージしてやっと理性を取り戻すことができた。これはまだまだ訓練が必要だと思った。疲れたのでベッドに横たわっていると知らない間に眠っていた。
■ 2018年9月26日(水)
目が覚めると真っ白な広い空間にいた。その空間の真ん中にテーブルがあり、青い椅子が四つあった。俺はその青い椅子の一つに座っている。向かい側には西浦真美が椅子に座りながら眠っていた。俺は「西浦さん?」と声をかけると西浦真美がパッと目を覚ました。西浦真美は周りを見渡して不思議そうな表情をしている。俺も何が起こったのかわからなくて動揺していた。この真っ白な空間にはドアや窓など出口が全くない。テーブルの前にはホワイトボードがあるだけなのだ。ただ真っ白な壁の正方形の空間という感じだ。俺は自分の部屋で寝ていたはずだ。西浦真美も水色のパジャマ姿でいる。
「わたし、部屋で眠っていたはずなんだけど、ここはどこでなんでこんなところにいるの?」
「俺もだよ。たしか部屋のベッドで寝てたはずなのに、目が覚めたらこんなところにいた」
「これって何かの現象が起こってるのかしら?」
「何かしらの現象が起こっているんだと思うんだけど、ただ、この空間には今、俺と西浦さんの二人しかいないんだよね」
「テーブルがあって青い椅子があるわね。あら、テーブルの真ん中にノートパソコンがあるわよ」
「このノートパソコンを起動させてみようか」
そう言って俺はノートパソコンを起動させてみた。するとパスワード入力画面になった。
「パスワードを入力しないといけないみたいだけど、西浦さんもわからないよね?」
「わからないわよ。でもこのノートパソコンっていつも会社の会議室に持っていくのと同じよね。そのパスワードを入力してみる?」
「うん。そのパスワードを入力してみて」
西浦真美は会社のノートパソコンとパスワードを入力した。するとデスクトップ画面になった。
「会社のノートパソコンと同じパスワードだったみたいね。ここに共有フォルダがあるけど、開いてみましょうか」
「うん。開いてみて」
「これって会社の共有フォルダの中身と全く同じよ。ほら、水嶋君も見てみて!」
「本当だ。これは会社の共有フォルダと繋がっているみたいだね」
「どういうことかしら?ここってまるで会議室みたいじゃない?」
「そうだね。ここは会議室みたいだね。でもどこにも出口はないし閉じ込められてる感じだよ」
「もしかするとわたし達だけの特別な会議室なんじゃない?そうとしか思えないわ」
「でもここで何を会議するんだろう。俺達二人がここにいる意味がわからないよ」
「わたし達は自分の部屋で寝ていたということはここは夢の中なんじゃない?妙にリアルな夢だけど」
それからしばらく俺と西浦真美は沈黙が続いた。夢の中とはいえ、こんな会議室のような空間に閉じ込められて何をすればいいのかわからなかった。すると西浦真美が話しだした。
「ところで水嶋君、赤く輝く能力はもう使ってないわよね?」
「そのことなんだけど、今後、あの能力が発動したらかなり危険だから、部屋でトランセンドレッド状態になって理性を取り戻す訓練をしてるんだよ。コントロールできるようになっておかないとまずいからね」
「そうなんだ。でもそうよね。それで少しはコントロールできるようになったの?」
「トランセンドレッド状態になることはできるんだけど、理性を取り戻すのがかなり難しいんだよ。まだまだ訓練が必要だと思う」
「自分の部屋で一人の時に訓練しているなら、他人に被害を与える心配はなさそうね」
「あとね、彼女に特殊能力者の話をしておいたよ。西浦さんのことも話しておいた。いつか彼女と西浦さんを会せたいなって思ってる」
「彼女さんに話したのね。でもどうしてわたしと彼女さんを会わせたいの?」
「俺の彼女もそのうち特殊能力者になるらしい。前に話した重要な人がそう言ってたんだよ」
「そう・・・水嶋君の彼女さんも特殊能力者になるの。それは大変ね」
「その重要な人は彼女はそこまで厄介な現象に巻き込まれないから心配いらないと言ってたから少しは安心してるんだけどね」
「水嶋君の言うその重要な人ってもしかして未来人なの?彼女さんが特殊能力者になるって予言してるわけよね?」
俺はまずいことを言ってしまったと思った。さすが西浦真美は鋭い。
「まあ、未来のことがわかる人とだけ言っておくよ。それ以上のことは言えない」
「わかった。わたしもそれ以上のことは詮索しないようにするわ」
「それにしても俺達はこの空間からどうやって出ればいいんだろう?」
「またここで眠れば元に戻るんじゃないかしら。わたしはそろそろ眠くなってきたわ」
「俺もあまり寝てないから眠くなってきた」
「目が覚めた時の椅子に座って寝てみましょう」
「うん、じゃあ西浦さん、おやすみ」
「おやすみなさい」
俺と西浦真美は椅子に座ってテーブルに腕をのせて寝た。
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。起きて周りを見渡すと自分の部屋であるのは間違いない。俺は夢をみていたんだろうか。それを確認するには今日、会社に出勤したら西浦真美に話を聞いてみようと思った。
いつものように10:00前に出勤した。自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。しばらくサーバー構築自動化のインストーラーの設計書を作成していて、一息つくため休憩室へ行くことにした。その前に西浦真美に”休憩室に来て!”とメッセージを送った。すると西浦真美から”わかったわ!”とメッセージが返ってきた。
休憩室に行って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。そして俺は今日の夢について話をした。
「西浦さん、今日、会議室で俺と話した夢を見た?」
「見たわよ。置いてあったノートパソコンのパスワードは会社のノートパソコンと同じだった」
「俺との話の内容も覚えてる?」
「もちろん覚えてるわよ。トランセンドレッドだっけ?水嶋君がコントロールできるように訓練してることと、彼女さんに特殊能力者の話をしたこともね」
「そうか。あれは夢の中でありながら俺と西浦さんの会議室って感じだったね」
「わたし、目が覚めたとき思ったの。これから何か現象が起こった時、夢の中だけどあの空間で話し合えってことじゃないかしら?」
「そうかもしれないね。でも毎晩あんな夢みるのかな?それだとかなりしんどいと思うんだよ」
「毎晩は見ないんじゃない?必要になった時だけ見るんじゃないかしら。そんな気がするの」
「必要になった時だけか・・・それなら今日はなんであの夢を見たんだろう?」
「今日ははじめてだったでしょ?まずはあの空間があって会議室になっているという存在を知るためなのか、水嶋君の近況を共有するするためだったのかも」
「そういえば、俺の近況を西浦さんに話してなかったからね。それにしてももし必要に応じてあの夢の中の空間が使えるのであれば、かなり便利かもしれないね」
「何かの現象が起こったというより、特殊能力者に必要な空間の会議室って考えるとなんとなく納得できるでしょ?」
「そうだね。だとすれば、今後、何かの現象が起こったら、夢の中で西浦さんと会議できるようになるわけだね」
「いいように考えたらそういうことになるわね。悪いように考えたらランダムに夢を見て意味もなくあの空間に閉じ込められるってことかしら」
「無意味な感じはしないと思うんだよね。きっと何か意味があると思うから、やっぱり必要に応じてあの空間の会議室で西浦さんと話し合うことができると思う」
「わたしもそう思うわ。それじゃあ、わたしはそろそろ戻るね」
「うん。じゃあまたなにかあれば連絡するよ」
やはり俺と西浦真美は同じ夢を見た。夢を見たというより、お互いの魂があの空間の会議室に行ったのかもしれない。どちらかわからないが、リアルな夢という感覚なのだ。そう考えると特殊能力者の夢中会議室といったところだろうか。今後、この夢中会議室は俺や西浦真美にとってとても重要な空間になるのだが、この時は何もわからなかった。そしてこの日の夜も眠ったが、同じ夢を見ることはなかった。




