近未来透視現象Part2
■ 2018年9月20日(木)
朝8:00に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。カーテンを開けて窓の外をみると昨日の台風が嘘であるかのようによく晴れていた。しかし天気予報では週末にかけて下り坂になるようだ。部屋をでて洗面所で顔を洗ってキッチンへ行くと、テーブルにトーストとスクランブルエッグとコーヒーが並べられている。俺はさっさと朝食を食べて出勤の準備をした。昨日の台風で被害を受けた従業員がいないか心配だったのだ。
家を出て駅まで歩いて行った。残暑はおさまってすっかり気温は穏やかになり空は秋晴れになっている。駅に着いていつもの時間の電車に乗ってスマホで昨日の台風被害のニュースを読んでいた。建物の台風被害はあったものの人的被害はあまりなかったようだ。
会社の最寄り駅に到着して10:00前に出勤した。俺はケガをしている従業員がいないか社内を見渡したが、どうやらいないようだ。安心して自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。黙々と業務をしているとサーバー管理者の水谷主任から”サーバー構築自動化について提案したいことがあるので来てほしい”とメッセージが送られてきた。俺は席を立って水谷主任の席へ向かった。
「水嶋さん、サーバー構築自動化だけど、環境設定ファイルをあらかじめ自動で作れるようにしておいて、その設定ファイルと自動構築化プログラムをアップロードして、プログラムを稼働させるのはどうかな?」
「なるほど、完全自動化ではなく、一旦、設定ファイルを作成しておくということですね」
「うん。それなら少しは手間が省けるんじゃないかな?」
「そうですね。サーバー構築のインストーラーみたいなものを生成して、構築するサーバーにアップロードしてプログラムを実行させるのがいいですね?」
「それがいいね。インストーラーを生成するのはいい案だよ」
俺は顔をあげて水谷主任の目を見た。すると頭の中で映像が浮かんだ。水谷主任のデスクがかなり揺れている。水谷主任が両腕を広げてデスクにしがみついている。デスクの上に置かれているものがガタガタと揺れて書類などが床に落ちている。そして上から掛け時計が落ちてきて水谷主任の頭に当たった。水谷主任は頭に手をあててかなり痛そうにしている。ここで映像が止まった。水谷主任が「水嶋さん?」と声をかけてきた。
「あっすみません。ちょっと考えていてぼーっとしてしまいました」
「それならいいんだけど、サーバー構築インストーラーの生成の仕様を検討しておいて!」
「わかりました。日根野部長に説明しておきます」
「じゃあよろしくね」
それで話が終わり俺は自分の席に戻った。さっき水谷主任の目を見たときに浮かんだ映像のことを考えていた。デスクやデスクの上に置かれているものが揺れていたということは結構大きな地震が起こる可能性がある。しかし、何時何分に地震が発生するのかわからない。とにかく日根野部長にサーバー構築自動化について、インストーラーを生成するという提案をすることにした。日根野部長の席の前に立って、サーバー構築自動化のインストーラー生成のことを詳しく説明した。
「水嶋君、その案いいね。あらかじめインストーラーを生成しておけばあとは自動でサーバー構築されるとかなり作業工数が削減できるね」
「はい。ただし、インストーラーの生成を簡単にしたいので、インターフェイスが必要になります。そのためデザイナーも必要になります」
「水嶋君が構想するインターフェイスはどのくらい必要になる?」
「とりあえずはウェブサーバー、データベースサーバー、メールサーバー、ネームサーバー、ファイルサーバーの五つですね」
「池上さんか小松さんのどちらか一人がいればできそうな感じかな?」
「今回は小松さんの技術向上のためにも池上さんのサポート役に小松さんを開発メンバーに入れるのがいいと思います。小松さんは開発経験がありませんので、いい経験になると思います」
「それもそうだね。では、水嶋君と児島君、池上さんとサポート役に小松さんの四人で開発できるかね?」
「はい。その四人で開発します。日根野部長はまず仕様書の作成をお願いします」
「仕様書だが、今回は水嶋君にも手伝ってもらってもいいかね?この案は水嶋君の頭の中にあるみたいだからね」
「わかりました。では日根野部長はワイヤーとかデザイン部分をお願いします。プログラム詳細やデザインの細かい部分は私がやります」
「では早速仕様書を作っていくので、細かい部分は水嶋君に任せた」
「了解しました」
日根野部長との会話が終わってすぐに自分の席に戻ると西浦真美から”休憩室に来て!”とメッセージが届いていた。俺は”今から行く!”と言って休憩室へ向かった。
休憩室に入ると西浦真美が既に椅子に座って待っていた。俺は「お待たせ」と言うと西浦真美が話をはじめた。
「さっき、総務部の多田さんの目をみたら映像が浮かんだのよ。デスクがすごく揺れてて、棚にあるファイルが落ちてきて多田さんの体に当たるの。多田さん、すごく痛そうにしてたわ」
「俺もさっき、水谷主任の目をみたら映像が浮かんだんだよ。同じようにデスクが揺れてて、掛け時計が水谷主任の頭に直撃してた。かなり痛そうにしてたよ」
「デスクが揺れるってことは少し大きな地震が起こるってことよね?」
「うん。俺も浮かんだ映像から考えると地震が起こるんだと思った。ただ、問題は何時何分に起こるかわからないってことかな」
「他にも地震の被害を受ける人はいるのかしら?」
「また昨日のように従業員全員を調べないとそれはわからないよ。しかし、台風の次は地震か・・・自然災害は厄介だね」
「でも今回は棚や掛け時計の近くの人だけ調べればいいんじゃない?あの揺れからするとビルが倒壊するような大きさの地震でもなさそうだし」
「それもそうだね。そういう人を調べていこうか。ただ、調べたところでどうするの?掛け時計を取り外したり、棚のファイルを落ちないようにするの?」
「そうするしかないわね。外にいる人達は大丈夫かしら?結構な揺れだったみたいだけど・・・」
「ここはビルの上だからかなり揺れてるんだと思う。おそらく地震の規模はそこまで大きくないと思うから外の人達は大丈夫なんじゃないかな。それより掛け時計や棚のファイルはどうやって落ちないようにするの?」
「掛け時計はそろそろ電池交換の時期だとかの理由で全部取り外せばいいと思うの。問題は棚よね」
「まさか棚にガムテープを貼り付けるわけにもいかないし・・・何か理由をつけて棚からファイルが落ちないようにしないとね」
「うーん、理由ねえ・・・そうだ!棚の上から落ちると危ない物を全て降ろすのはどうかしら?掃除をするからって理由で棚の上のものは全部降ろしてもらうようにするの」
「でもその後、西浦さんが掃除しないといけなくなるよ?」
「そのくらいするわよ。とにかく人が座っている近くの棚の上の物を全て降ろしてもらうようにするわ」
「まずは誰が被害を受けるか早く調べよう。それと同時に西浦さんは棚の上に置いているものを降ろしてもらうようにしてもらう。それでいこう!」
「わかったわ。いつ地震が起こるかわからないから急いだほうがいいわね」
「俺は早速、アプリケーション事業部とカスタマーサポートの調査をするよ。ネットワーク事業部のデスクエリアには棚がないから大丈夫だと思う。西浦さんは営業部と総務部をお願いしたいのと、危なそうな掛け時計の取り外しをお願いするよ」
「うん。じゃあ早速調べてくるわね。昼休みが終わっても地震が起こらなかったら、もう一度、休憩室で情報共有しましょう」
「じゃあまた後でね!」
西浦真美と話し終わったあと、俺は早速アプリケーション事業部のフロアに行った。棚がずらりと並んでいてその前には一列にデスクが並んでいた。その棚の前にいる人の目をみると頭の中で映像が浮かんだ。デスクが揺れていて両手でデスクを掴んでいる。棚の上から数冊の入門書などが落ちてきて背中に当たっている。そこで映像が止まった。もう一人隣に座っている人の目をみるとまた頭の中で映像が浮かんだ。同じ用に棚の上からファイルが落ちてきて頭や体に当たっている。かなり痛そうにしている。そこで映像が止まった。そのまた隣の人の目を見ても同じような映像が浮かんだ。そして一番端の人の目を見ても同じような映像が浮かんだ。今の段階でアプリケーション事業部の棚の前の四人が棚から落下した書籍やファイルが体にあたって痛そうにしているのだ。俺はアプリケーション事業部のその四人に向かって「すみません、西浦さんが棚の上を掃除したいといってるので、上段の書籍やファイルを降ろしてもらえませんか?」と言った。するとその四人は「わかりました」と言って椅子に乗って棚の上から書籍やファイルを降ろした。俺は「ありがとうございます。後で西浦さんが掃除にくると思いますのでお待ちください」と言ってアプリケーション事業部のフロアを見渡して掛け時計を確認した。どうやらデスクのすぐ上に取り付けられていないので、大丈夫だと思った。
アプリケーション事情部のフロアを出て、カスタマーサポートのデスクエリアへ行った。棚の近くにあるのは二つのデスクで女性二人が座っている。まずは一人の目を見ると映像が浮かんだ。揺れているデスクにしがみついていて、棚の上に置いてある段ボールが落下して背中にあたった。かなり痛そうにしている。そこで映像が止まった。その隣の席の人の目を見ると同じような映像が浮かんだ。俺はその二人の女性に「西浦さんが後で棚の上を掃除するということなので、段ボールを降ろしてもいいですか?」と聞いてみた。その二人の女性は「別に構いませんよ」と言ったので、俺は棚の上にある四つの段ボールを降ろした。カスタマーサポートから見える掛け時計は水谷主任の上にあるので、これは西浦真美が取り外してくれるだろう。
俺は自分の席にもどって念のためにシステム開発部のデスクエリアを見渡したが、特に落下するような危険なものはなかった。ただ、向かい側の席に座っている小松結衣の目を見ると頭の中に映像が浮かんだ。揺れてるデスクにしがみついてる。二冊の入門書が床に落ちて必死に拾おうとして片手をデスクから離したら小松結衣が椅子から落ちた。そこで映像が止まった。これはどう助ければいいのかわからないが、二冊の入門書が床に落ちたことがキッカケなので入門書をなんとかするしかない。俺は「小松さん、ちょっとそこの入門書を見せてもらえないかな?」と言った。すると小松結衣は「どっちですか?」と言ったので俺は「二冊とも見せてほしいんだけど、今日貸してもらっててもいいかな?」と言った。小松結衣は「わかりました」といって、入門書二冊を渡してくれた。俺は二冊の入門書をパラパラとめくって、昼休みになったのでデスクの中に入れておいた。
今日はチーズチキンランチだと思って、会社近くの定食屋に行った。チーズたっぷりのったチキンはいつ食べても美味しい。これがワンコインランチとは本当に安いと思った。定食屋を出て外をブラブラしようと思ったが、地震のことが気になっていたのですぐに会社に戻った。まだ地震は起こらない。そもそも地震が発生する前にスマホに緊急地震速報のアラートが鳴るはずだ。ただ、どのくらいの規模の地震なのかわからない。揺れは大きいが、それはビルの上層階であるので、アラートが鳴るほどの規模なのかわからない。そんなことを考えていると昼休みが終わった。
午後の業務を黙々としていていつ地震が起こるのか構えていた。頭の中に浮かんだ映像だと昼間なのか夕方なのか全くわからない。業務をしていると14:00過ぎになり西浦真美から”休憩室に来て!”というメッセージが届いた。俺は”すぐに行く”とメッセージを返して休憩室へ向かった。
休憩室の前で西浦真美とバッタリ会った。二人で休憩室に入って椅子に座って話をはじめた。
「とりあえず、俺のほうはアプリケーション事業部で四人、カスタマーサポートで二人、システム開発部で一名の七名が地震の被害にあう映像が浮かんだんだけど、棚の上から物は降ろすようにしといたよ」
「わたしのほうは、営業部で三人と総務部の多田さんを含めて二名、合計五名だった。棚の上の物は降ろしてもらったのでとりあえず安心ね。掛け時計も水谷主任と営業部の遠藤部長の上から取り外しておいたわ」
「じゃあこれで地震の被害に合う人はいなくなったと思う。あとはいつ起こるかだね」
「わたしも浮かんだ映像で何時頃かなって考えてみたんだけど、社内だから全くわからないわね」
「さっき、たまたま小松さんの目を見たら映像が浮かんで、椅子から転げ落ちる感じのシーンだったんだけど、他にもそういう人がいるかもしれない。ただ、もうこれ以上は限界かも」
「そうね。従業員全員を調べるのはもう無理よね。誰もケガしなければいいんだけど・・・」
「もし他の人が被害にあってもおそらく軽傷ですむと思うから、もう気にしないでおこう」
「うん。わたし達は二人なんだし、全員の被害を防ぐのは諦めるわ」
「他の人もだけど、西浦さんも気をつけてね。助けようとしている俺達がケガをしたら何やってるのかわからないしね」
「わかったわ。水嶋君も気をつけてね」
「じゃあ、俺は自分の席に戻るね」
「わたしも戻るね」
話が終わって俺は自分の席に戻った。地震の発生を待ち構えながらサーバー構築インストーラーの細かい仕様をまとめていた。時計を見ると15:00を過ぎていたが、何も起こらない。昨日の台風は天気予報があったのである程度の時間はわかったが、地震に関しては予報などないので時間が全くわからないのが厄介なところだ。本当に今日、地震は発生するのだろうか。もしかすると明日の未来が見えているのかもしれない。しかし、今回の近未来透視現象はその日に起こる出来事が映像となって頭に浮かんでいたので明日になるということはあまり考えにくい。そんなことを考えながら仕様を必死にまとめていて16:00が過ぎた。あと三時間以内に地震が発生するはず。西浦真美から”何も起こらないね”とメッセージが届いた。俺は”そうだね。でも油断は禁物”とメッセージを返した。それから少し時間が経った16:24にスマホから緊急地震速報のアラートが鳴った。そして社内全体が揺れだした。結構大きいが横揺れが10秒ほど続いた。揺れがおさまって周囲を見渡すとみんなデスクにしがみついていた。向かいの席の小松結衣も椅子から転び落ちることはなく、他のデスクエリアでもケガをした人はいないようだ。震源地はここから遠く離れた海底で、この付近は震度4ということだった。高層階のビルなので震度4でもかなり揺れは激しかったのだろう。地震がおさまると日根野部長が「みなさん無事かな?」と心配そうに声をかけたが、みんな無事だったようだ。俺は気になってアプリケーション事業部のフロアを見に行ったが、誰もケガをした人はいないようだった。西浦真美も心配で営業部のフロアを見に行ったらしいが、全員無事だったらしい。結構揺れたが大地震でなくて本当に良かったと思う。今回のことでこの近未来透視現象は終わるかもしれないと思っていたのだが、まだ終わりではなかった。
■ 2018年9月21日(金)
今朝も目覚ましが鳴って8:00に起きた。カーテンを開けて窓の外を見ると秋雨前線の影響で曇っていた。明日の予報は雨だが、今日はまだ曇りで雨は降りそうになかったが折りたたみ傘を鞄に入れておいた。部屋を出て洗面所に行って顔を洗うとキッチンから「祐樹、朝食はトーストを焼いて食べてね」という母親の声が聞こえた。キッチンへ行くと母親がリビングのソファーに横になっていた。どうも今日は少し体調が悪いらしい。俺はトーストを焼いてインスタントコーヒーを入れて朝食をさっさとすませた。俺は「母さん大丈夫なの?夕飯作れないようだったら、俺外で食べてくるけど?」と聞いてみると母親は「大丈夫よ!外食なんかしないで早く帰ってきなさい」と言った。
自宅を出て駅まで歩いて、いつもの時間の電車に乗った。昨日の地震で電車が遅れて帰る時間が遅くなったのだが、今日はもう何事もなかったかのように電車は走っていた。会社の最寄り駅に到着して10:00前に出勤した。自分の席に座ってパソコンの電源を入れると、昨日の続きでサーバー構築インストーラーの細かい仕様をまとめていた。しかし、この仕様で児島信二に何を担当してもらおうかと考えていた。俺は隣の席のほうを見て「児島君」と呼んだ。すると児島信二が振り向いた。その瞬間、児島信二の目を見ると頭の中で映像が浮かんだ。夜、児島信二と山内美沙が駅に向かって歩いていると、三人組のチンピラ風の男達に話しかけられている。赤いシャツを着て黒の長ズボンをはいた男、もう一人は青いシャツを着て黒い長ズボンをはいた男、その後ろには金髪で角刈りの身長が180センチメートルくらいのガタイの大きい筋肉質、白い長袖シャツにグレーのズボンをはいた男がいる。この二人組の男は、先日、山内美沙が繁華街を歩いていて絡んできた奴らだ。児島信二は山内美沙の手を引っ張って細い右を逃げ去っていく。チンピラ風の三人組が追いかけて行った。そこで映像が止まった。「水嶋さん?」と児島信二が呼びかけた。俺は「あっごめんごめん、ちょっと頭がぼーっとした」といって児島信二にどこまでサーバー関連のプログラムができるか聞いた。児島信二もかなりサーバーのことを勉強しているようで、今ではウェブサーバーの構築くらいならできるくらいまでになっているようだ。ただ、サーバーの環境設定がいまいちわからないらしい。環境設定はサーバーによってそれぞれで、これは経験を積まないとわからない。とりあえず児島信二にはフロント部分とウェブサーバーのプログラミングを依頼することにした。それにしてもさっき頭に浮かんだ映像だと、また山内美沙に危険が迫っていて、児島信二も巻き込まれている。あの一件以来、児島信二と山内美沙は一緒に帰るようにしているらしい。それが今日の夜、再びあのチンピラ風の男二人組に絡まれるのだ。俺は心配になったので西浦真美に”山内さんの目を見て!”とメッセージを送った。児島信二と山内美沙に危険が迫っているのであれば、山内美沙の目を見ても同じ映像が浮かぶはずなのだ。しばらくして西浦真美から”休憩室に来て!”とメッセージが届いた。俺は休憩室へ行くことにした。
休憩室に入ると既に西浦真美が椅子に座っていた。そして西浦真美が話しはじめた。
「またあの二人組の男に絡まれるようね。それにもう一人強そうな男が増えてるじゃない!」
「やっぱり山内さんの目を見ても同じ映像が浮かんだんだね。俺は児島君の目を見て映像が浮かんだんだけど、もしかしてと思って西浦さんには山内さんの目を見てもらおうって思ったんだよ」
「それで、水嶋君はどうするつもりなの?やっぱり二人を助けにいくの?」
「助けにいきたいんだけど、今回は三人組の男で、しかも強そうな男がいたからね。何か考えて助けにいかないと前のようにはいかないと思うんだよ」
「そうよね。二人組の男でも大変だったのに、今度は三人組だし、児島君と山内さんは逃げていったみたいだから今回は難しいわね」
「それにしてもあの二人組の男はしつこいねえ。もしかして俺達のことを探してたんじゃないかな」
「それだったらわたしも巻き込まれてしまう可能性があるわけよね?」
「あの時いた四人全員が巻き込まれてるのかもしれない。うーん、どうしようかな・・・もうこうなったら警察に通報しようか?」
「でも、今は何かされてるわけでもないのに、警察に通報なんてできないんじゃない?」
「それはそうだけど、さすがに三人組の男を相手に前のように逃げるのはもう厳しいよ」
「児島君と山内さんが絡まれていた場所って、会社から駅に行く途中の道だったわよね?人通りもそれなりにある場所だと思うんだけど、どうして二人は逃げたのかしら?」
「その時に限ってあまり人が歩いてなかったとか、それとも焦って思わず逃げてしまったのか。逃げた方向は会社のビルの裏側の道のほうだったよね?」
「もしかしてまたあの公園に逃げようとしたんじゃないかしら?あの方向だと会社の裏の通りに行けるし、結構複雑な道になってるから逃げるとすればあの公園じゃない?」
「またあの公園になるのかな?まあ、今日の勤務が終わってから、二人のあとをつけていって、絡まれてるところを目撃した段階で警察に通報するしかないかもね」
「そうね。また前のように下手に逃げようとしたらわたし達も巻き込まれるし、ここは警察に通報するのがいいわね」
「でも、あの二人がどこに逃げていくか、ちゃんと場所を特定してから警察に通報しないといけないんじゃないかな?」
「それもそうよね。場所はわかりませんって通報しても、警察も来てくれるかわからないわね」
「とりあえず、今日は一日、どうやってあとをつけて、どの段階で警察に通報するか考えてみるよ」
「わたしもなにかいい方法を考えてみるわ」
「とにかく、勤務時間終了してから俺と西浦さんで児島君と山内さんのあとをつけていこう。くれぐれも西浦さんは巻き込まれないように注意してほしい」
「わかったわ。でもあの二人組の男はわたしのことも探してるかもしれないわね」
「それはまだわからないけど、とにかく今日、児島君と山内さんがたまたまあの男達とバッタリ会ってしまうのか、それとも探されていて見つけられたのか、それによるよ」
「そうね。まだわからないわね」
「とにかく今日一日、お互いにいい方法を考えよう」
「うん。なにかいい方法が思いついたらメッセージ送るわ」
「俺もいい方法を思いついたらメッセージ送るね」
「じゃあ、わたしはそろそろ戻るわね」
「じゃあまた!」
俺と西浦真美は何かいい方法がないかと今日一日考えることにした。児島信二と山内美沙の帰る時間を遅らせる方法や、そもそも二人で帰るのをやめさせる方法などあらゆることを考えてみた。しかし、どれもこれもあまりパッとしない。俺は自分の席に座って児島信二のほうをチラチラ見ながら、あらゆることを考えていた。
昼休みになり、会社のビルから外に出ると見事な曇り空だったが雨雲ではないので今日一日は天気がもちそうに思った。今日の昼食は何も決めてなかったことに気づいた。児島信二と山内美沙をどうやって助けるか?そればかりを考えていたからだ。俺はもう面倒だったので手軽に牛丼屋に入って牛丼と味噌汁を注文した。昼食をさっさと終えて、俺は今夜、児島信二と山内美沙が絡まれて逃げていく道を下見することにした。結構人通りの多い場所で絡まれて、その通りから右の細い道へ逃げていった。細い道はいくつかの曲がり角があって、どこをどうやって逃げていくのか想像つかなかった。その細い道から右に曲がると会社のビルの裏通りになり、その途中に例の公園がある。二人が逃げるのであれば知らない道よりこの公園に逃げるのが妥当かもしれない。しかし、この公園には隠れる場所がないので、公園に入るか、そのまま通りを真っすぐ進んで大通りに出るのかわからない。もしくは途中で追いつかれて捕まってしまうかもしれない。捕まったとしたら、この公園に引きずり込まれるだろう。そんなことを考えているとそろそろ昼休みが終わる時間になったので、会社に戻った。
午後になってもずっと考えていたが何もいい方法が思いつかなかった。14:00を過ぎた頃に西浦真美から”いい方法を思いついたから休憩室に来て!”とメッセージが届いた。俺はすかさず”すぐに行く!”とメッセージを返した。
休憩室へ行くとまだ西浦真美は来ていなかった。椅子に座って待っていると西浦真美がスマホを片手に休憩室に入ってきた。そして西浦真美が話しはじめた。
「児島君と山内さんがうまく逃げれたらそれでいいんだけど、もし捕まるようなことがあれば、その様子をスマホで動画撮影するのはどうかしら?」
「動画撮影してそれをどうするの?」
「前に小松さんが脅迫されていたことあったじゃない?あの時はボイスレコーダーで録音したけど、今回は動画を撮影して、それを見せつけて反対に脅せばいいんじゃないかしら」
「なるほどね。でも相手はチンピラ風の三人組の男だし、そんな脅しが通用するかな?」
「でも、それを警察に見せれば確実に捕まるわよ。やってみる価値はあるんじゃない?」
「それを録画しつつ、場所が特定したらすぐに警察に通報するのがいいかもね」
「録画はわたしがするわ。水嶋君は警察に通報して、もしもの場合、なんとか二人を逃がすことを考えてほしいの」
「うん。そうするけど、問題は二人がどこに逃げていくかだね。昼休みにね、二人が逃げていった場所をあちこち下見してたんだけど、あそこの道はかなり複雑だから、やっぱり二人はあの公園のほうに逃げていくんじゃないかなって思うんだよね」
「わたしもそう思うわ。あんな曲がり角がたくさんある場所で知らないところへ逃げていくとは考えにくいのよね」
「またあの公園になるかもしれないけど、二人を見失ったらとりあえずあの公園に行ってみることにしよう」
「そうね。二人のあとをつけていくにしても大通りからすぐ右に曲がって逃げていくから見失うかもしれないわね」
「俺は二人も心配だけど、西浦さんが巻き込まれないかも心配なんだよ。本当に気をつけてね」
「わかってるわ。でもわたしも二人を助けたいから、できるだけのことはするつもりよ」
「まあ、無理をしないでね。二人が何かされていてもすぐに飛び出して助けにいくのは避けよう。少し様子をみながら助けられるタイミングを見計らって行動するようにしよう」
「うん。焦らず助けられるタイミングを見計らって行動しましょう」
「勤務終了時間になったら、こっそり二人のあとをつけよう。西浦さんと俺はエレベーター前で合流しよう」
「わかったわ。じゃあわたしはそろそろ戻るわね」
「じゃあまた今夜」
西浦真美と今夜の打ち合わせのような話をして俺もすぐに自分の席へ戻った。今日は妙に落ち着かない。今夜は俺にも危険が及ぶかもしれないし、西浦真美が巻き込まれるかもしれない。それだけは絶対に避けなければいけないが、だからといって児島信二と山内美沙を見捨てるわけにもいかない。いろんなことを考えていると時間が経つのが早い感じがする。西浦真美の動画を録画する方法もいいかもしれないが、それを見せつけて脅したとしても、スマホを取り上げられたら全てが終わってしまう。二人が捕まって何かされている場所を特定できれば、落ち着いてすぐに警察に通報するのが一番いいだろう。サーバー構築インストーラーの仕様をまとめながら時計をみるともう17:00になっていた。俺はとにかく心を落ち着かせることを意識していた。
勤務時間終了の19:00になった。いよいよ児島信二と山内美沙のあとをつけることにした。児島信二が退社するのを見るとすぐに俺は退社してエレベーター前に行った。西浦真美と合流して、すぐに会社のビルの外に出た。児島信二が山内美沙を待っているようだった。俺と西浦真美は会社のビルの中で山内美沙がエレベーターから出てくるのを待っていた。しばらくすると山内美沙がエレベーターから出てきた。そして会社のビルの外へ出て児島信二と合流したようだ。その後ろから俺がついていき、さらに後ろから西浦真美がついてきた。児島信二と山内美沙は駅に向かって大通りを歩いている。10メートルほど離れて俺と西浦真美は二人のあとをつけていった。そして、浮かんだ映像の場所に近づいてくると向こう側からチンピラ風の三人組の男がやってきた。そして、男達は児島信二と山内美沙の前に立った。俺と西浦真美はその場で止まって、何を話しているのか聞くことにした。
青いシャツを着た男が「やっと見つけたぞ。この前はよくもやってくれたな。今日はもう逃がさねえぞ」と言った。そして赤いシャツの男が「兄ちゃんと姉ちゃん、今日は二人だけか。さあ、この前のお返しさせてもらおうかぁ」と怒鳴った。児島信二は山内美沙の手首を持って右側の細い道へ走って逃げていった。三人組の男は二人を追いかけていった。俺は西浦真美に「追いかけよう!」といって、すぐに走って大通りから右に曲がって細い道に入った。二人と三人組の男の姿はない。やはりこの先を右に曲がって会社のビルの裏通りに逃げていった可能性が高い。そして俺と西浦真美は右に曲がって会社のビルの裏通りに入った。すると公園のほうから怒鳴る声が聞こえた。俺は西浦真美のほうへ右手を開いて「ここからはゆっくり行こう」と小さな声で言った。ゆっくりと会社のビル裏の公園に向かって歩いていくとだんだん声が聞こえてきた。大きな「てめえら、もう逃がさねえぞ」と聞こえる。おそらく公園の中で捕まってしまったのだと思った。
俺と西浦真美は公園の左側のブロック塀にしゃがみこんで様子を見ていた。西浦真美はスマホを取り出して動画の録画ボタンを押した。児島信二が地面に倒されていて青いシャツの男と赤いシャツの男に蹴られている。金髪で角刈りの男はその様子を見ながら「やっちまえ」と言っている。児島信二は必死に山内美沙を助けようとしているが、二人の男に蹴られていて動けそうにない。その児島信二の姿を見て山内美沙が「やめてください」と涙を流しながら青いシャツの男の腕を掴んでいる。すると青いシャツの男が「姉ちゃん、そもそもてめえが原因じゃねえか!」と怒鳴って山内美沙の頬を思いっきり叩いた。それを見た俺は突然、頭の中が真っ白になり、全ての感情がなくなった。そして俺は理性というものを失った瞬間、体の中に凄まじい力がみなぎってきた。隣にいる西浦真美は小さな声で「ちょっと水嶋君、早く警察に通報・・・ってどうしたの?赤く輝いてるよ?」と言った。俺はもう感情も理性も何もなくなり、ゆっくり公園の中に入っていった。俺はゆっくり青いシャツの男のほうへ歩いていき、山内美沙の手首を掴んで後ろに引っ張って投げるように三人組の男から引き離した。すると青いシャツの男が「てめえもいたのか!」といきなり殴りかかってきたが、俺はすかさず避けて青いシャツの男のお腹を蹴飛ばした。そして青いシャツの男がお腹を両手でおさえながら「痛っ」といってるところで俺は右の拳でぶん殴った。青いシャツの男は地面に倒れて口から泡をふいていた。すると赤いシャツの男がナイフを出してきて俺のお腹のほうに向かって突いてきた。俺は赤いシャツの男が持ったナイフをもったの手を蹴飛ばした。ナイフは地面に落ちるとともに、俺はすかさず赤いシャツの男の顔面を蹴飛ばした。赤いシャツの男は3メートルほど吹っ飛んで地面に倒れた。そのまま俺は赤いシャツの男が倒れてるところへ歩いていき、頭を踏んずけた。赤いシャツの男も完全に気絶しているようだ。続いて金髪で角刈りの男の前にゆっくり歩いていった。金髪で角刈りの男は「兄ちゃん、俺とやろうってのか?俺はこうみえてプロ並みのボクサーなんだぜ」と言ったが、俺は黙ったまま理性も感情もなく睨めつけた。金髪で角刈りの男は右の拳でいきなり殴りかかってきた。俺はすかさずしゃがんで金髪で角刈りの男のお腹に思いっきり強烈なパンチを食らわせた。金髪で角刈りの男は「うぅー痛っ」とお腹を手でおさえながらかがんでいるところを、俺は背中を肘打ちした。すると金髪で角刈りの男は地面にうつ伏せで倒れた。そのまま俺は金髪で角刈りの男の髪の毛を掴んで顔を持ち上げて地面に叩きつけた。金髪で角刈りの男は「た、たすけてくれ」と言っているが、俺の耳にはそんな声は入ってこなかった。再び金髪で角刈りの男の髪の毛を掴んで顔を持ち上げて地面に叩きつけた。そして俺は立ち上がって金髪で角刈りの男の頭を蹴飛ばした。さらに俺は金髪で角刈りの男の髪の毛を掴んで顔を持ち上げた。すると西浦真美が大きな声で「水嶋君、もうやめて!」と言った。その声を聞いた俺は理性と感情が戻った。
俺は自分の手が金髪で角刈りの男の髪の毛を掴んでいることに驚いてすぐに手を離した。そして児島信二のほうへ行って「児島君、大丈夫?」と声をかけた。児島信二は「僕は大丈夫です・・・それより山内さんは大丈夫ですか?」と言ったので、俺は山内美沙のほうを見ると涙を流しながらもケガはしてなさそうだと思ったので児島信二に「山内さんは大丈夫だよ」と言った。青いシャツの男と赤いシャツの男が意識を戻したが、どうやら俺の姿を見て怯えているようで金髪で角刈りの男のほうへ行った。そして金髪で角刈りの男はゆっくり立ち上がった。俺が理性を失ってめちゃくちゃにしたのは間違いないので、ここは脅かすように「お前らもう俺達に近づくな!」と言った。三人組の男は揃って「た、たすけてくれー」と言いながら公園から逃げていくように走って去っていった。俺は感情や理性を失って凄まじい力を発揮させてしまったのだ。最初は自分でも何をしているのかわからなかった。理性と感情を取り戻した時は、自分がしたことに自分が怯えてしまった。山内美沙は涙を流しながら「また、ありがとうございました」と言った。西浦真美は俺に何かを言いたげだったが、黙っていた。児島信二は「さっきの水嶋さん、すごかったですが、なんか違う人みたいで正直怖かったです」と言った。理性や感情を失った俺はもう歯止めがきかなくなっていたので、周りから見ると怖かったのはわかる気がする。自分でも後で考えてみると怖かったのだ。
俺と西浦真美は児島信二と山内美沙を駅まで送っていった。二人は何度も「ありがとうございました」と言って頭を下げていた。とにかくこれでもうあのチンピラ風の男達は俺達に近づいてこないだろう。俺は二人を送った後で西浦真美と話をしたかったので駅に残った。そして西浦真美が話しかけてきた。
「水嶋君、暴力は嫌いじゃなかったの?それにあの赤く輝いた姿は一体何だったの?そう見えてたのはわたしだけ?」
「西浦さん、あれはおそらく特殊能力者の俺が持つトランセンドレッドという能力だと思う。俺は理性を失うと赤く輝いてとんでもない力を発揮することができるみたいなんだよ。ただ、理性を失っていて歯止めがきかない状態になるから身の危険を感じた時以外は使うなと言われてる」
「もしかして、前に言ってた重要な人に言われたの?」
「うん。それにこの能力は恐ろしい。自分でも何をしてるかわからないほどだし、下手したら殺してしまう可能性だってある。俺はもうこの力は封印したいと思う」
「そうね、さっきの水嶋君はかなり見ていて怖かったよ。もう人間というより狂暴な獣のようだったわ」
「正直、俺も今も怯えてるよ。西浦さんの声がして理性と感情が戻った時、自分で何してたんだと思った。でも、とにかく二人を助けることができたので結果的には良かったんだけどね」
「それはそうだけど、水嶋君、あれは過剰防衛になるわよ。でも警察に通報しなくてよかったわ」
今回はトランセンドレッドという能力を使ってめちゃくちゃにしてしまったが無事解決できたと思う。その瞬間、頭の中でコーラルピンクが光った。そして頭の中にある緑色の光と合わさって心の中に入っていく感じがした。
「西浦さん、今また頭の中で光って心の中に入ってきたよね?」
「うん。わたしの頭の中でも光って心の中に入ってきたわよ」
「これでおそらく近未来透視現象は終わったんだと思う。めちゃくちゃな解決方法だったけど、今回もなんとか乗り越えることができたね」
「そうね。それより水嶋君、その恐ろしい能力は怖いからもう使わないでよ!」
「俺だって怖いからもう使いたくないよ!ちなみに赤く輝いた姿を見れるのは特殊能力者だけらしいから西浦さんしか見えてなかったと思うよ」
「そうなんだ。どちらにしても、それならいいんだけどね」
西浦真美と話を終えて、俺は電車に乗って帰宅した。いろいろあったが、なんとかいろいろ解決させて近未来透視現象はもうこれで終わったのだと確信できた。それにしてもトランセンドレッドという恐ろしい能力を発動させないために、俺は理性というものをコントロールできるようにならないといけない。こんな恐ろしい能力を莉奈に見られるとかなり怯えさせてしまう。特殊能力者の恐ろしさを肌で感じた瞬間でもあった。まあ、そんなことより次はどこの山に行こうか考えたほうがいいかもしれない。水嶋祐樹という存在は普段、穏やかな性格の持ち主だと思うから。




