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未来からの伝言  作者: 涼
20/41

近未来透視現象Part1

■ 2018年9月17日(月)


朝8:00に目覚まし時計が鳴った。今日は祝日なのだが、先週の14日金曜日に会社の創立記念日で休みだったため出勤日になった。やけに寝起きが悪い感じがする。あくびをしながら起き上がってカーテンを開けて窓の外を見てみると晴れ時々曇りといった感じだろう。9月も中旬になったが、まだまだ残暑が続いている。寝ぼけたまま部屋を出て階段を下りていって洗面所で顔を洗った。そしてキッチンに行くとテーブルの上にはハムエッグとサラダ、ご飯と味噌汁が並べられていた。父親がいないところを見ると朝早くに出勤したんだろう。母親は隣の和室で何かガタガタと何かしているようだ。俺はテーブルに座ってさっさと朝食を食べた。するとキッチンに入ってきた母親が「あら祐樹、おはよう」と声をかけてきたので「おはよう、母さん」と言った。そういうと母親が今度はリビングに行って何か片付けをしていた。


家をでていつものように駅へ歩いていく。駅に着いて電車に乗る。祝日なので電車の中の人はいつもより少ない。電車の中でスマホを片手に、今週も平和な日常であってほしいと思いながら山記事を見ていた。今週末は秋雨前線がやってくるようで天気予報は雨のようだ。しかも同時に台風もきているようで週の中頃にこの付近に直撃するようだ。


会社の最寄り駅に到着して10:00前に出勤した。今日は社内全体朝礼の日なので席を立って社長室から社長が出てくるのを待っていた。そして社長室から社長秘書の西浦真美と社長が出てきてフロアの真ん中に立った。そして長い社長の話がはじまった。先週と同様に無駄に残業する社員が多いとぶつぶつ文句を言っている。どうやらノー残業デーを作るらしい。俺にとっては毎日がノー残業デーみたいなものなのでどうでもいい話だった。長い社長の話が終わると西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。


自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。業務をしていて、パソコンの画面から目をそらすと左斜め向かいに座っている池上有希の目が見えた。すると突然、俺の頭の中で映像が浮かんだ。会社内の通路を早足で歩いていく池上有希が女子トイレの前でつまずいて転んでいる。右膝を痛めたようで手でさすっている。そこで映像が止まった。今、頭の中で流れた映像は何だったんだろう。幻覚でも見ていたのかもしれない。あまり気にしないでおこうと思いながら業務を続けていた。しばらく黙々と業務をしていると日根野部長に呼ばれた。俺は日根野部長の席の前へ行くと次の開発についての話をされた。


「水嶋君、10月から新しいサーバーが数台導入されるんだが、ウェブサーバーやメールサーバーを自動で構築できるシステムを開発できないかな?」

「それはつまり、新しいサーバーに開発したプログラムを導入して作動させると自動で構築されるようにするということですか?」

「そういうことだよ。手動で構築するのは手間と時間がかかってしまうからね」

「できないことはないですが、かなりリスクを伴います。サーバーごとに環境が違うわけですから、それをどうするか考えないといけません」


俺はそう言って日根野部長の目を見ると、また頭の中で映像が浮かんだ。日根野部長が窓を開けると強い風が吹いて書類が散乱している。日根野部長は焦って窓を閉め、散らばった書類を拾い集めている。そこで映像が止まった。また頭の中で映像が流れた。俺は幻覚でも見ているのだろうか。


「水嶋君、どうした?ぼーっとして、何か考えているの?」

「あっいや、すみません。とにかくサーバー自動構築は必要最低限ならできると思いますが、環境構築は手動でするしかありませんね」

「そうか。一応聞いてみただけなんだけど、もし何かいい案が思いついたら提案してほしい」

「わかりました。では失礼します」


そういって俺は自分の席に戻った。たしかに日根野部長の言うとおり、新しいサーバーが数台導入されても手動で構築するのはかなり面倒だ。それを自動化することができればかなり楽になる。おそらくサーバー構築を依頼されるのはこのシステム開発部だろう。何かいい案を考えてみよう。それにしても頭の中で流れた映像は一体何を意味しているんだろうか。かなり鮮明に見えた映像でそのシーンは記憶に焼き付いている。また不思議な現象が起こっているのだろうか。今の段階では何もわからない。


昼休みになり外食に出た。もしかすると朝から幻覚を見ているのは寝ぼけているのかもしれないので、今日はお気に入りのカレー屋に行ってチキンカレーを食べることにした。やはりここのカレーはとてもスパイスが効いていてピリッとした辛さがある。カレーを食べていると結構汗が出てきていた。これで完全に目が覚めたと思う。カレー屋を出て外をブラブラ歩いて時間をつぶしていた。別に何か目的があるわけでもないが、外の空気をいっぱい吸っておきたい気分なのだ。そして昼休みの時間が終わり会社に戻った。


午後の業務は日根野部長が言っていたサーバー自動構築について何かいい方法がないか考えていた。サーバーにウェブやメールのシステムを自動でインストールするくらいなら簡単にできるのだが、問題は環境構築をどうするかだ。サーバーによって環境はそれぞれ違うので統一することはできない。俺はテストサーバーにアクセスしてサーバー内の環境設定ファイルを眺めていた。そうしていると、左斜め向かいに座っている池上有希が立ち上がって早足でフロアを出て通路を歩いていった。数分後、池上有希が右膝を手で触りながら戻ってきた。隣の席にいる小松結衣が「池上さんどうしました?」と聞くと池上有希が「トイレの前でつまずいて転んじゃって、右膝をぶつけちゃいました」と言って痛がっているようだ。小松結衣は「大丈夫ですか?」と心配そうに言うと池上有希は「うん、大丈夫です」と言った。もしかして、これは俺が午前中に見た映像が現実に起こってしまったんだろうか。それともただの偶然なんだろうか。俺は嫌な予感がした。それから一時間ほど経って、日根野部長が席を立って窓を開けた。すると強い風が吹いてデスクの上の書類が散乱した。日根野部長は「うわー」と言いながら焦って窓を閉めて散らばった書類を拾い集めた。これは俺が見た映像と全く同じシーンだ。それが現実に起こったのだ。そう思った俺はすぐに西浦真美に”至急、休憩室に来て!”とメッセージを送った。するとすぐに西浦真美から”わかったわ!”とメッセージが返ってきた。


俺は休憩室に行って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。そして俺は西浦真美のほうを見てすぐに話かけた。


「今日、池上さんと日根野部長の目を見ると頭に映像が浮かんだんだよ。その映像シーンと全く同じことが現実に起こったんだよ」

「わたしもよ!社長と話してる時に目をみると突然、頭の中に映像が浮かんだの。社長がドアに手を挟んでしまう映像だったわ。それで昼休みが終わってすぐの時、社長はドアに手を挟んだの。あと、総務部の多田さんと話している時に目を見ると、棚から数冊のファイルを落とす映像が浮かんだの。するとさっき多田さんが棚から数冊のファイルを落としたの」

「西浦さんも頭に浮かんだ映像ってかなり鮮明で記憶に焼き付いた?」

「うん。かなり鮮明な映像で記憶に焼き付いたわ。偶然だと思ったけど、水嶋君の話を聞くとどうやら偶然じゃないみたいね」

「どうやら何か不思議な現象が起こってるみたいだね。でも今回は西浦さんと俺は自分が見た映像を共有することはできないみたいだね」

「そうね。それに他の人の目を見てみたんだけど、映像は浮かばなかったの。映像が浮かぶのは特定の人だけなのかしら」

「いや、さっき俺もう一度池上さんの目を見てみたんだけど、映像は浮かばなかったから特定の人というわけでもなさそうだよ」

「それもそうね。わたしもさっき社長の目を見たけど映像は浮かばなかったから、おそらくランダムなのか、何か不幸なことが起こる人だけが見えるのかもしれないわね」

「とにかくとんでもない映像が浮かんだ場合、お互いに共有したいからメッセンジャーで連絡を取り合おう!西浦さんが映像が浮かんだ人の目を俺も見れば同じ映像が浮かぶかもしれないから」

「わかったわ。何かが起こる前にお互いに共有できるといいわね」

「大変な映像が見えないといいんだけどね」

「そうね。じゃあわたしはそろそろ行くわ」

「うん。じゃあまたね」


そう話して俺と西浦真美は休憩室を出た。その後、俺は自分の席に戻って周囲にいる人の目をチラチラみていたが、映像は浮かんでこなかった。西浦真美からのメッセージもこなかった。この現象は一時的なものなのか、それとも西浦真美が言うように何か不幸なことが起こる人だけが見えるのか、今の段階ではわからない。その日は結局、誰の目を見ても映像は浮かぶことはなかった。


■ 2018年9月18日(火)


朝8:00に目覚まし時計が鳴って起き上がってカーテンを開けた。台風が近づいているせいか外は曇っていた。念のために鞄に折りたたみ傘を入れておいた。家を出て駅に向かって歩いていると後ろから身長165センチメートルくらいの男子高校生が走ってきた。俺は振り向いて男子高校生の目を見ると映像が浮かんだ。この先の信号機は赤になっているがその男子高校生が左右を確認している。そして赤信号なのに男子高校生は信号を渡ると緑色の大型トラックが猛スピードで突入して男子高校生をはねた。その男子高校生は数メートル飛ばされて動かなくなった。ここで映像が止まった。まさか!と思って俺はその男子高校生を追いかけて走っていった。10メートル以上先を走る男子高校生を必死に追いかけていった。そして映像に流れていた信号機のところでその男子高校生は左右を確認している。俺は必死に走ってやっとその信号機に到着した時、その男子高校生が赤信号で渡ろうと足を前に出した瞬間、俺は「危ない!」と大声でいって、その男子高校生の右手首を掴んだ。すると緑色の大型トラックが猛スピードで突入してきた。俺はその男子高校生を後ろに引っ張った。俺は「危ないよ!もうすぐでトラックにはねられるところだったんだよ」と少し怒り口調で言うと、その男子高校生は「すみませんでした!」と謝った。なんとか大惨事は防げたが、その男子高校生はどうやら寝坊して遅刻したので急いで学校に行こうとしていたらしい。たしかに時間的に高校生が登校する時間ではない。


いつものように10:00前に出勤すると自分の席に座ってパソコンの電源を入れた。朝の大惨事を防いだことをすぐに西浦真美に伝えないといけないが、それは後でもいい。とにかく他にも大惨事が起こる近未来を見ることができたら、すぐに防がないといけない。そんなことを考えていると「おはようございます」と言って児島信二が出勤してきた。席に座った児島信二の目をチラッと見るとまた映像が浮かんだ。暗くなった会社のビル入口で児島信二がカスタマーサポートの山内美沙と何かを話している。山内美沙は深く頭を下げて去っていった。児島信二がずいぶんと落ち込んだ様子でのろのろと駅のほうへ歩いていった。そこで映像が止まった。暗くなった会社のビル入口ということは勤務終了時間後の出来事だろう。児島信二がなにかしら山内美沙にアプローチをしたのか誘ったのかはわからないが、何かを断れたのだろう。それで児島信二は落ち込んでしまったということになる。俺はすぐに西浦真美に”ちょっと児島君の目を見に来て!”とメッセージを送った。しばらくすると西浦真美がシステム開発部のデスクエリアにやってきた。そして西浦真美はチラッと児島信二の目を見た。すると西浦真美はぼーっとしたように立っていた。そして西浦真美は我に返ったかのようになり「水嶋君、ちょっと来て!」と言って一緒に休憩室へ行った。


俺は西浦真美に今朝の男子高校生の大惨事を防いだ出来事と今回の児島信二の目を見て浮かんだ映像について説明した。


「そう、そんなことがあったの。また大惨事を防いだのね」

「西浦さんも児島君の目を見て俺と同じ映像が浮かんだの?」

「全く同じ映像が浮かんだと思う。水嶋君が今説明した通りだったわ」

「児島君、ついに山内さんにフラれるのか・・・でもこれは俺達が介入する問題じゃないんだけどね」

「それはそうなんだけど、なんとか児島君を止めることはできないかしら?あの落ち込みだと業務に支障でるわよ?」

「うーん。でもあの映像からは児島君が一体何を言ったのかわからないし、何を止めればいいかわからないんだよね」

「そうね。前の現象の時みたいに声や感情が伝わってこないからわからないわね」

「今度は山内さんの目を見て映像が浮かんでこないかな?そしたら何かわかると思うんだけどね」

「それだと同じ映像が浮かんでくるか全く別の映像が浮かんでくるんじゃないかしら?でもこの現象は不幸が起こる人限定だと思うから、何も浮かんでこない可能性のほうが高いわね」

「児島君にはさ、俺のほうからそれとなく聞き出してみるよ。その後、山内さんのことどう思ってるか聞いてみるよ」

「そうね、まずはそれがいいわね」

「それで児島君が何か言ったら、焦らないほうがいいって釘を刺しておくよ」

「わかったわ。また何か変な映像が浮かんだら連絡を取り合いましょう」

「うん。じゃあ戻るね」


二人でそんな話をして俺は自分の席に戻った。そして児島信二に”その後、山内さんと何かあった?”とメッセージを送ってみた。隣の席だが、周りに声を聞かれるとまずいのだ。しばらくすると”すごいタイミングですね!今夜にでも山内さんをデートに誘ってみようって思っています”と児島信二からメッセージが返ってきた。俺は児島信二の行動を止めようと”山内さんには気になる人がいて、誰かに誘われても断るって前に言ってたから、焦らないほうがいいよ。今はそっとしておくほうがいいと思う”とメッセージを送った。そのメッセージを送って俺はチラッと横目で児島信二を見てみた。するとどうやら考え込んでる様子だった。そして”水嶋さんの言うとおりですね。僕は焦りすぎていました。少しずつアプローチしていくんでしたね”と児島信二からメッセージが返ってきた。そして俺はトドメに”焦ると全てが終わってしまう可能性があるから、少しずつだよ!”と児島信二にメッセージを返しておいた。


昼休みになり、今日はどうにも食欲がなかったので手軽に牛丼屋に行って牛丼と味噌汁を食べた。外は曇り空だが雨が降ってくる様子はなく、台風が接近しているが風は穏やかだった。その後、会社近くの書店でコミックスを立ち読みをして会社に戻った。


自分の席に座ってスリープ状態にしていたパソコンを解除すると西浦真美からメッセンジャーが届いていた。確認してみると”すぐに山内さんの目を見て!”というメッセージだった。俺はカスタマーサポートのデスクエリアに行って山内美沙の目を見た。すると頭の中で映像が浮かんだ。夜、駅前の繁華街を歩いている山内美沙が二人組のチンピラ風の男の肩にぶつかった。赤いシャツを着て黒の長ズボンをはいた一人のチンピラ風の男が山内美沙の手首を掴み何やら脅しているようだ。山内美沙は涙を流しながら謝っている様子だが、青いシャツを着ているもう一人のチンピラ風の男が山内美沙の背中を押してどこかに連れていこうとしている。山内美沙とチンピラ風の二人組の男はそのまま路地裏のほうへ歩いていった。ここで映像が止まった。カスタマーサポートの山内美沙は26歳で児島信二とは同期、身長は160センチメートルに満たないくらい、黒髪でサラサラのロングヘアーにつり目で鼻筋が通っていて薄い唇の美形、細身でスタイルが良くてモデルのバイトをしていた時期もあるらしい。そんな山内美沙が今晩、繁華街でチンピラ二人組に脅されてどこかに連れて行かれるようだ。俺はすぐに自分の席に戻り西浦真美に”至急、休憩室に来て!”とメッセージを送った。すると”わかったわ!”と西浦真美からメッセージが返ってきた。


休憩室に行って椅子に座って待っていると西浦真美が入ってきた。まず西浦真美がいつ山内美沙の映像を見たのかがポイントだと思った。


「西浦さん、いつ山内さんの目をみて映像が浮かんだの?」

「昼休みが終わる前だったかしらね。児島君のことが気になったから一応確認しようと思って山内さんの目をみたの。そしたら二人の男が山内さんをどこかに連れていってる映像が浮かんだのよ」

「俺は午前中に児島君を説得して行動しないように止めたんだけど、そのせいでその先の山内さんの未来が変わってしまったのかも!」

「それはどうかしらね?児島君の行動を止めなくても、同じ結果になったかもしれないじゃない」

「そうかもしれないけど、ちょっとした時間のズレで未来が変化したかもしれない。やっぱり介入するべきではなかったんじゃないかな」

「もうそんなこと言ってる場合じゃないでしょ!山内さんを助けないとまずいわよ」

「そうだね。こうなった以上、山内さんを助けよう。あのチンピラ風の男二人はまともな感じではないよね?」

「きっとヤバイ関係の男に違いないわ。下手に助けようとすると水嶋君にも被害が及ぶかもしれないわよ」

「俺は護身術を少しは習っていたから身を守る術はあるからいいけど、西浦さんが巻き込まれないか心配だよ」

「わたしは後ろにいて、いざとなったら山内さんを連れて逃げるようにするわ。水嶋君がそのタイミングを作ってくれればいいんだけど、できそう?」

「俺、暴力は嫌いなんだけどやってみるよ。でも男手がもう一人ほしいところだね。相手は男二人だからね」

「なんとか児島君を連れていけないかしら?山内さんにいいところを見せれるチャンスだと思うのよ」

「児島君か・・・どうなんだろう。でも山内さんのためならなんでもやりそうだけど、問題はどうやって児島君を連れていくかだね」

「そうね。まさか未来が見えてるからなんて言えないわよね。そもそも、山内さんはどうして夜の繁華街に一人で行くのかしら?」

「それもそうだね。あれは駅の向こう側の繁華街だけど、あんなところに女性一人で行くのもおかしいね」

「それだったら児島君に山内さんの様子がおかしいからあとをつけてみようって言えばいいんじゃないかしら?」

「それナイスアイデア!それでいこう!俺が児島君にそう伝えておくよ。そして三人で山内さんのあとをつけていく。西浦さんは少し離れてついてきてね」

「わかったわ。じゃあそれでいきましょう。あとは逃げた後にどこで合流するか決めておかないとね」

「会社のビル裏の公園でいいんじゃない?あそこなら人通りも少ないし、ゆっくり話も聞けるでしょ。まあまたあの公園かって思うけどね」

「あの公園とわたし達って何か関係あるのかしらね?」

「俺もあの公園には何かあるように思うけど、合流するとすればあそこしかないから」

「わかったわ。水嶋君、くれぐれも気をつけてね!」

「うん。わかってる。じゃあ俺は戻って早速児島君に伝えるよ」

「じゃあまた夜ね!」


そう話して俺は自分の席に戻った。早速、児島信二に”さっき西浦さんと話していたんだけど、山内さんの様子がおかしいみたい。だから勤務時間が終了したら山内さんのあとをつけようって話になってるんだけど、児島君も一緒に来ない?”とメッセージを送った。するとすぐに”山内さんの様子がおかしいって本当ですか?僕も一緒について行きます!”と児島信二からメッセージが返ってきた。俺は念のために”山内さんには気づかれないようにあとをつけるので内密にお願いね!”とメッセージを送っておいた。そして児島信二から”わかりました。了解です!”とメッセージが返ってきた。それから午後の業務を黙々と続けていて、パソコンの画面から目を離すと向かいの席に座っている小松結衣の目が見えた。そして頭の中に映像が浮かんだ。入門書を読みながらウトウトとしている小松結衣はとても眠そうだ。そのうち頭がフラフラして小松結衣の椅子が少し後ろに動き後ろの壁に頭をぶつけた。小松結衣は右手で頭をなでながらかなり痛そうな顔をしている。ここで映像が止まった。これから勤務終了時間までの間に小松結衣はうとうとして後ろの壁に頭をぶつけるということだろう。頭をぶつけて痛がるだけだが、ちょっと可哀そうな感じがしたのでチラチラと小松結衣を観察していた。二時間ほど経って、小松結衣が入門書を開いた。そして俺は小松結衣の表情を注意してみていた。ずっと入門書を読んでいるようだが、まだ眠そうではない。それから10分ほどすると入門書を開きながらぼーっとしている。そして次第に小松結衣は目を閉じて頭がフラフラと動き出した。その瞬間、俺は席を立って「小松さん!」と声を出した。小松結衣はハッと目を覚まして「あっすみません、どうしました?」と言った。俺は「小松さん、壁に頭をぶつけそうになってたよ」と言うと小松結衣は「ありがとうございます。ちょっとウトウトしてしまいました」と言った。


勤務終了時間の19:00になった。カスタマーサポートのデスクエリアのほうを見ると山内美沙が帰宅準備をしていた。俺と児島信二も帰宅準備をしてエレベーター前で西浦真美と合流した。会社のビルを出たところで山内美沙が出てくるのを待っていた。すると山内美沙が出てきた。児島信二は「山内さん、そんなに様子がおかしいように見えないですけど・・・」と小さな声で言ったが、俺は「いや、そんなことはないよ。とりあえずあとをつけよう」と小さな声で言った。俺と児島信二が15メートルほど離れながら山内美沙のあとをつけ、西浦真美は俺の少し後ろからついてきた。山内美沙は駅の地下におりていった。そして地下街を歩いていき、駅の向こう側の階段をあがっていった。俺と児島信二は少し山内美沙との10メートルほどの距離に縮めてあとをつけていった。そしていよいよ山内美沙は映像に流れていた繁華街に入っていった。児島信二が小さな声で「どうして山内さん、こんなところを歩いているんでしょうか?」と質問してきたが、俺は「わからない」と答えた。山内美沙が繁華街を歩いていると向こう側から二人組のチンピラ風の男が歩いてきた。まさに映像に出てきた男二人組だった。


そして山内美沙がそのチンピラ風の赤いシャツを着た男の肩にぶつかった。「痛っ!おい姉ちゃん、人の肩にぶつかっといて何もなしかよ!」そう言って赤いシャツを着て黒い長ズボンをはいた一人のチンピラ風の男が山内美沙の手首を掴んだ。山内美沙は「す、すみません」とかなり怯えながら謝った。すると赤いシャツを着た男は「めちゃくちゃ肩痛めたじゃねえか。肩の骨折れてるかもしれねえよ。姉ちゃん、どうしてくれるんだ?」と怒鳴った。山内美沙は怯えて涙を流しながら「本当にすみません。どうすればいいですか?」と言った。すると青いシャツを着ているもう一人のチンピラ風の男が「じゃあ、姉ちゃん、俺達にちょっと付き合ってもらおうか!」と言って山内美沙の背中を押した。山内美沙は「や、やめてください」と言った。しかし青いシャツの男は「いいからちょっと俺達に付き合えばいいんだ!さあ早くこい!」と言って山内美沙の背中を押した。その瞬間、俺は走っていき、後ろから赤いシャツの男の股間をめがけて思い切り蹴った。すると赤いシャツの男は股間を両手で抑えてもがいている。児島信二も走ってきて山内美沙の手首を掴んで後ろに引っ張った。青いシャツの男が俺のほうを振り向いて殴りかかってきた。俺はすかさず避けて青いシャツの腕をつかんでひねった。青いシャツの男は「痛っ」と言っている。俺は「児島君、山内さんを早く西浦さんへ!」と言って児島信二は後ろにいた西浦真美のほうに山内美沙を引っ張った。そして西浦真美と山内美沙はそのまま逃げだした。俺は青いシャツの男のお尻を蹴って掴んでいた手を離した。すると青いシャツの男は地面に倒れた。俺はすぐに「児島君も早く逃げて!」と言うと児島信二も逃げだした。俺は赤いシャツの男にもう一発お尻に蹴りを入れてすぐにその場を逃げた。青いシャツの男が立ち上がって追いかけてきたが、必死に俺は逃げた。あまりにも追いつかれた場合は不意を突いて立ち止まって蹴りを入れようと思ったが、振り返ると青いシャツの男はつまづいて転んでいた。駅の地下街を必死に走って会社があるビル側の駅の階段をあがって、合流する会社のビルの裏の公園に向かって走っていった。


会社のビルの裏の公園の中に入っていくと西浦真美と山内美沙がベンチに座っていた。児島信二は見守るように山内美沙の前に立っていた。山内美沙が恐怖心から泣いていて西浦真美が「もう大丈夫だよ」となだめている。俺もベンチの前に行って「はぁはぁはぁ、もう追いかけてきてないから大丈夫・・・はぁはぁはぁ」と息を切らしながら言った。山内美沙は「ありがとうございました」と泣きながら何度も言った。そして西浦真美が「ところで、山内さんどうしてあんなところを一人で歩いてたの?」と聞いた。俺もそれが気になっていた。すると山内美沙は「海に行こうと思ったんです」と言った。たしかにあの繁華街を抜けてさらに歩いていくと港がある。しかし港まではかなりの距離を歩かないといけないのだが、どうして海を見に行こうしたのか気になった。すると西浦真美が「あそこから港までかなりの距離があるけど、どうして海に行こうと思ったの?」と聞いた。山内美沙は「わたし、気になる人がいたのですが、最近その人に彼女ができたことを知ったのです。それで切なくなって海をみて気分を晴らそうと思ったのです」と答えた。たしか、山内美沙の気になる人はアプリケーション事業部の大里哲也だ。前回の願望感情受信現象で向井理恵と両想いであることと知ったので、二人は付き合うことになったんだろう。そのことを山内美沙が知ってしまったということだろう。西浦真美は「それにしても女性一人で夜にあんな繁華街を一人で歩くのは危険よ」と言った。それを聞いた山内美沙は「すみません、すみません」と何度も謝った。俺は「山内さん、とにかく無事でよかったよ。今日はとりあえず一緒に帰ろう」と言った。山内美沙は「はい」と小さく頷いてベンチから立ち上がった。山内美沙の家がどこかわからないが児島信二は知っているようだったので、俺は「児島君、山内さんの家ってここから近いの?」と聞いてみると児島信二は「僕の家の最寄り駅から二駅向こうです」と言った。俺は「じゃあ児島君、今日は山内さんに付き添って帰ってあげて」と言った。児島信二は「わかりました」と言った。そして公園を出て四人で駅へ向かった。児島信二と山内美沙の最寄り駅は俺とは逆方向なので駅前で別れることになった。俺は児島信二と山内美沙が改札を通っていく姿を見守りながら二人が去っていくのを見ていた。そして、俺は西浦真美と少しだけ話をするため、駅前で話をすることにした。


「大事にならなくて本当に良かったよ。西浦さんも怖かったでしょ?」

「わたしは大丈夫だったけど山内さんはトラウマになったかもしれないわね」

「この現象なんだけど、今回はおそらく近未来透視現象といった感じだと思う。つまり近未来に不幸が起こる人の映像が見える現象だね」

「そうね。でもまだこれで現象が終わりじゃないみたいよね」

「そうだね。今回はお互いに頭の中で浮かんだ映像が違うから、できるだけ情報共有する必要がありそうだね」

「うん。でもこの現象でこれ以上、大変なことが起こらないのいいのだけど・・・また最後には大変なことが起こりそうな気がするわ」

「俺達は今まで乗り越えてこれたんだから、大丈夫だよ。お互いにいいパートナーだと信じて乗り越えていくしかないよ」

「いいパートナーね。わかったわ。とりあえず今日は疲れたわ。水嶋君もそろそろ帰ったほうがいいわよ」

「俺も今日はさすがに疲れたよ。じゃあ、俺は帰るね。また明日ね!」

「じゃあまた明日!お疲れ様でした」


そして俺は電車に乗って自宅に帰った。それにしても今回の近未来透視現象は何を意味しているのだろうか。今日で現象が起こって二日目だが、今までと違って今朝からトラックにはねられそうな男子高校生がいたり、山内美沙の件などかなり疲れることが多かった。これ以上、何か大変なことが起こらなければいいのだが、それはまだわからない。とにかく西浦真美と協力して乗り越えていくしかないだろう。この日はあまりにも疲れたのでさっさと寝ることにした。


■ 2018年9月19日(水)


今朝は窓をしめていたが雨の音がして目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。そういえば夕方には台風が直撃するみたいなのだ。帰宅時に台風が直撃しないことを願いたい。さっさと起き上がって、部屋を出ると洗面所へ行って顔を洗った。そしてキッチンに行くと母親が朝食の準備をしていた。俺はリビングに行きテレビをつけて台風情報を見ていた。どうやら、予報によると強い勢力の台風が18:00頃にこの付近を直撃するようだ。これは嫌な予感がする。


しばらくすると母親が朝食をテーブルに並べていた。今朝は目玉焼きとベーコン、ご飯に味噌汁とサラダのようだ。俺はテーブルに座って朝食を食べはじめた。すると母親が「祐樹、今日は夕方に台風が直撃するみたいだから、気をつけて帰ってきなさいよ」と言った。俺は「ああー」と答えた。今も外から時折強い風の音がする。朝食を終えると部屋で着替えて玄関で靴を履いた。今日は折りたたみ傘ではなく、頑丈な傘を持って行こうと思って傘立てから選んでいた。すると母親が玄関前にやってきて「本当に気をつけなさいよ」と言ってきた。俺は「大丈夫だよ」といって家を出た。


駅に向かって歩いていると強い風がふきつけて横殴りの雨が体にあたる。傘を雨が降ってくる方向に動かしながらびしょ濡れにならないように注意していた。駅に着くと台風の影響を受けて電車が遅れていないか心配だったが、まだ大丈夫のようだ。いつもの時間の電車に乗った。スマホで天気図をみると、かなり中心気圧が低い大型台風のようだ。台風の進路予報でも、直撃するのはやはり18:00頃になりそうだ。この台風の動きは遅いようなので帰りが心配だ。ずっとスマホで台風情報をみているともう会社の最寄り駅に到着した。


いつものように10:00前に出勤してパソコンの電源を入れた。まだ近未来透視現象は終わっていないので今日も誰かの目を見ると近未来の映像が頭に浮かぶのだろう。しかも今日は台風が直撃するようなので、大変な映像が浮かばないかと心配だった。黙々と業務を続けていると西浦真美から”ネットワーク事業部の川島さんの目を見て!”とメッセージが届いた。俺はすぐに”わかった!”とメッセージを返した。ネットワーク事業部の川島さんとは川島賢一のことだろう。ちょうどサーバー管理者の水谷主任に相談があったのでネットワーク事業部へ行った。ネットワーク事業部のデスクエリアを歩いていると川島賢一が席に座って業務をしていた。ところが下を見ているのでなかなか目を見ることができない。俺はわざと「ごほんっ」と大きな咳をして川島賢一を振り向かせた。そして川島賢一の目を見ると映像が浮かんだ。夜、帰宅中の住宅街を横殴りの雨と強風の中で川島賢一が歩いている。辺りはチラシや葉っぱなどが飛んでいる。すると少し大きめの看板が飛んできて川島賢一の額に当たった。そのまま川島賢一は道端に倒れて気を失っているようだ。ここで映像が止まった。「水嶋さん?」という声が聞こえた。俺はハッとして「あ、すみません。ぼーっとしてました」と言った。声をかけたのは川島賢一だった。俺はそのまま水谷主任の席まで行って、先日、日根野部長と話したサーバー自動構築について水谷主任に意見を聞いてみた。水谷主任もやはり環境構築のところに問題があると頭を悩ませていた。しかし、もしそんなシステムを開発すればかなり作業の手間が省けるので何かいい案を考えてみると水谷主任から言われた。


俺はネットワーク事業部のデスクエリアから隣のカスタマーサポートのデスクエリアへ行って、いろんな人の目をみていた。すると小笠原純子という女性社員の目をみると映像が浮かんだ。夜、横殴りの雨と強風の中、とある駅前の商店街を歩いていると傘が壊れた。小笠原純子は必死に傘を直そうするが、風が強すぎてなかなか直らない。すると手が離れて傘が飛んでいき、近くの店の窓ガラスに傘の先端部が当たってガラスが割れた。小笠原純子はびしょ濡れになりながら焦ってそのお店のほうへ走って行った。ここで映像が止まった。さっきの川島賢一と小笠原純子は今夜、台風の中で惨事に巻き込まれるということになる。なんとかどちらも防ぎたいところだが、時間がわからず場所もわからない。どちらか一方を助けるというわけにもいかない。いろいろ考えながら俺は自分の席に戻った。俺はいろいろ考えたがやはりここは西浦真美と話し合うしかないと思い”至急、休憩室に来て!”とメッセージを送った。するとすぐに”わかったわ!”と西浦真美からメッセージが返ってきた。


休憩室に行くと既に西浦真美が座っていた。俺は川島賢一と小笠原純子の目を見て頭に浮かんだ映像のことを西浦真美に話した。西浦真美も総務部の桑田由実の目をみるとマンホールで足を滑らせて転んだ映像が浮かんだらしい。そして俺はどう対策するか話はじめた。


「西浦さん、今の段階で四人が台風で惨事に見舞われるようだね。特に川島さんは看板が額にあたって道端に倒れて気を失うみたいだから、一番助けなければならないのかもしれないけど・・・」

「でも、だからといって誰かを助けに行くとわたし達も危険を伴うのよ。それに誰かを優先して助けるというのもできないわ」

「たしかに俺達も危険を伴うし、誰かを優先することはできないよね。うーん・・・」

「他にも被害を受ける人っているのかしら?」

「それ俺も思った。とりあえず今夜の台風でどれだけの人が台風の被害を受けるのか調べてみる必要があると思うんだよ。せめて会社の従業員だけでもね」

「そうね。全ての従業員の近未来透視をして把握する必要はありそうね。でもそれがわかったところで水嶋君はどうするつもり?」

「なんとか全員を助ける方法を考えてみるよ。俺はシステム開発部とアプリケーション事業部を調べてみるから、西浦さんは営業部と総務部、あと役員を調べてみてくれないかな?カスタマーサポートはさっき俺が調べたので大丈夫」

「わかったわ。とにかく急いで調べましょう」

「お互い、長い時間、自分の席を離れることになるから、何かその理由が必要になるね」

「わたしは今日、社長がいないから席を離れても大丈夫なんだけど、水嶋君は理由が必要になるわね」

「日根野部長からサーバー自動構築化の話がでてるから、その相談でアプリケーション事業部に行くと言っておくよ」

「それで任せたわ。午後にまた休憩室に集合して情報共有しましょう」

「じゃあ、さっそく日根野部長に話をして調べてくるよ」

「わたしも早速、総務部から調べていくわね」

「じゃあまた後で!」


そう話をして、俺は休憩室を出て自分の席へ戻った。日根野部長の席に行って話した。


「日根野部長、先日のサーバー自動構築化のお話ですが、アプリケーション事業部の人達の意見も聞きたいので、ちょっと席を離れます」

「アプリ事業部の意見って必要なの?」

「彼らもウェブプログラマーなので別視点での意見がほしいのです。今回はあらゆることを想定する必要がありますので・・・」

「それにまだサーバー自動構築化の開発をするか決定していないんだが、水嶋君は開発したいと思っているの?」

「もしそれがサーバー構築が自動化できれば、かなりの作業工数が削減できてコスト的にも助かりますから開発したいと思っています」

「わかった。では水嶋君にしばらく任せることにするよ」

「ありがとうございます。ではさっそくアプリケーション事業部へ行ってきます」


日根野部長には半分嘘を言っているのだが、一応、アプリケーション事業部の誰かにサーバー自動構築化のことについては相談だけはしておかないといけない。そう思いながらアプリケーション事業部のフロアに行った。


俺はアプリケーション事業部のフロアで一人一人の目をチラチラと見ていった。すると名前はわからないが頭の中に映像が浮かんだ。その人は帰宅中に傘が壊れてびしょ濡れになり、強風にあおられて溝に足をはめている。そこで映像が止まった。他の人の目をみているともう一人、名前はわからないが頭の中に映像が浮かんだ。夜の住宅街を歩いていると強い風が吹いて屋根の瓦が飛んできて左腕に当たった。かなり痛そうに右手を左腕にあててさすっている。これで映像が止まった。他の人の目をみたが、アプリケーション事業部は二名が被害にあうようだ。あとは誰にサーバー自動構築化のことを相談しておくかだ。アプリケーション事業部には知り合いがいないので誰に相談すればいいかわからない。一応、山内美沙が気になっていた大里哲也なら名前と顔くらいは知っているので、軽く相談してみようと思った。俺は大里哲也の席に行って「サーバー自動構築化の開発をしようと思っているのですが、アプリケーション事業部としては何か意見はないでしょうか?」という質問をしてみた。大里哲也は「サーバーのことはよくわからない」と言った。まあ、それはそうだろうと思った。アプリケーション事業部は、システム開発部で開発したサーバーを使ってウェブアプリケーションを作ってるだけなので、サーバーのことなんてわかるわけがない。とりあえず、もう用事は済んだのでアプリケーション事業部のフロアを出ることにした。


昼休みになったので、近くの定食屋に行って焼肉ランチを食べてさっさと会社に戻った。昼休み中に被害に合う人を全員助ける方法はないか考えていた。しかし、今回は誰かのあとをつけて助けるというわけにはいかない。これまで浮かんだ映像は全て雨と強風ということだ。つまり台風が直撃するのは予報よりもう少し遅くなって帰宅時間中に酷く荒れるんだろう。そんなことを考えていると昼休みはあっという間に終わった。俺は自分の席に座りながらシステム開発部の従業員の目を見ていた。すると小松結衣の目をみると頭に映像が浮かんだ。夜の帰宅中に傘をさしながら駅の階段を下りている。すると足を滑らせて転んでお尻をつよく打って痛そうにしている。ここで映像が止まった。その他の人の目を見ても映像は浮かばなかった。アプリケーション事業部では二名、システム開発部では一名、そして午前中にはネットワーク事業部で一名、カスタマーサポートで一名、西浦真美が見た総務部の一名の計五名が被害を受けることになる。西浦真美が何名の被害者を見つけてくるかが問題だ。全員を助ける方法はないか考えていると西浦真美から”休憩室に来て!”とメッセージがきた。俺は”わかったすぐに行く!”とメッセージを返した。


休憩室に入って椅子に座っていると西浦真美が入ってきた。そして俺は頭に浮かんだ映像について西浦真美に全て伝えた。西浦真美も総務部でもう一人、営業部で三人が転倒したり飛んできたものにぶつけてしまいケガをする映像が頭に浮かんだという。役員は残業するためなのか、映像は浮かばなかったという。俺が頭に浮かんだ映像と西浦真美が頭に浮かんだ映像の人数は計九名となる。そのうち、命の危険があるのはネットワーク事業部の川島賢一だけだが、だからといって他の人を無視するわけにもいかない。


「西浦さん、命の危険があるのは川島さんだけだけど、他の人もケガをするので無視することはできないよ。やっぱり全員を助ける方法はないのかな?」

「うーん。難しいわね。わたしもなんとか全員を助けたいところだけど、自然災害には逆らえないのよね」

「たとえば帰宅時間を変更するとかできないの?暴風警報が出ているから勤務終了時間を早めるとか・・・」

「就業規則では暴風警報が発令されたら帰宅命令は出せるんだけど、それはわたしの権限で決めれないのよ。今日、社長がいないし困ったわね」

「その権限があるのは社長だけなの?」

「副社長にも権限があるんだけど、社長と同じく今日いないのよ」

「西浦さんが社長に電話をして、なんとかうまく事情を説明して帰宅命令を出してもらうとかできないの?」

「社長は他社で打ち合わせ中だと思うから連絡つかないと思うの。それにまだ暴風警報は発令されてないでしょ?」

「たしかにそうだね。でもなんとか社長に連絡つけて、西浦さんが帰宅命令を出してもいいか聞いてみるしかないよ。今まで浮かんだ映像から考えてみると台風の直撃は予報より少し遅くなると思うんだよ。だからせめて17:00には帰宅命令を出せば日没までにはみんな帰宅できると思う」

「その時間に暴風警報が発令されるといいんだけど・・・わたしはとにかく社長に連絡してみるわ」

「暴風警報は発令されるから、まだ発令されていない時間でも帰宅命令を出すしかないかも」

「そんなことをしたらわたしが怒られるじゃない!」

「いや、俺が西浦さんに暴風警報が発令されたと伝えたことにして俺も一緒に怒られるよ。それに勤務終了時間くらいに暴風警報が発令されるから、その前に安全を考慮したと言えば社長はわかってくれるんじゃないかな?」

「そうね・・・わかったわ。とりあえず、なんとか社長に連絡をとるようにするわ」

「よろしくお願い!社長に連絡ついたらメッセージ送ってね」

「うん。じゃあわたしは早速、社長に連絡するわ」

「じゃあまた後で!」


こうなったらなんとしてでも17:00には帰宅命令を出すしかない。そう思いながら俺は自分の席に戻った。時計を見ると15:00を過ぎていた。あと二時間ほどで西浦真美が社長と連絡をとることができればいいのだが、こればかりは運を天に任せるしかない。インターネットで警報エリアを確認するとまだこの付近は注意報になっている。しかし、あと数時間もすれば大型台風が直撃するのだ。あれこれ考えながら業務をしていると16:00が過ぎてしまった。まだ西浦真美からのメッセージは送ってこない。やはり社長と連絡がとれないのか。もう残り時間は一時間を切ってしまった。俺は現在の台風の位置と進路を見ていた。台風の動きが少し早くなってきているようだ。そして16:30を過ぎた頃に西浦真美から”社長と連絡がとれた!帰宅命令はわたしに任せるということになったわ!”というメッセージが届いた。俺はすかさず”じゃあ17:00には帰宅命令を出すようにしてほしい!”と返信した。


そして17:00になった時、西浦真美はフロアの真ん中に立って大きな声で「みなさん聞いてください!まもなく台風が直撃します。ですので帰宅命令を出しますので、みなさん急いで退社してください!」と言った。すると役員達から「まだ暴風警報は発令されてないんじゃないのか?それに西浦さんが帰宅命令を出す権限はないだろ?」と言った。西浦真美は役員達に「帰宅命令は社長から任せるように言われています。まもなく暴風警報が発令されます。安全を考慮して早めに帰宅命令をだしました。全てはわたしが責任をとります」と毅然とした態度で言った。役員達は納得いかないようだったが、それを無視して西浦真美は「従業員のみなさん、早く帰宅してください」と大きな声で言った。すると従業員達は帰宅準備をはじめた。俺は西浦真美のところへ行き「西浦さん、すぐにアプリケーション事業部と営業部のフロアに行って帰宅命令を出して!」と言った。西浦真美は「わかったわ」といってアプリケーション事業部と営業部のフロアへ走って行った。帰宅命令を出されているが役員達は残業するつもりのようだ。しかし、西浦真美が役員達には何の被害もないことを既に調べていたので問題ないだろう。俺も帰宅準備をしてさっさと退社することにした。結局17:20頃、この付近に暴風警報が発令された。台風の影響で電車が遅れたのは18:00を過ぎた頃だったが、おそらくほとんどの従業員は無事に帰宅しているだろう。明日にならないとわからないが、今日は台風騒動の一日になったと思う。それにしてもまだこの近未来透視現象は続くんだろう。

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