特殊能力者の日常
■ 2018年9月7日(金)
明日は彼女の笹原莉奈といっしー(石岡秀之)の三人でこのエリア屈指の難関ルートといわれている龍門ルートへに行く予定になっている。予定しているコースタイムは10時間とロングコースなのだ。そのため、朝4:00には出発しないといけないため、笹原莉奈といっしーが俺の自宅に宿泊する予定なのだ。それにそろそろ両親に莉奈を紹介したいのもあって、自宅に来てもらうことにした。勤務時間終了の19:00になるとすぐに俺は退社した。莉奈といっしーとは20:00に自宅の最寄り駅の改札口で待ち合わせとなっている。
19:50頃に自宅の最寄り駅に到着して改札口を出てまっていた。しばらくすると莉奈が改札口から出てきた。俺は「莉奈!」と呼ぶとすぐに莉奈は気づいてこちらへ歩いてきた。今日の莉奈はどうにもそわそわしている。すると莉奈が「祐樹君の家に行くのってなんだか緊張する」と言った。俺は「うちの両親のことなら気にしなくていいよ」といいながら莉奈の頭を撫でた。莉奈は「わたしと祐樹君って年齢差あるし・・・祐樹君のご両親にどう思われるんだろうなって・・・ちょっと緊張する」とかなり緊張しているようだ。俺は「うちの両親はそんなこと気にしないから大丈夫だって!」と言った。すると、改札口からいっしーが出てきた。いっしーは「ういっす!」と言ってこっちへやってきた。三人揃ったところで俺の自宅へ向かって歩いていった。
俺の自宅前に着くと莉奈がかなり緊張している様子だった。俺は「莉奈、大丈夫だから」と言って玄関のドアを開けた。そしていっしーが玄関に入ってきてその後ろから莉奈がついてくるように入ってきた。莉奈といっしーは「おじゃまします」と言って登山靴を脱いで家に入った。すると玄関に母親がやってきて「祐樹、おかえりなさい。その人達は友達?」と聞いてきた。俺は「登山仲間の石岡とこっちの女の子は彼女の莉奈だよ。明日、朝早いから今日は泊まってもらうことにしたんだよ」と母親に言った。母親は莉奈のほうを見て「あら、ずいぶん可愛らしい子じゃないの!祐樹の彼女ってこの子なの?」と言った。莉奈は焦って母親に頭を下げて「あの、祐樹君とお付き合いさせてもらってます笹原莉奈です」と挨拶した。母親は「莉奈ちゃんね。本当に可愛らしいわ。こんな登山バカの息子だけどよろしくお願いしますね」と言った。俺は「母さん、自分の子供つかまえて登山バカ息子なんて言うなよ」というと、莉奈は「いえいえ、こちらこそ祐樹君には本当にお世話になっています」と言った。俺は「母さん、今日の夕食はいらないから」といって階段をあがっていった。その後ろからいっしーと莉奈も階段をあがってきた。俺の部屋のドアを開けて「入って」と言うといっしーと莉奈が部屋に入ってきた。部屋に入って周りを見渡した莉奈は「うわー登山道具だらけ!」と言ってびっくりしているようだった。そう、俺の部屋の壁には登山道具がびっしり吊るされているのだ。俺はさっさとパソコンの電源を入れて、夕食にピザの出前をすることにした。ピザが届くまでの間にさっさと面倒なので父親にも莉奈を紹介することにした。
「莉奈、ちょっとついてきて!いっしーはその辺に座って待っててね」
莉奈は「うん」と頷き俺についてきた。そして階段を下りてキッチンに入りリビングにいる父親のところへ莉奈を連れていった。そして俺が「父さん、この子が莉奈といって、今付き合ってる彼女ね」と莉奈を紹介した。父親はこっちを振り向いて莉奈のほうを見た。そして莉奈がその父親の前でちょこんと頭を下げながら「祐樹君とお付き合いさせてもらってる笹原莉奈です。よろしくお願いします」と言った。すると父親は「ずいぶん可愛らしい彼女じゃないか。莉奈ちゃんだっけ?祐樹なんかでいいの?」と莉奈のほうを見ながら言った。莉奈は「はい」と言った。そして父親が俺のほうを見ながら「祐樹、こんな可愛い彼女なんかお前には勿体ないくらいだ。大切にするんだぞ!」と言った。俺は面倒だったので「わかったわかった。莉奈もう行こう」と言って莉奈の手を引っ張ってリビングを出た。階段をあがってる途中で莉奈が「緊張したー」と言ったので俺は「うちの親はあんな感じだからあまり気をつかわないでいいよ」と言った。部屋に戻るといっしーが山の雑誌を読んでいた。俺はパソコンデスクの椅子に座り、莉奈は俺のベッドに座って、部屋の中はしばらく沈黙が続いた。しばらくすると家のチャイムが鳴ってピザが届いた。俺はピザを受け取ってキッチンからグラスを3個持って自分の部屋に入った。一緒に注文したコーラーをグラス3個にそれぞれ入れて三人でピザを食べはじめた。それから三人で何気ない日常会話をしながらピザを食べ終えた。明日は朝が早いのでさっさと寝る準備をはじめた。俺といっしーは俺の部屋で寝て、莉奈は妹の佳織が使っていた部屋で寝ることになっている。俺は莉奈を佳織が使っていた部屋に連れていって、布団を敷いて「莉奈、明日はこのエリア屈指の難関ルートだから早く寝るようにしてね」と言った。すると莉奈は「うん。わかった」と言った。俺が佳織が使っていた部屋を出ようとすると、莉奈は消灯して「おやすみ」といて布団に入った。俺は自分の部屋に戻るといっしーが自分で持ってきたシュラフとマットを敷いて、もう寝る準備をしていた。俺もさっさとパソコンの電源を落として、部屋を消灯してベッドに横たわって寝た。
■ 2018年9月8日(土)
朝3:30に目覚まし時計が鳴って目が覚めた。もう昨日のうちに車に登山道具を積んでおいたので、あとは着替えるだけだった。いっしーは登山着で寝ていたので目を覚ますだけだった。俺は着替えが終わったら佳織の使っていた部屋をノックしながら「莉奈、そろそろ起きて」と言うとドアが開いて、莉奈が出てきた。莉奈は小さな声で「おはよう」と言って荷物を持って出てきた。莉奈も既に登山着に着替えていた。俺は莉奈に「よく眠れた?」と聞くと莉奈は「うん。でも3時頃に目が覚めちゃった」と言った。準備はできたので、三人で静かに階段を下りて玄関で登山靴を履き外に出た。車の後ろに荷物を積んで、助手席に莉奈が乗り、後部座席にいっしーが乗って龍門ルートへ向かって車を走らせた。さすがにシュラフで寝ていたいっしーはまだ眠いようで、後部座席で寝ていた。俺は「莉奈も少し寝ておくといいよ」と言ってFMラジオをかけた。最初のうちは莉奈も話しかけてきたが、途中から眠った。俺は睡眠時間が短くても車を運転していたり登山している時は絶対に眠くならない体質なので平気なのだ。今から行く龍門ルートは標高800メートル地点からひたすら沢沿いを進んで標高1600メートル地点の八剣平避難小屋まで続いているルートだ。距離は8キロメートルほどだが、岩場や鎖場、長いハシゴ場などがあって時間がかかるルートなのだ。それに過去に滑落した人もいたようで、登山というより沢登りに近いといえる。今回、そんなルートを選んだのは残暑なので沢沿いであれば涼しいという理由と、もちろん沢の水は綺麗なブルーで神秘的な場所もあるという理由、そして莉奈の登山技術を向上させるという理由である。莉奈には今後、神秘的な場所に連れていったり、あらゆる体験をさせるため、普通の登山道ではなくバリエーションルートに行く予定なのだ。そのためにも危険はあるが、莉奈には登山訓練をしてもらう必要があるのだ。
2時間ほどして龍門ルートの入口に着いた。莉奈もいっしーもぐっすり寝ていたようで到着すると起きて少し寝ぼけていた。駐車ポイントで三人は簡易ハーネスを装着してヘルメットをかぶってスタートした。まずは30分ほど林道を歩いていかないといけない。この林道歩きがかなり面倒なのだ。三人とも沈黙しながらすたすたと面白くない林道を歩いていた。そして林道が終わって沢沿いの道に入っていよいよ龍門ルートがはじまった。まずは沢沿いの道を進んでいき、滑りやすい岩場を横切っていくトラバース地点があり鎖が設置されている。その岩場の向こうには水深のあるブルーの沢の水が見える。莉奈は「うわーまたブルーだ!綺麗!」と言いながら歩いていった。続いて沢の対岸に渡ると今度は細い岩の道を歩いていき、その先にある大きな岩を登っていく。莉奈は目が輝いていてとても楽しそうな表情をしていた。さらに岩場を登ったり下りたりしながらどんどん進んでいく。そして今度は連続する鎖場があり、岩場をどんどん登っていく。鎖場が終わると樹林帯の中に入る。そして樹林帯を抜けた先には吊り橋が現れ落差30メートルの大きな三段滝が姿を現した。この段階でもう2時間かかっているので、その三段滝の下で休憩することにした。俺は莉奈の表情を見て「莉奈、楽しそうだね」というと莉奈は「だってだって、アスレチックみたいですごく楽しいんだもん!」と子供のようにはしゃぎながら言った。俺はこの龍門ルートは三度目で、たしかにアスレチックルートのように思っているが、莉奈も同じように感じてくれていることは嬉しいことだ。しかし、滑落の危険があるのはここからなのだ。
三段滝の下で15分ほど休憩をして吊り橋を渡って三段滝を巻くのだが、ここがかなりの急登になっていてスローペースで登っていかないとすぐに息が切れてしまう。そして三段滝の上部まで登ってくると今度は長いハシゴの連続が続く。このハシゴはもうかなり古いので一人ずつ登っていかないといけない。先頭は俺で最初にハシゴを登っていき、次に莉奈が登っていく。最後にいっしーがハシゴを登ってくると、再び長いハシゴが待っていた。長いハシゴを登ると今度は橋のように横に設置されたハシゴを渡っていく。そのハシゴから足を踏み外すともちろん滑落死してしまう。高度感のあるハシゴをゆっくり渡っていくが、莉奈は結構平気な顔をしながら渡ってきた。いっしーは慣れているようでテクテクと渡ってきた。続いて木の根っこの地帯になり、あちこちにロープが設置してある。そこを今度は登っていくのだが、ここも断崖絶壁の細道で足を踏み外せばアウトなのだ。俺は心配で先に登って莉奈を見ていると、恐怖心どころか楽しんだ表情で登ってきていた。最後にいっしーはするすると慣れた手つきで登ってきた。続いて断崖絶壁の崖の鎖場にきた。さすがにこの岩の足場は細くてかなり高度感もあるので莉奈も少し慎重になっていた。細い岩場にしがみついて一人ずつ鎖を持ちながら6メートルほどの岩場を登っていく。先頭の俺が先に岩を登って莉奈が登ってくるのをずっと見ていた。莉奈は沢登りで慣れたのかしっかり三点支持を意識しながら登ってきた。いっしーは思った通り慣れた手つきでさっさと登ってきた。岩の上からは迫力ある岩肌の山容が正面に連なって見える。その光景はまさに神秘的でなかなかこういった景色は見ることができない。莉奈はその景色をみて「こんな景色見れるなんて思わなかった」と言って感動しているようだ。立ち休憩になったが、そこの景色をしばらく眺めていた。
かなり沢を高巻きしたので今度は沢へ下っていくのだが、鎖場やハシゴの下りになる。せっかく登ったのにまた下って、そしてまた登らないといけないのが、この龍門ルートなのだ。鎖場も足場に注意しながらゆっくりと下っていき、ハシゴを下って、木の根っこ地帯に設置されたロープを持ちながら下ると、少し広くなった休憩所がある。そこは龍門滝テラスという場所で落差70メートルの龍門滝を望むことができる。とりあえずここまで四時間かかったので大休憩することにした。俺は莉奈の体力が心配だったので「莉奈、あとまだ2時間ほど登らないといけないけど、体力的に大丈夫?」と聞いてみると莉奈は「全然平気だよ」と言って龍門滝を望みながら行動食である饅頭を食べていた。さすがは24歳の若さだけあって体力があると思った。もうここからは沢に下っていって沢沿いを一時間ほど歩いたら岩ハシゴと空中岩トラバースがあって、その先が八剣平避難小屋なのだ。さすがにこのルートは俺でも体力的にしんどいと思って一時間ほどのんびりしていた。
龍門滝テラスからさらに下っていって沢まで下りてきた。ここからはただの沢歩きになり暇になる。俺は「ここからしばらくは暇だから何か喋りながら歩こう」と言って三人でぺちゃくちゃ喋りながら歩いていった。一時間ほど暇な沢歩きが終わるとちょっとした岩場を登っていき岩ハシゴ地点に着いた。ここはまず最初に莉奈にハシゴを登らせて俺がその姿を撮影した。続いて俺が岩ハシゴを登って最後にいっしーが登ってきた。そこから今度は空中岩トラバース地点がある。岩に打ち込まれた数本の大きな杭の上を歩いてトラバースしていく。ここも最初に莉奈に渡らせて俺がそのシーンを撮影しておいた。続いて俺が渡り最後にいっしーが渡ってきた。この付近はどれも迫力のある巨岩が並んでいて、こんな光景も普段見ることができない。莉奈はその光景を見ながら「こんなの初めてみた。すごい岩がいっぱい!」と呟いた。俺もこの巨岩群はいつみてもすごいと思う。その後、沢沿いを登っていって平坦な道になった。そして少し歩いていくと橋があって、その先にある芝生に八剣平避難小屋が見えた。ここでやっと龍門ルートの終わりなのだ。
八剣平避難小屋に入るともう14:00を過ぎていた。俺はバーナーをザックから取り出してお湯を沸かした。俺と莉奈はカップラーメンとおにぎりを食べていたが、いっしーは500ミリリットルの缶ビールを飲みながら温めたおでんを食べていた。俺は「ここにきてまで缶ビールかい!」といっしーにツッコんだらいっしーは「ここだからビールにおつまみなんっすよ!」といってまるで居酒屋にでもきたかのような感じなのだ。俺は莉奈に「龍門ルートはこれで終わりだけどどうだった?」と聞いてみると莉奈は「アスレチックみたいですっごく楽しかった!それにブルーの沢も見れたし、神秘的だったし、やっぱり祐樹君が連れていってくれるところはいいところばかり!」と言ってかなり満足気な表情をしていた。この龍門ルートを制覇したどころか怖がりもせずに楽しかったというのは、俺にとっても嬉しいことなのだ。龍門ルートはそこらの山ガールが手軽にいけるようなルートではない。もう莉奈もすっかり本格的な山女になりつつある。遅くなった昼食を終えてぼーっとしていると莉奈が「祐樹君、ここからはどうやって戻るの?」と聞いてきたので、俺は「ここからは登山道を下って最初歩いた林道を戻っていくだけだよ」と答えた。莉奈は「ここまで来るのにすごく時間がかかったけど大丈夫なの?」と聞いてきたので、俺は「登山道を2時間ほど下れば林道に戻れるよ」と答えると莉奈は不思議そうに「そうなんだー」と言った。この龍門ルートは岩場や鎖場、高巻きなどをするので時間がかなりかかるのだが、普通の登山道をつかえばこの八剣平避難小屋まで登りだと3時間半くらいで来ることができるのだ。
十分に休憩をしたので下山することにした。八剣平避難小屋を出たのが15:00前くらいなので予定だと18:00までには駐車ポイントまで戻れるだろう。登山道をひたすら下っていき、途中で尾根の分岐点で休憩をした。そしてつづら折れの登山道をひたすら下って17:00を過ぎた頃に林道に出た。莉奈は「すごい!なんだかここまでワープして戻ってきたみたい」と少し驚いていた。すたすたと面白くない林道を歩き戻っていって17:30過ぎに駐車ポイントまで戻ってこれた。三人で「お疲れ様でした」といって莉奈は助手席に乗り、いっしーは後部座席に乗って車で戻っていった。さすがに10時間を過ぎるコースだったので三人とも疲れていた。莉奈もいっしーも車内で熟睡していた。俺の自宅の最寄り駅の駅前ロータリーに到着した頃にはもう20:00を過ぎていて暗くなっていた。莉奈といっしーは車の後ろから荷物を降ろして「お疲れ様でした」と言った。俺は莉奈のほうを見て「莉奈、明日ね!」と言うと「うん」と頷いた。そして莉奈といっしーは電車に乗って帰っていった。俺は自宅に戻って莉奈に”あの龍門ルートを楽しいといって制覇するとは大したもんだよ!すごく登山技術があがってるよ。これから一緒に山に行くのが楽しみだよ。今日はゆっくり休んでね!”とメッセージを送った。しばらくすると莉奈から”今日はありがとう!すっごく楽しかった!わたし、登山技術あがってるのかな?これからもいろんなところに連れていってね!”とメッセージが返ってきた。そろそろ莉奈に本格的な登山知識を教えて、アルプスに連れて行ったり、冬になったら人のいないバリルートの雪山に連れていこうと思った。俺はこれまで彼女と登山に行くなんて考えもしなかったが、今は一緒に登山をして楽しめる彼女がいるのだ。そのことが嬉しくてたまらなかった。
■ 2018年9月9日(日)
昨日はさすがに疲れて早く寝たので、朝8:00には目が覚めた。朝からパソコンの電源を入れて昨日の龍門ルートの画像を整理しながらブログ記事を書いていた。コースタイムは長かったが、ブログ記事に掲載するのは撮影ポイントの画像にコメントをつけるだけなので、そこまで大量にならなかった。それに八剣平避難小屋からの下山はただの登山道はコースだったので、地図に記載はしているが、撮影はしなかったため掲載していない。二時間ほどでブログ記事を公開した。今日は昼過ぎから莉奈と二人で待ち合わせしている。莉奈の家近くにあるカフェで登山地図の読み方を教えるため二万五千分の一の登山地図をカラー印刷した。その登山地図に鉛筆で薄く磁北線を引いて、ルートを赤いペンで描いていった。よし!これだと教えやすいだろう。今日はせめて基本的な読み方をマスターしてくれるだけでいいのだ。
昼食を終えて13:20過ぎに俺はカラー印刷した登山地図を鞄の中に入れて家を出た。莉奈の家近くのコンビニに向かって車を走らせた。莉奈とは14:00に待ち合わせになっていたが、13:50頃にコンビニに到着してしまった。コンビニの駐車場に車を停めて待っていると、黒いワンピースを着て手さげバッグを持った莉奈がやってきた。莉奈はもう俺の車を知っているようで助手席側のドアを開けて「おまたせ」といって助手席に座った。そしてそこから車で10分ほど走らせたところにある大きなカフェの駐車場に到着した。俺は莉奈と手を繋いでカフェに入った。
俺はLサイズのアイスティーを注文して、莉奈はLサイズのアイスコーヒーを注文して店員さんがトレイの上にそれぞれのグラスを置いてくれたので、俺がトレイを持って四人掛けのテーブルに向かい合って座った。俺がストローでアイスティーを一口のんで鞄の中から登山地図を出して話はじめた。
「莉奈、今日はデートというかお勉強ね。まずこの登山地図を見て!」
「うん。なんか線だらけだね。左上に三角にの線があって上にNって書いてるけど、これは北という意味かな?」
「そうそう、上が北ね。まずね、薄い茶色の線がグニャグニャ書いてるけど、これが等高線といって標高10メートルごとに線が引かれているんだよ。そして標高50メートルごとに太い線になっている。ここまではわかる?」
「うん。なんとなくわかる。この太い線のところに350って書いてるけど、これは標高350メートルっていう意味であってる?」
「そうそう、その太い線に書いてるの数字が標高なんだよ。登山地図はいろいろあるけど、これは二万五千分の一の地図ね。他にも五万分の一の地図とかもあるけど、基本は二万五千分の一の登山地図がわかりやすいんだよ」
「上のほうの丸の中に黒い三角形が書いてあって荒知山って書いてるけど、ここが荒知山の山頂ってこと?」
「うん。そこが荒知山の山頂ね。この地図を見ると山頂は標高550メートルの地点にあるのはわかるかな?」
「えっと10、20、30・・・うん、線を数えると550メートルのところが山頂だね」
「今日、覚えてほしいのは、尾根と谷の地形だね。赤い線をペンで引いたんだけど、これが俺が登ってきたルートね。この赤い線をみると高いところから低いところまで等高線が張り出しているのがわかるかな?これが尾根なんだよ」
「なんとなくわかる。尾根って前に祐樹君が言ってた一番高い場所で周りは低くなってるような場所のことだよね?」
「そうだよ。尾根は一番高いところにいて左右の地形は斜面になって低くなっている。それで、この付近の等高線を見ると尾根だけど等高線の感覚が狭くなってるでしょ?標高10メートルの間隔が狭いということはこの付近は急登ってことになるんだよ」
「なるほど!等高線の感覚が狭いってことはそれだけ斜面が急ってことになるわけね」
「うんうん。莉奈、いいよいいよ。続いて谷の説明するね。今度は逆に低いところから高いところまで等高線が張り出しているのがわかるかな?これが谷ということになるんだよ。谷は沢筋もそうなんだけど、自分は一番低いところにいて、周りは高くなっている場所になるんだよ」
「えっと、そこをみると青い線が引いてあるけど、これは沢ってことであってる?」
「そう、青い線が引かれてるのは沢という意味で等高線をみると周りが高くなっているんだよ。手をこうやって広げて説明すると、指が尾根で指と指の間が谷ってことになるんだよ」
「あーなるほど!なんだか等高線の読み方がわかってきた!」
「それで反省会じゃないけど、この赤い線を引いているのは尾根道だけど荒知山の山頂から60メートルから70メートル下の付近をみると、等高線の間隔が広くなってる場所があるでしょ?尾根か谷かよくわからない平坦な場所ね」
「うんうん!ここはどういう場所になるの?」
「等高線の間隔が広くなっていて尾根か谷かよくわからない場所は平坦でだだっ広い場所ということになるんだよ。そして迷いやすい場所。つまり莉奈達が道に迷っていた場所はこの辺りなんだよ」
「なるほど、そういうことだったんだ。えっと荒知山の山頂から右に点線がずっと書いてあるけどこれはどういう意味?」
「これが正規の登山ルートという意味なんだよ。だからこの点線のところを歩いて地図にはないけど、そのまま南西に点線が引かれていて雷岩までつながってるはず。俺が描いた赤い線は点線になってないから正規ルートではなくてバリエーションルートってことになるんだよ」
「じゃああの時、一緒に下っていったルートは正規ルートではないってことだったんだ。へえーあの時にもう祐樹君はルートがわかっていたんだね」
「そういうことだね。登山地図で尾根と谷が読むことができるだけでも、これから登山に行ったらGPSで自分の位置がわかるから、スマホにGPSアプリ入れといてね。あとこの登山地図を持って帰ってもう一度よく読み方を覚えておいて」
「わかった。あと、この斜めに引いてる線はなに?」
「あーこれは磁北線だよ。地球は少し傾いてるからコンパスで北の方向を確認するときこの線に合わせるんだよ。これは7.5度くらい傾いてるけど、これはまだ深く考えなくていいよ」
「わかった。じゃあ今日帰ったらまたこの登山地図を見て復習しておくね」
その後、莉奈と何気ない日常会話を2時間ほどしてカフェを出た。そして莉奈の家近くのコンビニで莉奈を降ろして俺は自宅へ帰った。そろそろ莉奈も読図できるようにならないとこの先一緒に山に登ったとしても、ただ俺が連れて行くだけになってしまう。莉奈も自分がどういうルートで山に登るのかちゃんと把握しておいてほしいのだ。万が一、一緒に登山をしていてはぐれてしまったら、莉奈は自分で現在地を確認して自分の力で元のルートに戻れるようになっておく必要がある。そうでなければ、雪山のバリルートなんて連れていけないのだ。
■ 2018年9月10日(月)
朝8:00に目覚まし時計が鳴って起き上がった。これから金曜日まで仕事だと思うと憂鬱な気分になるのはみんな同じなのかもしれない。カーテンを開けて外をみると今日は曇っている。
家を出て駅に向かって歩いていく。まだまだ残暑で汗ばむ。電車に乗ってスマホで週末にどこの山に行くか探していると、大杉高原の記事があった。そういえば今まで莉奈には神秘的な場所ばかり連れていったが、こういう高原地帯はどうなんだろうと思った。ただ、大杉高原はきっちり整備された大人気の場所で登山者も多い。しかし、俺はその北側にある誰もいない穴場を知ってるので今度はそこに連れていってみようと思った。
会社の最寄り駅に着いて10:00前に出勤した。会社全体の朝礼がはじまり社長が話しはじめた。社長の話はいつも通りつまらなかったが、どうも残業する社員が多いとぶつぶつ文句を言っている。俺は必要以外で残業はしないので無関係な話だが、たしかにこの会社は残業する社員が多い。社長の話が終わって西浦真美が「では今週もみなさんがんばりましょう」と言って朝礼が終わった。
俺は自分の席に座ってパソコンの電源を入れて黙々と業務をしてた。そういえばシステム開発部に異動してきた小松結衣はどんな感じなんだろと思った。また営業部長の昇進した遠藤篤のことも気になる。あの過去が改変された出来事があって何か現在に変化が起こってないか確かめたいと思った。俺は西浦真美に”今日の昼食は小松さんを誘って三人でファミレスに行かない?”とメッセージを送った。すると西浦真美から”いいわよ”とメッセージが返ってきた。俺は小松結衣に”今日、西浦さんと三人で昼食に行かない?”とメッセージを送った。しばらくして小松結衣から”わかりました”とメッセージが返ってきた。
お昼休みになりエレベーター前で西浦真美と小松結衣と合流して三人で会社近くのファミリーレストランへ向かった。ファミリーレストランに入ると窓側の四人掛けテーブルに案内されて、俺はハンバーグランチ、西浦真美と小松結衣はパスタを注文した。注文した料理が運ばれてくると、三人とも黙って食べた。そして食べ終えるとドリンクバーに行って俺は久しぶりにアイスコーヒーをグラスに注いだ。西浦真美と小松結衣はカフェオレのようだ。席にもどって俺は小松結衣のほうを見て話を切り出した。
「小松さん、システム開発部に異動して一週間経つけど、どうかな?何か不満とかない?」
「WEBのことというか、デザインのプログラムのことがちょっとずつわかってきました。池上さんがいろいろ教えてくださるので助かっています。不満はありませんよ」
「それならよかったけど、少しは仕事が楽しいと思えそうかな?」
「そうですね。WEBやデザインのプログラムを覚えるのは楽しいですよ。ただ、わたしと池上さんのデザインが違うので、ちょっと心配はありますけど」
「小松さんと池上さんのデザインが違うってどういうこと?」
「あのですね、池上さんはキャラクターやファンシーなデザインが得意なんです。わたしはどちらかといえばパンフレットなんかのビジネスライクなデザインが得意なんです。ですから、池上さんと一緒にデザインすることになったら、どうすればいいのかなって心配です」
「おそらくだけど、池上さんが得意とするデザインが必要な場合は、メインのデザインを池上さんが担当して、小松さんが得意とするデザインが必要な場合は、メインのデザインを小松さんが担当することになると思うよ。一緒にデザインを考えるという依頼はされないと思う」
「それならいいのですが・・・」
「そこは日根野部長もわかってると思うから心配することないと思うよ」
「はい。あっちょっとお手洗いに行ってきますね」
そう言って小松結衣は席を立ってトイレに行った。俺は西浦真美のほうを見て話した。
「小松さんは大丈夫そうだね。それより、ここだけの話だけど、やっぱり俺達は本当にタイムリープしていたことがわかったよ」
「やっぱりそうなのね。でもどうしてタイムリープしていたことがわかったの?」
「俺はとんでもない体験をしたんだよ。異世界に行ってた。その時に本当にタイムリープしていると告げられたんだよ」
「そうだったの。それにしても本当にタイムリープできるなんて、やっぱりわたし達は特殊能力者なのね」
「うん。もうそれは間違いないよ」
「それだったらわたし、一度でいいから子供の頃にタイムリープしてお爺ちゃんに会いたいわ」
「それは無理だと思う。タイムリープできるのは12年くらいが限界だと聞いたから」
「12年くらいが限界なんだ」
「とにかく西浦さんにはそれを伝えたかったんだよ」
「わかったわ」
そこで小松結衣が戻ってきたので俺と西浦真美はこの会話を止めた。その後、三人で会社の話をしてファミリーレストランを出た。
午後の業務をしていて、15:00過ぎに俺は営業部のフロアに行ってみた。営業部長の席に遠藤篤が座っているのが見えた。30代半ばという若さで営業部長の席に座ってる姿は貫禄がないようにも見えるが、しっかり営業成績をあげるために頑張って仕事をしているように見えた。
その夜、俺は莉奈に電話をして週末に大杉高原へ行こうと誘った。莉奈は「大杉高原なら行ったことあるんだけど・・・」と言ったのだが俺は「まあ、お手軽コースだしたまには高原地帯に行くのもいいじゃない?」と言った。あまり気乗りしない様子で莉奈は「わかった」と言った。それから数分後、女優の新垣優こと黒岩優から電話がかかってきた。週末の15日はオフになったからどこか連れていってほしいと言われたので俺は「週末は大杉高原に行くからそれでもよければ一緒に行こう」と言った。黒岩優も気乗りしない様子で「大杉高原は行ったことありますけどいいですよ」と言った。石岡秀之と村瀬真也は15日は予定があるとのことだったので莉奈と黒岩優の三人で行くことになった。
■ 2018年9月15日(土)
朝4:00に目覚ましが鳴ったので俺は起き上がって登山着に着替えた。今週は何も起こらず平和な一週間だった。カーテンを開けて外を見てみると秋晴れの良さそうな天気になりそうだと思った。今日はいつもの駅前ロータリーに6:00に待ち合わせだったのでパソコンの電源を入れて山記事を見ていた。そして朝食にトーストを焼いてインスタントコーヒーを用意した。朝食を終えると5:40が過ぎていたので車にザックと登山靴を積み込んで駅前に車を走らせた。
駅前のロータリーに着くと5:55になっていた。既に青のTシャツに濃い茶色のショートパンツに黒のタイツ、登山靴は茶色で小さな赤いザックを背負った莉奈がいた。莉奈は車を見つけてこっちへ歩いてきた。辺りを見渡して黒岩優を探していると駅前の階段下で紺色のTシャツにインナーは白い長袖Tシャツをきてグレーのハーフパンツに黒のタイツ、ベージュのキャップをかぶってサングラスをかけて紫のザックを背負った黒岩優が立っていた。俺は「黒岩さんこっち!」と大きな声で呼ぶと、黒岩優は車のほうへ歩いてきた。莉奈は「今日は黒岩さんも来るんだ」と少し驚いていた。俺は莉奈に黒岩優が来るとは伝え忘れていた。莉奈と黒岩優は「おはようございます」と挨拶したあと、ザックを車の後ろに積み込んで、助手席に莉奈が乗って後部座席に黒岩優が乗った。そして大杉高原に向かって車を走らせた。
車内でサングラスをはずしてキャップをぬいだ黒岩優は「ふぅー」とため息をついた。その後すこし沈黙が続いていると黒岩優が「それにしても水嶋さんが大杉高原に行くなんてめずらしいですね」と言った。それを聞いた莉奈は「うんうん!そうですよね」と言った。俺は「まあたまにはそういうとこに行くのもいいんだよ」と言った。莉奈も黒岩優も納得できない表情をしていた。車内で莉奈と黒岩優が山の話をして盛り上がっていた。俺は黙って話を聞きながら運転していた。莉奈が大杉高原に行った時は曇り空で霞んでいて景色はあまり見えなかったらしい。黒岩優が大杉高原に行った時はポツポツと雨が降ってきてガスっていたようだ。大杉高原は雨量が多くて晴れる日は少ないのだが、今日は大丈夫だろうと思っていた。三時間ほど車を走らせて大杉高原の大きな駐車場に到着した。
俺は車から降りて登山靴を履いてザックを背負った。莉奈と黒岩優もザックを背負って「じゃあよろしくお願いします」と言って登山をはじめた。莉奈と黒岩優は正規ルートの登山口のほうへ歩いていこうとしたので、俺はすかさず「おいおい、そっちじゃない、こっちだよ」と言った。すると黒岩優が「大杉高原のルートはこっちですよ」と言って、莉奈も「うんうん、祐樹君、こっちだよ!反対側から周回するの?」と言った。俺は「誰がまともなルートで行くと言った?いいから俺についてきて!」といって反対側の道路のほうへ歩いて行った。車で走ってきた道路をひたすら歩き続けていた。莉奈も黒岩優も不思議そうな表情をしながらついてきた。50分ほど道路を歩いていくと右手にわずかな踏み跡がある尾根の登り口に到着した。
莉奈は「道路歩き疲れたよー」と顔をぷくーっとさせていた。黒岩優は「ここから登るんですか?」と言ったので俺は「そうだよ」と言った。登り口の木に小さなプレートがあり「三ツ落山登り口」とマジックで薄く書かれていた。樹林帯の中、細い尾根をひたすら登っていく。莉奈は「一体どこ行くの?」と聞いてきたので「まあついてくればわかるよ」と俺は答えておいた。30分ほど樹林帯の中を歩いていくと先に開けた場所に出た。そこは大高原のような場所になっていて、秋晴れの空とグリーンの山肌がとても美しい。その景色を見た莉奈と黒岩優は「うわーなにここ!」と言いながら驚いていた。俺は「このままこの高原地帯になってる尾根を歩いてあの頂まで行くんだよ」と言った。高原地帯のような尾根を歩きながら莉奈と黒岩優は「すごい!」と感嘆の声をあげていた。高原地帯の尾根を20分ほど登っていくと倒木した白い木があり、その木にプレートがあり三ツ落山1630mと書かれていた。三ツ落山の山頂からは広がる高原地帯を見下ろすことができ、深い谷が望めて高度感があり向こう側には連なる山々が望める。高原地帯の尾根はまだまだ続いていて迫力ある岩肌がむき出しになった山容も望める。秋晴れの空にこの景色が望めたのは運が良かったかもしれない。いつもはガスってしまうことが多いのだ。もちろん、こんなところに人はいないので三人だけの独占した景色なのだ。莉奈と黒岩優は「迫力ある景色!」、「広い高原ですごい!」、「まるで絵みたい!」などと言っている。どうやら二人は感動を共感しているようだ。俺は莉奈と黒岩優に「俺が連れてきたかったのはこの三ツ落山だったんだけど気に入ってくれたかな?」と聞いてみた。莉奈は「うんうん!こんな場所にくると思わなかった」と言い、黒岩優は「はい!でも、水嶋さん、よくこんなところ知ってましたね」と言った。俺は黒岩優のほうを見て「俺はこの付近の山も色々調べてたから。俺にとって大杉高原に行くならここに来ないと勿体ないんだよ」と言った。続いて莉奈のほうを見て「莉奈、神秘的な光景もいいけど、たまにはこういう高原地帯もいいでしょ?」と俺は言った。すると莉奈は「うん!こういうところも好き!やっぱり祐樹君が連れてきてくれるところは違うね」と言った。一時間ほど三ツ落山で景色を満喫していた。
俺は「そろそろ行こうか」と言って三人は三ツ落山を去った。このまま尾根伝いに歩いていって向こう側の奈月岳とのコル部は大苔地帯になっていた。それを見た莉奈と黒岩優は「すごい苔地帯!」といって見渡していた。そして奈月岳へ登ってピークハントした後、さらに下って川瀬峠に着いた。このまま道路に出て駐車場に戻るのもいいが、それだと面白くないので、このまま踏み跡のない尾根を進んで大杉高原の頂上を目指した。30分ほど登っていくと大杉高原の頂上に出た。頂上にいた数人の登山者が俺達三人が変なところから出てきたのを見て驚いているようだ。大杉高原の頂上は展望台になっていて、展望台の下にはベンチが設置されている。そこで昼食をとることにした。ザックからバーナーを取り出して、お湯を沸かした。今日はレトルトカレーにご飯を温めてカレーライスにして食べる。莉奈と俺の分を温めていた。黒岩優は他の登山者に気づかれないようにサングラスをかけて、買っていた弁当を食べていた。俺は「このままブラブラ遊歩道を歩いて中峠までいったら駐車場に戻ろうか」と言った。昼食を終えると俺は三人分のコーヒーをカップに入れて莉奈と黒岩優に渡した。インスタントコーヒーだが山で飲むととても美味しく感じる。そして十分休憩をとったのでブラブラ歩いていくことにした。
大杉高原の周回ルートはきっちり整備された登山道という感じで登山者も多い。俺的にはあまりこういうところを歩くのは好まないが、まあ運動がてらに歩くのはいいだろうと思っていた。大杉高原の見所はあったのだが、三人とも一度訪れているのと、さっきの三ツ落山の景色を見ているので大して何も感じなかった。中峠に到着して、このまま駐車場のほうへ戻っていく。中峠から30分ほど歩いていくと若干登り気味の道となった。ここまでくるとあともう少しで駐車場だ。10分ほど登り気味の道を歩いていって大杉高原のルートの登山口が見えた。そして登山口を出て駐車場に戻ってきた。三人とも「お疲れ様でした」といって荷物を車の後ろに積み込んで、行きと同じように助手席に莉奈が乗って、後部座席に黒岩優が乗って帰っていった。帰りの車内でも莉奈と黒岩優が山の話をして盛り上がっていた。莉奈も黒岩優のことを「優ちゃん」と呼ぶようになり、二人はすっかり仲の良い友達となっている。そして駅前ロータリーに到着して莉奈と黒岩優が荷物を降ろした後「今日はありがとうございました」と言って二人は帰っていった。そしてその後、俺も自宅へ戻った。
自宅に戻るとすぐに自分の部屋に戻ってパソコンの電源を入れてメールを確認した。すると「2018年9月の俺へ」という件名のメールが届いていた。俺はすぐにメールを開いて読んでみることにした。
”
2018年9月の俺へ
2033年の水嶋祐樹だ。
今回は至急、そっちの俺へ伝えておきたいことがある。
特殊能力者の俺は理性を失うととんでもない力を発揮することができる。
その時、俺の体は赤く輝き、特殊能力者だけ、その姿を見ることができる。
その能力はトランセンドレッドという。
しかし、理性を失っているので歯止めがきかないのだ。
その力は身の危険を感じた時だけ使うこと。
くれぐれも力を使いすぎないように注意してほしい。
近々、そっちの俺はその力を使うことになるだろう。
その時、なんとか理性を取り戻すように意識してほしい。
またメールを送る。
前回同様にこのメールのことに関しては他言無用。
”
今回は警告という感じのメールだったが、理性を失うととんでもない力を発揮するとはどういうことなんだろうか。今まで理性を失った経験はない。とにかく近々、その力を使うことになるらしいが、今の段階では何もわからない。あの過去消失と異世界体験をしてからは何の現象も起こらず平和な日常を過ごしていたが、今回のメールで俺はそろそろまた何かの現象が起こるのだろうと思った。そしてその予感は的中してこの後、不思議な現象を体験することになる。




