久しぶりの未来からのメール
■ 2018年7月20日(金)
今日もいつものように19:00になって退社して自宅に戻った。明日はいよいよ笹原莉奈と石岡秀之、村瀬真也の四人で前峰谷へ沢登りに行く予定なのだ。今週はとくに変な現象が起こらない平和な一週間だったが、あの分裂現象依頼、俺は西浦真美のアドバイスに従って莉奈に2回ほど電話で話した。山の話だけでなく、好きな音楽や映画、日常のことなどいろんな話をしていた。今夜も莉奈に明日のことについて電話をかけた。
「もしもしこんばんわ。水嶋です」
「水嶋さん。こんばんわ」
「莉奈ちゃん、明日の準備はできてるかな?特に沢靴とヘルメットは必ず忘れずに持ってきてほしい」
「大丈夫です!最近はちゃんと装備品のチェック表を作って確認していますので」
「そうなんだ。それなら安心だね。明日行く前峰谷は、俺が今まで行った沢の中でもとても水が綺麗で秘境地でもあるから楽しみにしておいて!」
「そうなんですね。秘境地ってすごく楽しみでワクワクします」
「大きな滝があって、滝壺がブルーなんだよ。そんな滝みたことないと思うからびっくりすると思うよ」
「ブルーの滝ですか。それは見てみたいです!」
「あとね、四方八方が滝だらけの場所もあるんだよ」
「四方八方が滝ってイメージできないですけど、水嶋さんがいうんだからすごいんだろうなあ」
「前の千岩谷と違ってちょっとロングコースになるけど、本格的な沢登りって感じになるから今夜はゆっくり寝ておいてね」
「わたし、今からワクワクしていてちゃんと寝れるかわからないですよ」
「あはは、莉奈ちゃん、遠足行く前の子供みたいだね」
「うわー水嶋さん、わたしのこと子供扱いしてるんですかー?」
「そんなことはないよ。莉奈ちゃんのことはちゃんと大人としてみてるよ」
「本当ですかぁ?それなら別にいいですけど、わたし子供っぽいってよく言われるから・・・」
「俺だって沢にいったら童心に帰って子供みたいになるけど、それはそれでいいと思うよ」
「たしかに沢登りしてるときの水嶋さんって子供みたいにはしゃいでますよね」
「莉奈ちゃんだって子供みたいにはしゃいでたよ。まあそういうところ見てると可愛いって思うんだけどね」
「あー可愛いってやっぱりわたしのこと子供扱いしてるじゃないですかー!」
「いや、子供っぽいから可愛いじゃなくて、楽しそうにしてる莉奈ちゃんが可愛いって言ってるんだよ」
「それなら許します!えへへ」
「じゃあ、今日はそろそろ電話切るね。明日の朝6:00に駅前のロータリー集合でよろしくね。おやすみなさい」
「はい。よろしくお願いします。おやすみなさい」
最近は莉奈と1時間から2時間ほど電話で話をしていたが、明日は朝が早いのでさっさと電話を切った。莉奈に対して可愛いとよく言うようになった。莉奈に可愛いというと「またまた、わたしそんなに可愛くないですよ」といって謙遜するのだが、俺にとってそれは本当の気持ちなのだ。西浦真美からは今年の夏の間には告白するようにアドバイスされたが、いつどこでそんな雰囲気を作って告白すればいいのかわからない。とにかく今の段階ではまだ告白するには早いと思うが、呑気にしている場合でないこともわかっている。とりあえず、そのうち告白できるタイミングが来るだろうと思っていた。
■ 2018年7月21日(土)
朝4:00に目覚まし時計が鳴った。窓の外を見るとまだ薄暗いが、文句のない快晴のように思える。キッチンに行って朝食にトーストを焼いてインスタントコーヒーを飲んだ。そして自分の部屋に戻って沢用の服装に着替えた。まだ6:00までには時間があったので、パソコンの電源を入れてメールを確認したが何も届いていなかった。前峰谷は毎年必ず行っているのでわざわざルート確認は必要なかった。他の山記事を閲覧していたのだが、夏に低山を登っている記事を見ているだけで暑すぎると思った。時間をみると5:40前になっていたのでパソコンの電源を切って、急いで沢装備を持って家を出た。車で駅前のロータリーに着いたのは5:55だった。既に笹原莉奈と石岡秀之、村瀬真也の3人が待っていた。俺は車を降りて3人に向かって「おーい」と呼んだ。すると3人がこっちのほうを向いて車のほうへ歩いてきた。
「おはよう。もう着いていたんだね。お待たせ!」
「おはようございます」
「荷物を後ろに積んでね」
「はい」
3人とも荷物を車の後ろに積んだ。そして村瀬真也が「莉奈さん助手席どうぞ」と言った。莉奈は「え?わたし、後ろでいいですよ」と言ったがいっしー(石岡秀之)が「男二人が後部座席に座るからレディーは助手席へどうぞ」と言った。レディーとは面白い表現だと思って思わず笑ってしまいそうだった。莉奈は「じゃあお言葉に甘えて助手席に座ります」と言った。そして前峰谷に向かって車を走らせた。車内では何気ない日常会話をしていたが、いっしーがよく喋っていた。仕事であった出来事や家での生活などいっしーの話を聞いていると相当苦労しているように思えた。いっしーの話を聞きながら村瀬君が「うんうん」と頷き、莉奈は「へー」と言っている感じだった。途中、コンビニエンスストアに立ち寄って食料の買い出しと休憩をした。いっしーはたばこを吸ってまったりしていたが、莉奈は買い物が終わるとすぐに助手席に座って待っている。エンジンをとめているので、車内は暑いだろうと思った俺はすぐに車に戻ってエンジンをかけた。俺は「莉奈ちゃん、クーラーがかかってないと暑いでしょ?」と言ったら莉奈は「ありがとうございます」と言った。いっしーと村瀬君が戻ってきて車を走らせた。ちょうど途中に立ち寄ったコンビニから前峰谷までは1時間半ほどかかる。さすがに会話が途切れて車内は沈黙が続いた。ふと助手席を見ると莉奈が眠っていた。あどけない莉奈の寝顔も可愛いと思って胸がキュンとした。国道から細い林道に入ってガタガタ道を車で走らせる。さすがに眠っていた莉奈も車の揺れで目が覚めたようだ。林道をひたすら走らせると古いトンネルを抜けた先の広くなった場所に車を駐車した。いっしーと村瀬君はもう知っているのだが、はじめて訪れた莉奈は不思議そうな表情をしながら辺りを見回していた。それもそのはずで、ここからだと入渓ポイントは見えないのだ。沢靴を履いてハーネスを装着し、ヘルメットをかぶって沢登りの準備は完了した。不慣れな莉奈もなんとか沢登りの準備を終わらせた。
「さて、じゃあ行きますか!今日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
そう四人で声をかけあってまずは入渓ポイントまで登山道を下っていった。そして苔地帯を抜けた先より入渓した。四人とも「冷たい!」という声を発した。それもそのはずで、ここは標高800メートルほどの場所なので水温も低いのだ。ただし、水の透明度は素晴らしくとても綺麗なのだ。莉奈は「すごく綺麗な水」と呟いた。四人でどんどん前峰谷を遡行していく。あまりにも綺麗な沢の水をみて、莉奈は感嘆の声をあげていた。俺は恋心という理由だけでなく莉奈のほうをずっと見ていた。なぜなら今回に関しては本格的な沢登りになるので危険があるかもしれないのだ。途中に水深がありブルーになった場所があった。日差しがあって水の底まではっきり見えるのだ。俺は莉奈に向かって「これが前峰谷のブルーだよ」と言った。すると莉奈は「本当にブルーですね。すごいです!」と言った。しかしこの沢の見所はここからなのだ。遡行して1時間ほど経って、右にカーブしたところにさしかかった。このカーブの先にブルーの滝があるのだ。俺は「莉奈ちゃん、いよいよブルーの滝だよ」と言うと莉奈は「そうなんですね」とはしゃいでいる。そんな莉奈の姿を見ていると可愛いって思った。そして大きな岩の向こう側に行くとまさに滝壺がブルーになった大きな滝が姿を現した。その滝をみた莉奈はしばらく言葉を発せず滝を見ていた。俺は「莉奈ちゃん、これがブルーの滝だよ」と言ったら、莉奈は少し大きな声で「すごい!すごいです!こんなブルーの滝はじめて見ました」とはしゃぎだした。いっしーが滝壺に飛び込んで泳ぎはじめた。村瀬君は撮影に必死になっていた。莉奈は泳いでいるいっしーのほうへ行って滝壺に飛び込んだ。もう本当に子供のようにはしゃいでいるのだ。俺も滝壺に飛び込んでプカプカと浮いていた。かなり水温は低くて冷たいけど気持ちがいい。撮影が終わった村瀬君も滝壺に飛び込んで泳ぎはじめた。
しばらくして、さすがに体が冷えてきたので四人とも滝壺からあがって岩の上で少し休憩をしていた。ここは中間点なのでまだ先がある。休憩が終わるとこの滝の横の岩場を登っていかないといけない。俺は「莉奈ちゃん、三点支持を思い出して登ってね」と言った。莉奈は「はい」といって一番目に岩を登りはじめた。二番目にいっしーが登って、三番目に俺が登り、最後に村瀬君が岩を登った。ブルーの滝上はナメ地帯になっていて、ここもある意味神秘的な場所なのだ。ナメ地帯をはじめて見た莉奈は「また神秘的な場所ですね!」と言った。そのまま遡行をしていると水深が深くブルーになった場所がいくつかあった。まるでサイダーのような水なのだ。40分ほど遡行していると四方八方が滝になっているところについた。俺はガイドのように「莉奈ちゃん、ここが言ってた四方八方が滝の場所だよ」といったら「すごい!すごい!ここ、すごく神秘的な場所ですね!」と感嘆の声をあげた。そのままさらに15分ほど遡行した場所に小さな滝があり、今回の遡行はここまでとなる。その場所でバーナーを出してお湯を沸かしてカップラーメンとおにぎりを食べた。莉奈も最近買ったというバーナーを出してお湯を沸かしてカップうどんを食べていた。もう十分満足したという表情の莉奈をみていると本当に可愛く思えて胸がキュンとする。俺はこのまま告白しないほうがいいのかもしれないと思いはじめた。もし告白して関係が壊れてしまったら莉奈と一緒に沢登りや登山がいけなくなるのは嫌だと思った。昼食を食べ終えてコーヒーを飲んでいると莉奈が話しかけてきた。
「水嶋さん、これで沢登りは終わりで登山道で戻るんですか?」
「莉奈ちゃん、何言ってるんだよ。後半は飛び込みをしたりスライダーをしながら沢を戻っていくんだよ」
「そうなんですか!?じゃあまだ続くんですね」
「これまでは沢登りで沢遊びはこれからだよ」
「あの、変なこと言いますけど、荒知山で道に迷って今は良かったなあって思います」
「え?どういうこと?」
「だって、そのおかげで水嶋さんに出会えて、こんな神秘的で綺麗なところに来ることができたんですよ」
「まあ、それはそうだけど、まあ道迷いは気をつけてね」
「あ、ある意味よかったってことですから・・・」
「うん」
莉奈は俺と出会ってよかったと言ってくれている。俺だって心の中では莉奈と出会えてよかったと思っている。でもそれを言葉にすることができないのだ。それを言葉にすると告白してしまいそうだ。1時間ほど休憩して遡行してきた沢を戻っていく。戻っていく途中にある飛び込みポイントにつくといっしーが岩の上から飛び込んだ。それに続けと村瀬君も飛び込んだ。俺は「莉奈ちゃんも飛び込んだら?」と言うと「ちょっと高くて怖い」と莉奈は怯えていた。莉奈の手をひっぱって岩の上に行くと覚悟をきめたようで莉奈が「きゃー!」といって飛び込んだ。それに続いて最後に俺も飛び込んだのだ。莉奈は「ちょっと怖かったけど飛び込んでみるとちょー楽しい!」と言った。続いて滑り台のようにスライダーで滑る場所にきた。四人ともスライダーで滑って遊んだ。莉奈はこれでもかというくらいスライダーで滑って楽しんでいた。あっという間にブルーの滝上についた。問題はこの岩の下りだが、滑りやすいのでロープを出した。俺は「莉奈ちゃん、懸垂下降のやり方を覚えてる?」と言うと莉奈は「はい、覚えてますよ!」といった。大きな木を支点にしてロープを垂らして懸垂下降の準備をした。そして最初に莉奈が懸垂下降をして下りていった。続いて俺が懸垂下降で下りていき、その次に村瀬君、最後にいっしーが懸垂下降をして下りていった。ロープを回収して、少し休憩していた。もうここからはただ戻っていくだけなのである。莉奈のほうをチラチラみていると楽しんでいる表情がとてもキュートに見えて胸がドキドキした。そこから1時間ほど沢を戻っていき登山道を歩いて車に戻った。四人で「お疲れ様でした」といって私服に着替えて車に乗った。
帰りの車の中ではさすがに疲れたのか、莉奈はずっと眠っていた。車を運転しながら莉奈のほうをチラチラみていたが、やはり俺は恋心を抱いているんだと感じながら運転していた。駅前のロータリーに到着して解散して、自宅に戻った。今日は本当に充実した一日であった。しかし2033年から届いたメールによれば莉奈は俺の婚約者になると書いてあったが、本当にそんな日が訪れるのだろうか。俺は莉奈に告白して関係が壊れてしまうのが怖いと思っているのだ。
■ 2018年7月22日(日)
昨日の沢登りで疲れていたのか朝の10:00過ぎまで眠っていた。この日は寝起きもかなり悪い。起き上がってしばらくベッドに座って頭を下に向けながら目がぼやけていながも床をずっと眺めていた。そういえば今日は祖父母の墓参りに行く日だと言われていたが、まだそんな元気はない。そもそも墓参りなんて親類が集まってわいわいするようなイベントのようにしか思えない。俺は別に親類に会いたいとも思わないのだ。しばらくすると下の階からバタバタと音がしている。おそらく妹夫婦が来ていて子供が騒いでるんだろう。だんだん目が覚めてきた。ベッドから立ち上がってカーテンを開けると窓の外をみると青空に夏らしい入道雲が見えた。今日はかなり暑そうだ。
とりあえず部屋を出て階段を降りると妹の佳織の姿が見えた。そしてリビングに行くと佳織の子供である紗季が走り回っていた。そんな子供と一緒に遊んでいたのは父親で、どうやら鬼ごっこをしているようだ。キッチンから母親が出てきて「おはよう」と声をかけると「なにがおはようなのよ。祐樹、あんたこんな時間まで寝ていたの?」と文句を言われてしまった。俺は「昨日、沢行ってきて疲れてるんだ」と言うと母親は「あんたは遊んでばかりで何が疲れたなのよ。いい加減、佳織を見習いなさい」と言ってきた。妹の佳織の何を見習えばいいのだろうか。続けて母親は「従妹の美香ちゃんだって、もう小学生の子供までいるのよ。それなのにあんたは恥ずかしくないの?」と言った。俺はため息をつきながら「はいはい」と言って適当に返事をした。たしかに家族や親類の中で未だに独身なのは俺だけだが、恥ずかしいなんて思ったことは一度もない。結婚して安定した生活や日常なんてものに全く興味はない。俺の将来を心配してくれていると母親は言うのだが、俺は両親の老後のほうが心配なのだ。すると妹の佳織が話しかけてきた。
「兄ちゃん、まだ彼女とかいいと思ってる人いないの?」
「そんな人いないね」
実は好きな人ならいるのだが、妹や家族には言いたくない。
「女の子に興味がないってわけじゃないよね?」
「出会いがないだけだよ」
「兄ちゃん、婚活してお見合いパーティーとか行ってるんでしょ?」
「ときどき行ってるけどいいなって思う人がいないんだよ」
「理想が高いだけなんじゃない?ある程度の妥協はしないと出会えないよ」
「妥協とかそういう問題じゃないんだよ。気の合いそうな人がいないんだよ」
「兄ちゃん登山バカだもんね。山ガールでもナンパしたほうが早いんじゃない?」
「山ガールのナンパか!それは面白いな。でも山ガールなんてただのファッションだろ」
「昔は山で出会って結婚するって話もあったみたいだけど、登山している女の人だったら兄ちゃんと気が合いそうな人いるんじゃない?」
「さあ、山でそんな出会いがあるとは思えないけどね。それより墓参りの準備しないとな」
俺は妹に嘘をついている。山での出会いはあったが、それが彼女になるかどうかは別の話なのだ。それに莉奈は今や山ガールというより、本格的な登山者になりつつある。その方向に俺がもっていこうとしている。本当に登山が好きな女の子であるからこそ俺は惹かれているのだ。
自分の部屋に戻って着替えた。墓参りなのであまり派手な格好はできないが大人しい黒色のTシャツに黒い綿の半ズボンでいいだろう。着替えたら再びリビングに行って車の鍵をポケットに入れた。そして「俺の準備はできたからさっさと行こう」と言った。両親も既に準備ができていたようだ。玄関で靴を履いて外に出ると、妹の旦那である藤田健吾が白いワンボックスカーに乗って家の前で待っていた。妹の旦那は俺と同じ年だが、あまり喋らないタイプで大人しい。おそらく妹の尻に敷かれてる想像ができる。俺は藤田健吾と目を合わせて「どうも」と言うと「どうも」と返してきた。俺は車に乗って両親を乗せた。妹の佳織とその子供の紗季は藤田健吾の車に乗って墓参りに向かって車を走らせた。妹の旦那は墓地までの道がよくわからないとのことで俺の車の後ろをついてきた。
車を走らせて1時間ほどすると墓地の駐車場に到着した。ここの墓地は山の中腹にあって景色がいいが、アクセスが結構大変なのだ。墓に向かうと親類の叔父にあたる河合剛志とその娘である新木美香、そして美香の子供である小学生の悠太の三人が既に到着していた。親類と合流して準備していた花束を墓の両端の穴に入れて立てた。バケツに入れた水を墓にかけて綺麗に掃除して、お供え物を置いて線香に火をつけて墓参りをする。一人ずつ墓の前にしゃがんで手を合わせた。俺の番になると墓の前にしゃがんで手を合わせながら、こんなことをすることに何の意味があるのかと思った。
墓参りが終わると叔父の河合剛志が「お昼はいつものところにしようか」と言ってきた。このいつものところとは墓地の山の麓にある大きな中華料理屋のことだ。墓参りの後は毎回その中華料理屋に行くのだ。家族と親類が車に乗って中華料理屋を目指して車を走らせた。30分ほどしてその中華料理屋に到着した。面倒なのはここからなのだ。毎回のように結婚や子供の話になり、その話の矛先が最後には俺に向くのだ。両親と親類、妹の佳織や従妹の新木美香から「まだいい人はいないのか」や「そろそろ将来を考えたほうがいい」などと俺にとってつまらないことを言われる。中華料理屋に入ると座敷にみんな座って餃子を10人前ほどと中華料理を注文する。車を運転しない叔父や両親はビールを注文した。15分ほどして注文した料理が運ばれてくると、みんな食べはじめた。俺は唐揚げとチャーハンを注文したので、チャーハンと唐揚げを食べながら、ときどき餃子をつまんだ。食べている途中に叔父が「美香と祐樹はもう30歳か」と言い出した。そう、いつもこんな話からはじまって面倒になる。すると母親が「そうなのよね。悠太君ももう小学生になったのよね」と言った。俺は心の中で「さあ、はじまりました」と思った。この話題の最後には必ず俺の話になるのだ。その後、従妹の新木美香が育児の話をはじめて、妹の佳織が共感するかのように話している。俺の父親が「美香ちゃんは片親でよくがんばってるよ」などと言っている。ちなみに従妹の新木美香は2年前に離婚をして母子家庭になっているのだが、離婚して片親でがんばるのは当然のことだろうと俺は心の中で思っていた。そして母親が「本当にね。美香ちゃん、大変でしょ」と同情してるかのように言った。自分の好きで結婚して子供を産んで片親になったからといって子育てに大変だというのは同情するべきところなんだろうか。それを聞いた美香は褒められたかのような表情をして「そんなに大変でもないですよ」なんて言ってる。おいおい、そこは別に誉められたわけでもないし、謙遜するのもおかしな話だ。そこに妹の佳織が「でも役に立たない旦那がいても大変なんだよね」と言って旦那を睨みつけた。俺にとってどうでもいい話が飛び交う中、いつ矛先がこちらへ向くのか構えていた。あれこれ話をしていると母親が「それに比べて祐樹なんて遊んでばかりなのよね。ほんと、情けなくなっちゃうわ」と言った。ついに矛先が俺にきたのだ。俺は「別に俺は結婚なんて興味ないし・・・」と言った。すると叔父が「祐樹はまだ彼女もいないのか?」と聞いてきた。俺はすかさず「そんな人いない」と言った。すると今度は父親が「祐樹ももうちょっと自分の将来のことを考えないとな」と言ってきた。俺の将来より自分の老後を考えろと思ったが、そんなことを言ったら喧嘩になってしまう。続いて従妹の新木美香が「祐樹は昔から変なやつだから彼女なんてできないんじゃない」などと言ってきた。ああ、そうですか。どうせ俺は変なやつだからほっといてほしいと思った。こういう時はこちらから何も話さないことが一番穏便に話が終わる。しばらくして俺に関する話が終わったところで解散となり、母親と叔父が会計に向かった。今回もやっと終わったかと思って、先に外に出て車に乗り込んだ。
自宅に戻った頃には15:00を過ぎていた。家の前で両親を車から降ろして駐車場に車を停めた。そしてさっさと家に戻ったら自分の部屋に入ってパソコンの電源を入れた。昨日の沢登りの写真を整理してブログ記事を書くことにした。今回は莉奈が写ってる写真がいくつかあって顔にモザイクをかける。それはインターネットで顔を公開するのはまずいと思うからだ。沢ルートの地図は去年のものと同じなのでコピーして掲載すればいい。昨日の沢登りのメンバーやコースタイムなどを最初に記載して、一つ一つの写真に対する感想を記載して、最後は全体的な感想を記載する。そしてプレビュー画面を開いてブログ記事の確認をすると問題はなさそうなので、ブログ記事を公開した。ブログ記事を公開をした時には既に17:30過ぎになっていた。そういえば前回のブログ記事に投稿されたコメントの返事がきていたのを忘れていた。三件のコメントが投稿されていて「綺麗ですね」や「沢登りは楽しそう」などのコメントに返事をしていた。するとメールの受信音が鳴った。メールを確認するとDMなどのメールの中に「2018年7月の俺へ」という件名のメールが届いていた。久しぶりに2033年からメールが送られてきたのだ。俺はすぐにそのメールを確認した。
”
2018年7月の俺へ
2033年の水嶋祐樹だ。
今回はずいぶんとメール送信が遅れた。
こちらにも都合というものがあって今の時期に送ることになった。
さて、もうこのメールのことについて信じてもらえているだろうか。
不思議な現象も起こっているだろう。
今回はまず重要なことを伝えておく。
俺と西浦真美は特殊能力者で良きパートナーだ。
そっちの俺と西浦真美は不思議な現象を体験していると思うが、
それは二人が殊能力者であるからだ。
これからも不思議な現象が起こるが、西浦真美と良きパートナーとなり解決させていくこと。
特殊能力者であることは、西浦真美に話しても良いので二人でよく話し合うといいだろう。
そして、まだ先の話だが笹原莉奈も特殊能力者になる。
ただし、笹原莉奈に起こる現象はそこまで厄介ではないので心配する必要なし。
さて、8月に起こることを伝えておくが、重要なポイントだけだ。
もう不思議な現象が起こることに関することは伝えないので自力で解決するように。
1.笹原莉奈との交際がはじまる
→夜の海岸。二人きりになった時に告白すること。結婚前提の交際が条件。
2.新しい山仲間が一人増える
→相手は芸能人。この先、俺にとって重要な人物となる。
3.社内でメッセンジャーが導入。不思議現象の発生
→誤送信防止のため西浦真美とは休憩室で話をすること。
8月に起こることは以上。
まだ警告すべき理由を伝える時期ではない。
またメールを送る。
前回同様にこのメールのことに関しては他言無用。
”
今回のメールを見て俺と西浦真美が特殊能力者であるということに驚いた。たしかに不思議な現象が起こっているのは俺と西浦真美の二人だけなのだ。そんな現象が起こるのは特殊能力者だからなのか。不思議な現象は起こっているのではなく、俺や西浦真美が起こしているとも捉えることができる。それに関して西浦真美と良きパートナーとはどういうことなんだろう。また、莉奈まで特殊能力者になって不思議な現象を体験することになるのか。厄介ではないので心配するなと書いてあるが、何が起こるんだろうか。あとは8月に起こることについて、今までは解決方法を書いてくれていたが、今回はそういったことが書かれていない。しかも不思議な現象が起こることについては書かれていないのだが、これからも起こると読み取れる。とりあえず最初の「笹原莉奈との交際がはじまる」という内容について考えてみよう。夜の海岸とはどういうことなんだろうか。莉奈を海に誘わないといけないんだろうか。今のところそんな予定はない。しかも夜の海岸ということは日帰りではなさそうだ。どちらにしても今はまだわからないことだらけだ。考えてもわからないので様子をみて過ごしていくしかない。




