第7話 不登校編 壁が邪魔で手が届かない
警察呼びますよ!
真昼の太陽が照りつける住宅街。
その一角にある玄関口に、クミの鋭い悲鳴が響き渡った。
モチオの母である彼女は、鬼の形相で入り口を塞いでいる。
そのあまりの剣幕に、がり勉猫たちはただただ立ち往生するしかなかった。
モチオの母「あなた達には関係ないでしょうが! 勝手に人の家に関与してこないで!」
モチタ「でも、おばさんのせいだろうが!」
モチオの母「何ですって!!!」
コツ勉猫「ADHD、発達障害、精神病だとレッテルを貼れば安心ですか? 親の責任も逃れられるし、不登校も正当化されるんですか? 都合のいい病気は裁判にだけにしてください!」
モチオの母「あなたたちに関係ないでしょうが! 出て行って! え、え、、不退去罪で警察に言いますよ!!」
クミの手にあるスマートフォンは、弁護士との通話がつながったままだった。彼女は耳元の画面から聞こえる弁護士の指示通りに、必死に不退去罪を盾にして威嚇を続ける。
その様子を、ネコロボは心配そうにがり勉猫を見ていた。
がり勉猫「ネコロボ、、言いたいことはわかります。これが法の壁、司法の限界です。他人は家には無断で入れない。だから虐待も放置も救えない。親が拒絶すれば令状がない限り無理でしょうね。警察でさえも容易には入れません。わかってますが、これが法の限界。救いたいと真剣に願ってる人間がいても、日本の法律はつけ入る隙間さえ与えない」
白日の下、やり切れない現実が重くのしかかる。
それでも、イザコザは続く。
コツ勉猫「話だけでもさせなさいよ!」
モチオの母「出ていけ!!!」
モチタ「お前はそれでも親か! 最低だな!! お前と大キチ弁護士がモチオを苦しめてるのわからないのか!」
モチオの母「はあ? もう警察呼びます!!! その会話も録音取ってますからね! 私はこういうの得意なの! 録音取るとか!!録画もついにしてます!!」
コツ勉猫「本当に、、最低な人間、、、、」
白昼堂々 水掛け論が続く。
「入れろ!」
「ダメ!」
「入れろ!」
「出ていけ!」
「話させろ!」
「不退去罪だ!」
終わりのない水掛け論が続く……その真っ最中だった。
「いいよ、、、」
泥沼の応酬を切り裂くように、家の中から微かな声が届いた。
モチオの母「え?」
「いいよ、入って」
コツ勉猫・モチタ「え???」
カンカンと太陽が照らす玄関口。クミの背後から姿を現したのは、モチオの兄、カズタだった。カズタは真っ直ぐにがり勉猫たちを見つめ、震える声で、しかし確かな意志を込めて言葉を紡いだ。
モチオの兄「いいよ、入って。モチオ救ってあげて、、」
モチオの母「あなた、何言ってるの!! なんの権限があって言ってるの!!」
狂乱する母親の怒鳴り声に、カズタは冷めた視線を返す。
モチオの兄「あるよ……」
モチオの母「はあ!?」
モチオの兄「ここのアパート、お父さんの名義でしょ。だからお父さんのもの。お母さん、勝手にお父さん追い出しているだけじゃん。で、お父さんに電話して、説明したら、がり勉猫さんにぜひお願いしたいってさ」
モチオの母「あの男! この期に及んで最後の最後まで人頼み! 本当に親として無責任!!」天を仰いで叫ぶクミに、カズタは容赦なく事実を突きつけた。
モチオの兄「お母さん、大キチ弁護士とでっち上げてお父さんに接見禁止令出してるでしょ? だからお父さんは来れないの。よく言えるよ。とにかく名義人のお父さんの承諾は取ってる。」
モチオの母「あなた、あの男と私に隠れて連絡してたの!! あの最低な男……!」
モチオの兄「あなたにとっては他人でも、私にとっては、モチオにとっても立派で大好きな父親です。親子関係に、あなたが口をはさむ問題じゃない」
…言い返せないクミを置き去りにして、カズタは玄関のドアを開け放った。
モチオの兄「さあ、入って……!」
クミの怒号を背に、がり勉猫たちはついに家の中のリビングへと集まった。
状況を把握するため、即座に作戦会議が始まる。
がり勉猫「ネコロボ、ここからだと電波は入りますか? モチオさんの状況は?」
ネコロボ「はい、あ??」
がり勉猫「どうしましたか? ネコロボ?」
ネコロボ「はい、 ノイズがなくなっています。 今なら鮮明に見えます。 アルミホイル攻撃がなくなっていますね」
これは、モチオの無言の救いを求める声だろうか、単なる貼り忘れだろうか。
ネコロボ「ドアはロックされており、バリケードもあります。容易に中には入れないでしょう」
コツ勉猫「他には?」
ネコロボ「トイレは壁を壊して直接行けるようにしています。あと、ウーバーイーツはベランダから受け取っているようです」
モチタ「モチオって、変なところ徹底しているんだよね」
モチクロ「悪知恵だよ」
がり勉猫「モチオさんは……家の中に“外界から隔絶された環境”を作ってしまったんですね」
コツ勉猫「自分を守るために、家そのものを編集してしまったんですわ」
ネコロボ「ビビビ……これは、長期間の孤立行動の典型です。さあ、どうしようか……」
行く手を阻むバリケードを前に全員が考え込んだ、その時だった。
カズタ「危ない!!!!」カズタの叫びと同時に、凄まじい衝撃音がリビングに轟いた。
ドン!!!
モチオの母「私の邪魔させない! 私の邪魔させない!!」狂気にとらわれたクミが、金属バットを両手で振り回して殴り込んできたのだ。
モチオの母「みんなあいつが悪い! みんな元旦那が悪いのよ!!!」
ネコロボは反射的にみんなの前に立ちはだかり、その顔面に強烈な一撃をまともに喰らった。鈍い金属音が何度も響き、ネコロボの顔は容赦なく殴られ、無残に変形していく。
それでもネコロボは一歩も引かない。みんなを、そして特に背後で怯える幼いモチオの妹・モチコにバットが当たらないよう、必死に盾になり続けた。
モチオの兄「お母さん、やめろ!!!」背後からカズタが必死にクミの身体を取り押さえ、抵抗する彼女を強引に玄関の外へと連れ出していく。
モチオの兄「とりあえず、お母さんは隔離する! しばらく戻ってこないから、後は頼んだよ!! 鍵はポストに入れておいてね!! モチオとモチコ、頼んだよ!!」バタン!!!激しくドアが閉まり、嘘のように静まり返るリビング。嵐は去った。
金属バットでボコボコに変形してしまったネコロボの頭部。
その痛々しい姿に、モチコが恐る恐る近づいていく。
泣き出しそうな顔で、ネコロボの歪んだ頬をそっと小さな手でさすった。
モチコ「ネコロボ……? 痛い???」
ネコロボ「いいえ……私はロボですので痛みはありません」
モチコ「痛いの、痛いの、飛んでいけ!! 痛いの、痛いの、飛んでいけ!」
一生懸命に手を振る幼い少女の姿に、ロボットの電子頭脳が微かに駆動音を立てる。
ネコロボ「??? それは何でしょうか?」
モチコ「痛いのが治る、おまじないだよ……。もう大丈夫?」
ネコロボは少し考えるように電子目を明滅させたあと、優しく答えた。
ネコロボ「モチコさんのおまじないのおかげで、治っちゃいました。ありがとう」
その言葉に、モチコの顔にパッと明るい笑みがこぼれた。




