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こころののりしろ~不登校の君へ~  作者: モチモチオ
学校へ行く編

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24/30

第24話 学校に行く編 8 スポットライト

食卓についたモチオは、ある強烈な違和感を覚えていた。


夕食の席にモチロウがいるせいじゃない。


こんなものは、もうしょっちゅうのことである。


それは……。


いつも出されるモチオのオムライスに、ケチャップのハートマークがない。


一方、隣のモチロウのオムライスには、これでもかと特大のハートマークが描かれていた。


しかも、いつも以上に食卓が豪華である。


がり勉猫「よし、始めましょう」


がり勉猫の合図とともに、コツ勉猫が大きな誕生日ケーキを嬉しそうに運んできた。


モチオ「俺の誕生日は……再来月ニャ。でもまあ……いいか。なんか照れるニャーーーー……」にやにやと顔をにやけさせるモチオだったが、


――ストン。


ケーキは非情にも、モチロウの前に置かれた。


モチオ「モチロウ! お前の誕生日はもう過ぎたはずニャ!!」


がり勉猫「やはり……モチロウさん。あなたから、みんなに報告してください」


がり勉猫はモチオの抗議を完全にスルーして、モチロウを優しく促した。


モチロウは少し緊張した面持ちで、すっと背筋を伸ばした。


モチロウ「僕……学校に行くことを決意しました!」


がり勉猫、コツ勉猫、ネコロボは深く大きく頷いた。


しかし、何も聞かされていなかったモチオ、モチタ、モチクロの3人は、



モチオ・モチタ・モチクロ「ええええええええええええええええ!!!?」


ひっくり返るほど驚く3人を前に、モチロウはさらに言葉を続けた。


モチロウ「僕ね、お父さんの仕事の都合で、引っ越すことになったんだ。だからこれを機に、新しい学校へ転校することにした。そこで、もう一度やり直すんだ。僕……僕……僕ね――」


モチロウは、不安そうにがり勉猫を見た。


がり勉猫は、包み込むように大きく深く頷いてみせる。


モチロウは意を決して、大きな声で宣言した。


モチロウ「将来、教師になりたいんだ!!!!」


驚きとどよめきに包まれる。


モチオ「あんな薄給、ブラックのどこがいいのかねー……」


モチオはオムライスをつつきながら、ボソッとつぶやいた。


ネコロボ「ちなみに、モチオさんが教師になれる可能性は2%です。なりたくてもなれませんのでご安心ください」


一同「あははははは!」


ネコロボのマジレスに、またしても大きな笑いが起きた。


がり勉猫「さあ、まずは皆さん、ジュースで乾杯です! あとネコロボは潤滑油ね。では……」


モチタ「何に乾杯するの?」


がり勉猫「決まっています! モチロウさんの素晴らしい決断に、明るい未来に、そしてこれから始まるAIのさらなる進化に、そして宇宙の――」


話が壮大になりかけたその瞬間、


モチオ「かんぱーーーーーい!!!」


モチオが唐突にグラスを掲げて叫んだ。


一同「カンパーーーイ!!!」


みんなで夕食を囲み、賑やかで楽しい、最高のパーティーが始まった。


*楽しいパーティーも、いよいよ締めくくりの時間になった。


モチロウは、みんなの顔を一人ずつ見つめながら、改まって話し始めた。


モチロウ「僕ね、みんなと過ごした時間、とっても、とっても楽しかった。こんな学校があればいいなーなんて思ったんだ。だから、僕、教師になろうと思ったんだよ。みんなと過ごした素晴らしい時間みたいな、そんな学校を自分の手で作るために」


モチロウは、一人ひとりに感謝を伝えていく。


モチロウ「がり勉猫。AIのプログラミングの話、いっぱいしたね。すごく楽しかった!」


がり勉猫「ええ、最高の生徒でしたよ」


モチロウ「コツ勉猫。少女漫画ごっこ、面白かったよ。コツ勉猫はきっと、いいお奥さんになるね」


コツ勉猫「うぅ……っ」


モチロウ「モチタ。一緒にゲームしたね。楽しかったよ!」


モチタ「うん、またいつでも通信しよう!」


モチロウ「モチクロ。一緒に絵を描いたね。勉強もたくさん教えてくれて、ありがとう」


モチクロ「どういたしまして。体に気をつけてね」


みんな、寂しさを堪えて涙をこらえている。


少女漫画ごっこを褒められたコツ勉猫は、もう我慢できずにシクシクと泣き出してしまった。


がり勉猫「コツ勉猫、泣いてはいけません。モチロウ君の晴れの門出です。笑顔で、笑顔で見送りましょう」


コツ勉猫は「うん、うん」と必死に頷いたが、大粒の涙は止まらなかった。


モチロウ「ネコロボ……ありがとう。僕のことを、いつも励ましてくれて……」


ネコロボ「すみません。私はAIですので……感情というプログラムは……」


ネコロボは淡々と、いつも通りのトーンで返す。


モチロウ「ふふっ、いいよ、わかってる」モチロウは優しく微笑んだ。


モチロウ「そして……モチオ……」


最後の感謝を伝えようとしたモチロウの言葉を、モチオは大きな声で遮った。


モチオ「ああああああああああ! しみったれた食事は嫌にゃ! さあ、まだ唐揚げとエビかつが残ってるぞ! 食おう食おう、ほら食え!!」


ネコロボ「モチオさんの表情から察するに、これは――」


モチロウ「ふふっ、いいよ、ネコロボさん」


言いかけたネコロボを制して、モチロウは優しく笑った。


「これがモチオだから」


*パーティーが終わり、別れの時がやってきた。


モチロウ「じゃーね、みんな。遠くになっちゃうけど……時々また、絶対に遊びにくるから!」


みんなは玄関の前に並び、小さくなっていくモチロウの背中に大きく手を振り返した。


しかし、その中で一人、モチオだけが顔を真っ赤にして地団駄を踏んでいた。


モチオ「あああああああ、腹立つ! あああああ、腹立つ!! ……ああああ、本当に腹立つ!!! モチロウのやろうっ!」


言うが早いか、モチオはもの凄い勢いでモチロウの後を追いかけて走り出した。


驚いて制止しようとするモチタやコツ勉猫を、がり勉猫がそっと手で止める。


がり勉猫「最後は、二人きりにしてあげましょう。……さあ、みんな、私たちは中を片付け始めましょう」


*夜の道を歩くモチロウの後ろ姿に向かって、モチオは全開で叫んだ。


モチオ「モチロウのバカ! アホ! お前なんかどこへでも行け!!! もう知らん! 勝手に引っ越しなんて決めやがって!!」


モチロウは驚いて振り向いた。


モチロウ「モチオ……。今まで本当にありがとう。君が河川敷で声をかけてくれなかったら……僕、今頃どうなってたか分からないよ」


モチオ「そんな話はしてない!!! お前はバカだ! 大アホだと言ってるんだニャ!」


モチロウ「本当に、本当に……ありがとう」


モチロウの瞳から、堪えきれなくなった涙が次々と溢れ、頬を伝ってこぼれ落ちる。


モチオ「だから! そんな話はしてないって言ってるニャ! お前がアホだという話を一貫してしてるんだニャ!」


激しく言い返すモチオの目にも、大粒の涙がたまっていき、やがて視界を遮るように流れ出した。


モチロウ「ありがとう、モチオ。ありがとう……僕と友達になってくれて……」


モチオ「そ……そ……そんな話じゃない!! やっぱりお前は大アホじゃ! 友達に向かって『ありがとう』なんて、そんなよそよそしい事言うんじゃないわ! だからお前はアホなんだ!!」


モチロウは涙を拭うと、リュックから何かを取り出し、モチオの手にそっと握らせた。


それは、モチロウがお手製で作った、ネコロボの小さな小さなぬいぐるみだった。


モチロウ「上手くはないけど……僕、ずっとお守り代わりに持ってたんだ。なんか勇気が出ない時、これを見てると、ネコロボさんの知恵や力を借りられるような気がしてさ。


……これからは、これ……モチオに持ってて欲しいんだ」


モチオ「…………………………」


モチオは渡された歪なぬいぐるみをじっと見つめ、言葉を失った。


モチロウ「じゃ……もう時間だし、行くね」


モチロウは今度こそ前を向き、歩き出した。

もう、二度と振り返らなかった。


モチオは泣きじゃくりながら、遠ざかるモチロウの背中にがむしゃらに叫び続ける。


モチオ「お前! 新しい学校でちゃんとやらないと承知しないぞ!!! ちゃんと勉強して、絶対に教師になれよ!!!! ……でも、もしダメなら、いつでも俺のところに戻ってこい!!!! 毎日だって連絡してこいニャ!! あああああもう、大アホ! バカ! 間抜けぇーーー!!」


モチオは自分でも分かっていた。そんな悪口を言いたいんじゃない。


本当に伝えたい言葉は、そんなものじゃない。


モチオは息を大きく吸い込み、夜空が震えるほどの声で叫んだ。


モチオ「絶対に負けんなよ!!!!! 俺がついてる!!! どんな時も、俺がついてるからな!!!! 絶対負けるな、モチロウ!!!!!」


モチオは両手を口に当てて、全力のエールを送り始める。


モチオ「フレー!!! フレー!!! モ・チ・ロ・ウ!!! フレー!!! フレー!!! モチロウ!!! フレーーーーー!!! フレーーーーー!!! モチロウーーーーーーー!!!」


モチロウは、振り向かなかった。


今ここで振り向いたら、もう前を向いて歩き出せない気がしたから。


代わりに、モチロウは涙で濡れた右手の拳を、夜空に向かって力強く、大きく突き上げた。


時折、道沿いの街灯がモチロウの姿を白く照らす。


それはまるで、未来の夢に向かって進むモチロウを祝福する、極上のスポットライトのようだった。


どんどん小さくなっていく親友の背中に、モチオは声が枯れるまでエールを送り続けた。


いつの間にか後ろに立っていたがり勉猫が、モチオの肩を優しく叩く。


がり勉猫「モチオさん……もうモチロウさんは行っちゃいました。そろそろ……中に入りましょう」


モチオはその場にガクッと膝をつき、地面を濡らすほどの大粒の涙を流し続けた。握りしめた小さなぬいぐるみを見つめながら、届くはずのない声を、ぽつりとこぼす


モチオ「こっちこそ……ありがとうな、モチロウ」


帰る場所があるから鳥は羽ばたいていける。

帰る家があるから人は挑戦できる。


失敗したらどうしよう、、、


でも大丈夫、もう一回 家に戻ってやり直せばいい。



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