第23話 学校に行く編 7 自分の居場所
いつもの河川敷で、モチオとネコロボは誰かを待っていた。
モチロウ「遅くなってごめん!」
遠くから、モチロウが息を切らせて近づいてくる。
モチロウ「カウンセリングに捕まっちゃってさー。わざわざ家までくるんだもん、嫌になるよ」
モチオ「そうか……。で、どうだった?」
モチロウ「うん、僕も出禁になっちゃった」
ネコロボ「……っ!?」
ネコロボはガシッと頭を抱えた。
一方、モチオは「よくやった」と言わんばかりに深く深く頷いた。
モチロウ「モチオが言ってたとおりに言ったよ。
『この意識高い系女め! お前の脳みそスムージーにしてやる! お前の脳みそも有機栽培だから、虫に食われて穴が空いてるんじゃねーの?』って」
モチオ「うん、うん。素晴らしいニャ」
モチオはさらに満足げに頷いた。ネコロボはさらに深く頭を抱え、金属音を響かせた。
モチロウ「あ、そうだ。今日はフリースクールの体験に行くんだよね。ほら、教科書とノートと……」モチロウがリュックを開けようとすると、
モチオ「そんなものは、いらん。俺がちゃんと用意しているニャ」モチオは不敵な薄ら笑いを浮かべた。
*フリースクールの敷地内。
モチオとモチロウは、窓のすぐ下に身を潜め、こっそりと中の様子を窺っていた。少し離れた安全な場所から、ネコロボが不思議そうにその様子を見ている。
ネコロボ「……あの、入り口はあちらですが」
モチオ「シーーーッ!! 静かにしろ、ネコロボ……。よし、今だ!!!」
モチオは素早い動きで、窓の隙間から「何か」を教室の中へと投げ込んだ。
それは、モチオが事前に用意していた、立派にまるまると太ったカエルだった。
がり勉猫「ギャーーー!!!! 私はカエルが苦手なのですーーーーー!!!」
教室内から、がり勉猫の絶叫が響き渡る。
一瞬にしてクラス中が大パニックに陥った。
モチオ「逃げろ、モチロウ!!!」
モチロウ「うんっ!!!」
モチオとモチロウは、追っ手から逃れるように一目散にダッシュした。風を切りながら走るモチロウの顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
モチロウ「あははは! なんか楽しいね!! ワクワクするし、すっごくスッキリしたーーー!!」
モチオ「これが学校の醍醐味にゃ! 勉強など、おまけみたいなもんニャ!」
夕暮れの道を、二人の影が笑いながら駆け抜けていった。
終わり、、、
じゃない、、、
モチオ「あだだだだっ!?」
全力で走っていたモチオが、派手に地面へ突っ伏した。
――ドて!!!!!
見ると、モチオの足元には細いピアノ線が絡みついていた。
万事休す。
完全に捕まった。
がり勉猫「ご苦労様、ネコロボ。……さて、モチオさん。私を誰だと思っているのですか……!」
背後から追いついてきたがり勉猫が、不敵な笑みを浮かべる。
その隣には、淡々とリモコンを片付けるネコロボの姿があった。
がり勉猫は、モチオの隣で固まっているモチロウに気づき、表情を和らげた。
がり勉猫「あら? こちらは……体験入学の方ですか?」
モチロウ「あ……はい」
モチロウは助かりたい一心で、一瞬にしてモチオをスケープゴート(身代わり)にした。
モチオが床から「この裏切り者ニャ……!」
と激しく睨みつけたが、モチロウは絶対に目を合わせようとしなかった。
がり勉猫「しかし困りましたね……。今日は小学1年生を対象にしたクラスの日なのです。モチロウさん、でしたっけ? 小学5年生の体験日は……来月なのですが。……あ、そうだ!」
がり勉猫がポンと手を叩いた。
がり勉猫「ちょうど人手が足りません。モチロウさんも、今日は『教える側』に回ってください。お願いします」
モチロウ「えっ……。僕、できるかな……」
がり勉猫「簡単な内容なので、絶対にできますよ。それに『教える』という行為もまた、自分自身の素晴らしい勉強になるのです」
モチオ「よかったな、モチロウ……。じゃー俺はそういうことで、お先ニャ!」
コソコソと這いずって逃げようとした途端、
がり勉猫「あなたもです!!! モチオさん!!!」
グイッとがり勉猫がピアノ線を引っ張った。
モチオ「痛い痛い痛い! わかった! わかったからそのピアノ線を取れニャ!!」
*フリースクールの教室。
そこには、元気いっぱいの小学1年生の子猫たちが集まっていた。
子猫1「モチロウ先生ー、この足し算わかりません!」
モチロウ「どれどれ……? あ、本当だ。手を使って数えるのは無理だね、指の数より多くなっちゃうから。よし、それならこの積み木を使って一緒に考えてみよう」
モチロウが優しく、かつ的確に子供たちに教えている姿を、教室の後ろからがり勉猫とネコロボが見つめていた。
がり勉猫「モチロウさんは教えるのがとても上手ですね。将来、いい先生になりそうです」
ネコロボ「その可能性は極めて高いです。私のデータによると、教師としての適性・相性は95%と出ています」
一方、教室の反対側では――。
モチオ「なんで引き算の『繰り下げ』がわかんねーニャ!! だから、俺の言った通りに計算しろって言ってるニャ!!!」
子猫2「うわああああん!! モチオ先生怖いよぉーーー!!」
大泣きする子猫の声が響き渡る。
それを見たがり勉猫とネコロボは、全く同じポーズで同時に頭を抱えた。
ネコロボ「ちなみに、モチオさんの教師としての相性は――」
がり勉猫「いいです。言わなくても……見てればわかります」
*やがて、フリースクールの休憩時間になった。
さっきまで泣かされていたはずの子供たちが、なぜかモチオの周りにぞろぞろと集まってくる。
子供たちはモチオを囲み、何やらひそひそ話をし始めた。
モチオ「次はトカゲを投げ込んでやるニャ……」
子猫達「いいねーーー! ククク、きっとがり勉猫先生の、また『ギャーーー』が聞けるね!」
悪巧みで意気投合する1年生たちとモチオ。
しかし、その背後に――ゾクッと冷たい気配が立ち上る。
がり勉猫「……何を話しているのですか?」
モチオ「べ……べ……勉強の大切さニャ! な? な??」モチオは冷や汗を流しながら、子供たちに必死で「話を合わせろ」と目で合図を送る。
が、
子猫達「違うよー! 今度はトカゲ投げ込む話だよ??」
モチオ「え?」
がり勉猫「……やっぱり」
ピキリと青筋を立てたがり勉猫を前に、モチオは脱兎のごとく駆け出した。
がり勉猫「待ちなさーーーい!!!」
モチオ「待たない!!! 待ったら怒られるニャーーー!」
がり勉猫「当たり前でしょうが!!!!」
猛スピードで追いかけっこを始める二人を見て、子猫たちとモチロウは大爆笑している。
その姿を見つめながら、モチロウは隣のネコロボに話しかけた。
モチロウ「フリースクールもいいね。……僕、もっと早く来ればよかったかな? ネコロボさん」
ネコロボ「そんなことはありませんよ、モチロウさん。……今が、ベストタイミングです」
*それからのモチロウは、ネコ塾だけでなく、毎日のようにモチオたちの実験室にも遊びに来るようになった。
いじめの傷も癒え、みんなと打ち解けて、充実した日々を過ごしている。
一方、その頃のモチオはといえば――。
子猫3「ねえねえ、なんで分数の割り算はひっくり返してかけるのさー? なんで? なんで?」
モチオ「知るか!!! 言われた通りにやってろ!!!! そういう法律ニャ!!!」
子猫3「ええええええええええん!!! モチオ先生怖いよぉーーー!!」
モチオ「あ、違う! 違う! 泣かないでーーー! あ、そうニャ! 分数君はひねくれ者だからニャ! だからひっくり返るニャ! いや……違うな、あああもう、泣かないでくれーーーっ!!」
頭をかきむしって大パニックになるモチオ。
教室の後ろでは、がり勉猫、ネコロボ、そして――モチロウの3人が、全く同じポーズで同時に頭を抱えていた。
がり勉猫「あちゃー……」
がり勉猫は、楽しそうに笑うモチロウに向き直り、かしこまって頭を下げた。
がり勉猫「こんなにもフリースクールが活気に満ちて、充実し始めたのは、モチロウさんのおかげです。本当にありがとう」
ネコロボ「モチロウさん、ありがとうございます」
どんな人間にも居場所は必ずある。
それを見つけるのは、本当は結構大変なことだ。
だからこそ、人との出会いや、誰かとのつながりの力を借りて、少しずつ心を動かしてみる。そうして初めて、見つかるものなのかもしれない。
それを見つけるのは、本当は結構大変なことだ。
でも。どんな人間にも、居場所は必ずある。




