第22話 学校に行く編 6 スクールカウンセリング
男の子「……っ!?」
男の子が驚いて振り向くと、そこにはモチオとネコロボが立っていた。
モチオ「学校、サボりか? もう昼だぞ。俺の弁当、分けてやる」
男の子は気まずそうに首を横に振った。
モチオ「俺はエビかつを2日連続で食えない性質なんだ。しかし、食わないといろいろ問題がある。だから食ってくれ」
男の子は困惑して、隣にいるネコロボを見る。
モチオ「こいつはロボットだから食えない。だから困ってるんだ」
男の子は躊躇した表情のまま、お弁当を見つめた。
ネコロボ「大丈夫ですよ……。この人だって、サボりですから」
ネコロボはそう言って、モチオを指さした。
結局、3人は並んでお弁当を囲むことになった。
*その男の子はモチロウという、小学5年生だった。背が低いという理由でいじめに遭い、不登校が続いているらしい。
実は今日がカウンセリングの日だったのだが、嫌になって家から逃げてきたのだという。
モチオ「まあな……あれは拷問ニャ。ソフト拷問。優しく言っちゃいるが、『さあ吐け、さあ吐け』って言ってるようなもんだ」
モチロウ「ふふっ……」
モチロウは、モチオの極端な例えに少しだけ笑った。
モチオ「しかしだな……カウンセリングはしっかり受けなさい。とても重要ニャ。うん、うん……」先ほどとは一転して、モチオはしんみりとうなずいて見せた。
ネコロボ「そんなこと、よく言えたものですね」
ネコロボはあきれ顔で言いながら、自分のお腹からディスプレイを取り出した。
画面には、ある【映像】が映し出される。
*カウンセラー「モチオさん、最近の学校生活はどうザーマス?」
モチオ「別に」
カウンセラー「じゃあ、お友達とは何をして遊ぶのザーマス?」
モチオ「知らん」
カウンセラー「これは重症ザマス。無症状、無気力、倦怠感……これは病気でザーマス。モチオさん、なんでも私に言ってごらんなさい。貴方の意志を尊重するザーマス」
モチオ「……ザーマス……ザーマス……」
モチオはうつむいたまま、とても小さな声でつぶやいた。
カウンセラー「何ザーマスか? なんでも言ってみなさい、ほら! 私はなんでも聞くザーマス!」
――ブチ!!!
モチオの中で、何かが完全に切れた。
モチオ「ザーマス、ザーマス、うるせーんだよ、このザーマスババア!!!」
カウンセラー「ザーマスババア!!!?」
モチオのマシンガントークのスイッチが完全にONになった。
モチオ「じゃー言ってやるよ! 大体な、てめえみたいなザーマスババアと話したいわけねーんだよ! 俺は忙しいんだ、ドラクエのレベル上げをしなきゃならんのじゃ! テメーとなんて話す暇はねえ!」
カウンセラー「何ザーマス!!! ドラクエのレベル上げなんて暇人がすることザーマス!! 私とお話しする方が価値があるザーマス!」
モチオ「テメーにはぐれメタルに逃げられた時の絶望感がわかるか!! このスライムベスが!! お前と話するくらいなら、スライムベス相手にレベル上げする方が一万倍マシニャ!!」
カウンセラー「私を雑魚キャラ扱いザーマス!?」
モチオ「誰がテメーみたいなザーマスババアと話したい? そりゃやる気も出ねえわ! 話をすると言うなら、じゃあ浜辺美波を連れてこい! 浜辺美波が『モチオさん素敵、学校で待ってる』って言ったら一発で不登校解消じゃ!! 浜辺美波を連れてこいニャ! むしろ、めちゃくちゃ喋りまくってやるわ!!」
カウンセラー「ほら! 私だって、髪型は浜辺美波と同じでザーマス!!」
モチオ「はあ? そんなん、俺が福山雅治に似ている理由は『目が二つ付いているから同じ』と言っているのと同じじゃ!! いや、むしろ俺とアメンボがそっくりな理由は『どちらも動くから』って言ってるくらいの共通点ニャ!」
カウンセラー「せめて、同じ『ネコ科』くらいのくくりはあるざーます!!!」
モチオ「はあ? 遠いわ!! 日本とブラジルくらい遠いわ! いや、地球と冥王星くらい遠いわ!!」
カウンセラー「私だってミスコンに出てるザーマス!!!」
モチオ「はあ? 参加費取られただけやろ? ミスコン? ミスコントロールの間違いにゃ!!」
カウンセラー「何ザーマス!!!! このしつけのなってない子は!!!!」
モチオ「上等ニャ! お前はしつけがなってるんだろうな! ザーマスザーマス、しつけーんだよ! このザーマスしつけ女が!!!」
カウンセラー「キー――――――――!!!!!」
モチオ「ヒステリックザーマスしつけババア In 冥王星が!!!」
カウンセラー「もう終了です! もう終了ザーマス!!!!」
ガタガタと音がして、警備員がモチオを部屋から連れ出していく。
しかしモチオは引きずられながらも叫び続けている。
モチオ「おい!!! 俺の意見の尊重だろうが!!! ザーマス冥王星人!! 浜辺美波つれてこーい! 橋本環奈つれてこーーーい!! 美女とカウンセリング受けさせろーーー!」
――プチ。
ネコロボがボタンを押し、映像が終わった。
*ネコロボ「という感じで……。モチオさんはカウンセリング、出禁になりました」
モチロウ「ひゃはははは! あははははは!」モチロウは床に転がり、お腹を抱えて大爆笑している。
モチオ「な……な……なんで、なんでこんな映像がある!?」
ネコロボ「そうですね……。モチオさんが言う『ザーマス冥王星人様』から直々にこの動画が送られてきまして、出禁を告げられました」
モチオ「も……も……もしかして……これ、がり勉猫も見てる?」
ネコロボ「はい、もちろんです。がり勉猫は、頭を抱えていましたよ」
モチオは、まだ涙を流して笑っているモチロウをじとーっと睨みつけた。
モチオ「それにしても……笑いすぎニャ」
モチロウ「だって……だって! 面白すぎるよ! でもさー、言ってること合ってるよね。確かに『なんでお前が浜辺美波がいい!美女がいい!ってなるんだよ』って突っ込みたくなるけど。でも、そうそう、確かに『うるせー!』ってなるよね。学校行け、学校行けとか、あなたの気持ち、あなたの気持ちとか言われるとさ……」
モチロウは笑いすぎて出た涙をグッと拭った。
モチロウ「こんなに面白いなら、僕もカウンセリング受けてみようかな……」
ネコロボ「お勧めしません、絶対」
ネコロボの間髪入れないマジレスに、さらにドッと笑いが起きた。
ふと気づくと、3人のお弁当はもう空っぽだった。エビかつも綺麗に完食されている。
そこで、モチオはあることに気づいた。
モチオ「これは何にゃ?」モチオは、モチロウのリュックから少し飛び出しているチラシを指さした。
モチロウ「ああ、これさー。親がうるさいんだよ」モチロウはそう言って、チラシを引き抜いてモチオに手渡した。
それは、フリースクールのチラシだった。モチオは気分が一気に重くなったが、渋々文字を追ってみた。
『フリースクール ネコ塾! 毎週火曜日 体験学習できます。予約は要りません どしどし来てください』そして、モチオはチラシの右下隅にある、とても小さな写真に目を留めた。
【特別非常勤講師:がり勉猫】
モチオ(……明日の予定は決まったニャ)
モチロウ「ネコロボさん、もう一回見せて、あの映像!」
モチオ「ネコロボやめろ! むしろそんな動画消せ!」
ネコロボ「申し訳ありません。おっしゃっている意味がよく分かりません」
モチオ「だから、Siriの真似はするニャーーー!!!!」
河川敷の静かな光景は、モチロウの明るい笑い声に包まれていた。
モチロウが流した笑いの涙が、乾いた草原を優しく潤していく。




