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第17話  学校に行く編 1 慣らし運転は必要

とある朝。


モチオは教室の扉の前に立っていた。


大きく深呼吸をする。


「さ、気合い入れていきますか」


そうつぶやき、固く重い教室の扉を開ける。


ここまでのモチオの決意と葛藤のストーリーが、今、始まる。


**************************


午前7時30分。目覚まし時計が鳴る。


モチオはおもむろに目覚ましを止め、もそっと起きだした。


その顔は完全に無表情である。歯を磨き、朝食のテーブルについた。


がり勉猫「モチオさん、おはようございます。今日は3月15日の金曜日。気分はいかがですか?」


モチオ「最悪ニャ」

がり勉猫「そうですか……」


モチオ「だが、昨日よりはマシだがなニャ」

がり勉猫「でしょうね。そんな気がします」


朝の挨拶は、これがいつものお決まりであった。


そして食事も同じである。朝食のメニューは、パン、コーヒー、野菜。

そして、ケチャップでハートを描いた目玉焼き。


コツ勉猫は忙しそうに、そして嬉しそうに朝食の準備を整えていく。


そこへ、モチタとモチクロも合流してテーブルについた。


がり勉猫、コツ勉猫、モチタ、モチクロ、そしてモチオ。奇妙な同棲生活の朝が始まる。


朝食がすべてテーブルに並んだ。


がり勉猫「さあ、頂きましょう」


食事をしながら、他愛のない会話が交わされる。


毎日恒例の儀式が始まった。


がり勉猫「今日は私は、午後から学会に呼ばれています。それからネコ塾へ」


モチオは心の中で思った。(あれから、ネコ塾という単語が頻出するが、知らない。ネコ塾ってなんなのか……。ま、あんまり興味ないしなニャ……)


わざわざ聞き返すのはやめておいた。


コツ勉猫「私もお兄様と学会に同行し……それからは、モチポよさんのお宅へ」


モチオの心の声(まだ、あのギャルと交流あったのか……。まだコツ勉猫はギャルに興味があるのかニャ)


しかし、これも聞き返すに至るほど興味はわかなかった。


モチタ「僕は今日は学校だけだね。あとはドラクエの攻略……」


モチクロ「僕も今日は学校と……それから塾かな」


モチタ「あ、モチオ。いつもの……お願いね?」


モチオ「あー-、わかってるニャ。どうせやることないしニャ」


隠語による会話。


これは「ドラクエのレベル上げをしておいてくれ」という意味である。


「で、モチオは?」がり勉猫は必ず問いかけてくる。


モチオ「特に……ないニャ」そう言うと、がり勉猫は必ずこう切り返すのだった。


がり勉猫「特にない日なんてありませんよ。なんでもいいから……あ、そうだ。今日は天気もいいし、ネコロボと河川敷にいく、というのはいかがですか?」


モチオ「じゃー、それでニャ」


これもまた、毎朝のお決まりであった。食事が終わり、部屋に帰る。モチオは言われた通り、少しだけドラクエのレベルを上げておくことにした。


そして、午前10時50分ぴったり。


この時間になると、必ずネコロボがモチオの部屋にやってくる。


用事がある日も、何もない日でも、毎日欠かさずに。


ネコロボ「モチオさん、お出かけしましょう」ネコロボからの誘いはわかっているので、出かける準備はすでに済ませてあった。


玄関口に向かうと、そこで必ずコツ勉猫との寸劇が始まる。


コツ勉猫「あなた、これ……」


モチオは差し出されたお弁当を受け取った。


コツ勉猫「そして、あなたはこれね」コツ勉猫はそう言って、今度はネコロボにリュックサックを渡す。


そして、上目遣いでモチオを見つめた。


コツ勉猫「あなた……今日は何の日か、覚えてる?」


モチオは感情を失った棒読みで返す。


モチオ「ああ。結婚して……32日記念日だなニャ」


コツ勉猫「さ、す、が、あなた! じゃあ、いってらっしゃいませ!」


コツ勉猫の見送りを受けながら、二匹は家を出た。去り際、モチオは小さく息を吐く。


モチオ「この熱々新婚さんごっこは、いつまで続くニャ……」


ネコロボ「モチオさん、声を抑えてください。コツ勉猫に聞かれると後が大変ですから……」


そんなやり取りを挟みつつも、約一時間のネコロボとの散歩は決して悪くはなかった。


何気ない会話を交わす時間は、むしろ楽しいとさえ言える。


ネコロボ「もうすぐ春ですね……」

モチオ「だな……」


ネコロボ「モチオさんも、この生活に大分慣れてきたのでは?」


その言葉を聞いた瞬間、モチオは少し不機嫌そうに言葉を返した。


モチオ「それをお前が言うかニャ……。嫌でも慣れるニャよ……」


モチオの脳裏に、あの日の記憶が蘇る。


すべては、あのバーベキューの翌日から始まったのだ。


◇【回想シーン】


がり勉猫「さあ、起きてください!!! モチオさん!」

ガシャーーッ! と、カーテンが勢いよく思いっきり開け放たれた。


モチオ「まぶしいニャ!! まだ朝の7時30分ニャぞ。学校も何もない、まだ寝かせろニャ!」モチオは必死に布団にくるまった。


がり勉猫「起きませんね。ですが、そんなことは私の能力で予測していました。さあ、ネコロボ。よろしくお願いします」


ネコロボ「了解です」


ネコロボは平然と胸のボタンを押した。


次の瞬間。


モチオ「ぎゃーーー!!! 何の音ニャ!!!! 全身が身震いするニャ、やめろニャ!!!」激しい音と振動に、モチオは飛び起きた。


がり勉猫は、あらかじめ用意していたヘッドフォンを耳につけながら、涼しい顔で言った。


がり勉猫「猫に超不快な音を発生する、超音波発生装置をネコロボにつけました。

さあ、モチオさん。あなたが起きるまで、ずーーーっと鳴らし続けますよ!! 嫌だったら起きるのです!!!」


モチオ「ぎゃーーー!! ネコロボ、やめろーーーー!!!!」


ネコロボ「申し訳ありません。言っていることが、分かりません」


モチオ「ネコロボ! どっからそんなSIRIのギャグを学んできたニャ! ぎゃーーーやめろーーー! 起きる!! 起きるから!!! まずその音とめろーーーー!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「あれは地獄ニャ……」モチオはぽつりとつぶやいた。


そんな過去の恐怖を思い出しているうちに、二匹は河川敷へと到着した。


時計の針はちょうどお昼を指している。


ネコロボ「今日は、このあたりにしませんか? 快適指数が一番高い場所です」河川敷の芝生の上で、ネコロボとモチオはお弁当の昼食を取ることにした。


モチオが包みを開いてお弁当箱の蓋を持ち上げると、中には豪華なおかずたちがきれいに並んでいた。


そして、ご飯の上には必ず、海苔を切り抜いた「ノリアート」が施されている。『I ♡ モチオ』このノリアートのデザインは、毎回変わる。


モチオ「今日は機嫌がいいみたいだなニャ」


ネコロボ「そうですね。そのようです」


モチオ「あの新婚さんごっこ、断ったら大変ニャ。お弁当はおかずなしの、ノリだけになるし……」


ネコロボ「そうですね。帰ったら『あなた、浮気してるでしょ? 許さない!』の劇が始まります……」


モチオ「あれも……地獄ニャ」首を振るモチオだったが、ふと、優しく微笑みながら言葉を漏らした。


モチオ「しかし……コツ勉猫は、きっといいお嫁さんになるだろうなニャ」


ネコロボ「それは極めて高い可能性で断言できます」モチオが美味そうにお弁当を食べ始めた。


すると、隣にいたネコロボが動いた。


ネコロボ「では、私もいただきます」そう言ってリュックサックから取り出したのは、小さな太陽光パネルだった。


ネコロボはそれを地面に置き、充電を始める。


モチオ「その充電じゃ、ほとんど効果はないだろニャ?」


ネコロボ「いいんです。モチオさんと一緒に食事を楽しみたいのです。私がコツ勉猫に頼みました」


モチオ「なんかネコロボといるのに、自分だけ食べるのは気まずいって、俺が……いや、俺が言ったのを気にしてるのかニャ?」


ネコロボ「いいえ。私がそうしたいのです」モチオは少し照れくさそうにはにかむと、いたずらな顔をしてお弁当の卵焼きを一つ箸でつまみ、差し出した。


モチオ「食べるニャ?」ネコロボ「いただきます。……ムシャムシャ」ネコロボはセンサーをパチパチとさせながら、嬉しそうに食べるふりをした。


モチオ「これも新婚さんっぽいなニャ……。俺たちだって、コツ勉猫のこと悪く言えないなニャ……」


ネコロボ「ですね……」モチオは笑い、ネコロボも微笑んだ。


食事が終わり、しばしの間、川のせせらぎに包まれながら何気ない会話を続ける。


モチオ「あのさ、ネコロボ。夜の11時になると、家のWi-Fiが全部切れるのだけは、なんとかならんかニャ?」


ネコロボ「あれは、私ではないです。モチタもゲームができないと私に怒っていましたが、あれは私ではないです。実験室全体のシステムが、自動的にそうなっているようです」


モチオ「クソ! がり勉猫め!!!!」モチオは心の中で強く思った。


************************************


【回想シーン】


がり勉猫「モチオさん! 学校に行く、行かないは関係ありません! 約束してください!」がり勉猫は厳しい表情で、いくつかの条件を突きつけてきた。


・生活リズムは崩さないこと

・今日は何月何日何曜日だと把握していること

・できるだけ多く会話すること

・毎日、なんでもいいから用事を作ること


************************************モ


モチオ「夜にWi-Fiを止められると、やることがないニャ。寝るしか……ないニャ」


ネコロボ「私も……休止モードになるので……」しかし、モチオはわかっていた。


Wi-Fiがなければ、がり勉猫自身の研究の進みも遅くなるはずだ。


それなのに、がり勉猫やコツ勉猫は自分の成果よりも、モチオの生活リズムを崩さないことを最優先にしてくれている。


だからこそ、モチオはがり勉猫に直接、強く文句を言うことができなかった。


しかし、一方で。


モチオはまったく気づいていなかった。


がり勉猫が、こっそり自分専用のポケットWi-Fiを持っているということを――。



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