第15話 登校編 完 翼
「信じて待ちましょう」
庭に漂う木炭の香りと共に、がり勉猫が静かに言った。
「普段通りに、普段通りに!!!!」
みんなで口を揃えて、笑顔を交わし合う。
それは、作られたものではない、何気ない日常の会話だった。
モチポよ「なくなくなくなくなくなくなー-い。はい、どぞ!!」
モチコぽよ「なくなくなくなくなー」
コツ勉猫「違いますわ。なくなくなあああなくー、よ」」
「ハハハハハ!」と、楽しそうな笑い声が庭いっぱいに広がる。
モチタ「モチクロ、スイッチ2貸してよー--いっしょにやろうよー--!!」
モチクロ「やだよー-! 絶対自分ばっかりで、僕にやらせてくれなくなるんだもん!」
どこにでもある、標準的な幸せな風景。
がり勉猫はバーベキューコンロでお肉を焼きながら、いつものように考え事に没頭していた。
新しい発明のことだろうか。それとも、あのボコボコになって眠るネコロボの記憶装置を、どうやって修復するかの方法だろうか。
不意にがり勉猫の手が止まり、何かを閃いたようにニヤリと笑みを浮かべた。
2階の少しだけ開いた窓からは、かすかに向かいのがり勉猫の家、階下の賑やかな会話が聞こえてくる。
言葉の意味までは聞き取れない。
モチオは、窓の外の景色をぼんやりと眺めていた。
視線の先、電線にいつものスズメが止まっている。
もう少しだけ、窓を大きく開けてみる。
するとスズメはふわりと飛び立ち、部屋の隅で静かに停止しているネコロボの、ボコボコに変形した頭の上にちょこんと止まった。
モチオ「君はいいよね、翼があって……。俺の悩みなんてわからないんだろうな……」
いつものように、自嘲気味に呟いた。
突然、朝の静けさに紛れてかすかな声が聞こえた。
スズメ「僕の翼が欲しいなら、貸してあげるよ」
モチオ「え?…いいの?」
スズメ「でも僕の翼は小さすぎて 君では飛べない」
モチオ「そっか…なら、いらない」
スズメは小さく首をかしげた。
その仕草は、風の音を聞くように静かだった。
スズメ「そうだろうね。君にとっては、僕の翼なんて小さすぎて自由には届かない」
スズメ「君はいいよね、大きな翼があって……。僕の悩みなんてわからないんだろうな……」
モチオ「僕に翼なんてないよ」
スズメはモチオの両手を見つめた。
スズメ「君には君の翼が見えないの?
その両手を大きく広げれば……
君を愛してくれる人達のもとへ。
君を信じてくれる人達のもとへ。
君の翼は僕のものより大きい。大切なものを抱きしめることができる翼だよ」
モチオ「どうすれば飛べるのさ、君のように」
スズメはまた首を傾げた。
スズメ「飛ぼうと思えば飛べるよ」
少し間を置いて、ふわりと言葉が落ちた。
スズメ「ああ、そうか。君はまだ飛び方を知らないだけなんだね」
モチオ「…飛び方?」
スズメ「僕の翼では君の目的地まで連れて行ってあげることはできない。
でも、僕についてきてごらん。庭には連れて行ってあげるよ。
そこで飛び方が少しわかるかもしれない」
モチオ「どういうこと?どうして君は僕を連れて行ってくれるの?
どうして庭に行けば飛び方がわかるの?」
スズメは、朝の風をまとったように静かに言った。
スズメ「誰だって
「…一人じゃ飛べないんだよ」
そう言い残すと、スズメは一枚の小さな羽だけをネコロボの頭に残し、大空へと飛び去っていった。
穏やかな風が、すぐそこまで来ている春の気配を運んでくる。
白いカーテンが、そっと優しく部屋を揺らした。
モチオは、残されたスズメの羽をそっと手のひらで握りしめた。
そして、恐る、恐る――。
ほんの少しずつ、大きく両手を広げてみた。
ふと、ネコロボに目をやる。
機能を停止したはずのネコロボは、少しだけ微笑んで、その様子を温かく見守っているように見えた。
庭では、モチオが来るのを信じて、仲間たちがバーベキューを続けている。
やがて――。
弱々しくも
美しい羽音を立てて
庭の方へと近づいていくちっぽけな鳥がいた。
あたたかい春の風によろけながら、
でも確かに前を向いて羽ばたいていた。
モチオ不登校編 完
モチオ学校に行く に続く




