第13話 不登校編 13 おまじない
朝、モチオが目覚めると――。
そこには、心配そうに自分を見つめるモチタと、がり勉猫の姿があった。
モチオ「ふん……もうネコロボから降りたのか。もう茶番はおわりか……逃げる相談か……」
ひねくれた言葉を投げかけるモチオだったが、二人はそんな言葉を気にかける余裕すらなかった。
ネコロボAI「あ、モチオさんが起きたようです……」ノイズ混じりの、か細い電子音が部屋に響く。
壁にもたれかかったネコロボの瞳は、今にも消えそうに明滅していた。
モチタ「なんとか、ならないの!?」
がり勉猫「今から作業場にもっていけば修復は可能ですが……しかし……」
ネコロボAI「私は……ここを……動かない……」
モチタ「ネコロボ―!!! 言うこと聞いてよ!!」
ネコロボAI「私は……ここを……動かない……」
がり勉猫「ダメです、記憶装置の故障が進んでいます! 今は予備電源で動いていますが、予備電源までなくなると……修復しても、完全に今まで蓄積されたデータが飛んでしまいます!」
モチタ「ネコロボ―!! 言うこと聞いてよ!!! お願いだよー!」
モチタが叫ぶように懇願する。
ネコロボの電子目が、最後に一度だけ、ゆっくりとモチオの方を向いた。
ネコロボAI「私は感情がありません……。しかし……記憶がなくなること……それは……『悲しい』という感情に似ている。楽しかったこと……全部、全部、なくなる……」回路が焼き切れるバチバチという微かな音が響く。
ネコロボAI「しかし……一方で、合理的とも……。モチオの『痛い』……ずっと見てきた……。そんな記憶……残したくない……。もう一度……目覚めた時……全部忘れて……もう一度、あの時のモチオに戻ってて欲しい。そんな『感情』と、よく似ています……」
モチタ「だめだよ!!!! 忘れちゃダメなの!!!! 早く、作業場に行こ!」
ネコロボAI「いいえ、私は動きません。モチオの『痛い』が……治るまで……。修復作業もしないでください。私は、ずっと、ずっと、モチオのそばにいたい……。モチオの『痛い』が、治るまで……」
がり勉猫「ダメです! ネコロボ……しゃべってはダメ! 電力を消費してしまいます!!! はああああ、ダメです……もう記憶装置がほぼ完全に停止状態です!!!! もう止まるのも時間の問題です!!!!」
ネコロボAI「私は……いいんです……。モチオが痛い! モチオ痛い! 痛い、苦しい……モチオ……助けたい、助けたい……」
もう電源が切れる寸前で、今からではどうあがいても間に合わない。
その残酷な現実を悟ったモチタは、涙を流しながらネコロボの鉄の身体に強く抱き着いた。
モチタ「ネコロボ、ありがとう! ありがとう!!! モチオの『痛い』、治るから!! モチオの『痛い』、絶対、治るから!!!」ネコロボは、もう瀕死の状態だった。システムが次々とシャットダウンし、過去の記憶もほとんど失われていく暗闇の中で、ロボットは最期に、何かを思い出すように優しく呟いた。
ネコロボAI「モチオさん…お……ま……じ……な……い……だ…よ…」
かつて幼いモチコが教えてくれた、あの言葉。
ネコロボAI「いたいの……いたいの……とんでいけ……」
ネコロボAI「いたいの……いたいの……とんでいけ……」
ネコロボAI「いたいの……いたいの……とんでいけ……」
ネコロボAI「いたいの……いたいの……とんでいけ……」
いた……い……の……。い……た……い……の……。と……ん……で……い……け……。
カシャ、
と小さな駆動音が響き、ネコロボは静かに瞳の光を閉じた。
壊れたドアの隙間から差し込む朝の光。
部屋の中は、完全に静まり返ってしまった。いつものように外の電線には、スズメはいなかった。




