第10話 不登校編 10 ありよりのあり
「ウルセー!!!!」
モチオがネコロボに向かって、ありったけの声で叫んだ。
『ドラゴンクエストV』をプレイすれば、モンスターを仲間にしないことにネコロボからいちいち茶々を入れられ、耐えかねて格闘ゲームに切り替えれば、今度は後ろから怒涛のヤジが飛んでくる。
ネコロボ「うわー--、今のないわ」
モチオ「・・・・・」
ネコロボ「下手、乙wwww」
モチオ「・・・・・」
ネコロボ「マジで? 今のハメ技じゃん、だっさ」
ネコロボ「ヘッボ!!! 俺なら今のは昇竜拳やわ」
モチオ「おい! ポンコツ! じゃー俺と勝負しろ! 俺が勝ったらお前が出ていけ! お前が勝ったら、言うことを聞いてやる!!! うるさくてゲームもできん!!」
(よし、のってきた!!!!)
コックピットの中で、モチタは小さくガッツポーズを作った。
モチオ「三回勝負で決着ニャ!」
ネコロボ「負けて泣くなよ、、、」
その挑発に、モチオの頭はさらにヒートアップしていく。
モチオ「ボコボコにしてやるわ! 雑魚が!!!」
(ネコロボの中の会話)
モチタ「がり勉猫、聞こえる?」
がり勉猫「会話は全部聞こえています。準備しますね マニュアルモードと、、」
モチタ「ゲームなら僕にお任せだよ! モチオは弱いからすぐ倒すから……」
ネコロボAI「遠隔操作切り替え完了」
しかし、一回戦の結果はモチオの圧勝だった。
モチタは手も足も出ずに沈められた。
(遠隔操作室)
がり勉猫「モチタ、話が違いますよ。まさかの舐めプですか?」
モチタ「違うよ! モチオ、強くなってる! 引きこもってずっとやってるから、すごく強くなってる……! 僕、全力でやらないとマジでやばいよ」
迎えた二回戦。モチタはプライドをかけてコントローラーを握り直し、なんとかネコロボ(モチタ)の勝利をもぎ取った。
だが、その一戦でモチオはピンときた。この徹底したハメと差し合いの攻撃パターンは、見覚えがある。
モチオ「やっぱり中はモチタだな、今ので確信した、、、あのやろー、今までの恨み、ここで晴らさせてもらうニャ!」
続く三回戦。
画面の中で激しい火花が散り、2対1の僅差で、なんとかネコロボが勝利した。
これでネコロボの勝ちが決まったはずだった。
しかし――。
モチオ「今のは、練習ニャ!!!!! 5回戦で勝負ニャ!!!」
負けず嫌いのモチオがルールをひっくり返す。
そのまま雪崩れ込んだ戦いで、今度は2対3でモチオが逆転勝利を収めた。
モチオ「ざまあ!!!! 雑魚‼ 雑魚!!! さあお前の負けニャ! 出ていけ!」
ネコロボ「そんなアホな! モチオが泣いて、泣いて『5回戦にしてー』って言うからやってやっただけだ……。本当は俺が勝ってた。あの時『5回戦にしてにゃー』って泣いてませんでした?」
モチオ「そんなことあるかー!! じゃー、10回戦で勝負ニャ。もう文句なしニャ!」
ネコロボ「そっくりそのまま、お前にその言葉を返す!」
結果は6対4でネコロボの勝ち。
だが、当然モチオは納得しない。
モチオ「うるせー、最初から俺は15回戦って言ってたにゃ! お前の聞き間違いニャ!!」
さらに戦いは泥沼化し、8対7でモチオの勝利。
ネコロボ「そもそも15なんて数字は中途半端だ! 20回戦にしろ!」
そんな不毛なやり取りが永遠に続き、二人は一歩も引かないまま、とうとうスコアは50対50にまで達してしまった。
(遠隔操作室)
がり勉猫「しっかりしてください、モチタさん」
モチタ「さすがの僕も、、、もうだめ、、、、真剣に100回戦もしたら、頭がくらくらする、、、、」
操縦席のモチタは完全にエネルギー切れだった。
しかし一方のモチオもまた、肩を激しく上下させ、コントローラーを握る手が震えるほどにクタクタになっていた。
「もう、飽きた!!! まあ……雑魚はまた今度相手してやるぜ!」
コントローラーを床に放り出し、モチオが叫んだ。
今度はスマートフォンを手に取り、動画サイトを見始めた。
ネコロボ「俺も見てもいいか」
モチオ「好きにしろ!」
投げやりな返事をもらい、ネコロボはモチオの隣からのぞき込む。
だが、画面を見たモチオは妙な違和感に眉をひそめた。
(あれ? あれ? あれ……?)
どのチャンネルを開いても、おすすめ欄に表示される動画がどれも『ある一つの動画』だけになっているのだ。不審に思いながらも、モチオは画面をタップした。
モチオ「まあいい、この動画を見るか……」その頃、階下の遠隔操作室では、がり勉猫たちが不敵な笑みを浮かべていた。
がり勉猫「ハッキング完了しましたよ、コツ勉猫」
コツ勉猫「了解! お兄様。さあ動画……お楽しみあれ、モチオさん!」
動画が再生される。大音量とともに画面に現れたのは、ド派手なリアルギャルの姿だった。
モチポよ「モチポよでー--す!!! 今日はコラボあざー--す!!! 今日のファッションもありよりのありじゃね? モチクロぽよ!! コツぽよ!!」カメラが横に切り替わると、そこには明らかに無理をしてギャルの格好をした、違和感全開の女装モチクロが座っていた。
モチクロ「ど、ど、ど……どーもでーす……ありよりーでー……す」
さらにその隣に映るコツ勉猫の姿は、もっと悲惨なことになっていた。
コツぽよ「コツぽよでー-す。蟻、寄り-でー-す」
画面の向こうの強烈な絵面に、部屋で見つめるモチオとネコロボは完全に固まった。
モチオ・ネコロボ「「……………………………………」」
シュールすぎる光景にツッコミを入れることすら忘れていると、画面の中のモチポよが視聴者からのコメントを読み上げ始めた。
モチポよ「今日もスパチャいただきやーーす! あざー--す!! ……ん? 『僕は頭の部分が黒いとみんなにバカにされます。僕は変でしょうか?』だって!」
カメラがぐっとモチポよの顔に近づく。
モチポよ「なにそれ? ウケるんですけど――。むしろみんなと違って個性光ってるって感じ? うわー、マジでラメ、ギンギン入れちゃってる? まぶしーって感じで……そんなのむしろ、ありよりのありよりのありじゃね!?」
ギャル全開のポジティブな言葉が、スピーカーを通じて、黒く塗りつぶされた写真が散乱するモチオの部屋に響き渡った。
モチクロぽよ「ねえ!、、、ありより、、のありよ、、、りー!!」
コツぽよ「なかとみの、、、かまたりー----!」
画面の向こうでは、無理にギャル語を合わせようとするモチクロと、歴史の教科書から飛び出してきたような絶望的センスのコツぽよが迷走を続けている。
そんな二人を置き去りにして、中央のモチポよがさらに捲し立てた。
モチポよ「むしろ! ディスってくるやつマジで最低だから! 本当最低だから! なしよりのなしよりのなしよりのなしだし!!」
モチクロ「なし、、、より、のなし、、、よりのー--!!」
コツぽよ「梨よりのー、洋ナシのー!! 梨ー--!」
モチぽよ「ギャルのハートって意外にガラスだから! モチポよ的には、、全然OKグーグルって感じだけど、、 もし気にしちゃってる感じ? だったらさー、その黒にー--ブリーチかけちゃってー---デコっちゃえば、、、いんじゃね? んでギャル男になっちゃえば、いんじゃね?」
モチクロ「い、い、い、、、、いん、、、じゃね?」
コツぽよ「陰、邪念?」
部屋のテレビモニターの前で、モチオとネコロボは開いた口が塞がらない。
モチオ・ネコロボ「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
そこへ、新たな人物が画面に乱入してきた。モチコぽよである。衣装のクオリティは他の3人と全く同じ、ひどい有様だった。
モチポよ「やばいやばい! マジでリトルギャル来たんですけどー! やばいんですけど!」
モチコ「何を言ってるか、、、わからないニャ」
モチポよ「マジでうけるー--!! ギャルの恰好して、ギャル知らず?ってマジでウケるんですけど―、縄文人? マジウケる――!!」
モチコぽよ「知らないニャ、だから教えてほしいニャ」
モチクロぽよ「私も、、僕も、、、にゃ、、、、」
コツぽよ「わ、、、たし、、も。。。」
モチポよ「ウケるー--!!! でもギャルってバイブスがすべてだから! マジで縦社会ですから! でもモチコのー、モチクロぽよのー、コツぽよのー、バイブス? ギンギンきちゃってて!!! マグニチュード8.0って感じ? 揺れる揺れるってかんじー? あっぶねーって感じ?? いいよ! これからー、お姉さん系?の私が3人にー? どんどんギャルのバイブスおしえてっから!」
完全に主導権を握ったモチポよが、カメラに向かってピースサインを決める。
モチポよ「じゃー、これから3人の教育していく動画つくっちゃいまーす。今日はここまで! そんじゃー、しくよろー!」
モチコぽよ「しくよろー」
モチクロぽよ「しくよろー」
コツぽよ「しくよろー」
ブチン・・・・・・・
動画はそこで唐突に終了し、画面は暗転した。
静まり返った部屋の中で、モチオがぽつりと呟く。
モチオ「ネコロボ、、、お前が、、、仕掛けたのか、、」
ネコロボ「マジで、、、しらん、、、これは、、、マジで、、、しらん、、、」
モチオの胸の奥には、今までにない感情が去来していた。自分はモチタみたいに、こんなに必死になって、友達と遊んだりしただろうか。
モチぽよのように、どんな状況でも、自己主張を強くできただろうか。
自分はモチクロやコツ勉猫みたいに、こんなに不器用で必死になって、友達の話に合わせようとしたことがあっただろうか。
そして画面のモチコみたいに、知らないことを「知らない」って、あんなに素直に言えただろうか。
自分は、誰かに心を開くことができていたのだろうか――。
ふとそんな殊勝な思いが頭をよぎったが、モチオはすぐにそれを振り払うように首を振った。
モチオ「まあ、どーでもいいや。。。」口ではそう毒づいた。
しかし、モチオの視線は破られた写真の山ではなく、テレビ画面に向いていた。頭の中に焼き付いた、
3人の違和感しかないギャル姿を思い出し、モチオの口元に、フッと小さくにやけ笑いがこぼれた。
その頃、1階の遠隔操作室でも、同じ映像が流れていた。
がり勉猫「コツ勉猫、、、秘策の動画、、、とは、、、まさか、、、、これ、、、ですか?」
あまりの破壊力に頭を抱えるがり勉猫。
対するコツ勉猫は、照れくさそうに頬を染めながら、
コツ勉猫「あ、、、はい、、、、、、むしろ、、、、ありよりのあり?・・・・ なんじゃね?」




