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「恋……こい……鯉……鯉こく、あらい……違う、それは鯉料理ぃ!」
「ひめさま、ご乱心?」
「違う!」
「じゃあイカれた?」
「もっと悪くなった!」
恋とは!
特定の相手に心強く惹かれ慕う気持ちのこと!!
……むずかしいいいい!
「エルヴェのせい……」
「人のせいにしてたら前に進みませんよ? まあまあ、思い悩んでどうしようもないなら仕事しましょう、仕事!!」
楽しげに笑うエルヴェが憎い。
センブリ茶も済ました顔で飲んでたけど、その直後に仕事をいっぱい持ってきたのでエルヴェなりの報復を受けているものと思われる。
くそう、勝てない。
ちなみに鯉こくって食べたこともないけど、美味しいんだろうか?
外食の経験といえばファーストフードどころかスーパーのお弁当だった私としては非常に気になるところだけど、この世界でもあるんだろうか。
(聞いたら似たような魚を探し出して作ってくれそうな気はするけど、私も正解を知らないからなあ……)
うーん。
よくある転生ものチートのように私もお料理上手だったら良かったのに!
って、現実には私は皇女なのでなかなか厨房に足を踏み入れたりなんかできないんだけどね。
いろんな人に迷惑がかかるって理解しているので……クッキー焼くのも生地作ってもらって型抜きして、焼き上がってからトッピングとかお皿にのっけるとかそのくらいしかさせてもらえなかったもん……。
既に経験済みですけど! なにか!
まあね、プロである料理人やパティシエが作った方が絶対的に美味しいからね……お菓子作りは楽しいけど、成功するとは限らないからね……!
とはいえ、和食が食べたいとかこういうお菓子が食べたいって言葉では説明できない時には作ったり作り方を話すために厨房……の近くまで行って料理人に来てもらうという面倒くささはあるけど経験済みだよ!
「で、この仕事はなに?」
「パーティー次のどれにするかっていうのは婚約者の方々に決めてもらってるんでえ、こっちはそのパーティーに参加するお歴々の情報。オレが探ってきたから裏の裏まであるよ」
「うへえ」
でも社交をするには避けて通れない。
上手くやるには相手の弱点だって知っておく必要がある……とはパル兄様の言だ。
ちゃらんぽらんに見せることで上手いことやっていたパル兄様は、オルクス兄様とは違う意味で社交界をよく知ってるからなあ。
きっちり理詰めできるオルクス兄様ほど有能ではない私はパル兄様を見本にしている。
ヴェル兄様?
だめだよ、緊張しすぎて魔力が漏れて誰も近寄れないからね!
参考にするところは一つもないよ!!
シアニル兄様もだめだね、あの人は天性の人誑しだからさ……。
あの美貌に勝手に相手が参って、ペラペラ口が軽くなるって誰も真似できないでしょ。
あれが魔性ってやつか……! って思ったよね。
口に出してしまってほっぺた抓られたのはいい思い出です。
カルカラ兄様とアル兄様は基本的に社交の場に姿を見せないから論外。
苦手だし、社交界の人たちも二人には旨みが見出せないからそこまで誘われないんだってさ。
ぷんすこ。うちの自慢の兄様たちだぞう。
(まあ兄様たちも婚約者さんたちに手助けしてもらってるっていうし、私は私で手伝ってもらっているんだからできることをしなくちゃだけど……)
エルヴェからもらった紙の内容を十枚ほど見てから、大きなため息を漏らす。
枚数が多いからじゃない。
多いだけならいくらでも……あ、いやそれは言い過ぎだけど。
とにかく、教科書だって思えば読めないことはないけど、その内容だよ内容!
「ちょっとエルヴェ、か弱い乙女にはやたら過激な内容ばっかなんだけど!?」
「そのくらいが弱みにはちょうどいいんだって」
やめろよ十八禁にするんじゃないよ!
こちとら花も恥じらう純粋な十歳の女の子やぞ!!
いやいいたいことはわかるけどさあ。
これを交渉材料にするのは別の意味でもハードルが高いわ。
どうすんだよ、浮気してますよねは言えるけどその相手がSM系女王様とか、聖女で純真な子供が言う内容じゃないだろ。
それこそ純粋無垢な表情で首を傾げて「何か変なこと言った?」みたいな顔をするんじゃない。
「私、おかしくないからね!?」
おかしくないよヴィルジニア。常識人が少ないだけだよ!




