245 ちょっと止めてほしいと思う、切実に
今回はフォルティスくん的な視点で。
フォルティスは困っていた。
正直なところ、こんなことになるとは微塵も考えていなかった。
ガーデンパーティーで人の多さに辟易している婚約者である少女を休ませてやりたかっただけだ。
まったくもって善意である。
夜会であれば不埒な行為に及ぶ恋人たちがいたりする、というのは知っているが、それでも日中のガーデンパーティーだからそんな者はいないだろうと高をくくっていたらこれである。
(痴話喧嘩はよそでやれっていうんだ……!)
しかも感極まったのか、自分たちの存在に気がつかない恋人たちは熱い抱擁とキスを交わしては愛を囁き合っている。
思春期まっただ中の自分たちには大変目にも毒、耳にも毒といったところだろうか。
隣の少女を直視できず、さりとて周囲を警戒するために獣人特有の感覚を遮断するわけにも行かず。
特にフォルティスはウサギの獣人だけに音には敏感で、恋人たちの微細な声まで拾ってしまうから堪ったものではなかった。
普段だったら、そうしたものに対して聞こえないようにすれば済むだけの話だが、今は一人ではないのだ。
「……アリアノット姫、その……今出て行くのは非常に気まずいから、耳を塞いだ方がいい」
「えっ! あっ、うん!!」
小声でそんなやりとりをしなくてはならないのも、フォルティスにとっては大変恥ずかしい。
だって彼もまだ十五才なのだ。
閨教育で男女の基本のあれこれはすでに学び終えていて、一応母国で言えば一人前扱いもしてもらえる年齢でもある。
だからこそ、ある意味で背後で繰り広げられている男女の愛の言葉くらいは実際にこういうものだ、程度に割り切ることだってできる……はずだ。多分。きっと、おそらく。
それよりも十才の少女の方が問題だ。
これはあまりにも早すぎる。
いや、自分たちが隠れて休んでいるところに秘密の逢い引きをしにきた彼らが悪いとは言わない。言えない。
どうやらのっぴきならない事情があるようだし、そういう意味ではこの庭の持ち主は別の人なのだからフォルティスが文句を言う立場にはない。
(でも慈善パーティーだぞ。聖女を迎えての慈善パーティー!)
とはいえパーティーという名分があるからこそ、対立している家柄同士でも会場で顔を合わせることができるのだろうと想像はできるのだろうけれども。
まったくもって関係ないところでそれが行われる分には「ふーん」で済むし、親を説得できて実ればいいなくらいは思うかもしれない。
だが目の前ので繰り広げられるのは困るのである。
(せめておれ一人だったなら……)
この場を後にしてさっさと逃げる、というのも選択肢の一つではある。
だがアリアノットはそうもいかない。
今回の慈善パーティーの注目株、そんな彼女に目撃されたとあっては恋人たちも大変気まずいはずだ。
そしてそれは彼女も感じているからこそ、出るに出られないに違いない。
いや、勿論この場の空気に動けなくなってしまったというのも大いにあるのだろうけれども。
とにもかくにも思うのだ、フォルティスは。
もういいから早くどっかいってくれよチクショウ。と……。




