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そして私に医学を教えてくれる先生が新たに付いたわけだけど……この人がなんというか、またもや癖の強い人だった。
当初私が聞いていたのは高齢で現場を退いて、後進を育てているという医術学院の教授って話だったのだ。
ところがどっこい、薬草関係について婚約者候補たちと相談した後の約束した時間に指定の部屋に向かうとそこにいたのは片眼鏡をつけた青い長髪の男性だった。
あれっ!? と思う間もなく、その人はフンと鼻を鳴らして「遅いですね」と言ってきたのである。
ちなみに約束の時間、十分前だった。
「えっ、私遅れてないですけど」
「ええ、遅れてはおられません。ですが忙しい中わざわざこの私が足を運んで差し上げたというのに、これだから皇族という身に甘んじておられる方はわかっておられない」
どうせ暇つぶしに学びたいとか言い出すだけでやる気もないなら……とかブチブチ言われて思わず私は後ろを振り返った。
デリアがどっから取り出したのかわからない箒をすちゃっと構えて立っていた。
「だ、だ、誰かわかんないけど、逃げて!?」
「は?」
名前を知らないその人を、デリアは箒で叩き出したのである。
……文字通り掃いて捨てるように。
そこからすったもんだでその人……つまり私の先生となった人が何者をかを知るまでに数十分かかったんだよね。
名前はアレン・ウォール、平民出身だけど大変優秀な成績を収めた現役のお医者さんだそう。
私の教師になる予定だった老医師はぎっくり腰で動けなくなってしまったため、申し訳ないけど優秀だからアレン先生を……と紹介してくれたのだそうだ。
どうして私にそのことが伝わっていないのかというと、単純に私が慌ただしくあっちこっちに行っているので部屋に着けばわかるだろう、と父様が判断したからである。
なんなら部屋の前に待機している騎士に先に告げるよう言っておいてとも思ったけど、まあ変わったことはどうしようもない。
ちなみに廊下に掃き出されたアレン先生は大変お怒りで(当然と言えば当然)デリアに食ってかかったけど、デリアはデリアで仕えている皇女に対して失礼なアレン先生にお怒りだったのでドアを挟んでの舌戦となり、警備の兵士は手が出ていないから止めていいのかどうか困った様子だった。
最終的に私の「皇女に対して礼を失したのは事実だけど、初回だから許す」の一言でデリアは矛を収めることにしたようだ。
対するアレン先生も私の言葉に、身分制度について思うところはあるようだけど大人げないと思ったらしく素直に謝ってきた。
(はあ……普通に学びたいだけなんだけどなあ)
「……申し訳ございません、最近、医術学院の生徒の質が落ちておりまして」
「質が落ちてる?」
「はい。貴族家の令嬢子息が入学してくるのですが、興味本位であったり医術学院の名を使いたいだけの方が増えているのです。皇女殿下もそのようなお一人かと思ってしまい、つい……」
「ああ……うん。イライラするのは人間だから仕方ないけど、本来は許されないから気をつけてね」
うん、本当。許されないから。
私が緩いだけだから、本当に気をつけてもらいたい。
アレン先生はどうやら悪いお医者さんじゃないけど熱血なあまり周りが見えないタイプなのかな……危険だよそれは。
前世の世界でも考えなしに正義感だけで突っ走ると碌なことにならないのに、今世はがっつり身分制度がある社会。
(特にアレン先生は平民なんだから……いや、平民だからこそ、なのかな)
とはいえ貴族たちが名前ばかりの医者になるのは、国家としても迷惑な話だ。
そっちはそっちで対策が必要なのだろうから、それについてはオルクス兄様にでも問題提起しておこう。
正直私がなにかしようにもどっから手をつけていいかわかんないし、こういうことは頼れる大人に頼るのが筋って最近覚えたからね!
決して丸投げではないよ、うん。
こういうことがありましたよってだけだからね、うんうん。
「それじゃ、今日は勉強の方針について決めましょ!」
「……承知いたしました、皇女殿下」




