231 エルヴェ編
「ひめさまさあ」
「……なによ」
「ほんっと庶民的だよねえ。サンドイッチって……」
「うるさいなあ!」
うちのひめさまは変わり者だ。
オレは本業が暗殺者だけど、見た目がいいからあっちこっちに潜入もして、いろんな人間を見てきた。
特に自分が〝偉い〟って思い込んでるヤツほど、オレみたいに見目いい人間を傍に置きたがるから滑稽だ。
まあ中には真面目に取り組んだ結果〝可哀想な子〟を演じたオレを同情で雇い上げて命を散らすようなのもいるんだけど……。
そういう意味で今回、護衛として雇われているオレの主人であるうちの姫様はそんなやつらの中でもトップクラスに変わっているっていうか、庶民的っていうか……。
とにかく、オレがこれまで見てきた偉そうな女たちは自分が〝選ばれて当然〟ってヤツが多かった。
まあ当然のことだとオレも思っていたので、そこに思うところはない。
だって、金があって権力があって、それを与える宝箱みたいなもんだろ。
相手の能力を利用するために、自分って宝箱を得ようとする連中を品定めする……そう考えれば選ばれたい有象無象に比べて価値がある。
そんな宝箱の中で、うちの姫様は最上級だと思う。
なのにその姫様ときたら、あいつらのためにわざわざ弁当を作ったんだ。
わかるか?
大国の姫が! わざわざ! 弁当を!
しかも手ずから。
そりゃもう『やりたい』って言われたら従うのが身分制度の辛いところ。
大体お遊びか思いつきか知らないけど、碌なもん作れやしねーだろってオレだけじゃなくみんな思ったはずだ。
その証拠に料理人たちも挟むだけでいいサンドイッチを用意してたもんな。
まあそりゃそうだろう。
刃物や火を扱わせて怪我なんてされようもんなら、ひめさまはともかくあの皇帝が許すはずないでショ。
そんでハラハラしてたら意外とこう……上手いんだよね。
カットだけは料理人がやったけど。
手慣れているってほどじゃないけど、危なっかしくはなかった。
奇抜なもんも選ばなかったし。
悪戯ですっげぇ苦い葉っぱとか唐辛子置いておいたんだけどな。残念。
しっかし毎回作って飽きないもんかね?
四人だよ、四人。
まああの四人のことだから、たとえ下働きが作ったものをひめさまが持っていっても喜んで食うだろうけど。
あのちょっと具が偏ってたりするのでひめさま手作りってのはわかってちゃんと食ってんのかな。
「エルヴェ」
「ん? なーに、ひめさま」
「はい」
「え」
デリアさんと散歩に行ったひめさまが戻ってきたと思ったら、オレに皿を差し出した。
差し出されたのは、勿論皿だけじゃない。
そこには、不格好なサンドイッチが乗っていた。
「え、なにこれ」
「何って……サンドイッチ。食べたかったんじゃないの?」
ひめさまはオレが『庶民的』ってからかったのを、何をどう解釈したのか『おなかがすいている』と受け取ったようだ。
あーもう、これだからこのおひめさまは!
「ははっ、ありがたき幸せ~。なんちて」
「残したらだめだからね! そんなことしたら次作る時にからしたっぷり塗るんだから!」
(次もオレに作ってくれんの?)
当たり前のようにそんなこと言うひめさまに、つい笑ってしまった。
この人、オレの本業なんだか忘れてねえかなあ。
でも、それがおかしくてうちのひめさまらしいかあって納得もしちまった。
「……おいしいよ」
「よかった!」
ただ卵とハムとレタスがはさんであるだけなのに、あ、あとチーズもか。
どれも特別ってわけじゃない。
けど、なんかすごく……そう、珍しくオレにしては食が進んだっていうか。
おいしいって、久しぶりに本音で言った気がした。
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