229 ユベール編①
ユベールは、どこか不機嫌そうだった。
いや、私とデートは嬉しいって言ってくれたし、じゃあ内容か? とも思ったけどそれに関しては『行きたいところがある』とユベールから言われているので、お任せだし……。
じゃあなんで機嫌悪いんだ?
って思っていたら、どうやら機嫌が悪いんじゃなくて緊張しているっぽかった。
「ねえユベール、どこに行くの?」
「ん……南方地域」
いつもより言葉の少ないユベールに、彼の示す南方地方が帝国内部だとはわかるけどそのどこだ? と考えを巡らせる。
確かに南方は風光明媚だし、彼の魔法を使えばあっという間に行き来もできるというからそこは心配していないのだけれど、緊張の理由がわからない。
(あっ……)
でもふと思い出す。
ユベールは、南方地方の出身だった。
今でこそ、魔法王国の王子様だけれど、元はこの国で奴隷の子どもとして生まれたユベールにとっての生まれ育ったところ。
奴隷とは言ったものの、農場主さんは優しい人で恩があるってずっと言っていたものね。
その人もユベールのお母さん(現魔法王国の王太子妃)であるクララ様を狙う勢力によって放たれた暗殺者に巻き込まれる形で亡くなってしまって……。
彼にとってたくさんの思い出がある土地で、そして悲しい場所でもあるはず。
「……ニア、手を繋いでいてもいい?」
「え? う、うん。いいよ」
魔法で南方地方に転移するとは聞いている。
城内は基本的に、ある程度の魔法しか使えないようにあちこち結界が張られているから転移術のような大きな魔力を使うには決まった場所で行うしかない。
まあそれにしたって、帝国で大魔法を使うのは血統的に魔法を受け継ぐ人……例えば父様とか、ヴェル兄様とかの炎の魔法みたいな。
私はみたことないけど……とんでもない威力だって話。
ただ血統で受け継がれる魔法っていうのは決まったものらしいので転移術ってなるとそれこそユベールの国、魔法王国でも有数の魔法使いしか使えないって聞いている。
っていう理由で今、私とユベールが手を繋いでいるのはいざって時の転移魔法が使える場所なのだ。
ちなみにこの城でそんないざって時を迎えて転移魔法を使う時には、魔法師団から二十人ほど来て魔力を一人に集めるらしいけども。
それをユベールはぜーんぶ一人で賄えるってことよ!
凄さが少しは伝わるだろうか?
(それを若干十五歳で使えちゃうんだから、やっぱりユベールは天才なんだなあ)
しかも剣術もすごいっていうんだからとんでもないよね!
美形で、身体能力に優れてて、魔法が使えて、フクロウにも変身できちゃうだなんて……天は二物も三物もどころじゃない与えっぷりだけど!?
ユベールを地上に送り出す時に才能の配合間違えてドバッと入れて『やっちゃった、てへ☆』みたいなノリだったんじゃなかろうか?
いやそんなこと言ったら婚約者のみんなそうなんだけどさあ!
おかしいよね、なんべん考えてもおかしい。
私だってかなりなハイスペック持ちのはずなんだけど……どうしてこう霞がちなのか。
「ユベール、誰かと転移魔法を使うから緊張しているの?」
「……違う。その……」
少しだけ言い淀んでから、ユベールは私を見た。
何度か口を開いて、閉じて。
「……おじさんのお墓参りに、行きたくて」
ユベールの目が、不安に揺れていた。
私は『ああ』と思った。
そうか、ずっと巻き込んでしまったことで、負い目があったのか。
優しくて、保護者として可愛がってくれた農場主さん。
いつか自分が死んだら奴隷のクララさんを自由にして、農場をそのまま譲るからユベールと幸せに暮らせと言ってくれたという老人。
そのお墓は、今、彼が生まれ育った農場の跡地にひっそりとあると私も以前、オルクス兄様から聞いた。
亡くなった奥さんの隣にお墓を作って、そこの土地は王家が預かったって。
詳しくはわからない。
でも多分、オルクス兄様が老人のご家族に対して、配慮した結果なんだと思う。
「……そうだね、お墓参りに行かなくちゃね。なら、お花を持っていく? 今なら間に合うよ」
「花……」
「今庭師にお願いして、綺麗な花を持っていこう」
ユベールが前に教えてくれた話だと、農場の周りは草原で、小さな花がたくさん咲く長閑なところだと聞いているけれど。
でもどうせなら、この王城で咲いた花を私も届けたいなと思ったのだ。
大切に想ってくれた人に、私も精一杯できることをしたい。
お墓参りは生き残った人にとって気持ちの整理なのかもしれないけれど、ユベールを大事にしてくれた人だもの。
「一等、綺麗なお花を選んでもらお?」
私は繋いだ手を引っ張って、その場からユベールを連れ出した。
ユベールの指先は、冷たかった。




