226 ピエタス編②
「そ、その花の絵が、お、お気に召したんですか?」
「ううん、ただ綺麗だなって……」
「……そうですね。な、な、なんというか、そ、素朴な筆遣いなのにすごく心惹かれるものがあると思い、ます」
ピエタス様は、いつだって私を否定しない。
私のしたいことを、やりたいことを聞いても他のみんななら「それってどうなの?」とか「危ないんじゃないの?」って反応をしても、ピエタス様はそれを聞いてびっくりして怯む様子を見せても「そ、それで、ど、どうしたい、んです、か?」って聞いてくれる。
今もこの素朴な花の絵を、彼の興味がある絵よりも私が気にしたってだけで一緒に見て、そして褒めてくれた。
(……優しい人だよなあ)
ただその優しさが、誰かに拒まれないためのものであったとしても。
ピエタス様を見ていると、過去の自分のようで……それでいて、過去の私には持てなかった優しさが彼の中に見えて、時々苦しくなる。
私は私を受け入れてくれない両親に見切りをつけて、捨てようって思った。
でもピエタス様は『しょうがないこと』って受け入れた。
どっちが正しいとかじゃない。
きっとどっちを選んでも、私はピエタス様を羨んでいただろうし、尊敬しただろうし、共感し続けるのだと思う。
(そうやって思うと、不思議)
ピエタス様は、私に思うところなんてないだろう。
私が前世の記憶持ちなんて話は誰にもしていないから当然だ。
大国の皇女で、家族に愛されている私はピエタス様にとって妬ましい存在に近くてもおかしくないのにってどうしても、どうしても……そんな風に、彼に対してだけは考えてしまうのだ。
(明るくて、幸せな〝ヴィルジニア=アリアノット〟のはずなのに……)
「こ、こここの花はアリアノット様に似てます!」
「え?」
落ち込みそうな気持ちになっていたら、横から大きな声でそんな風に言われてハッとしてピエタス様を見た。
するとピエタス様は、真っ赤な顔をしていた。
真っ赤な顔をしたまま、私の方をじっと見ていた。
いつも長めの前髪で隠している目が、私を見つめて逸らさない。
誰かと目を合わせるのを怖がっていたピエタス様が、だ。
「ピエタス様……?」
「か、かか、可愛らしくて、そっとそこにいてくれるだけで、こ、こ、心を和ませてくれる。ひ、ひ、姫とお、同じです!!」
「えっ? え、うん? ありがと……う?」
なんだかめっちゃ褒められたな?
ピエタス様が私のことを真っ直ぐ見ているっていうレアな事態に、落ち込み始めていたネガティブがすぽーんとどこかに飛んで言ってしまった。
しかもなんかこう、甘酸っぱい雰囲気がそこはかとなく……だね?
「ぼ、ぼぼ、ぼく、ぼくは、ですね!」
「は、はい!」
「……ア、アリアノット姫様に、み、みみみみみ見合う男になりますうううう!」
「えっ、ピエタス様!?」
「こ、これが精一杯ですうううぅ~~~」
何故か美術品に囲まれた中でピエタス様が大声で宣言したかと思うと今度はしゃがみ込んで、蚊の鳴くような声でそんな……えっ、情緒。
でも私の前でしゃがみ込んだピエタス様が、首まで真っ赤にしているのを見たら私も攣られて真っ赤になってしまった。
(……見合う男って)
それって、これまでも婚約者候補として私のことを大事にするって言ってくれていたけど、個人的な気持ちも乗っかってますよって意味、で……合ってるよね。
さすがに私もそこまで鈍くないよ!!
「へへっ……」
なんだか恥ずかしいけど嬉しくて、あれっ、私ったらピエタス様を見てたんじゃなくてピエタス様を通して、情けない過去の私を見ていたんだなって気づいてしまった。
そして目の前にいるピエタス様は優しいだけじゃなくて、恥ずかしがり屋で……それでもかっこいい男の子なんだって、ようやくわかった。
だから私は同じようにしゃがんで、ピエタス様の頭をそっと撫でる。
「……ア、ア、アリアノット姫様?」
「待ってます」
だけど、私もそんな風に言ってもらえるだけの、立派な皇女様になってみせるからね。
古い花の絵が、私たちの約束を見ていた。
その絵が、後日美術館の目玉になってしまって、思わず私たちが顔を赤らめたのは――また別の話である。




