220
やることは山積み。解決する頭も能力も私にはない。
あるのは権力と美貌のみ!
……これだけだととんでもなくだめな人生っぽいよね。
まあ神様だってそんなことを思ったわけじゃなく、私が可哀想だから幸せになれるよう、それも姉さんの妹だったからっていうオマケ的感覚で……。
その結果が溺愛してくれる家族と、権力者の娘っていうステータス満載のこの状況。
うん、悪くない。悪くないんだよ。
権力者の歴史を前世で学んだ分と、今世の分……合わせてみても凡愚な権力者ってやっぱりいるじゃない?
要はそこの凡愚の愚を取った、無害な人間として可もなく不可もなく甘やかされた人生を送れる……と神様も思ったんだろう。
実際、つい最近まではそうなると私も思ってたし……。
チートなし、前世の記憶があっても中学卒業レベルの学力で特に秀でたこともない私では世界の改革なんて土台無理だしね。
せいぜい、前世でやりたかったことをやろう! くらいの意識で家族と仲良しになって満足してたくらいだし。
(あー……くらくらする)
情報量が多すぎると人間ってどうして頭がくらくらするんだろう?
姉さんのことも、そこに付随して私がこの世界で寵児扱いされちゃっていることも。
そして実際は、ただのヴィルジニア=アリアノットでしかないことも。
私は寵児の家系の子に過ぎないのに、聖女になってしまった。
いや、私を守るためのことでもあるし、聖女ってのも別に特殊な能力が必要なわけじゃなくて、行動が伴えばそれでいいはずなんだけども!
(……できるのかな)
できるかどうかじゃなくて、やらなくちゃならない。
それは頭でわかっているのに、ぐわんぐわんしてちゃんと考えられないと不安だけが私の中から飛び出してきてしまう。
こんなの、私らしくないってのに。
――でも、それって本当に私なの?
気を張って、何があっても大丈夫。
前向きに行こうって考えるのが、私らしさだと思い込んでいない?
「……アリアノット様?」
遠くにデリアの声が聞こえた気がする。
ぼんやりとする視界に、あれ、もしかしなくても頭がくらくらしているのって熱でも出ているんじゃないかこれって気づく。
気づいた時にはふらふらしていて、私は誰かに抱き留められた。
心配そうに声をかけてくるのは、誰だろう?
ユベールかな、低めの声だからフォルティス様かも。
慌ただしく走る音が聞こえて、大丈夫だよって言わなくちゃならないのに。
「わたしは、だいじょうぶだよ」
そうだよ、大丈夫だよ。
ちょっとくたびれただけだよ。
私はいつだって元気なんだから。
そうじゃなきゃ、やってられないんだから。
いつだって、いつだって。
みんなが好きになってくれる私は、そういう子なんだから。
『……無理に笑わなくていいんじゃない? 少なくとも今くらいはさ』
どうして、今ここにいない姉さんの声を思い出しちゃったんだろう。
しかも、私が一人でこっそり泣いていた時に、ドア越しにかけてくれた冷たいのに優しい声なんて。
もうずっと思い出せないままでいたのに。
……思い出せないままでも、良かったのに。
私が手を伸ばした時には掴んでくれなかったくせに、そういう時だけ優しかった姉さん。
綺麗でなんでもできて、私の憧れだった人。
思わず、手を伸ばしていた。
顔も形も思い出せない、そんなたった一人の私の家族。
「アリアノット様!」
でも伸ばした私の手が捕まえたのは虚空だった。
代わりに――父様や、兄様たちがいた。
ちょっと離れたところには、妃様たちもいた。
婚約者候補のみんなも、護衛のみんなも、シズエ先生もデリアも。
伯父様やペルティナさんが、それよりもさらに遠いところにいる。
みんな泣きそうな顔をしていた。
「あれえ……どうしたの、みんなあ……」
出た声は、かっすかすだった。
うん、どうしたのは私だな!




