第27話 リーシアの武勇談 その6
「ちょっとリーシア!そういう言い方はないんじゃないか?」とはベル師匠。
「ははは。師匠、ごめんごめん」と、冗談であることを明かす。
「はっはっは。魔道士ザオベルの尖塔というのはそこまで奇妙な建物なのか」とはヨエル公。
ご嫡男も奥方もワクワクしながら話の続きを待っている。何しろ魔道士ザオベルといえば吟遊詩人にも歌われるドラゴンスレイヤーにして、生ける伝説だ。「塔の魔女」のその塔の話を聞けるというのに期待するのが無理というものだろう。
それでも師匠自身にはそこまで関心を持たれないのは、そもそも師匠の見た目が「伝説の塔の魔女」として現実味が全くないからだろう。ヨエル公が子供の頃から見知った伝説に登場する魔女、魔道士ザオベルが、眼前にいるリーシアと同年代かやや年嵩にしか見えない若い女性だとは到底思えないだろう。
リーシアたち以外の人間には、目の前の「ザオベルを名乗る女性」はおそらく、名前を継承した二代目や三代目だと思われているに違いない。リーシアから見てこの数年で全然風貌の変わるところがないベル師匠はやっぱり、伝説の魔導士なんだなということを実感するのだけれど、ここ数日あっただけではそんなものだろう。
「ザオベル師匠の尖塔は、山間の耕作地に聳え立っていて、これまで見たことのない風景でした。石積みの構造で、周囲は丸く、これまで見たことがないほどの高さ、屋根は三角に尖って、辺りを見渡すものでした」
「通常、尖塔といえば、この城砦のように壁などと組み合わせて建設され、外敵の進入を早めに見つけるためのものだろう」と公。
「そうですね」と首肯しておく。
「ですが、師匠の尖塔は城壁などがなくただ、塔として建設されているので、とても奇妙な見た目をしています。耕作地周辺から道は石で舗装されていて、その点でも奇妙でした。」
「私はそこで、こちらの魔道士ザオベル、塔の魔女と出会ったんです。私と会ったベル師匠は、私に魔道の手解きをするのよ引き換えに、師匠に八極拳を教えるのと、旅の同行を許すことになりました。」
「すると、リーシアさんは塔の魔女の先生になるんですの!?」とは奥方。
「ええ、まあ・・・」
「・・・すごい・・・」
その時のベル師匠の微妙な顔はなんともいえない可愛らしさがあった。自分自身が伝説と讃えられる嬉しさと、当の自分自身がその賞賛を受けていないという、なんともいえない残念な気持ちがないまぜになっている。そうかと言ってここで「自分がそのザオベル」と名乗るほどの図々しさはない。
「私はカルルと共に一冬、塔で過ごしてから春になってまた、西に旅立ったのです」




