第22話 リーシアの武勇談 その1
翌日は師匠から「旅行者の話はもっと盛り上げて、聞く人を惹きつけるもんだよ」という説教を受けたので、少し話を盛り上げることにする。とはいえ、師匠が龍退治の話に「実はあれは蛇だった」とか、「勇者なんていなかった」とか、散々事実で萎ませていた態度に言いたいことがないわけでもない。
朝から昼まではヨエル様にいって鍛錬をさせてもらい、昼過ぎてからまた話をさせてもらうことにするが、リーシアたちの鍛錬は城内の武人たちの注目の的だった。まあ、流石にこの世界でそんなに八極拳が知られているわけもない。清朝時代であってもそういえば、名の知れた八極拳士なんて李書文の他には源流の呉氏、書文を凌いだ馬氏ぐらいなものだった。
昼食の際にはヨエル公から、珍しいものを見せてもらったとの言葉をいただく。なんでも、以前にユーダリルを訪れたことがある武芸者が見せた武芸に似たところがあるそうだ。
「なんですかそれは」と、リーシアが質問すると、八極拳のように徒手で動作をして見せ、同じ動作を繰り返すのが似ているという。俄然興味が湧いてきたので、スルーズにいって、ヨエル公に形意拳を披露させる。
「ひょっとしてその武芸者がん見せたものというのは、このようなものではありませんか」と問うと、ヨエル公が肯定した。
オルクスの村に形意拳が伝わっているのも不思議だが、こんな西方にまで伝わっているのもまた不思議だ。リーシアのように、清代から転生した武芸者でもいるのだろうか・・・。やはりリーシアのように遊方して武技を伝えているのか。そうだとしたら、その人に会ってみたい。
「なるほど、思うところのあるお話です」とだけ申し上げておく。
午後はさらに武勇伝を語らされる。寝食の世話になる対価として、旅行者の話は土地の人の大きな娯楽だ。こんなものは面倒ごとに巻き込まれて困ったことに遭うほど喜ばれるものだ。
リチャード様の元でのコボルト討伐はリーシアの武勇ではないので割愛し、リチャード様の元から騎士叙任を受けるべく、ミュルクヴィズについての腕試しを話す。
この辺りもまだ、師匠たちと出会う前のことなので、師匠たちものめり込んで聞いてくれる。
「まず、王に謁見させていただき、叙任を願い出たのですけれども、女であることが災いしてか、先任騎士から腕試しをさせて欲しいと申し入れがありまして。まずは木剣にて対峙しました」
「ほう」
「こう、互いに剣を先に構えて剣先を交わすわけです。カッカッと」両手の指先を使って剣の交わりを見せる。
「で、隙を見て剣先を顔に突き入れました」
「それで決着か」
「いえ、相手の騎士もやるものでそこから剣の峰を使って私の剣を流し、体勢を崩そうとされました」
「ほほう」
「そこで私は一歩進め、進めたと同時に掌をかの騎士に突き入れ、倒しました」
おお、というどよめきが、昼食の場に上がる。
「それは王もあなたの武芸を認められたであろう」
「いいえ」
「なんと!」
「剣での勝負に拳を使うのは相手の意表をつく手管であると言われまして。拳を使うことさえ知っていればなんということもないと、他の騎士から言われました」
「いうだけありましてその騎士も手練れで、剣の速い騎士でした。で、拳を使うことをさらに意識させた上で虚を作り、剣を突きつけることで勝ちを拾ったのでございます」
「なんとも...」
「でもそれで騎士様たちも、リーシア様をお認めになったのでしょう?」とは昼食から同席していらっしゃる、ヨエル公の嫡男、テウドアルド様。
「いえ、それが」というと、「盛り上げろとは言ったけど、それは流石に盛りすぎじゃない?」と、師匠がいう。
「いえ、ですが本当にそれでも認めてはいただけなかったんですよ。というよりも、それまで私がかすり傷一つ負わなかったので、なんというか、騎士のメンツを潰されたように思われたのでしょう。私も騎士ですのでわかります。仲間の騎士がやられたのなら、相手には手傷を負わせなければやめられません」




