第20話 嫉妬
「どうぞ」というヨエル公の勧めで各々着座すると、テーブルの真ん中には大きな豚の丸焼きが運ばれ、各々の席には盃と皿、そしてパンが配られる。一通り配られるとヨエル公が豚肉の前に立ち、ナイフで切っていきながら、それぞれの皿に置いていく。それぞれ傅きながら切り分けを待つ。全員の皿に肉が切り分けられる間に盃には葡萄酒が注がれている。
ヨエル公が席に戻って盃を掲げ、「この出会いに乾杯!」という合図で皆、盃を飲み干す。
部屋の脇には楽師が控え、会話の邪魔にならない程度の音楽を奏でている。
「さて、こうして我が領地においで頂けたわけだが、感想はいかがだろうか」
正直に言って、リーシアには街を見て回る余裕なんてなかったわけだが、そこは当たり障りのない返事をしておかなくては。
「なかなか活気のある街で、良いところですね」
「はっはっは」
ああ、見透かされている。
「いや、正直に申し上げまして、今日、このユーダリルに着いたばかりでして、大通りの両脇ぐらいしか拝見できていないんです。ただ、見せていただけた範囲ではこれまで見てきた街々と決して引けを取らない発達ぶりです」
リーシアの脳裏には王都としてどうなんだと思わざるを得ない、ミュルクヴィズの街並みが思い浮かぶ。ミュルクヴィズはルートヴィヒ王の王都として確かにヴェイツェンドルフやロッテンナウ、コルムに比べれば大きな街ではあるけれど、ウェスタヤルトより拓けているかと聞かれれば微妙だし、レルムの王都レルには明らかに見劣りする。
そういう感覚からするとこのユーダリルは印象だけならコルムやロッテンナウよりも開けていて、レルやウェスタヤルトには敵わないまでもミュルクヴィズと同等か、それ以上に思えた。そういう印象を話すと、ヨエル公は上機嫌に笑う。
気に入ったのならよかったんだけど。
「ところでヨエル様。王の言うにはなんでも、ヨエル公が私にこちらに来るようにおっしゃったと言うことなんでけれども、その、私を招いた理由というのがなんでもサムソンとおっしゃる騎士が私と比武の機会を持ちたいと言っていたそうで」
「はっはっは。サムソンは配下の騎士の一人でな。なかなか優秀な騎士なんだ。確か一度ウェスタヤルトへの遠征に参加したことがあって、それ以来ウェスタヤルトに面白い騎士がいるので、いずれまたあい見えたいと言っていてな。立地的に理解していただけるとは思うが、ユーダリルからウェスタヤルトに出兵するのは容易ではなくてな。出征できたのはその一度だけで、コルム陥落にあたってグリフォン騎士が活躍したと聞くたびに悔しがってな。その話をまあ、王にもしておいたということで。こう言った目立つ騎士は割合、味方の妬みを招きやすいのだ」
それはリーシアもカルルの妬みを受けて陥れられたのではないかと言っているようではあったけれど、ここでヨエル公に逆らったとしても意味はないので黙っている。
うんうんと頷きながらちぎったパンで肉を挟んで齧り付く。
カルルはそんな男じゃないとは思いつつも、側から見たらリーシアを妬んだようにしか見えないだろう。実際の戦果はカルルの方が多い上に、砦の主人にはリーシアが任命されていたのだし。
「それでまあ、いずれ、そのグリフォン騎士が国を追われて放逐された場合には、我が騎士サムソンが会いたがっていた、そういうことを王に伝えさせてもらっていたわけよ」
「はは。目に余る光栄です」




