聖剣4
バルドとの決戦はバルドとセルレインを隔てるバルド砦で行われることになった。
ようやく砦の前に辿り着いたセルレイン軍は、辛うじて砦を遠目に眺めることができる位置に布陣している。
「攻城戦って考えてみると初めてだな。」
セルレインの要塞や砦は何度か見ているが、攻める側の目線で砦を見るのは初めてだった。
「まぁ、あまりありませんからね。」
隣のリーランドが苦笑する。
「そうなの?」
「ええ。理由に関しては、勇者様なら察していらっしゃると思いますが。」
言われて、改めて砦を観察する。
大砲でもなければびくともしない重厚な壁、てこでも動きそうにない重そうな扉、そこに布陣する屈強な兵士達。
「確かに。せっかく建てたのが無駄になりそうだな。」
勇者である…超人である俺からすればその全てが無に等しい。
剣を一振りすればそれが大砲だ。どんな兵士の攻撃を俺に傷をつけることはできない。
超人という存在を前にして、砦はあまりに無力だった。
「本来砦は超人のいない戦闘、あるいは超人同士が戦っている際に有効な拠点です。しかし、聖剣をお持ちの勇者様と対等に戦える超人が存在しない以上、あの砦に意味はありません。」
あれこれの事情から宣戦布告…というか降伏勧告ははるなが行うことになった。
いつだったかの再現だが、はるなの力を知った今では重みが違う。
「皆さん、降伏してください。あるいは撤退をしてください。ここで戦うことに、何の意味もありません。」
もちろん、それを知らないバルドの兵士たちはそんなはるなに矢と術式を射掛ける。
随分な行為だが、知らなければはるなの勧告はただの煽りだ、こうなるのも仕方ない。
だが、数百の矢がはるなに触れることは無い。
羽衣、はるなが纏っている自動防衛術式だ。
体内を循環する魔力の流れをコントロールし、術式化する。これによって、体を魔力が流れるだけで術式が発動するという反則じみた行為が可能になる。
この術式によって、はるなを害する攻撃はその手前で炎に焼かれる事になる。
ただの矢ぐらいなら一瞬で溶ける火力、それに加えて爆発衝撃が軌道を逸らす。
実質的にはるなに遠距離攻撃は意味を成さなくなっている。
特に何かされた訳でもないのに、全ての攻撃が無力化されて、流石に兵士達がどよめく。
それはセルレイン側の兵士達も同じだ。彼女の強さを見るのは初めてだったから。
一旦驚愕で彩られた戦場ではるなが動いた。
ゆっくりと手を上に上げる。まるで全員に見せつけるように。
いや、事実それは見せつけるための行為だ。
はるなの中にある暴力的な魔力、その一部が解放され、はるなの手の上に巨大な火球を生じさせた。
それを砦の門に投げ込む。
扉が破壊される。
そんな簡単な表現しか出てこなかった。
対抗するいくつか術式など意にも介さず、人が何日もかけて築いたであろう防御を、あっさりと突破した。
「降伏してください。」
もはや誰も動かなくなった戦場で、はるなが繰り返した。
無条件降伏、そんな馬鹿げた提案がしかしなんの冗談でも無く通用してしまう。
もし戦えば、はるなに焼かれるだけ。そうとわかって戦える人間など、死にに行ける人間などいるはずがない。
だがー
「っ!魔力!?」
この距離からでも感じる強い魔力は
「来たわね。」
柳川洋司のものだった。




