As 体育祭が始まるまで
「どうするんですか?」
廊下を歩いていると声をかけられる。何人か生徒は居るものの、俺を見ている人影は無い。
俺はふと、人気が一番無い教室の扉の方を見て話しかけた。
「何がだ。」
案の定、というか教室の扉が開き、杉林が出てくる。
杉林は諜報部でー嘘じゃない、本当にそういう部活動があるんだー現れるときは大体こうやって姿を隠している。
だが、こいつらの潜伏術は基本的に気配を無くす事に特化している。
だから逆に気配が無い方を探れば出てくる。
まぁ、気配を探る事が出来る想定なんてしていないのだろう。
「決まってるじゃないですか、はるなさんのことですよ。」
見つかったというのにいつもの柔和な笑みを崩す事なく続ける杉林。
「今度の体育祭、C組が優勝したらはるなさんとクラスメイトである佐藤氏が付き合うそうですよ。」
知ってるよ、噂で流れてるからな。
「それが俺に関係あるのか?」
険のある言い方をわざとしたのだが、相変わらず杉林の笑みは崩れない。
「幼馴染じゃないですか。困っていたら助けてあげてもいいんじゃないですか?」
全く、どいつもこいつも。
「知るか。そもそも困ってるかわからんだろ。案外、ヒロイン気分に浸っているかもー
「彼女がそんな事思ってると思うんですか!」
珍しく、本当に珍しく杉林が語気を荒げた。
「…大体クラス単位の事を俺にどうしろって言うんだ。」
「ふふっ。そっちに関しては問題ないと思いますけどね。」
意味有りげに笑う杉林。
「皆さんのことを見くびり過ぎですよ、洋司さん。」
「ぜぇったいに優勝するわよ!」
委員長が宣言とともに、いつもの様に教卓を叩いた。
「おい、委員長。教卓を叩くなといつもおれほー
「ぬんっ!?」
「ほ…ほどほどにな…。」
なにか言いかけた教師を眼力一つで黙らせ委員長は教室を見渡した。
「皆、あの馬鹿な話は聞いてるわね。今度の体育祭、C組が優勝すればはるなとどこぞの馬の骨が付き合うことになるわ。」
委員長の言を皆が静かに聞く。その様子はさながら合戦に挑む兵士達の様な真剣さだ。
「ぜってぇに邪魔してやるわよ!」
「おぉぉぉ!!!!」
委員長の再びの教卓叩きと共に生徒達が怒声ともに拳を突き上げる。
いや、やっぱただの悪乗りした学生だったかも知れん。
「C組はスポーツ推薦が多いからはっきり言うと分が悪いわ。何か作戦を立てるわよ。洋司。」
「何だよ。」
「何かいい案出して。」
「無茶言うな。」
「あんたがそれ言う?」
呆れ顔の委員長にクラスの何人かがクスクスと笑い声を立てる。
「言えてる。」
なんて声まで聞こえる始末だ。
「この際多少の無理は仕方ないわ。何としてもC組の優勝を阻止しないと。」
「そもそも、別に邪魔する必要ないだろ。あいつが誰と付き合おうが関係ない。」
「…はるなの事だから流されちゃったんだと思う…。好きでも無いのに迫られちゃってさ。そんなの…違うじゃない?だから、助けてあげようよ、私達が。」
「知らん。関係ない。」
「…洋司。協力して。はるなの為に頑張るのが嫌なら、私の為に協力して、私がはるなを助けるのを、私の為に。」
「……断る。」
俺のひたすらの拒絶に、とうとう委員長が黙り込んだ。
クラスからの俺を悪者のように見る目が痛い。
「こんのっっ!」
委員長が教卓に腕を叩きつけた。染み付いた癖からか、バンッという綺麗な音が教室に響き渡り、皆の視線が正面に集まる。
「わかったわよ!ええ、ええ!分かりましたとも!!そんなに言うなら何もしないでやろうじゃない!!はるなが嫌がろうが、好きでも無いどこの馬の骨とも知れない腐った頭しかもってない鼻垂れ小僧と付き合おうが何もしないでやろうじゃない!!!」
やけになった様に叫び散らす委員長。
他の生徒の声は無かった。皆委員長の事を信用してるから。
きっと、委員長が決めたなら従ってくれるだろう。
「じゃあ気を取り直していくわよ!!我がBクラスは今度の体育祭において必ず優勝するわ!!いいわね、皆!!!」
「おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「は?」
さっきのヤケになった発言を忘れたのかこいつ。
「お前、何言ってー
「洋司、あんたも協力しなさい。あんた運動神経良いんだから。」
「だから、俺ははるなの事に首突っ込む気はないってー
「私は!体育祭で!このクラスが!優勝する事を言ってるのよ!」
「洋司、学校行事なんだから、あんたもきっちり手伝いなさい。手抜いたりしたらタダじゃおかないんだから!」
ほんとこいつらはーー




