聖女10
自らが生み出した爆発の煙から抜け出した俺は、以外にもかんなが俺から目を離しているのを発見する。
「このっ!」
かんなの目線の先には、柳川と戦うはるなの姿があった。
俺への迎撃体制など放棄して、他への援護を優先したということだ。
侮られたことへの怒りと、こうなることを予測できず、はるなを不利にしてしまった自分への情けなさを一言で吐き出して、俺は再び戦闘に意識を集中させる。
かんなが矢を番える。そして、視線をはるなたちに向けたまま、俺に向かって矢を放ってきた。
「!?」
腕だけをこちらに向けての発射には驚いたが、攻撃自体は予想通りだ。
俺は迫る矢を剣で弾き飛ばす。たかが矢ではあるが、超人の力で放たれて強力な一撃だ。弾いた剣に大きな衝撃が走り、俺の突撃の勢いを殺そうとする。
が、俺は上体を反らしてそれを受け流す。結果、俺の体は少し横にぶれたものの突撃の速度は全く落ちていない。
かんなの視線がこちらに向く。身体もこちらに向いて、完全な迎撃体制に移る。
その一挙動を見逃さない。右腕が背中の矢筒に伸び、そこから複数の矢を取り出した。
そのまま、矢を弓に番え、こちらに放つ。三本。
そして、滑らかに、素早く右手に残っていた残りの矢を弓に番え、再度はなってきた。
三本同時発射を連続で二回、曲芸じみた射撃だったが、呆れたことにその全てが俺に当たるコースに正確に飛んでいる。
だが動揺はない。戦闘に集中しているからか、六回の攻撃が来るという事実だけを受け止める。
最初の矢、胴体めがけて飛んできた矢を剣で弾く。最初のー最も余裕がある攻撃は避けたかったが、体の中心を狙われては回避は難しい。
二撃目、左足に当たるコース。先の迎撃で、剣は右側に流れている。走っている最中なので足だけずらして避けるのも難しい。
無理と判断し、俺は突進を止め足で矢を避ける。
そして三撃目、再度胴体めがけて飛んでくる矢を剣で弾き飛ばす。
一瞬の空白の後に次の矢が飛んでくる。同様に三本だ。
前と同じではいつまで経っても進めない。俺は切り札を使うことにした。
「エクスプロージョン!」
爆発が矢を弾き飛ばす。さすがというべきか吹き飛んだりはせず軌道がそれる程度だ。だが、俺に当たらないのならそれ以上はどうでもいい。
爆炎から即飛び出す俺の目に、腹部めがけて飛んでくる、今までよりも断然に速い矢が写った。
「ご…ふっ!」
腹部に衝撃が走る。それは、痛みという神経の波ではなく物理的なエネルギーだ。
俺はたちまち地面に倒される。矢が当たったというより、大砲でも当たったという方が正しい。
「ぐっ…。」
腹に刺さった矢を引き抜く。なんだこれ、金属で出来てるぞ。
深々と刺さってはいたが、貫通はしてないし、感じた衝撃ほど傷口も大きくは無い。
痛みは魔力で中和出来る。戦闘の継続は可能だ。出血具合は見ないことにする。見たら動けなくなりそうだ。
立ち上がろうとする俺のそばの地面に矢が刺さる。
「動かないでください。」
かんなから警告の声、立てば今度は体に突き刺さるだろう。倒れてるこの状況では回避も迎撃も不可能だ。
だが何故だ?なぜ撃たない?その答えはすぐに明かされた。
「はるなお姉ちゃん。その太陽消して。」
かんなの宣言で、すべての戦闘が止まる。
はるなは天照の攻撃を止めた。対していた柳川は身体のあちこちに燃えた後がある。
かなり追い詰められていた様子だが、はるなの攻撃が止んだので立て直しができたろう。
もう一方、キョウカは怪我こそしていないようだが、全くしなのさんに近寄れていない。
その原因はすぐにわかった。しなのさんとキョウカの間に幾つもの爆撃…のような何かがあった跡がある。
ような…というのは、それが燃えた跡ではなく、むしろ逆で氷が広がっているからだ。
草木が凍りついている円形の空間がそこかしこに拡がっている。
何というのだろうか、爆撃で爆弾の代わりに液体窒素でもばら撒いたら似たような光景が作れるかもしれない。
さすがのキョウカも、あんな風に力をばら撒かれたら近付けなかったらしい。
しかしながらしなのさんも余裕という訳ではなさそうだ。怪我はしていないようだが、息は荒く、感じる魔力もかなり弱々しくなっている。
「ここまでだな。」
柳川はそう言いつつはるなに背を向けて歩き出した。自分達が来たレーゼルに向けて。 「洋司!」
はるなが叫ぶが、洋司が振り返ることは無かった。




