聖女9
「か、かんなさん。どうすれば。」
「落ち着いてください。」
俺とキョウカに目をつけられたのを察して、しなのさんは焦っているらしい。
これは自然な反応だ。同じ超人と言っても、術者型と思われるしなのさんと、戦士型である俺とキョウカでは相性が悪すぎる。
普通の戦いと違い、超人同士の戦いでは、敵の攻撃を防御したり、回避したりというのは珍しいことではない。
弓矢だろうが避けられるし、術式だって耐えてしまう。
詰まるところ、眼前の二人の少女は俺達へのアドバンテージを失っている。
対する俺達の剣は超人相手だろうと問題なく叩き切れる。
それは向こうにも言えることだが、剣だけを練習してきた俺達と、弓矢術式を鍛えてきた彼女達、どちらが接近戦に強いかは言うまでもないだろう。
むしろ、冷静に矢筒を交換しているかんなのほうがおかしい。
だが、そんなセオリーは意味を成さない。
「どう思う?」
「あいつは肝が座ってるだけだろ。アタシ的にはあの譲ちゃんのが怪しいと思うんだがなぁ。」
「じゃ、意見は一致したな。」
キョウカと短く意見交換をする。
超人同士の戦いはより高い魔力を持つものが勝利する。
先の有利不利など、所詮同レベルの超人の話に過ぎない。
はるなが良い例だ。強い魔力があれば、それだけで勝ててしまう。
強い者が強い、そんな子供の理屈が実現するのが、超人同士の戦いなのだ。
だからこそ、相手の強さを警戒する。
相手の魔力はぼんやりと感じ取れるが、かんなの魔力は多くない。
恐らくキョウカとどっこい。何度か矢を放ってその威力も見ているし間違いないだろう。
しなのさんは…ぱっと見魔力量は俺よりも多い。だが、さっきから戦っていて彼女は一度しか術式を使っていない。切り札として隠し持っているのかと警戒したくなるが…。
先程からのやり取りを見ているとあまり戦闘慣れしていないように感じる。まぁ、普通俺みたいに戦ってないだろうからあれが普通なんだろう。
「私が真田さんを受け持ちます。しなのさんはアインハルトを。」
「連携した方がいいんじゃー
「向こうのほうが上手です。ニ対ニじゃ負けます。一対一に徹します。」
「どうすればいいんでしょう。」
「とにかく爆撃して近付けないでください。距離を詰められたら負けます。」
「わ、わかりました。」
「あと、はるなお姉ちゃんの天照は常に視界に入れるように。いつ攻撃が飛んでくるかわかりません。」
「ど、どうやって判断すれば?」
「気配で察してください。」
「攻撃が来たらどうやって防御すれば?」
「可能なら対抗して術式、無理なら避けるか、魔力を込めて防御してください。」
「一瞬でそこまで?!」
「もちろん、アインハルトへの爆撃は継続してください。多分隙を見逃してくれる人じゃないですから。」
「あ…あぁ……。」
矢継ぎ早に指示と質問を繰り返すかんなとしなのさん。
一見かんなが無茶振りを言っているように聞こえるが、戦場に立ったことがある人間なら当然の対応としか思えない。
「どう思う?」
「アタシのこと舐めてる。」
「だよなぁ。」
戦闘慣れしていないしなのさんがキョウカを担当するというのは無茶としか言いようが無い。
「どうする?」
「無視。」
「了解。」
相手の作戦はこちらにも筒抜けだ。それに対応するのも容易だ。
かんなが言うように連携力はこちらのほうが上だろう。
というよりしなのさんは恐らく息のあった戦闘などできなさそうだ。
つまり、こちらとしては二体ニを挑んだほうがいい。
とはいえ、相手の狙いに逆らうのは、それはそれでリスキーな行為だ。相手の作戦を踏み潰せるならその方が安全だったりする。
今回の場合は微妙なところだ。キョウカをしなのさんが止められるとは思えないが、かんながそんな無理な作戦を組んだとは思い難い。
何かしらの裏があると思うべきだ。
「よし、行くぞ!」
こっちも動きが決まったところでー
「しなのさん!」
「フリーズバースト!」
かんなの指示からしなのさんが術式を発動させた。
いきなり俺達の足元から魔力の奔流が発生する。
咄嗟に飛び退く。瞬間、冷気の爆発という、矛盾を孕んだ現象が発生する。
冷気の余波を受けつつ、俺は怯むことなく、二人に向かって突進する。
かんなが弓を構え、放つ。超人の放つ矢は、それこそ超人の斬撃と同じ速さで迫ってくる。が、来ると分かっていれば恐れることはない。それに狙いが右に逸れてる。速射したせいだろう。
俺は余裕を持って左にそれを回避した。
が、回避したはずの矢の影から別の矢が現れた。
「はっ!?」
咄嗟に剣を振るってそれを弾き飛ばす。だが、重い。
不安定な体制だったこともあり、逆に俺も弾かれてしまう。
「ファイアボール!」
転がって体制を整え、牽制の火球を放つ。
禄な効果は無いだろうが、追撃を少しでも遅らせないと。
だが、かんなは迫るファイアボールを避けもせずにもう一撃矢を放ってきた。
「嘘だろっ!?」
が、実際には矢を放ってようやく回避の動きを見せた。
着弾までの時間を冷静に見極めたのか?!
「エクスプロージョン!」
矢を回避しながら更に術式を発動させる。
当然だが、爆発の範囲にかんなはいない。
だが、爆炎が俺を包み、姿を隠してくれる。
これで数秒だが追撃が止むはずだ。
どうする?かんなの弓の技術は凄まじい。距離を詰めなきゃ勝ち目がない。
だがどうやって?避けるだけでもこの様なのに。
…思いつくのは、アレだけか…。やってみるしかない。
俺は腰を大きく落とし、剣を横に構えた。
爆煙が明け、ようやく視界が開こうとする。
だが、それを待たずに俺は駆け出した。




