聖女7
「天照。」
はるながそう呟いた。
世界を照らす太陽の神、彼女の力を示すのにあまりにも相応しい名前だった。
「嘘…。」
「マジかよ…。」
呟きが漏れる…。誰もがその圧倒的な力に唖然としている。
一人を除いて。
「なんだそれは…。やっと、お前の言うことが…なのに。」
それは、怒りだったのだろうか。
それにしては、余りに悲しみに満ちた声だった。
「はるなぁ!」
怒声と共に洋司が動いた。
一瞬で踏み込み、はるなをその間合いに入れる。
駆けながらも、例の氷の剣を出している。
俺達が反応すらできない速度で、柳川ははるなにその刃を突き立てー
「後光。」
ようとした瞬間、上から降り注いだ光が柳川を包み込んだ。
天照から降り注いだ炎が柳川を焼いたのだ。
だが、驚くべき点は、その炎が物理的な衝撃波としての力を持っていたことか。
光に包まれた柳川はまるで、見えない何かに押し潰されるように地面に叩きつけられた。
「ぐっ!はぁっ!」
しかし、柳川は呻きながらも再び跳躍し、天照の範囲から逃れた。
「はっ!」
その時、いつの間にか後ろに下がっていたかんなが俺に向けて矢を放った。
しまった、あまりの事態に戦闘態勢を取れていない。超人らしく、圧倒的な力で打ち出された矢が俺に向けて迫る。
「陽光。」
再びはるなの呟きが。
そして、天照から再び光が一閃された。その光は俺とかんなの間を隔てるように走り、そして、放たれた矢を跡形もなく消し飛ばした。
守ってくれた、そのことに感謝の言葉を述べようとして、俺は事態に気付いた!
「はるな、上だ!」
柳川がはるなの上にいた。恐らく跳躍したのだろう。
その位置取りは不味い。柳川は空を、天照を背にしている。
つまり、今柳川とはるなの間には、守ってくれる炎が無い。
「っ!」
柳川が氷の剣をはるなに投げつける。
不味い、俺は間に合わない、天照は柳川の体が影になっていて、迎撃できないだろう。
柳川の投げた剣が、はるなに迫る。はるなは、動かない。
そして、柳川の刃は、当然のように、はるなの目の前で、弾け飛んだ。
「…は?」
柳川が着地する。苦々しげな顔をしながらはるなを睨みつける。
「羽衣…。」
「ねぇ、洋司。一応聞いておきたいのけれど、その程度で私を傷つけられると思っていないわよね?」」
はるなが笑う。
かつての光景がフラッシュバックする。
アーガス教授の放った火球、住民が投げた石、迫る無数の矢と術式。
はるなはそれを回避しようとしたことがなかった。俺はそれを反応できていないのだと思っていた。
違った…。彼女は反応出来なかったんじゃない。する必要がなかっただけだったんだ。
今みたいに何をする必要もなく、防げるんだから。
圧倒的だった。圧倒的過ぎだった。
「やっぱり、今ので確信したわ。洋司、あなたじゃ私には勝てない。聖剣の無いあなたでは。」
「はぁっ!」
はるなの勝利宣言を遮るように柳川が再び駆ける。
「後光。」
当然のように、天照から光が降り注ぐ。
しかし、柳川はそれを横に避けた。はるなが光を放つタイミングを知り尽くしたが故の見切りを見せた。
「はっ!」
柳川がまたも氷の剣を投げる。だが今度の標的は俺だ。
しかし、俺だっていつまでもボケっと突っ立ってはいない。構えた剣で迎撃をー
「陽光。」
するまでもなく、天照の光がそれを打ち払った。
「お兄ちゃん!」
後ろから再び声が飛び、かんなが弓矢を放った、狙いははるなだ。
だが、はるなには絶対な防御力がある。鋭い一撃も意味を成さない。
案の定、はるなの謎の防御ー恐らく羽衣と呼ばれた能力によって、矢は吹き飛ばされる。
はるなは興味なさげに視線を柳川に戻す。
「フリーズドプリズン!」
今度は村瀬会長だった。魔力が迸ったかと思うと、はるなの周囲に氷が発生し、はるなを拘束した。
「無駄よ。」
かに見えたのはほんの一瞬だった。氷は一瞬で蒸発し、拘束力を失う。
「どうでしょう?」
村瀬会長が不敵に微笑む。果たして、蒸発した水蒸気はまるで煙幕のようにはるなを包む。
そこに柳川が突っ込む。
「はるな!後ろだ!」
俺は、慌てて叫びながら水蒸気の煙幕の中に入ろうとする。
腕を振るうだけで攻撃を当てられる柳川と違い、はるなが天照で迎撃するには、視界の悪さは致命的となる。
「後光。」
しかし、はるなはまるで動じることなく、自分の周囲に光を打ちはなった。
自爆?いや、柳川を迎撃するためには必要な行動だった。
一際強い光が放たれたかと思うと、視界が開ける。天照の熱は、蒸発した水蒸気も消し飛ばしたらしい。
そして、倒れている柳川の姿と、それを見下ろすはるなの姿。
柳川の身体からは黒い煙すら上がっており、焼かれたことは一目瞭然だった。
対するはるなにその様子は全くない。退屈げに髪をかきあげた。
「洋司、あなたもしかして私を舐めてるの?それとも、その程度が通じるとでも、本気で思ってたの?」
はるなが首を傾げる。3人がかりの攻撃を凌いでおいて、誇りもせずに。
100年前の聖女はただ、そこに君臨していた。




