聖女6
次の日。再び歩き始めた俺達は、すぐに柳川と遭遇するかもしれない丘にたどり着いた。
丘はなだらかで、歩くのに苦ではないが、一部の高い丘が視界を遮るため、柳川がいるかはまだわからない。
だが、俺の勘はここが戦場になると告げていた。
「…いるな。」
「…そう。」
はるなは短くそう答えた。
少し歩いて、高い丘に登ったところで、俺の勘が正しいことが証明された。
少し進んだところに3つの人影があった。
一つは当然、柳川だ。
「いた。」
「ええ…。でもこれは予想外ね。」
残り二人は両方女性みたいだ。
一人は黒髪のショートカット、小柄な体格に弓矢を装備している。
なんとも不釣り合いなはずだが、それを感じさせない貫禄というか凄みがある。
なんとなく、雰囲気が柳川に似ているような気もする。
もう一人は対象的ともいえる銀髪のロング、体格も、まぁ…なんだ…出るとこ出ててスタイルがいい感じ。武器は何も持っていないようだが、片手に辞書のように大きな本を抱えている。
ってあれは
「かんなちゃんに村瀬生徒会長とはね…。」
はるなが呟く。
「あれ、やっぱり生徒会長?」
銀髪の方は通りで見覚えがあるはずだ。
では黒髪のほうがかんなというのだろうか。
「もしかしてあの二人も100年前に?」
「違うわ。ただ元の世界での知り合いってだけ。」
しかし、ここに集まっている6人中5人が元の世界の人間って、ここは異世界だぞ?
「同郷か?」
「そうみたい。」
「けっ。しばらくは見ててやる。」
そう言ってキョウカは腕組みをした。こいつに腕組みの癖は無いので、アクションをしないっていうサインなんだろう。
そうこうしてるうちに両者の距離は狭まり対面となった。
距離は10mほど、会話するには若干遠い。が、武器を持って、これ以上近づくことは許さない…お互いに。
「久しぶりね、洋司。」
「ああ。」
洋司は短く答える。
「あら、私達もいるんですよ?」
「村瀬生徒会長…。それにかんなちゃんも。」
「久しぶり。はるなお姉ちゃん。」
「それに、そちらは真田さんですよね?」
村瀬生徒会長の視線が俺に動く。何で知ってるんだ?!
「真田純一です。」
「体育祭の走りはお見事でした。」
ああ、なるほど。アレを見てたのか…。
とはいえ、前の世界のことなんてもう遠い昔のことに感じる。
そのことを言われてもなぁ。
「柳川かんなです。」
もう一人の女の子も律儀に自己紹介を…柳川?
「かんなちゃんは洋司の妹よ。」
兄妹で異世界に来てるのか…。
「もういいだろう。本題に入ろう。」
柳川が溜息とともに場を仕切る。
「はるな、何をしに来た?」
「あなたを止めに来たわ。」
端的な質問に端的に返すはるな。
「…どうして…。」
「聞くまでもないでしょう。リーシェナ、ルンデルに続いて今度はセルレイン。
あなたが戦うだけ…人が死ぬ。」
「…だが。」
「それは卑怯なんじゃない?はるなお姉ちゃん。
今この世界は戦争が溢れてる。その責任をお兄ちゃんにだけ押し付けるつもり?」
「それこそ卑怯よ。洋司がやったことの責任は洋司の物でしょう。洋司、クッセルの戦いを覚えてる?」
「…ああ。」
「あの時の子供達…孫達は今どこにいるのかしらね。」
なんだ?はるなが訳のわからない話をしている。
だが、洋司には効いているらしい。言い返す様子もない。
「洋司、議論は終わりにしましょう。降伏しなさい。これは命令よ。」
はるなは手を叩いて、最終通告をした。しかし、それはあまりにも一方的だった。
「はるな、そんなの一方的過ぎるよ。」
一応ははるなの味方である俺ですら言わずにはいれないください。
一方的に降伏を命令されて相手が従うわけがない。
「ちっ。」
後ろのキョウカも舌打ちしている。
「はるな…。それは、出来ない。私はアイシアの子供達を助けなくちゃならない。」
案の定というか、柳川はこの降伏勧告を拒否する。
「はるなお姉ちゃん、そんな一方的な。」
「はるなさん、聞いてください。私達はー
「それともー
その時、はるなの周りから魔力が溢れ出す。
それは、今まで感じたことが無いほど、強大で、膨大な力だった。
それが、驚くほど緻密な流れを経てはるなの体外に放出されている。
誰もが動けずにいる。動けるわけが無い。こんな力を見せられて、誰が反応できるというのだろうか。
それはーまさしく太陽だった。
違うのはわかっている。それが本物の太陽ではないとわかっている。
だが、そうとしか表現できないものがそこにはあった。
はるなが、炎を出した。空中、恐らく数百メートルの位置で滞空させている。
だが、その出力は異常だった。まさに太陽としか呼べないそれが、はるなの力だった。
「それとも、私と戦う気?」
俺達が間違っていた。彼女がする降伏勧告は決して一方的なものではなかった。
それは、ただ圧倒的な暴力から来る、当然の要求だったのだ。




