聖女4
「おい、ジュンイチ。聖女様が部屋から出たって言うのは…本当みたいだな。」
朝食を終えて、腹ごなしに運動をするというはるなに付き合って中庭に向かう途中、キョウカが現れた。
はるなのことを尋ねに来たようだが、隣にいるはるなを見て用事は済んだな。話が早くて助かる。
「おはよう、キョウカ。」
「…。」
挨拶をするはるなに返事をすることなく、キョウカは左手を鞘に添える。
「キョウカ!」
はるなは気付いていないようだが、これは抜刀術の準備だ。
こいついきなり何する気だ?!
「聖女様、ヤナガワって知ってるか?」
「ええ。私の仲間よ。」
「やっぱりか。どうする気だ?」
「止めるわ。」
「殺すんだな?」
「仲間を?馬鹿言わないで。」
「そうか。」
キョウカは静かに腰を落とし、右手で刀を握る。
これで抜刀術の構えは完成だ。こうなるともう俺が止める前に神速の一閃を放てる。
「キョウカ!止めろって!はるな!少し下がって!」
はるなははるなで、まるで動じない。
いや、そりゃ知らなけりゃ怖くはないだろうな。キョウカはまだ刀を抜いてすらいないんだから。
だが、あの体制から刀を抜くってことはすなわち死ぬってことだ。こめかみに拳銃突きつけられてるに等しい。
「てめぇのせいで、仲間が死んだ。」
「…そうね。否定はしないわ。」
「てめぇが甘いからだ。悪いことじゃねぇんだよ。てめぇの言うことはいちいちもっともだ。正しいよ、認めてやる。世界がみんなてめぇみたいなら戦いなんか無くなるんだろうよ。けどな。」
キョウカの右手に更に力がこもる。
まずい!もう本当に猶予がない。
「世界はそうじゃねぇ。てめぇの甘さで人が死ぬんだ。それもてめぇを守ろうとする仲間がな。アタシはそれが許せねぇ。アタシは仲間を守る。邪魔するなら斬るぞ?」
その発言にはるなは怯むどころか一歩前に出た。
「あなたがなんと言おうと、私は行くわ。それと、下手な脅しは止めなさい。」
しばし睨み合うはるなとキョウカ。
「…。けっ。」
先に目を離して構えを解いたのはキョウカだった。
「あ〜、なんというか本当に切るかと思った。」
「腹立つことにアタシとジュンイチだけじゃヤナガワは倒せねぇ。あいつの助けがいる。」
「…キョウカって単細胞に見せかけて意外といろいろ考えてるよな。」
言うや否や、危機を感じて咄嗟に避ける。
キョウカの刀が俺の首があった位置にあった。
「たたっ斬るぞ!」
「刀振ってから言うなよ!」
「聖女様も、ヤナガワ討伐に参加されたい…ですか…。」
評議会の場にいきなり乗り込んだはるなはそう宣言した。
困惑する評議員にはるなは続けて言った。
「違うわ。柳川洋司のことは私が何とかするから、あなた達は何もしないで、と言ったのよ。」
「はははっ。聖女様も無理を仰る。」
「レーゼルは現在我が国と戦争状態なのですよ?」
「聖女様の平和主義も素晴らしいものではありますが…。」
「前回のことを考えるととても…。」
評議員達は皆渋い顔をする。
当然だろう。前回のときははるなのせいで軍に大きな損害が出た。
ただでさえレーゼルとの戦いはギリギリなのだ。これ以上無駄な損害を許せるはずがない。
「そう、わかったわ。」
意外、はるなはすぐに諦めた。
「はるな、いいの?」
思わず尋ねてしまう。でも正直はるなが戦場に来るのは邪魔なんだけど。
「ええ。巻き込みたくなかったのだけれど、この際仕方ないわ。」
なんというか非常に諦めが良い。今朝から様子が違うけれど、それにしたってー
「じゃ、今日まで世話になったわね。」
「え?」
「「「「「は?」」」」
はるなはそさくさと部屋から出ていこうとする。
「お、お待ちください!」
慌てて評議員が止める。
「ど、どうする気?はるな。」
「あなた達が邪魔する前に洋司を止めてくるわ。」
「そ、それは許可できないと先程から申しているではありませんか。」
「あなた達の許可を取る必要はないわ。」
それで話は終わりとばかりにはるなは部屋を出ていった。
そして唖然とする部屋の中。
「どうする気でしょう?」
「ふんっ。どうもできんだろう。聖女様はヤナガワの位置も知らん。」
「ここからでは移動だけでも数日はかかります。」
「装備も金もない、おまけに情報も。」
「でも…。」
俺は一応言っておいた。
「はるなは何とかしちゃうと思うよ?」




