聖女3
「まずは食事ね。」
起き上がった彼女はそう言って食事を用意させた。
それまでの怯えが嘘のようだった。
着替えを済ませた彼女は食堂に赴いた。
その足取りは既に平常そのものだったが、それが一時的なものであることは俺にはわかる。
はるなは体に魔力を流している。俺が戦闘しているときに比べたら微々たるものだが、衰弱した体を平常時のそれまで引き上げる程度に精密にコントロールしている。
「はるな、そんなんじゃもたない。」
魔力を使って体を無理やり平常運転まで戻すなんて無茶だ。そもそも魔力がもつわけがない。
「わかってるわ。だからまずは栄養を取るの。」
食堂には既に侍女が用意した食事、おかゆのようなものが用意されていた。
「もっと肉がつくもの…というより肉を用意して。」
一瞥するなりはるなはそう言った。
「失礼ですが聖女様。最近はまともに食事を取られていなかったと窺っております。あまり胃に負担をかけるものは良くないかとー
「いいから用意して。」
侍女の発言を遮ってはるなは命令する。
「っ!かしこまりました。」
侍女は一瞬不快気な顔を浮かべたがすぐに言うことを聞いてくれた。
「はるな。でも、その通りだよ。いきなり肉なんて体に良くない。」
「体に良い必要はないの。とにかくすぐに栄養を取らないと。」
「でも消化だって。」
「内蔵に魔力を通せば問題はないわ。ん…塩持ってくるよう言えばよかった。」
はるなはそんな調子でおかゆと、その後に運ばれてきた嫌味のように厚いステーキを平らげた。
「御馳走様。寝るわ。」
そのあとそう言い残してそさくさと自分の部屋に戻ってしまった。
「おはよう。先に頂いてるわよ。」
「お、おはよう…。」
次の日、食堂に行くと、はるながいた。
「あ〜、えっと。元気そうだね。顔色もだいぶ良くなった。というかいつも通りだ。」
「ありがとう。でも大袈裟よ。病気だったわけじゃないし、ちゃんとご飯食べてぐっすり寝ればこんなもんよ。」
こともなげに言いつつ2つ目のパンに手を伸ばすはるな。
俺が来る前にもっと食べてないだろうな。
「まぁ、ともかくいつもの調子に戻って良かったよ。」
「…。ありがとう。そうよね、心配かけたわよね。ごめん純一。」
「いいよ。それで…確認したいんだけど…その…。」
「洋司を止めるわ。なんとしても、絶対に。」
「それは…なんというか嬉しいけど。でも、良いのか?だって、はるなと柳川は…その…。」
「そうね…。」
はるなは手に持ったパンを2つに千切った。
「洋司は仲間よ。一年前、ここでは百年前に一緒に魔物と戦った仲間。つまりは、前の勇者よ。」
やっぱり…向こうが本物ってわけだ。
いくらかショックは受けた。でも、話の本題はそこじゃない。
「だからこそ私が止めるわ。柳川洋司は私が止める。絶対に。」




