奴隷4
俺たちが勇者と聖女と知った住人たちによってちょっとしたパニックが起こり、衛兵が駆けつける事態になった。
なんとか隙をついて俺たちは人混みを抜け出すことができた(あと衛兵から逃げた)。
俺たちの姿を多くの人たちは知らない。だから、一旦逃げ出してしまえば気づかれることはない。
「キョウカ、何いきなりバラしてんだよ!」
事の発端であるキョウカを糾弾する。
「別に嘘つくことじゃねぇだろ。」
「どう思います、はるな?」
「え?なにがかしら?」
「…もういいです。」
「あのなぁ…。」
「いいじゃねぇか。キッチリ抜けられたんだし、細かいことグチグチ言うんじゃねぇよ。」
だめだ…。俺にはキョウカを止めることも叱ることもできない…。
気を取り直すとしよう。確かにキョウカの言うとおり人混みは抜け出せたんだ。もう一度街中見直すのもいいだろう。
「そういえばさっきの会計で大体お金の価値がわかるかな?」
ペリテとシムノテ合わせて300セリタ、果物2つだから大体300円ぐらいと考えよう。
1ミリタは1万セリタだから一万円、200ミリタは…
「200万円!?」
とんでもない高収入だった。
「真田君、ずいぶんと期待されてるのね。」
矢那さんもあまりの高額に少し声が上ずっている。
「さっきから一体何の話をー
「この使えないスピオレが!」
エリがなにか言いかけたのを怒号が遮る。
何事かと怒号の方向を見れば、店の人間と思われる男がボロ布を着せられた女の子を棒で叩いている。
女の子は本当にまだ小さい子供だった。5,6歳だろうか。
くすんだ銀色がひどく痛々しい。だがそれ以上に見るに耐えないのはきれいな白い肌に浮ぶ無数の傷跡だった。
異様な光景、しかしなお異様なのは、周りにいる人間の誰もが、それを異様だと認識していないことだった。
その店は飲食店のようだった。中には当然客がいる。
外は道路だ。当然のように通行人に溢れている。
だが、その中の誰一人として店員の暴行を止めようとしない。
誰もその光景を嫌悪の目で向けることすらない。
何もかもいつも通りであるかのように、その異常を見逃していた。
「な、なぁ…。あれって…。」
恐る恐る尋ねる。だって質問に意味なんて無いから。
一体どんな理由があれば、大の大人が子供を殴りつける正当な理由になると言うのだろうか。
俺はこれを聞いて、どうするつもりなんだろうか。
「あれはー
答えようとするキョウカの声が嬌声で遮られる。
「アイ…シア…?」
またも驚きから視線を動かすと、あの異様な光景に誰もが注目していた。
いや、注目しているのは新たに乱入したその一人のせいだろう。
「一体、一体何をしているの!?」
矢那さんが女の子の前に立ちはだかり男を糾弾していた。
「え?ああ!これは!まさか聖女様ですか!?いらっしゃいませ!」
ところが店主は矢那さんに驚いた様子こそ見せたが、たじろぐ素振りは無い。
他の人間もただ聖女の来訪にだけ驚いている様子だった。
「我が身の祝福をもって彼の者の傷を癒やし給え。」
矢那さんの神聖術によって女の子の傷が瞬く間に回復していく。
しかし、それでも傷跡が完全には消えていない。
「聖女様だ!」
「まさか街にいらっしゃるなんて!」
「聖女様!どうか握手を!!」
住民達が矢那さんの周りに集まろうとする。
「おい!どけよスピオレ!」
そのうちの一人が女の子を蹴飛ばそうとする。それを矢那さんの手が阻む。
「あなた達!こんな小さい子になんてことを!」
「え?いや、だってスピオレですよ?」
しかし蹴飛ばそうとした男は矢那さんの怒りにキョトンとしている。
悪びれていない。悪いことだとまるで感じていない。
「奴隷…か。」
「ああ。マジモンっぽいな。」
「そのようですね。どうされるんですか?これ以上は流石に問題になるかと思いますが。」
「しゃあねぇなぁ!ったく!」
「おい!お前は仕事に戻ってろ!」
店主が持っていた棒を女の子に投げつける。
「このっ!」
しかしそれは空中でキョウカの手に掴まれる。
「なぁ店主。悪いんだがこのスピオレ売ってくれないか?」
キョウカは突然そんなことを言い出した。




