奴隷5
スピオレ
銀髪に赤い目、そして白い肌が特徴的な人種で、更に言うと知能が低いことがあげられる。
ほとんどが喋れても片言を話す程度しか出来ないのだ。
もちろん、一般社会でやっていくことなどできないため、暴れるリスクの少ない、人語を理解する家畜…すなわち奴隷として扱われるのが一般的だ。
…というのが俺達がうけたスピオレの説明だった。
奴隷制なんてものが採用されていたなんて、ってのも驚きだが、ここまで倫理観が違うのも衝撃だった。
矢那さんは城に戻るなり、女の子を休ませて評議員に怒鳴りこみをかけた。しかし反応はなしのつぶて。
反戦を唱えていた時よりなおも鈍かった。
当然…なのだろう。彼らからすると何故文句を言われるかわからないを通り越して何を問題視しているかすらわからないのだ。
元の世界だって牛や豚を働かせて、そして食べてきた。
彼らにとってスピオレという種は家畜なのだ。家畜を働かせて怒られる理由がわからない。
あまりにも常識が違う。その感覚差に俺も矢那さんも目眩すら覚えた。
「…仕方ないよ。」
「何が?もしかして、人をあんな風に扱うことじゃないわよね。」
「俺達は、奴隷が悪いことだって知ってる。でも、ここの人たちはまだ知らないんだ。人種が違えば本当に違う生き物だと、思い込んでる。」
「だから…。だから諦めろっていうの?」
「そうじゃない…けど…。受け入れなきゃいけないことだってあるよ。」
「…。」
矢那さんは言い返してこなかった。
ただ、
「私達は、何を守ったのかしら。」
そう呟いていた。
女の子が目を覚ましたと言うので俺と矢那さんで部屋に迎えに行った。
女の子はベッドの上でぼーっとしていた。
「目が覚めた?大丈夫?痛いところない?」
女の子に矢那さんが優しく話しかける。しかし、女の子は返事をしなかった。
「…。ご主人様…どこ?仕事…します。」
片言でそんなことを言った。
「いいのよ。もういいの。」
感極まった矢那さんが女の子を抱きしめる。
女の子は身体を硬直させてそれを受け入れる。というか反応できないでいる。
なんか微笑ましいな。
「ああ。ごめんなさい、びっくりしたわよね。」
驚いている女の子から体を離して矢那さんは微笑みかける。
「おねがい。…たたかないで…。仕事します。…いうことききます。」
愕然とした。抱きしめられていた女の子は安心するどころか、恐怖を抱いていた。
脳裏に、街中で叩かれていたこと、蹴られそうになっていたことが浮ぶ。
この子は、きっと今まで優しく抱きしめられたことなんて無かったんだ…。
多分、他人と触れ合うってことは殴られることを指してたんだ。
それがわかって、彼女の想像を絶する境遇に触れて、静かに、胸の中に怒りの炎が宿るのを感じた。
「大丈夫よ。叩かないわ。仕事もしなくていいの。ゆっくり休んで。」
近づく事で女の子が怯えることがわかったから、矢那さんは手が届かない距離まで下がって笑いかける。
「ご主人様は…。」
「そんなのもういないの…。もう、そんなこと考えなくていいのよ。」
「でも…ご主人様のいうこと、きかないと。」
「…。俺たちが君を買ったんだ。だから、俺達が君のご主人様だよ。」
そう、形式的にはそういうことになっている。もちろん、俺も矢那さんも奴隷扱いなんてするつもりはなかった。ただ解放するためだったけれど…。
この子は…世には出せない。一般社会で生きていけるように育てられてない…。
矢那さんは俺の方に目を向けて、何か言いたそうにしたが、結局何も言わず肯定した。
「…そう、よ。私達があなたのご主人様よ。」
ご主人様が変わったということを知っても、女の子は特に何の反応も示さなかった。
安堵も、恐怖も、希望も絶望も、抱いた様子はない。
「わたし…は奴隷…です。はち、さいです。家事…と力仕事…できます。」
と、女の子は頭を下げた。自己紹介にしては…あまりに酷い…性能紹介だった。
「私は矢那はるなって言うの。それでこっちが。」
「真田純一だよ。よろしくね。えっと…。名前は何て言うのかな?」
「奴隷…です。」
参った、早速会話が噛み合わない。
「そうじゃなくて、あなたの名前を教えて。な・ま・え。呼び方よ。」
女の子はキョトンとした顔をしながら繰り返した。
「奴隷…です。わたしは奴隷…です。」
その返答に、まさかという考えがよぎる。矢那さんも同じだったようで引きつった顔を二人で突き合わせる。
…名前…がない…?
産まれてからずっと…奴隷としか呼ばれていない?
そんなことがあるのか?そんなことが許されるのか?
その理不尽さが、悲惨さが、人生が、理解…できない。
頭がクラクラする。さっき自分が言った言葉がフラッシュバックする。
仕方ないよ?仕方ないって何がだ?
「そう…。ねぇ、あなたの新しい呼び方をつけてもいい?名前をあげたいの。」
矢那さんが優しく語る。
「ご主人様が、そうしたいなら。」
矢那さんは女の子を抱き締める。
それを女の子が怖がるのを知った上で、その上で、決して怖いものじゃないんだと教えるように
「あなたの名前はアリスよ。」
「アリス…。」
そうして、アリスは俺達の仲間になった。




