奴隷2
「「せぇぇぇぇい!!」」
二人の雄叫びと共に二振りの刃が奔る。
常人であれば目に止めることすら難しいその剣戟を、しかし2つの剣は的確に打ち合わされていく。
数合の打ち合いを経て、均衡が崩れる。僅かにバランスを崩した隙を逃すまいと刀が剣ではなく持ち主目掛けて振り抜かれる。
しかし、脚力だけで後ろに跳躍した体はその刃を華麗にとは言わずとも回避する。
しかし、追撃は止まらない。無理な体制で後ろに飛んだ相手に向かって、追い込むように飛び、その刀を鞘に納めてぇぇえ?!
「アインハルト流、抜刀術。」
神速にして、必殺の一閃が舞う。
が、なんとか滑り込ませた剣が、必殺の一撃を僅かに逸らせる。
おかげでなんとか体を両断されずに済む。
「ストップストップ!!!」
更に追撃を加えようとするキョウカに待ったをかける。
「んだよ、ジュンイチ。これからってときに。」
「これからってときに、じゃねぇよ!抜刀術は禁止って言ってるだろ!」
セルレイン共和国、砦内修練所。そこで俺とキョウカは試合形式の訓練をしていた。ルールとして俺は術式、キョウカは抜刀術を禁止してだ。理由?危ないからに決まってるだろ!
「けっ!実戦でんなこと言ってられるかよ。」
「実戦じゃないって何度言えばわかるんだよ。」
キョウカが味方になってから、俺の訓練相手はリーランドからキョウカに代わった。リーランドと違ってキョウカ相手になら本気で打ち込めるって言うのは有り難いことなのだが、キョウカはちょいちょい本気で殺しにかかってくるのでこっちとしては気が気じゃない。
「本気でやらなきゃ意味ねぇだろ。」
「死んだらどうするんだよ!」
「そんときはそんときだよ。」
この調子である。何かあれば矢那さんに神聖術をかけてもらえる、最初はそんな下心もあったが、そんな余裕は一瞬で吹き飛んだ。
図書館の本を運ぶのとは訳が違う。
「あーあ、また剣が。」
キョウカに斬られた剣を見る。
訓練用の質の低い剣ではあったが、見事に両断されている。
「んな安もんいちいち気にすんなよ。」
安物…なのか?質が低いとは言え魔力が通った武具だ。兵士全員分揃えることができない程度には高価だろう。
「これって幾らぐらいなんだ?」
「ん?まぁ訓練用の魔鋼なんてせいぜい10ミリタってとこだろ。」
…ミリタ?
「俺この世界の通貨知らないんだけど。10ミリタってどれぐらいの金額なんだ?」
「そーいや異世界から来たんだっけ?ジュンイチは。そうだなー、アタシらの給金が1000ミリタぐらいだ。」
なるほど。普通の社会人の給料ってどれくらいなんだっけ?
えーっと、一応国に仕えてるんだから高めと考えて…1000ミリタを100万円とすると…魔鋼が一万円ぐらい?高ぇ…。
「それ結構高いんじゃないのか?」
「これぐらいケチってどうすんだよ。命賭けてんのによ。」
そういうもんだろうか。
「にしても…。金の価値も知らねぇってのはちょい問題だな。ん。」
なにやらキョウカが考え始めた。
「よし、決めたぜジュンイチ。」
ニヤリと笑うキョウカ。
「おーい、騎士長。今からジュンイチと街行ってくるわ。」
リーランドの執務室に入るや否や宣言するキョウカ。
「はぁ。ノックをしろと何度言えー何だとっ?!」
リーランドのツッコミが追いついていない。
「だーかーらージュンイチと街に行ってくるつってんだよ。」
「いきなり何を言い出すかと思えば…。街が騒ぎになるぞ…。それに護衛の準備だって。」
「護衛?アタシらより強いの用意出来るなら待ってやるよ。」
キョウカが不遜に笑う。まぁ、無理に決まっている。
この国のツートップは俺とキョウカなのだから。後可能性があるとしたら矢那さんくらいのものだ。
「勇者様はこの世界に不慣れなんだ。些細な常識の違いで、どんなトラブルが起きるかわからない。」
…俺そんな風に思われてたのか。通りでこの世界に来て数カ月、馬車以外で城の外に出してもらえないわけだ。
「だから、アタシが着いていってやるんだろうが。」
「はぁ…。全く。いや、しかし良い機会か…。」
何やらリーランドが思案する。
「んだよ、さっさと許可出せよ。別に警備突き破って外に出てもいいんだぞ、おら。」
煮えきらないリーランドに対して脅しをかけるキョウカ。
いや、俺はそこまでして街に行ってみたい訳じゃない。
というか、キョウカ。俺に一度は街に出たいか聞けよ!
何で話進めてんだよ!行きたいから止めないけど!
「わかった。許可しよう。ただし、食事は城内で取るように。多少の食べ歩きは構わないが、全員が同じ店で食事するのは避けるように。それから日暮れまでには戻ってきてくれ。それからー
「あーはいはい。アタシも超人だ。わきまえてるよ。じゃあな。」
リーランドの注意事項を無視してキョウカが出ていく。
「勇者様。」
続いて部屋を出ようとする俺をリーランドが呼び止める。
「騒ぎを起こさないでくださいね。」
若干引きつっているような笑顔でリーランドが忠告する。
「わかってるよ。大人しくしてる。」
心配性だな、リーランドは。




