神官9
聖女二人の対面。そんな大イベントが二人きりで行われるはずもなく。
現在、城内の応接間にて、聖女二人に評議員、そして大司教をはじめとする神官達、おまけに勇者の一大会合が開かれていた。
会合と言っても実質的には互いの聖女の存在を確たるものとするための舌戦の場だが。
「私の名前はエリ・スチュワートと申します。この度、不遜にも聖女様であると噂されている身、と言えばご理解いただけるでしょうか。」
この人あれだ、礼拝堂で会った人だ。
俺が驚いてる隣で矢那さんも
「エリ…。」
と呟いている。そういえば百年前に矢那さんに祝福を与えたって人の名前もエリなんだっけ。偶然なんだろうか、それとも
「それでエリさん。本日はどのようなご要件でしょう。」
評議員の一人が口を開き、それに対して神官達から敵意が向けられる。それも当然だ。
現在教会内で聖女認定を受けているエリ…エリ・スチュワートさん、それを様ではなくさん呼びしたり、客人に対してあまりに敬意を欠く発言だ。
それはつまり、フィルレイン共和国はスチュワートさんを聖女として認めないという言外の宣言だ。それに不快感を示さないはずがない。
「聖女様、此度は聖女様の御名前を辱めるような噂を広げてしまい、申し訳ございませんでした。」
しかし、スチュワートさんはこともなげに謝罪の言葉を述べた。
完全なる敗北宣言だ。
「気にしないで。でも、そういう発言をすると言うことは、あなたは聖女ではなかったと言う事かしら?」
矢那さんの問いかけにスチュワートさんが頷く。
「先日、聖女様の御力を側で見た折より、私も聖女様と同じ真に傷を癒やす神の奇跡を起こすことが出来るようになりました。」
なるほど、それが聖女の根拠だった訳だ。
「しかしながら、その後多くの者が同じように真なる奇跡に目覚めたのです。それで、私が特別なのではないと。」
自嘲のように言葉を紡ぐ。
「聖女様、傲慢にも自らを聖女等と宣った愚か者ではございますが、どうか神の奇跡に関する御知恵をお貸しいただきたく存じます。」
スチュワートさんが席を立ち膝をついて頭を下げる。
「まずは頭を上げて。」
「しかし…。」
頭をあげないスチュワートさんに、矢那さんは沈黙を貫く。やがて、根負けしたスチュワートさんが頭を上げる。
「あなた方が真なる奇跡と呼んでいるものは、100年前に神聖術と呼ばれていたもので、多くの修道士が使うことができたものよ。使えるようになったのは多分私が使うのを見て使い方を覚えたから…かしら?」
頭を上げたスチュワートに矢那さんは言葉を紡ぎ始める。
「では、私達が神聖術と呼んでいたものは。」
「…。気を悪くしないでね。あれはただの術式、恐らく精霊術の一種ね。神と呼ばれる力とは全く関係ない、ただの治療術よ。」
「そんな訳はありません!教会は長き間神の奇跡に触れ、受け継いできたのです!それが幻だなどと!」
矢那さんの発言に大司教が大声を上げる。
「大司教、これは私と聖女様の会談です。」
その一言だけで、大司教は苦虫を潰したような顔をしながら黙った。
大司教を黙らせるなんて、教会の力関係が揺らいでるのか?
「重ねてご質問を。使える者と使えない者がいるのは何故でしょうか?」
「ごめんなさい、それはわからないわ。エリ…昔の仲間からは『信仰をもって神に祈れば誰でも使えるようになる』と聞いていたけど。」
矢那さんの返答にスチュワートさんはニヤリと笑みを浮かべた。
「いえ、聖女様。大変興味深いお話でした。」
そういうとスチュワートさんは立ち上がり、矢那さんの前に行き改めて跪いた。
「聖女様。重ねて、此度の騒ぎ申し訳ございませんでした。更には大司教の失礼、大変許し難く存じ上げます。」
「聖女紛いとはいえ、一修道女が大司教の謝罪だと…。」
スチュワートさんの発言に評議員達から驚きの声が上がる。
「しかし、聖女様。どうか教会の総意がそこに無いことを御承知下さい。」
間違いない、今教会勢力は2つに割れている。
スチュワートさんは大司教から離反したグループのトップ、少なくとも幹部に近い位置にいるんだ。
「これは、私共よりの感謝の気持ちです。」
そう言うとスチュワートさんは矢那さんになにかロザリオのような物を渡した。
「これは…。」
「祈りの時に使うものです。また、それがあれば教会への出入りも容易くなるかと。もちろん、聖印のように何かしらの身分を保証するようなものではございません。」
「そう、ありがとう。貰っておくわ。」
矢那さんが受け取る。
「ありがとうございます。では、本日はこれで失礼させていただきます。聖女様、また御力をお借りすることもあるかと存じます。御礼と言う訳ではございませんが、何かお困りのことがあれば、私共も聖女様の御力になりたく存じ上げます。」




