神官7
矢那さんが手紙を突き返したことで場が静まり返る。
「ぎゃははははは。やるねぇあの姫様!」
俺の隣を除いて。
「いや、笑ってる場合じゃないだろ、これ…。」
この世界の礼儀とか知らないけど、普通に考えたら手紙を突き返すとか失礼極まりない。
「勇者様…。聖女様から何か窺っておいでですか?」
リーランドが頭を抱えて聞いてくる。
「聞いてたら今こんなに驚いてないよ。」
ですよね。と呟いてからリーランドは改めて両手で頭を抱えた。
「んだよ、騎士長。これで姫様は教会と決別だ。国としちゃあ良いこと尽くめだろうよ。」
「そんな簡単には行かないんですよ。まず、聖女様がここまでの無礼を働いたとなると教会は聖女様をお認めにならないでしょう。そうなると民達に聖女様は教会が認めない存在と印象付けられるのです。
それに教会は国が聖女様を誑し込んだと思い、国との関係は悪化するでしょう。
国と教会のバランスは微妙なんです。こんな一方的な事をしたら均衡が崩れてしまう。」
「せ、聖女様。な、何故でしょうか?これは我々からの純粋な感謝の気持ちなのですが。」
大司教がどもりながら矢那さんに尋ねる。
「私はただ昔の友人から祝福を頂いただけの身です。そんな私に聖印など畏れ多いことです。」
矢那さんの返答に周囲がどよめく。
「聖印!?大司教め、なんてものを!」
さっきまで頭を抱えていたはずのリーランドが立ち上がる。
「お、おい聖印って何?!」
「文字通り聖なる印です。神に仕える証明としての意味があります。本来なら下の者が上の者に『あなたは私にとって神へ導く者だ』と送る者です。大司教が授与するなどあり得ない。それでは、教会全体が聖女様を格上と判断するのと同義です。」
あの大司教なんてものを渡そうとしてやがる。
「えっと、つまり、非常識なのは矢那さんじゃなくて。」
「大司教の方ですよ、当然。」
あたりを見渡すと、どよめきは疑惑の目に変わりつつある。
その矛先は確かに大司教の様に見える。
「大方、異世界から来た聖女様に知識が無いと踏んで、聖印を授与した既成事実を作ろうとしたのでしょう。」
まぁ、俺だったらなんの疑いも無く受け取ってたな。
しかし、矢那さんは二度目の異世界だ。しかも仲間に修道士がいたらしいし、教会の常識も知っていたわけだ。
「やってくれましたね、聖女様。」
リーランドが怪しい笑みを浮かべる。
「あーつまり?」
「騎士長がさっきまずいっつったのは、何の落ち度もない教会に恥をかかせることなんだよ。けど教会連中はヤらかした。なら、攻め立てるのに何の問題もねぇってことだ。」
「教会は失う信用の回復に手一杯でしょう。こちらへの対抗処置など取る余裕はありませんよ。」
「矢那さん、そこまで考えてたのかなぁ…。」
なんとなく、違う気がする。彼女は、決して馬鹿ではないけれどそういう政治ができるタイプには見えない。
真っ直ぐで、だからこそ綺麗で、そういうところがー
「ん?」
大司教の後ろに協会の人間が寄ってきていた。
そいつは大司教に何か耳打ちしてすぐ立ち去ったが、大司教はその言葉で一気に冷静さを取り戻したようだ。
「聖女様。大変失礼いたしました。では本日はこれにて失礼いたします。御礼の書状は改めさせて頂きましょう。」
そう言って、大司教は場を後にした。
失態を演じた直後にも関わらずの余裕な態度に誰もが、リーランド達ですら唖然としていた。
その余裕の意味が明らかになったのは、翌日。
もう一人の聖女が現れたと国中で噂が広まったときだった。




