神官6
「先日のアーバント国との一戦は、勇者様の輝かしき活躍により見事勝利、いや、圧勝となった!」
沸き立つ観衆。
「更に!なんと聖女様は真なる神の奇跡によって傷ついた兵士たちを癒やし給うた!」
更に沸き立つ観衆。後ろで悠然と構えているはずの兵士たちすら武具を掲げて歓声を上げる始末。
「我らがセルレイン共和国を救い給うた勇者様と聖女様万歳!」
評議員、それに連なる文官までもが立ち上がって万歳の合唱と共に拍手を送る。
その相手はもちろん、特等席に座っている俺こと勇者と、聖女矢那さんだ。
場所はセルレイン共和国首都セルレイン、セルレイン城。
アーバント国との勝利を祝う場だ。
セルレインとアーバントの戦争はセルレインの圧勝となった。
理由は大きく分けて3つだ。
一つ目は超人同士の決着がかなり早い段階でついたこと。これで兵士の損耗がかなり抑えられた。
リーランドからお説教を受けた事ではあるが、結果としては最高だ。
二つ目は矢那さんが負傷兵の治療にあたってくれたこと。
矢那さんが見せた神聖術は教会が行っている神聖術とは違うものだった。
矢那さん曰く、傷を治すか癒やすかの違いらしいが、詳しいことはわからない。
ともかく、矢那さんの神聖術によって、多くの兵士が助かった。
そして、三つ目が
「んだよ。ジュンイチ。せっかくみんなが拍手喝采してくれてんだからちっとは嬉しそうな顔してやれよ。」
俺の後ろにいるキョウカの存在だ。
俺との戦いに敗れ、捕虜となったキョウカはセルレインに下ることに決めた。
アインハルト族としては戦えれば別に何処の国に属するかは大した問題ではないらしい。
セルレインとしても、優れた超人は欲しいところで、利害が一致した形だ。
かくして、今のセルレインは沸き立っている。
「お前は気楽すぎだろ。ついこの前まで敵同士だったんだぞ俺達は。」
本当なら殺し合ってたんだぞと言ってやりたかったが…一応はもう仲間なのだと飲み込む。
「ジュンイチは小難しいことばっか考えてんだな。いいじゃねぇかよ。今は味方だっつってんだからよ。なぁ姫様。」
「良いんじゃないかしら。仲良きことは素晴らしきかなってね。」
「いやぁ。話がわかるねぇ姫様は。」
「そう思うならいい加減名前で呼んでくれないかしら。」
矢那さんの恨めしそうな視線をキョウカは平然と受け流す。
キョウカの中に何か拘りがあるらしく、基本的にキョウカは人のことを名前で呼ばない。
俺は数少ない例外になっているが。
「それでは、大司教殿より、聖女矢那はるな様に感謝の言葉を述べていただきます。」
評議員の宣言に、教会の大司教と矢那さんが前に出る。
そして、回りくどい感謝の言葉を散々述べたてていく。
「…。なんとか打ち合わせ通りに進んでくれそうですね。」
その様子を見ながらリーランドが安堵の溜息を漏らす。
「どうしたんだよ。何か問題でもあったのか?」
「ええ。聖女様は国と教会のパワーバランスを崩しかねない危ういものですから。」
「大袈裟だなぁ。」
「決して大袈裟ではないのです。聖女様は教会が使っているのとは別の神聖術を使いました。つまり、もしかしたら神聖術の形態化、つまり式具を用いての使用も可能になる可能性も出てきたのです。」
「なるほどなぁ。教会の権威のほとんどは神聖術の独占から来てる。もし、姫様の神聖術が世に触れ回りでもしたらー
「教会の力はガタ落ちになる…?」
「だから教会は聖女様を取り込もうと必死なのです。最初は司祭の位まで授与しようとしていたのですよ。」
司祭って、結構偉い人じゃなかったっけ…。
矢那さんが負傷兵を治療してる裏でそんな事になっていたとは。
「そういえば、矢那さんは『ちゃんと毎日お祈りしてればこれぐらい出来るようになる』って言ってたけど?」
神聖術の治療を受けてすぐに俺も矢那さんに神聖術を教われないか聞いてみたのだ。
その時の答えがそれだったのだが。
「はぐらかされてんじゃねぇかよジュンイチ。毎日祈るだけで神聖術使えるんだったら教会の連中はおろか教徒の奴らまで全員神聖術使えることになるじゃねぇか。」
う…。やっぱりそうだったのか。
「聖女様も、自らの神聖術の危険性は理解されているということでしょう。」
広まる危険は犯さないということだろう。
そんな話をしているうちに大司教の話は終わったらしい。
大司教は持っていた感謝状を矢那さんに手渡ししーー
「申し訳ありません、大司教様。これを受け取るわけには参りません。」
矢那さんはその手紙を突き返した。




