剣士10
思いついたことがある。試す価値はある…と思う。
けど、そのためにはタイミングを見極めないといけない。
「なんか思いついたって顔だな。いい顔してるぜ。」
キョウカはニヤリと笑って刀を鞘に収める。
それは必殺の構え、アインハルトの奥義の構えだ。
ここに来てもキョウカは全く油断していない。剣を切り、術式を見切ってなお、この剣士は十全を持って俺を倒そうとしている。
だが、そこにこそ勝機がある。
「誇りに思いな。お前はアインハルトの刃で斬られるんだ。」
その必殺の宣言とともにキョウカが先と同じ突進を開始する。
俺は傷ついた左手を右手で抑えながらも前に構える。
だが、ファイアボールでの迎撃は行わない。するだけ無駄だ。
むしろ変な回避をされたらタイミングをしくじるかもしれない。
こちらが迎撃の手を打たないことにキョウカは怪訝そうな顔を浮かべるが、それで突進を止めるような事はしない。
そして俺の腕がキョウカの刀の間合いに入る一瞬前を狙ってーー
ここだ!
「エクスプロージョン!」
本命は左腕ではなく、支えるように一緒に前に出した右手のエクスプロージョンだ。
「甘い。」
しかし、キョウカの意表をつくには足りない。
キョウカは突進に急制動をかけ、エクスプロージョンの範囲に突っ込むのを防ぐ。
「苦し紛れならせめて相打ちを狙えや!臆病もんが!」
そう、いくらエクスプロージョンが刀の間合いよりも上回っているとはいえそれは僅か。
もし、彼女にエクスプロージョンを当てるなら自分が刀の間合いに入ってから、抜刀術を食らう覚悟で撃つべきだったのだ。
エクスプロージョンを当てるつもりなら。
「ファイアボール!」
爆発の炎が視界を覆う中、俺は左腕の式具を発動させる。
狙いなんて考える必要はない、手を伸ばせば届くような距離の人に当てるためなんだから。
爆発の中から火球が飛び出す。完全なる不意打ち、キョウカの目に写った時点でキョウカが刀を振るって間に合う速度ではない。
「っ!抜刀術!」
だが、それを可能にするのが奥義だ。
キョウカの神速の抜刀が目前まで迫ったファイアボールを打ち払う。
炎の爆発もろともに。
「どうだっ!?」
「んなっ!」
キョウカの神速の振りが炎の爆発を振り抜き、そこにあった炎を切り飛ばす。その軌道上にあった空気が無くなった。つまり真空だ。
その真空の空間めがけて炎の爆発がさらなる勢いを持って吹き出す。まるでキョウカに襲いかかるように。
さすがに自分に向かって吹き出す炎に対処する手段はないのか、両腕で顔を塞ぐキョウカ。
炎から飛び出した俺は右手をキョウカにかざす。
「エクスプロージョン!」
ほぼゼロ距離で発動したエクスプロージョンにキョウカは耐えきれず吹き飛ばされる。
受け身も取れず地面に倒れるキョウカに俺は左手を突き出しトドメのファイアボールをー
「降参だ。」
キョウカが何かを呟いた。
「へ?」
「アタシの負けだ。降参する。だからお命ばかりはってな。」
上半身だけを起こしたキョウカは刀を俺の足元に放り投げた。
「勝った…。俺が…?」
「勇者様がアインハルトの剣士を下したぞぉ!!!」
兵士たちの叫び声を合図にこの戦いは終結した。
アインハルトのいないアーバント軍に継戦の意思はなく、降伏は速やかに行われた。




