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勇者10

「ふぅ…。今日も疲れた。」

一日の訓練を終え、大浴場で汗を流した俺は、日課となってしまった大図書館への散歩をしていた。

その最中、つい独り言を言ってしまったが、実際のところ、そこまで疲れたわけではない。

一日の訓練メニューは体術半分、術式半分だ。半日しか体を動かしていないのにそこまでキツイってことはない。

一日通して魔力は使ってるわけだが、そこは本気を出すなと言われてる手前まだまだ余力はある。

それでも敢えて疲れたと言うのは、もしかしたら見栄があるのかも知れない。

そんなことを考えながら俺は、たどり着いた大図書館の扉を開いた。


大図書館は城の離れにある巨大な図書館のことだ。

城の中にも図書室はあるのだが、やはり屋内ということで蔵書の制限がある。

その点大図書館に関しては本を詰め込むだけ詰め込んだおかげでその制限がない。

それはつまりあまり実用的でない本も多いということなのだが。

ともかく、大図書館という名前で正しいのは、本が多いことぐらいで、それ以外はどちらかというと整理された倉庫といったほうが正しい様相だ。

そんな大図書館の一角の机で本を読み漁っている矢那さんに声をかける。

「今日もお疲れ様、矢那さん。」

「そちらこそお疲れ様、真田君。」

気配を察していたのだろう。本から顔を上げた矢那さんは驚いた風もなく答えた。

矢那さんは、広げていた本を閉じ、積まれている本の山を持ち上げる。

普通に考えれば、結構な重量のはずだが、その様子はない。

まぁその気になれば岩を砕く力を出せるのだから驚くほどではない。それでも女の子にだけ荷物を持たせるのは良くないだろう。

俺は残りの本の山を持ち上げる。

「ありがと。」

矢那さんは短く礼を言って、二人で本を返却棚に返す。

「今日はどうだった?」

矢那さんは今、術式の変換式の解読を試みている。

大昔に偉い賢者様が組んだと言う変換式は完全にブラックボックス化しており、今では意味を理解している人間はいない。

矢那さん的にはそれが許せないことらしく、訓練をボイコットしてまで、こうして資料を読み漁っているというわけだ。

……文字読めないのに。本人曰く、「式さえ読めれば大体の意味はわかる」らしいが…。

「全然ダメね。」

苦笑いを浮かべる矢那さん。

「これを書いた人は少なくとも私より賢かったみたい。」

どうしたのだろう。いつもならもう少し強気なのに。

そう、矢那さんはいつもは穏やかな性格なのに、術式のことになると強気というかちょっと荒っぽくなる。

「仕方ないよ。書いたの凄い賢者様らしいし。エジソンとかアインシュタインみたいなもんなんでしょ?」

「ふん。絶対師匠のほうが凄かったわ。」

もう何度目かわからない矢那さんの負け惜しみに今度は俺が苦笑いする。

矢那さんは前回召喚されたときに術式を教えてくれた師匠のことをとかく信頼していて、その教えを受けたからには自分も優れた術者でなくてはならないと思ってるらしい。

「…真田君は本当に戦うつもりなの?」

「え?」

矢那さんの突然の質問に聞き返してしまう。それは一体どういう意味なんだろう。

「あなたに戦う理由なんて、無いじゃない。」

「で、でも…。この国の人たちが困っているなら…助けたい…と思うよ。」

訓練をして、兵士の人たちとも仲良くなった。リーランドとはタメ口にまでなった。

俺はもうこの国の勇者になったんだ。

だから、この国のために戦うのは当然のことなんだと思ってる。

「助けるために、殺すの?」

「…仕方ないじゃないか。殺さないと、殺される。

俺は、良くしてくれたこの国の人たちのためなら…殺すよ…。」

仲良くなった兵士たちと、顔も名前も知らない敵兵たち、どちらを選ぶかなんて決まりきってる。

そりゃ、両方救えればそれが一番なんだろうけど、そんな理想論に意味はない。

「正しい意見ね…。でも…正しさじゃ人は救えないわ。」

「それって、どういうー

「ごめんなさい、忘れて。あなたに言う言葉じゃなかったわ。ともかくー無事に帰ってきてね。」

矢那さんは、話は終わりとばかりに歩を進める。

俺は矢那さんがし始めた唐突な話に首を傾げるばかりだった。

この翌日、開戦が宣言されるまでは。

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