銀星の精霊 VS 暗黒の精霊
真羅と太郎が戦闘を行っている傍ら、レイルシアとアスタロトは激闘を繰り広げていた。
「――銀星弾!」
レイルシアの掌から銀色の光弾が放たれる。
「――暗黒弾」
しかし、レイルシアの銀色の光は、アスタロトから放たれた暗黒の闇によって相殺されてしまう。
「――暗黒閃」
レイルシアの攻撃を撃ち落としたアスタロトは、お返しとばかりに漆黒の閃光を放つ。
「――銀星の光盾!」
放たれた閃光を、レイルシアは光の盾を生み出して防ぐ。
(戦えている……強くなった暗黒の精霊と対等に撃ち合えている)
暗黒の精霊との戦いによって、レイルシアは自身の力が以前よりも増していることを改めて実感していた。
かつて神代の戦いでは、暗黒の精霊に対して防戦一方であり、最後に一矢を報いることはできたが、とても互角と言えない内容だった。
それが今は互角に戦えていた。無論、お互い全力ではないが、両者共に一歩も引いてはいない。
「少しはやるようになったわね」
成長しているレイルシアに対して、アスタロトは素直に称賛する。
「ボク自身も驚いているよ。シンラの魔力が馴染んてきたのが分かる」
「あら、アナタの契約者は“シンラ”という名前なのね」
「――ッ」
レイルシアは咄嗟に口を押える。
思わず真羅の名前を口にしてしまったが、彼からは極力教えないように頼まれている。
名前を知るということは魔術において重要であり、呪術や悪魔祓いなどでもの相手の真名を知ることは要である。
そのため、真羅は戦う前は本名は名乗らず、魔術師の通称である“ソーマ”の名を使用している。
もっとも、彼は呪いに対する防御を幾重にも張り巡らせているため、余程高位の術師でなければ彼を呪うことは不可能なのだが。
「別に名前ぐらい隠す必要なんてないじゃない? 私だって名乗っているのだから」
「彼から極力言わないように頼まれているんだよ。ボクらと違って異世界だと名前はとても重要なモノらしいよ」
「あら? そうなの? 初耳だわ。タロウはそんなこと言ってなかったけど?」
「ボクの契約者は、タロウよりも知識が豊富なんだよ」
レイルシアは胸を張って、自身の契約者のことを誇る。
真羅の持つ知識や力は、神代に召喚された勇者よりも優れているのだ。精霊にとってこれほど最適な契約者は他にいないだろう。
「彼が召喚されてからまだそう日は経っていないし、契約してからの時間も浅いはず……なのにこれだけの力を得ているなんて……」
アスタロトは元々一般人である太郎から、異世界である地球における精霊や魔法は空想上の存在であり、実在はしていないと聞いていた。
そのため、女神の祝福を感じられない、勇者でもない一異世界人にこれほどの力があることが不自然に思えていた。
「彼は優秀な救世主なのね……タロウと違って……」
「――? どういうこと? 裏切ったとはいえ、タロウはかなりの手練れだと思うけど?」
「あら? タロウとは交流があったんじゃないの?」
元々、女神によって召喚されたはずの太郎のことについて、女神の眷属であるレイルシアが詳しくなさそうな様子に、アスタロトは疑問に感じる。
「ボクは彼らとはほとんど関わりがないんだ……正直にいうと名前を付けてもらったぐらいだよ」
「そう。じゃあ知らないのね。彼の小物っぷりを」
自身の契約者にも関わらず、アスタロトは辛辣な評価を告げる。
「小物? 裏切ったとはいえ、彼は魔王を倒して世界を平和にしようとしているんじゃないの?」
「それは建前よ。彼はただ“勇者”になりたいだけ」
「勇者に? 次の魔王じゃなくて?」
この世界における勇者とは、女神の祝福を受けた者のことだ。その女神を裏切った太郎が、勇者になりたいとは、やっていることが矛盾している。
「彼の考える勇者は、魔王を倒す者のこと。だから、タロウは打倒魔王を掲げている。決して世界のためではないのよ」
「でも、結果としてそれが世界のためになるなら良いじゃないか」
「実現できればね」
意味ありげなことを口にしたアスタロトは、自嘲気味な笑みを浮かべる。
「魔王は世界を滅ぼしかねない。私にとっても邪魔な存在ではあるのだけど……でも、残念ながら、我が契約者に魔王を倒すだけの実力はないわ」
「だから、味方を集まているんじゃないの?」
「いくら集めたところで彼にはそんな人望は無い。所詮は烏合の衆にしかならない」
「じゃあ、なんで彼に協力しているの?」
自身の相棒を酷評するアスタロトの様子に、レイルシアは疑問に感じる。
話を聞く限り、彼女たちの関係はあまり良好ではないらしい。そもそもは敵同士だった彼女らは、お互い利があるから協力してだけで、仲良し小好しの関係ではない。
お互い復活できた以上、当初の目的は果たしているはずだ。
なぜ、二人は今も共に行動しているか。
「現状、召喚された未熟な勇者よりは可能性があるからよ。恐らく、魔王はこの世界で最強の存在……その力は魔神様をも凌駕している」
「――ッ!?」
アスタロトの言葉に、レイルシアは驚愕の表情を浮かべる。
魔神の力は彼女の主である女神に匹敵し、この世界における最高峰の存在だ。
魔王はその魔神をも凌駕する力を持っている。レイルシアからすれば、にわかには信じられることではない。
「私も驚いたわ。タロウが魔将として謁見した時に、彼の中から見ていたけど、とてもこの世のモノとは思えない力を発していたわ。正直に言うと、今のタロウがいくら束になっても相手にもならないでしょうね……それは今の私もだけどね」
「そんな魔人が実在するの?」
「ええ、残念ながらね」
アスタロトの告げた事実に対して、戦闘中にも関わらず、レイルシアは驚愕で固まってしまう。
「でもね。そんな魔王を唯一、対抗できそうな人物を見つけたの」
「そんな人がいるの?」
「ええ、ついさっき出会ったばかりだけどね」
「――ッ! まさかシンラのこと!?」
「その通りよ」
アスタロトの言葉に対して、レイルシアは驚きを隠せない。
真羅の実力が確かなのは事実だし、何度も見せつけられた。彼は規格外の存在であり、人間と言う存在を遥かに超越している。
しかし、いくら優れているとはいえ、彼は人間だ。規格外の存在とはいえ、流石に女神や魔神といった神格を凌駕するほどだとは思っていなかった。
「まだ、実力を見せてもらっていないけど、一目見ただけで分かった。彼の力は底が知れない。彼と私が手を組めば、魔王にも対抗できゆる」
「まさか、キミの目的は……」
アスタロトの発言から推測するに、彼女の目的は――
「ええ、お察しの通り、アナタを倒して彼を奪うことよ」
「――ッ!?」
アスタロトから放たれた殺気に、レイルシアは咄嗟に身構える。
「話は終わりよ! ――暗黒の巨星!」
アスタロトのが掌を天に掲げると。その手に巨大な漆黒の球体が形成される。
「今度こそ二度と復活できないようにしてあげる! 消えなさい! 銀星の精霊!」
放たれる闇の星は、巨大な流星となってレイルシアに襲い来る。
「うわあ!?」
回避不能の大きさの闇の星に、レイルシアが呑みこまれる。
闇が晴れると、その場には巨大なクレーターができており、レイルシアは跡形もなくなっていた。
「これで終わりね。意外と呆気な――」
「――銀星残影」
勝利を確信していたアスタロトの背後に、突如として透き通るように綺麗な声が響く。
「――なっ!?」
「それは残像だよ!」
驚くアスタロトを尻目に、レイルシアの手には光り輝く銀の槍が形成されていた。
「くらえ! ――銀星の霊槍!」
レイルシアの槍がアスタロトの胸に突き刺さる。
「闇を祓え!」
レイルシアの声に呼応するように光の槍が輝きを増し、アスタロトを包み込んでいく。
「これで終わりだ!」
銀色の光が一層眩く輝く。
「ボクの勝ちだ!」
アスタロトが光に覆われたのを確認し、レイルシアが勝利を宣言する。
しかし――
「――それはどうかしら?」
「え?」
光の中からアスタロトが現れる。
「残念だけど、今の私に光は効かないわよ?」
レイルシアの渾身の一撃を受けたにも拘らず、アスタロトは全くの無傷だった。
「ボクの浄化の光をくらったはずなのに!?」
再び驚愕の表情を浮かべたレイルシアは、得体の知らない悪寒を感じ、地面を蹴って大きく後方に逃れる。
「忘れたの? 私は三千年の間、女神の加護を受けたタロウの魔力を吸収し続けたのよ? 今の私は光の力に対する耐性を持っているのよ」
「そんな!?」
女神の加護を受けた太郎と契約し、彼の中で長い間その魔力を食らい続けたアスタロトは、闇の精霊でありながら、光に対する耐性を獲得するに至ったのだ。
「――銀星弾!」
焦りを覚えたレイルシアは、光弾を闇雲に撃ちまくる。
それに対し、アスタロトは回避も防御のせず、光の弾幕の中を悠然と歩いてくる。
「――暗黒の大鎌」
光の弾幕をものともせずにレイルシアに歩み寄ると、アスタロトはその手に漆黒の大鎌を作り出す。
「くっ?」
その歩みを止めることはできないと判断したレイルシアは、再び距離を取ろうするが、それより早くアスタロトが接近してくる。
「これで終わりよ!」
闇の大鎌が振り下ろされる。
回避は不可能。
レイルシアは思わず目を瞑り、身を守るように両の腕を突き出す。
――ドッ!
何が衝突したような音が響くが、いつまで経っても衝撃は来ない。
レイルシアが恐る恐る目を開くと、そこには――
「大丈夫?」
――自身の契約者である真羅が、心配そうにこちらを覗き込んでいた。




