表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/77

新たな目的地


「ん……」


 窓から入り込んでくる月明かりに照らされて、真羅は目を覚ます。


「……」


 被っていた毛布を押しのけて立ち上がる。


 座布団の上でそのまま寝ていたはずだが、いつの間にか誰かが毛布をかけてくれていたようだった。


「おはようございます。ご主人様」


 背後から声がする。


 真羅が振り返ると、そこにはメイド服を纏った銀髪の女性が佇んでいた。


「おはよう。“アニマ”」


 アニマと呼ばれたメイド服の女性は上品に礼をする。

 

 どうやらこのメイドは魔霊のようであり、真羅が寝ている間に勝手に出てきたようだ。


「こっちに来てからは初めてか、お前から出て来るのは……」


「申し訳ございません。今までは“世界”に異常がないかを調査しておりましたので、本来の役目を果たすことができませんでした」

 

「別に良いよ。護衛が必要になるような事態はなかったからね」


 真羅は近くにあった椅子に腰掛けると、アニマはそっと赤い葡萄酒(ワイン)のような液体が注がれたグラスを渡す。


「赤ワイン?」


「いえ、ギムレの生き血です」


「どのみち俺の魔力から生成された物か……というか、後輩(おとうと)をイジメんな」


 アニマの蛮行に対し、真羅は頭を抱える。


 魔術から精霊になったギムレの身体は、人間でいう水分の部分が酒で構成されているため、時折酒好きの魔霊に襲われることがある。

 今回もその被害にあったようだ。


「心配せずとも、ギムレもご主人様のためならば喜んでその血を捧げると言っていましたよ」


「あっそ」


 魔霊たちの忠誠を真羅は適当に返す。


 正直、魔霊たちは真羅の一部と言っても過言ではないため、この行為は自身の血をグラスに入れられて渡されている事と変わりがない。


 しかし、それらを無下にするわけにもいかず、真羅はその生き血を飲み干す。


「甘い……」


 味は甘みの強い葡萄酒(ワイン)そのものであった。


「ねえ、もしかしなくても今まで飲ませてきたのもギムレ産?」


「はい。彼はお酒ならばどんな物でも生み出すことができるので」


「俺ね、未成年――いや、どうだろう。時間が狂ってる場所に数年いたから、実年齢は二十歳(はたち)は越えてるのか……まあ、いいか」


 グラスをアニマに返すと、真羅は椅子に座ったまま真剣な表情に変わる。


「それで? 例の件についてはどう思う?」


「彼女についてならば問題はないでしょう。“八戒”と“六血”が話し合って選んだのですから」


「そうか……」


 真羅は目を瞑って何かを探るように瞑想を始める。


「……」


 十秒ほど瞑想すると、真羅は目を開く。


「ふむ」


「どうでしたか?」


「上手くはいってるみたいだな。正直、心配だったからな」


 普段の不敵な態度は鳴りを潜めており、真羅はどこか不安げに溜息を吐く。


「そこまで心配する必要はないでしょう。我々に死の概念はありませんから、失敗してもご主人様に帰るだけです」


「それはそうなんだけどね。親心とは複雑なんだよ」


「おや? ご主人様は、彼女を信じていないのですか?」


 珍しくも不安げな態度をしている真羅を見たアニマは悪戯っぽく笑う。


「信じてはいるさ……全く、子供に初めてのお使いを任せた親か、俺は……」


 不安になっているのが馬鹿々々しくなったのか、真羅は椅子から立ち上がって伸びをする。


「今回の件に最適なのはあの子だ。疑うのは悪いよな」


「ええ、我らに対する心配など無用です。この命は元よりご主人様のものですから。貴方のために果てるのならば本望です」


「……」


 アニマの強すぎる忠誠心に再び頭を抱える。


 真羅が魔霊たちに求めているものは“忠誠”ではなく“成長”だ。そのためならば、真羅自身を喰らって呑み込んでやるぐらいの反骨精神が欲しいものである。


「まあ、いいや。俺は鍛練でもするよ。何かあったら教えてくれ」


「承知しました」


 そう言うとアニマは、音もなく真羅の中に帰っていった。


「……」


 話し相手がいなくなった真羅は黙り込み、座布団に座ると再び瞑想をするのであった。










 翌日、真羅たち三人は海人族の村を後にして、ドルフィーの町へと戻って来た。


 真羅の転移魔術で……。


「一瞬でこの距離を……ほんとどうなってんの?」


 場所は真羅が借りていた宿屋の一室。


 サラもそうだが、目の前から突如として消えたため、村に残っているベーラとリヒトたちも困惑していた。

 因みに、レイルシアは慣れてきたため平然としている。


「出発前にここに転移の座標を設定してあったんだ。何処でも自由に転移が出来る訳じゃないよ」


「いや、転移魔法って今じゃロストテクノロジーだからな?」


「そうだったの? そんな難しいモノでもないのになー」


 またもや驚きを取り越して呆れているサラに対して、真羅は吞気に欠伸をする。

 結局、朝まで魔力制御の鍛練をしていたため少々寝不足気味だ。


「まあ、そんな事より、ほら」


 真羅はサラに黒色の手提げ鞄を渡す。


「これは?」


魔法の鞄(マジックバック)。サラの分のお宝が入ってる。夜の内に移しておいたんだ」


「え、あの量が入ってるのか? にしては全然重くないけど」


 サラが鞄を開いて中を確かめると、明らかに見た目以上の容量の財宝が押し込まれていた。


「中身の重さは消しておいた。筋トレするなら兎も角、重さがそのままだと運ぶのに不便だろ?」


「……そんな気軽に高度な魔法を……というかこれ、本当にあの財宝の九割が入ってるのか? いや、そもそもそんな容量の魔法の鞄(マジックバック)を持ってたのか?」


「いや、無かったから、自前の鞄を改良して作った」


「……そんな気軽に高度な空間魔法を……この鞄自体もかなり高価な物じゃないか……」

 

 真羅は簡単にやってのけたが、重量制御も空間操作もこの世界ではかなりの高度な魔法であり、そんなものが施されたこの鞄は、もはやこれ自体がお宝と言っても良い物になっている。


 因みに、地球であっても、この規模の重量と空間を制御するのは、かなりの技術を要する。


「ああ、その鞄もおまけでやるよ。そんな大した物じゃないし」


「シンラにとっては大した物じゃないのか……ほんと規格外だよな……」


「――そうか? このくらい普通だろ?」


 何とも言えない表情を浮かべるサラに対して、真羅は不思議そうに首を傾げる。


 幼少期から凄腕の魔術師に囲まれて育った真羅は、本気でこの程度の魔術ならば、魔術師であれば普通にできると思っている。

 完全に親と師による教育の問題だが、その両者が規格外であるために、真羅はこの事実に気付けていないのだ。


「はあー。その話はもういいや……それよりも、シンラたちは今後どうするんだ? この町を拠点にするなら歓迎するけど?」


「あー、初めはそう思ってたけど……こいつの件があるからな……」


 真羅は懐から“進化の魔宝”を取り出す。


 ドス黒い輝きを内包した“進化の魔宝”は、生きているように不気味に脈動していた。


「これを放置する訳にはいかないだろ?」


「そうだよな……で、具体的にはどうするんだ? 正直、アタイには何をどうすればいいのか全く分からないんだが?」


 研究の類いは専門外であるサラが頭を掻く。


 進化の魔宝はどう見ても人の手には余るモノだ。それの管理といっても、サラには何をすればいいのか想像がつかない。


「こいつを調べるにあたって、まずやらなきゃいけないのは“魔神”の調査だろうな」


「魔神?」


「ああ、サラは聞いてなかったんだったな。これは魔神の力の一端が封じ込められているんだよ」


「はあ? それってそんなにヤバイもんなのか!?」


 真羅の目は信頼しているのか、その真実を疑うことはしなかったが、魔神の力だと告げられてサラは驚愕する。


「そうなんだよ。使用法を間違えなければ危険はないけど……もっとこっちで研究をしたかったんだけど、やっぱり、行かなきゃならんよな……はあー」


 真羅は憂鬱そうに溜息を吐く。


「行く? どこへ?」


「そりゃ、魔神が打ち倒されたっていう地――“魔界”だよ」


「――!?」


 魔界という言葉を聞き、サラの顔に再び驚愕の表情が浮かぶ。

 

「正気か!? あっちにはこことは比べものにならないくらい凶悪な魔物がうようよいる! いや、それ以上にあの“魔王”がいるんだぞ!?」


「そのくらい知ってるよ。でもね……研究には時に危険は付き物さ。そのために力を付けんだ。俺の実力じゃ不安?」


「「――ッ!?」」


 真羅から一瞬だけだが圧縮された膨大な魔力が発せられ、サラだけでなく後ろで眠そうにしていたレイルシアまでもが身構える。


「ははっ、それを見せられたらなんにも言えねえよ……」


 真羅の魔力に当てられたサラが、冷や汗を搔きながら乾いた笑い声を出す。


 この研ぎ澄まされた魔力を見せられては、彼の実力を疑うことなどできない。


「ちょっと!? いきなりそんな魔力を出さないでよ! びっくりしたじゃんか!」


 眠気を消し飛ばされたレイルシアが、頬を膨らませて可愛らしく抗議する。


 流石に精霊であるだけに耐性があるようで、サラのように固まってはいない。


「ごめんごめん。でも目的は決まったぞ」


「目的?」


「ああ、次の目的地は魔界だ。そこで魔神の調査をする」


「――魔界? 分かったよ」


「おい! もっとちゃんと考えろよ!」


 サラはあまりにもあっさりと受け入れたレイルシアを止める。


「考えるも何も、ボクはシンラが決めたことならそれについて行くよ」


「そんなに簡単に……そういや、お前らってどういう関係なんだ? 恋人かなんかなのか?」


 今更ながら、二人の関係を聞いていなかったサラは改めて尋ねる。


「いや、恋人ではないかな。ええっと、ボクたちは――」


「――契約精霊だよ。レイルシアは」


 レイルシアは自身が精霊であることを何とか誤魔化そうとしていると、横から真羅がさらっと真実を告げる。


「は?」


 予想だにしていなかった答えにサラが硬直する。


「ちょっと!? シンラ!?」


「ん? 別に隠すような事でもないだろ? 信じるかどうかは別として」


「いや、確かにそうだけど! キミも正体とかはできるだけ隠したいって言ってたじゃんか!」


「あー、まあ、そうだけど、サラは信用出来るし、良いだろ?」


 二人が言い争っている中、サラは頭を振って正気を取り戻す。


「ちょっと待ってくれ! レイルシアって精霊なのか!?」


「そだよ。神話に出て来る女神の眷属、光の精霊だよ」


「――ッ!?」


 真羅の言葉にサラが再び硬直する。


 異世界人である真羅は分かっていないが、この世界の住民にとって光の精霊は神聖な存在であり、女神と同じく信仰の対象である。

 そんな存在が身近にいたのだ。サラの反応も無理はない。


「――え? え? レイルシアって? いや、レイルシア様?」


「そんな畏まった呼び方はやめてよ! 普通にレイルシアのままでいいよ」


「……そうか、じゃあ、レイルシア。お前って本当に光の精霊なのか?」


「そうだよ。改めて自己紹介するね」


 レイルシアは軽く身なりを整えると、精霊であることを証明するように重力を無視して宙に浮く。


「ボクは“銀星”の精霊、レイルシア。今はシンラの契約精霊をしているよ。改めてよろしくね!」


「――本当に精霊なのか……」


 サラは改めてレイルシアをまじまじと見る。


 見た目こそ常人離れして整っていることを除けば、普通の人間族の少女だ。

 しかし、その内包している魔力は明らかに人間離れしている。


 今まではただ魔力の高い人間だと思っていたが、改めて見ると、この魔力で人間というのは少し無理があるかもしれない。


「言われても実感がねえな……あの神話出て来る精霊様が目の前にいるなんて……しかも、シンラがその契約者なんてな……女神教団の連中が知ったらほっとかないぞ……」


 真羅は知らないことだが、この世界における光の精霊の契約者というのは、歴史上でも片手で数えられるほどしか存在しておらず、彼らは例外なく聖人として扱われている。

 そんな稀有な存在が目の前にいるのだ。反応に困るのは仕方がない。


「まあ、でも、これで魔界に行くって言っても問題はないだろ?」


「確かにな……光の精霊とその契約者。それならあの強さも腑に落ちる。二人なら魔界でも心配はないわな……」


 二人の正体を知り、サラは真羅の行動にも納得する。


 神話に出て来る光の精霊と、その契約者。それに加えて海底遺跡の化け物を倒した実績もある。

 彼らならば、魔界の魔物でも問題なく対処できるであろう。


「サラはどうする? 一緒に行くか?」


 真羅が気軽に誘うが、魔界はそんな簡単に踏み入れていい場所ではない。


「いや、やめておくよ……二人とはもっと冒険したいけど、さすがに魔界に行くんじゃ、アタイは本当に足手まといにしかならないだろうし……」


 サラは冷静に自己分析する。

 正直に言うと、二人とはもっと仲を深めたいし、ついて行きたいのだが、どう考えても自身の実力は魔界では通用しないだろう。


「そうか……まあ、サラにはサラの暮らしがあるし、仕方ないか」


「わるいな……ところでいつ出発するんだ? しばらくここにいるならいろいろと案内できるけど?」


 サラが淡い期待を込めて尋ねる。


「善は急げって言うし、明日の朝に旅立つつもりだよ」


「……」


 真羅の言葉にサラは肩を落とす。

 どうやら、二人と一緒いられるのは今日で最後になるようだ。


「分かった……明日の朝だな。見送りぐらいはさせてくれ――とりあえず、今日はいったん家に帰るよ。いろいろ衝撃的なことを聞き過ぎて、頭の整理が追いつかない……」


「ん? そんな驚くような事かな? まあ、いいや。分かったよ。またな」


「ああ、じゃあな。二人とも……」


 サラはまだ若干困惑したままだったが、何かを決意したように静かに部屋から出て行った。


「なんだか寂しいね。サラとはもっと仲良くなりたかったし、この町ももっと見て回りたかったな」


「別に今生の別れって訳じゃないんだ。調べ終わったらまた来れば良いさ」


「そうだね! 別に最後ってわけじゃないし、また会いに来ればいいんだよね!」


 少し寂しげにしていたレイルシアだが、真羅の言葉に元気を取り戻す。


「さて、俺はこの魔宝を少し調べてみるよ。レイルシアは今の内にこの町を観光して来なよ」


「いいの? じゃあ、さっそく行ってくるね!」


 元気いっぱいなレイルシアは、真羅が勧めると勢いよく窓から飛び出して行った。


「そこは出入り口じゃないんだけどな……まあ、常識云々は俺も人の事は言えないか」


 街に繰り出していったレイルシアを見届けた真羅は、表情を無にすると黙って進化の魔宝の解析に移るのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ