古代の財宝
溢れる光が治まると、目の前には光り輝く金銀財宝が山のように積み上がっていた。
「……」
トレジャーハンターであるサラもここまでのお宝を目にするのは初めてなのか、目を見開いて言葉を失ってしまう。
「へぇー、キラキラしててキレイだねー」
精霊であるレイルシアはこのようなお宝にはあまり関心がないようで、率直な感想を口にする。
「何だ……古代の魔導品とかがあるのかと思ったが、普通の金や銀やら宝石ばっかりだなー」
感動している二人に対して、真羅は落胆の表情を浮かべる。
彼が求めているのは神秘的な魔導のお宝であり、金銀財宝ではないのだ。
宝石魔術など宝石などを使用する魔術もあるにはあるのだが、真羅は道具や触媒を使用する魔術をあまり好まないため、宝石は必要とはしていない。
「おい! 何言ってんだ! こんなスゲーお宝の山、アタイも初めてだぜ! もっと喜べよ!」
正気に戻り興奮してきたサラは、テンションの低くなっている真羅の肩を揺するが、残念ながら彼の表情は変わらない。
「喜べって言われてもなー。神秘的、魔術的に価値があるもんなら兎も角、ただの財宝じゃな――ん? あれは……」
肩を揺すられながら真羅は何かを見つける。
「なあ、あの黒い金属のインゴットの山……見覚えがあるんだが……」
この宝物庫の隅には、煌いている他の財宝の陰に隠れてしまっているが、黒い金属のインゴットが山のように積み上げられていた。
「ん? ああ、ブラックメタルじゃないか。さっきのゴーレムに使われていた魔法金属。希少だけど、いくらあっても使い道がな……」
今度はサラは残念そうな表情を浮かべる。
「ブラックメタルはオリハルコン並に希少だけど、加工ができないから、買い取ってくれる所が少ないんだ。いくら希少でも使えないんじゃ仕方がないんだ……」
「……」
サラの話を黙って聞いていた真羅は、不意にブラックメタルのインゴットを一つ手に取る。
『――変形。形状、剣』
短い詠唱。
しかし、それだけで神秘は顕現する。
加工技術が失われたはずのブラックメタルは、光と共に短剣の形状に変化した。
「え?」
その光景を見ていたサラから間の抜けた声が出る。
「ちょっと待て! 今何をやったんだ!? ブラックメタルが剣になったぞ!?」
「ただの錬金術さ。魔力絶縁体の加工は難しいが、コツを知っていれば出来ない事はないんだよ」
驚愕するサラに対して、真羅は淡々と目の前で起きた事実を伝える。
魔力絶縁体は地球にも存在しており、難易度は高いが錬金術での加工は可能なのだ。
もっとも、地球の魔力絶縁体でアダマンタイト並の強度を持つ物はなかったため、道具もなしに加工できるかは、真羅でもやってみなければ分からなかった。
実際にできたので、真羅は内心安堵していた。
(そう言えば、クレンが真銀より硬い魔力絶縁体を必要としていたな。地球に帰ったら分けてやろうかな)
ふと真羅は地球にいる同僚のことを思い出す。
(まあ、仕事ほったらかした状態だし、しわ寄せは皆に行くよな。土産ぐらい持って行った方が良いよな)
この魔術師に罪悪感という概念は存在しないが、後で責め立てられるのは面倒なので、同僚たちにもこのブラックメタルを土産として持って帰ろうと考える。
「ねえー、こっちにもインゴットがあるよー」
いつの間にかブラックメタルの山の裏に回っていたレイルシアが何かを発見する。
それを聞いた真羅も、ブラックメタル製の短剣を懐にしまうと、レイルシアの方に向かう。
「こいつは……炎の如く輝く銅か……」
そこにあったのは“オレイカスコル”のインゴットだった。
ブラックメタルに比べれば数は少ないが、それでもかなりの量があり、真羅もこれほどのオレイカスコルを見るのは初めてだった。
「オレイカスコル? 聞いたことはあるけど、詳しくは知らないんだよな……」
驚きが覚めていないサラも、話を変えるようにインゴットを手に取る。
「ん? 知らないのか? オリハルコンの原料だぞ?」
「それは知ってるんだが……確かオリハルコンもいくつか種類があったよな……そこらへんがよく分かってないんだが……」
「オリハルコンの種類な。そんな難しいことでもないし、説明してやるよ」
そう言うと真羅は、懐から三種のメダルを取り出す。
「オリハルコンには三種類あってな。オレイカスコルのままだと強度は余り高くないんだが、加工してオリハルコンにすると強度が凄く高くなる。この黄金色のがイエローオリハルコン、そんで次が白銀色のがホワイトオリハルコン、最後にこの緋色なのがヒヒイロカネ」
話しながら真羅は、三種のオリハルコン製のメダルをサラに向けて放り投げる。
突然のことにサラは慌ててメダルとキャッチすると、その三種を見比べる。
「この三種は強度は同じなんだが、魔力伝導率は異なる。まずイエローオリハルコンだが、こいつは魔力伝導率が一番低い。魔法とかを防ぐのに最も適している神秘金属と言われていて、盾とか防具によく使われるな。そんでヒヒイロカネだが、こいつは一番魔力伝導率が高い。まあ、高いっていってアダマンタイトよりは低いんだけど、魔導品としてよく使われる。でも加工方法が他二つよりも複雑で一番難しいし希少だ。最後にホワイトオリハルコンだが、こいつの魔力伝導率は二つの中間だな。イエローオリハルコンよりも魔術を付与しやすいし、ヒヒイロカネより加工しやすいから、一番使われているのがこいつかな。アーセル王国にある宝剣も、このホワイトオリハルコンだな」
「詳しいんだな。オリハルコンなんて希少だし、アタイは実際に見るには初めてなのに……」
「まあ、職業柄な。一応専門ではないが加工も出来る」
「マジか……オリハルコンを加工できる鍛冶屋は大国でも数人しかいないって聞くぜ。お前ってほんと規格外だな」
「おいおい。加工出来るって言っても、鍛冶は専門外だ。インゴットを作るとは訳が違うだろ」
真羅は少々不満げに頭を掻くと、サラの持っているメダルを回収する。
実際、真羅は錬金術を専門としているわけではないので、本職の錬金術師と比べたら加工技術は劣る。
そもそも、真羅は道具に頼った魔術自体をあまり好んでいないため、錬金術を使用する機会が他の魔術と比べて少なく、本人もそれを気にして錬金術の訓練を積極的に行っているのだが、それでも鍛冶もできる同僚のクレンと比べられたら一段劣るだろう。
「このオレイカスコルだが、加工次第で三種のオリハルコンになるって覚えておけばいいよ。因みにこのメダルは実験用のオリハルコンな。まあ、その加工が一番難しいヒヒイロカネを鱗や角に含んでいた竜もいたが、それは例外だな――では、話は終わりにして、早速回収するとするかな」
「それなんだが……この量のお宝をどう持って帰るんだ? アタイの魔法の鞄でもそんな入んないぞ?」
サラの疑問ももっともであり、この量の財宝を一度に持って帰るのは不可能だろう。
「手ならある」
しかし、この不可能という言葉を嫌う魔術師には、この量を運ぶ術があるようで、サラの疑問に対して不敵な笑みで答える。
「――カグヤ」
親愛の籠った名前を紡ぐと、真羅の手に星々を散りばめた如き煌きを秘めた夜色の手提げ鞄が現れる。
「魔具?」
「そう。ほぼ無限に物を入れることできる魔具さ――さあ、カグヤ! この宝物庫の財宝を全て吸い込め!」
真羅がそう命じると、独りでに鞄が開き、ブラックホールの如く財宝を吸い込んでいく。それも明らかに鞄以上の容量の財宝をだ。
「え? どうなってんのそれ?」
鞄が物凄い吸引力で財宝を吸い込んでいる光景を目の当たりにし、サラは一瞬自分の目を疑うが、真羅が起こしたことなのでそれが現実だと受け入れることにする。
「このバックの中は異空間になってるんだ。量は無尽蔵、大きさも関係ない。生き物以外は何でも入れることができる」
「へー、スゲー」
あまりにも規格外の魔具に、サラは語彙力を失う。
魔具精霊、【夜空の鞄】。
内部が広大な宇宙のようになっており、無尽蔵に物を収納することができる魔具の魔術精霊。
真羅が初めに造った魔具精霊“十装”の一人であり、精霊化により容量がほぼ無限になるという規格外の進化を遂げた魔霊である。
カグヤは全ての財宝を呑み込んでしまうと、形状が手提げ鞄からウエストポーチに変化して、真羅の腰に装着される。
「ん、どうした? 急に甘えてきて? そっか、こっちに来てから呼び出すのは初めてだったな。すまんすまん――って、どうした、サラ?」
急に腰に巻き付いてきたカグヤを優しく撫でると、真羅は啞然としているサラの方に向き直る。
「いや、なんでもない。改めてお前が規格外だってことを認識しただけだ」
サラは頭を振って正気を取り戻すと、呆れたような表情で答える。
「そうか……何か腑に落ちないが……まあ、いいや。それじゃあ、メインといこうか」
「メイン? 何言ってんだお宝は全部回収したろ?」
「いやいや、まだ肝心なのが残ってるよ。この部屋もスッキリしたし、探しやすくなった」
首を傾げるサラに対して、真羅はこの宝物庫の中心に行くと、魔力を籠めた足で軽く床を蹴る。
すると、その部分の床が隠し扉のように開いて、中から粘土板が現れる。
「粘土板? さっきの隠し部屋にあった研究レポートか?」
「そう。まあ、本当に隠したかったのは、進化の魔宝だったんだろうがな」
真羅は粘土板を手に取り、翻訳の魔術を行使して内容を読み解く。
「なんて書いてあったんだ?」
「あー、判明している進化の魔宝の使い方と、あの化け物が生まれた経緯だな」
「あの化け物の? 進化の魔宝で造ったんじゃないのか?」
「それはそうなんだが、この“進化の魔宝”は魔物を造り出したり、通常の生物を魔物に変えたりする事が出来るみたいだが、一番ヤバイのは名前の通り魔物を理を捻じ曲げて強制的に進化させる力があるみたいだ。あの化け物も元はただの小さくて非力な魔物だったみたいだが、実験で進化の魔宝を使ったらあんな強力な魔物に変貌してしまったみたいだな。そんで、進化の魔宝は取り込まれ、制御不能になって暴走したと……かなり犠牲は出たみたいだが、何とか休眠状態には出来たみたいで、そして今に至ると……」
「強制進化って……それは魔神の持つ能力の一つだよ」
話を聞いていたレイルシアが不安げな表情を浮かべる。
彼女にとって魔神の力は、最も忌まわしきモノであり、その力の一端がこの地上に残っているということは恐るべき事態であろう。
「魔神ってのは、女神様たちに倒されたんだろ? なんでそんなもんを古代人が持ってたんだ?」
神話では闇の魔神は、光の女神たちに敗れたと伝わっている。その魔神の力を秘めた進化の魔宝が何故こんな所にあるのか、当然の疑問だろう。
「そんなの俺に聞かれてもな……推測になるけど、魔神は自分が倒れた時のために、力を幾つに分割して残しておいたんじゃないか? 何時の日か自分の配下や信奉者が自身を復活させられるように……」
それを聞いた瞬間、レイルシアの顔が真っ青になる。
「おい! どうしたレイルシア!? 顔色がヤバいぞ!」
レイルシアの急な変化に、サラが心配して駆け寄る。
「それは顔色も悪くなるよ……魔神が復活する可能性があるなんて……」
神話の時代、レイルシアと仲間たちが命懸けで封じたはずの魔神が復活する。
彼女にとってこれほど恐ろしいことはないだろう。
「無理もないか……でも心配するな。こんなモノだけじゃ魔神の復活なんて出来はしない」
青ざめたレイルシアと安心させるように、真羅は断言する。
「本当? どうしてそんなことが言えるの?」
「どうして、って……俺に復活させる意志がないんだ。俺がこれを持っている限り、誰かが魔神が完全に復活させる事は出来ない。そうだろ?」
「……」
真羅の言葉に、レイルシアは呆けたような表情を浮かべる。
確かに魔神を復活させる意志がない者が、進化の魔宝を所持している限り、仮に魔神の封印が解かれたとしても、完全な形で復活することはできない。
「俺から研究サンプルを奪える奴などこの世界にはいない!」
「――ッ!」
あまりにも自信満々に断言した真羅に対して、レイルシアは思わず安堵の笑みを溢してしまう。
「笑う事かね? まあ、青ざめてるよりも良いか――これでお宝は全部手に入ったし、村に戻ろうぜ」
この魔術師にとっては、何故レイルシアが笑みを浮かべたのか理解はできないようだが、これ以上この宝物庫に留まっている理由もないので、さっさと引き返そうとする。
「そうだな。リヒトも入口で待ってるだろうし」
「分かったよ。ボクも異論はないよ」
「じゃあ、決まりだな。さっきのゴーレムを回収してとっとと戻ろうぜ」
「あれも回収するのか……」
サラは若干呆れ気味だが、真羅はそれを無視して転移用の魔法陣に向かう。
二人より先に魔法陣の上に立つと、真羅は持っていた粘土板の最後に書かれていた文字を読む。
「――“願わくば、進化の魔宝は魔神の復活を望まない者の手に渡ることを望む”――か……」
自身の手に渡ったことが正しいのか、真羅には分からない。
しかし、闇の精霊に渡るよりは遥かに良いだろう。
レイルシアとサラが魔法陣の上に乗ったことを確認すると、真羅は魔法陣を起動させるのだった。




